1954年に結成され60余年の歴史を持ちながら、新進気鋭の劇作家の作品を多数上演、アグレッシブに邁進し続ける劇団青年座。75年からは、現代演劇の未来を担う俳優やスタッフの育成を目的とした劇団付属の養成所・青年座研究所をスタートし、舞台のみならず、映画やテレビ、声優業界に多くの人材を輩出してきた。また現在の青年座を支える多くのメンバーも、研究所で学んだ卒業生たちだ。本科で1年間基礎を学び、その修了者から選考された者が、より実践的な実習科に進級。さらに1年のレッスンと実習公演を経て、選抜されたメンバーが準劇団員に採用される。そんな研究所で互いに切磋琢磨する若者たちは、富ヶ谷のアトリエ・青年座劇場で上演される実習公演を通じてどんなことを実感しているのか? 本特集では、11月初めに行われた実習公演「『岸田國士集』~動員挿話 歳月~」の稽古中と本番直後の2回にわたり、現在実習科に在籍する42期生を集めた座談会を実施。その様子を研究生たちによる稽古レポートを交えながら紹介する。
[座談会]取材・文 / 川口聡 撮影 / 熊井玲
[磯村純]取材・文 / 熊井玲
[実習公演]撮影 / 小林万里
座談会part1~実習公演 2週間前~
実習公演「『岸田國士集』~動員挿話 歳月~」の立ち稽古が始まって1週間が経った10月中旬、稽古場の青年座第二スタジオには演技に四苦八苦する研究生たちの姿があった。熱気を帯びた稽古の直後、実習科42期を代表して安達絹二郎、葛山陽平、小松亮太、江澤蛍、老川礼菜、田邉稚菜の6人に集まってもらい、それぞれのバックボーンと、稽古や日々のレッスンで“ぶち当たっている壁”について聞いた。
演劇未経験者も、児童ミュージカル経験者も
──皆さんは出身地や演技経験もさまざまですが、そもそもなぜ青年座研究所を選んだのでしょうか?
老川礼菜 私は声優の専門学校からテアトル・エコーの研修生を経て、いろいろな劇団のお芝居を観る中で青年座の作品が一番面白かったので受験しました。
葛山陽平 「中学生日記」というドラマに出演経験はあったのですが、それ以外で演じる機会がなく、大学でどうしても芝居がしたくて、演劇サークルに入ったんです。そこで役者と脚本・演出をやってみたら、自分が作品に携わるという感覚がすごく楽しかった。青年座は1年目の授業で俳優志望も演出家志望も一緒に授業を受けるので、芝居の根本的な部分を学べると思って。
江澤蛍 私は高校がダンスや演劇を学べる学校で、3年生のときに児童ミュージカル劇団に入って、最後の公演で新国立劇場の舞台に立ったんです。そのときカーテンコールで観た舞台からの景色が忘れられず……。もっと演劇を学びたいと思い、基礎を学べる青年座研究所を先生にオススメしていただきました。
安達絹二郎 大学で演技を学んでいましたが、進路で悩んでいるときに青年座の「山猫からの手紙」で大家仁志さんの芝居を観て感動しちゃって、こんな俳優さんになりたい! と。
田邉稚菜 私はアナウンサースクールの声優科にいて、1年目の講師が青年座の松熊つる松さんだったんです。発表会で「ブンナよ、木からおりてこい」を松熊さん演出で上演して、舞台が楽しいと感じました。青年座は劇団で活躍している演出家の方が実習公演の演出を担当してくださるところもポイントでしたね。
小松亮太 僕は“人を幸せにする仕事”に就きたくて、警察官か消防士になろうと思ってたんですが、より多くの人を救える職業は俳優なのかなと思い……(苦笑)。
一同 初めて聞いた(笑)。
小松 例えばイジメを受けている中学生がいたとして、僕が出てるテレビを観て「小松を観て元気をもらおう!」と思ってもらうとか、誰かの力になりたいなって。高校ではラグビー部だったので、演劇は未経験のまま富山から上京しました。
──高校を卒業してすぐ単身上京して青年座の門を叩くというのも、勇気が必要なことだと思います。皆さんの中には関東在住の人、地方からの上京組がいますよね? 東京で演劇を学ぶ利点は何でしょうか?
江澤 私は神奈川出身です。劇場がたくさんあるところに住めているのはラッキーだなと思います。
老川 東京出身で実家暮らしですが、東京に住んでいるからこそ、灯台下暗しということもあるのかなと。劇場やいろいろな劇団の存在を知ったのも演劇の世界に入ってからですし。
田邉 広島から上京しました。西日本なので、大阪という選択肢もあったのですが、東京に出てよかったなと思うのは、情報量が多いこと、いろんな刺激があることかな。
安達 僕は大学入学のタイミングで山形から出てきました。環境も大事ですが、自分が何をやるかで出会いも変わってくるのかなと思いますね。
葛山 愛知出身で京都の大学を出てから上京しました。僕はアルバイトで生活費を稼いでるんですが、東京に出るとその辺がとてつもなくシビアになります。お芝居のために上京するなら、それだけのお金を使うことを惜しみたくないし、夢を叶えるためには多少のお金は必要だと実感しています。
小松 僕は少しでもお芝居したいなら、上京したほうがいいと思います。「絶対この仕事でやっていく!」という、たいそうな覚悟は必要なくて、1・2年して合ってないと思ったら辞めればいいんじゃないかと。もしお芝居が楽しかったら、多分続けるはず。そんな人と一緒にお芝居がしたいです!
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岸田國士の台本に悪戦苦闘中
- 「劇団青年座研究所」
劇団青年座研究所は、これまでに1000人を超える卒業生を演劇界・芸能界に送り出してきた。その特徴は充実したカリキュラムと多彩な講師陣にある。基礎的な身体訓練から実践的な俳優訓練まで、経験豊かな講師陣が俳優としての才能を導き、舞台、映像の現場で活躍できる人材の育成を目指している。劇団青年座研究所では青年座や演劇界を背負って立つ若い力、新しい感性と強い意志を持つ俳優志望者を募集中。2018年度本科入所試験は、1次募集を2018年1月20日(土)、2次募集を3月1日(木)に実施。実習科の入所試験は、2月28日(水)に行われる。募集要項・願書の請求は公式サイトで確認を。