製作委員会は小谷陽子が代表を務める演劇ユニット。三十代以上の俳優たちと共に、ミドルエイジに焦点を当てたコメディを発表している。12月に上演される「メイン通りの妖怪」は、令和の飛田新地を舞台にした“自分との折り合いのつけ方コメディ”。小谷が作・演出を手がける本作では、六十代の風俗嬢・ゆきの物語が描かれる。長い人生を生きる中で、自分との折り合いをつけていくためにはどのようなことが必要なのか? 小谷と5名のキャストに、作品について、そして自身の人生観について語ってもらった。
取材・文 / 興野汐里撮影 / 三浦一喜
“飛田の記憶”が薄れないうちに上演しておきたかった
──「メイン通りの妖怪」は2020年に上演予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言の発出で、公演直前に中止を余儀なくされました。飛田新地を題材にして作品を書かれた経緯や、今回改めて上演を決めた理由について教えていただけますか?
小谷陽子 昔、とある事務所で働いていたとき、飛田新地のことについて書きたいというフリーライターの方と知り合いになって。その方が「飛田新地に取材をしに行きたいけど、足を踏み入れたことがないから不安」と言っていたので、私も一緒に飛田新地の料亭へ何日間か通うことになったんです。そのときに飛田新地の特殊な業務形態に興味を持ちました。通りに面したところに玄関があって女の子が座っている、いわゆる“ちょんの間”と呼ばれるお店は全国的に見てもほとんど残っていなくて、今では珍しいものになってしまいましたよね。ちょんの間がなぜ下火になってしまったのかを考えたときに、風俗情報サイトができたことが1つの要因だったのではないかと思ったんです。今後、ああいったお店がすべてなくなることはないと思うのですが、自分の中にある“飛田の記憶”が薄れないうちにこの作品を上演しておきたいと思って、今回もう一度上演することを決めました。
──実際に飛田新地へ行かれた経験があったのですね。「メイン通りの妖怪」では、飛田新地にある富士屋の最古参、六十代の風俗嬢・ゆきの物語が描かれます。2022年の公演では、宮坂さんがゆきを演じられますが、宮坂さんにオファーをした理由は?
小谷 宮坂さんには「PLACE YOUR BET」(2019年)のときに、東南アジアで詐欺まがいのことをしている女性の役をやっていただいたことがあって。ゆきもそこそこぶっ飛んでいる役なんですけど、「PLACE YOUR BET」の役も60歳くらいなのに三十代だとサバを読んでいる女性だったので、宮坂さんならハマりそうだなと思ったんです。ゆきという役にそこまで色気を求めているわけではないんですが、宮坂さんのLINEのアイコンが赤いドレスを着た写真で、それがすごく色っぽいなと思って(笑)。そういった経緯でお願いすることになりました。
宮坂公子 これまでいろいろな役をやってきたんですけど、今回オファーを受けて、「小谷さん、私のことどう思ってるんだろう!?」って思いました(笑)。でも小谷さんがおっしゃったように、ゆきって案外色っぽくないんですよね。ちょっといやらしい描写はあるけど、「PLACE YOUR BET」のほうが露出が多かったかな。
小谷 確かにそうですね。今回ゆきを演じるにあたって、宮坂さんには“商売で女を売っている感覚”を持って臨んでいただきたいと思っています。
──「PLACE YOUR BET」で宮坂さんと共演した砂山さんは、たまに富士屋へやって来るスカウトの三井を演じます。砂山さんは製作委員会の作品にどのようなイメージを持っていますか?
砂山康之 製作委員会の作品は良い意味で“ばっちいコメディ”という印象ですね(笑)。僕はシリアスなテイストの作品に出ることが多いので、「(自分はコメディに)ハマるかな? 大丈夫かな?」という思いもあったんですけど、「PLACE YOUR BET」のときはキャストの方々に助けていただいて、良いステージにできたんじゃないかなと思っています。今回演じる三井がどんな役なのか、今から楽しみです。
小谷 “ばっちいコメディ”(笑)! 三井はつかみどころのない役なので、肩の力を抜いて演じていただきたいと思っています。
──渡辺さんは、ゆきと同じ頃に飛田に入った友人・さやかの若い頃を演じます。2020年公演に続いての出演になりますが、改めて意気込みを聞かせてください。
渡辺千穂 2020年公演はギリギリまで調整したんですけど、本番直前で中止が決まってしまって、小谷さんも私たちも悔しい思いをしました。そのときに「いつかやりたいね」と言ってお別れしたので今回上演できることになってうれしいですし、前回よりももっと良い作品にしたいと気合いが入ってます! さやかもゆきと同じようにエネルギッシュな女性なので、パワフルさを出していけたら良いなと。
──渡辺さんと同じく、2020年公演に出演予定だったナグラドウさんは、飛田新地にある喫茶店マイアミのマスターの娘・ほのかを演じます。
ナグラドウチエ 前回はみんなで作り上げたものを上演することができず、不完全燃焼のまま終わってしまって……。今回またチャンスをいただけてうれしい気持ちでいっぱいです。ほのかは自分の年齢よりも若い設定の役なので、そこをどのように立ち上げていくかを考えつつ、前回よりパワーアップした作品にできるように役作りをしていきたいですね。
──秋山さんは、2021年に上演された製作委員会の最新作「永遠とかではないのだけれど」にも出演されました(参照:ミドルエイジを主人公に!製作委員会が“褒めコメディ”に込めた思い)。秋山さんが演じるはっしーは、飛田新地のコミュニティラジオのパーソナリティーを務める男性ということですが、どのようなキャラクターなのでしょうか?
小谷 富士屋のママの娘で、富士屋を引き継いだ明美の知り合いという役どころです。はっしーは実家が料亭というわけではないのですが、明美と同じく西成育ちで、たまに富士屋へふらりと遊びに来るような関係性ですね。はっしーが「自分がパーソナリティーを務めるFMラジオで、飛田の女の子を紹介したらどうだろうか?」と提案してくれたことがきっかけで物語が動いていきます。ラジオのパーソナリティー役ということで、秋山さんには特に関西弁をがんばってもらいたいなと(笑)。
秋山ゆきを 自分は静岡生まれで方言があまりないので、がんばらないとですね(笑)。前回の「永遠とかではないのだけれど」では記者の役をやらせていただいたのですが、そのときはいわゆるツッコミ役で、どうすればテンポ良くツッこむことができるのか苦労しました。今回の自分の課題は方言ですね(笑)。今、小谷さんから紹介していただいた感じだと、はっしーは地元愛が強い印象なので、エネルギーをもって役に臨めたらと思います。
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自分と折り合いをつけながら演劇を続けていく