佐奈宏紀&矢部昌暉が声で誘う妖怪探偵譚、朗読劇「妖琦庵夜話 その探偵、人にあらず」その魅力は?

榎田ユウリ原作×中村明日美子イラストの小説「妖琦庵夜話 その探偵、人にあらず」シリーズ(KADOKAWA / 角川ホラー文庫)が、READPIAの朗読劇として登場する。

今年8月までに全9巻が刊行された本作では、美貌の青年茶道家で妖怪のDNAを持つ“妖人”・洗足伊織を軸に、妖人と人間が共に生きる社会を舞台にした物語が展開する。毒舌家で、偏屈でありながら、優れた知性と鋭い観察力を持つ洗足伊織は、たびたび警察から妖怪がらみの事件の捜査協力を依頼されていて……。今回の朗読劇版では、“油取り”という妖怪がからむ女子大生殺人事件を描いた原作小説第1巻が舞台に立ち上げられる。

朗読劇「アルバート家の令嬢は没落をご所望です」(参照:太田夢莉&陳内将で悪役令嬢と従者の“裏切り”満載な転生没落ラブコメディ、朗読劇「アルバート家の令嬢は没落をご所望です」)も手がけた長瀬貴弘が脚本を、悪い芝居の山崎彬が演出を担う今回は、佐奈宏紀が洗足伊織役で主演。また、洗足伊織とは腐れ縁で、事件の背後に見え隠れする青目甲斐児役をダンスロックバンド・DISH//のメンバーで俳優の矢部昌暉が演じる。

ステージナタリーでは、まさにこれから稽古が始まるというタイミングで、佐奈と矢部から朗読劇「妖琦庵夜話 その探偵、人にあらず」に臨む思いを聞いた。

構成・文 / 大滝知里撮影 / 是枝右恭スタイリスト / ヨシダミホ

佐奈宏紀インタビュー

「むしずが走ります」と言われそう…洗足伊織との共通点

──原作小説を読んで、どのような感想を持ちましたか?

めちゃめちゃ頭がこんがらがりました!! 冒頭は完全に(洗足伊織の元を訪れる“Y対”こと警視庁妖人対策本部の新人刑事である)脇坂(洋二)くんのように僕も自分の馬鹿さを痛感したような気がします。また、もちろんフィクションですが、現実で妖人の存在が発覚したら確かに興味本位で接してしまいそう!とすごく納得しました。そして作品では差別対象が妖人ですが、その描かれ方が今、現実で起きていることととてもリンクしている気がしました。

佐奈宏紀

佐奈宏紀

──頭が良く、見た目も麗しく、茶道の師範として妖琦庵を営む、でもどこかひねくれた部分のある洗足伊織の印象は?

そこに居るだけで人を魅了する存在感やオーラが、とてもうらやましいですねえ。頭脳明晰で美貌もあり、どこか素直ではないところももちろん伊織さんの魅力なのですが、そういう人格になった裏付けも含めて、魅力的な人だなあと思います。情に厚い部分や(成人しているが少年の見た目を持つ“小豆とぎ”の妖人)マメには弱い一面など、冷たいように見えて実は誰よりも温かいところが僕は大好きです!

──ご自身と役に共通点はありますか?

僕ごときが伊織さんとの共通点などを挙げるのは恐れ多いです……。もし挙げようものなら「馬鹿と一緒にされるのはむしずが走ります」と言われてしまいそうです。小声で1つだけ言わせてもらえるなら、ぶわあっと急にしゃべり出すところが似ているかもしれません。僕も普段はあまりしゃべらないんですが、パチッとスイッチが入るととんでもなくおしゃべりになるので!

「妖琦庵夜話 その探偵、人にあらず」書影(KADOKAWA / 角川ホラー文庫)

「妖琦庵夜話 その探偵、人にあらず」書影(KADOKAWA / 角川ホラー文庫)

──洗足伊織は佇まいだけでなく、言葉遣いも独特です。彼を舞台上でどのように存在させたいですか?

原作が小説で、伊織さんの声質やしゃべり方などの資料はもちろんないのですが、読者1人ひとりの脳内にはなんとなくのイメージがあると思います。僕にもあります。僕の独り善がりにならず、なるべくたくさんの方が納得する形に、演出家の山崎彬さんとも話し合いながら作っていきたいです! また今回は朗読劇なので、完全に動きが付けられるわけではないと思いますが、朗読劇だからこそできる伝え方で洗足伊織を皆さんに感じてもらえたらなあと思っています。

実はけっこう盗ませてもらっていました

──今回、「NIGHT HEAD 2041-THE STAGE-」(以下ナイステ、参照:猪野広樹・鍵本輝ら出演「NIGHT HEAD 2041」2チームのビジュアルお披露目)でご一緒された矢部昌暉さんが、青目甲斐児役で出演されます。矢部さんの俳優としての印象を教えてください。

ナイステでは、初めての本読みから「うわあ……うめえ……」と感動したのを覚えています。さらに立ち稽古に入ってから、セットがまだ組まれていない状態でもいろいろなことを想定して、周りの様子もしっかり確認しながら自分の最善の動きを見つけ出しているのが、すごすぎて怖かったです。Wキャストで同じ役を演じましたが、僕が絶対に思いつかないような動きや感情の動きもたくさんあって、実はけっこう盗ませてもらっていました。

──矢部さん演じる青目甲斐児は、同じ妖人でありながら洗足伊織とは相容れない思想の持ち主です。

青目さんも伊織さんのように、一発で人を魅了する存在感があると感じました。小説の文字からオーラを感じたのは初めてです。どちらにもそれぞれの正義があるので、その圧をどちらも負けないように作っていきたいです。ナイステのとき、矢部ちゃんのお芝居を「セリフの一文字一文字が観ている人の耳にビシッと刺さる、素敵なお芝居だなあ」と思っていました。なので、言葉1つひとつにどこか重みを感じさせる青目にぴったりなのでは!?と、めちゃめちゃ楽しみなんです。セクシーで魅力的な青目を演じてくれると思います!

──矢部さんがもし“妖人”だったら、その能力(才能)は何になると思いますか?

矢部ちゃんはビジュアル撮影のときも取材の撮影のときも、どの瞬間を切り取ってもめちゃめちゃカッコいいんです! 僕は100枚写真を撮ったらそのうちのせいぜい5枚くらいしか使えるカットがないのですが(笑)、矢部ちゃんは100枚全部使える!! あれは何か能力を使ってないとできないと思います!!! 彼は本当に妖人かもしれません。僕は矢部ちゃんの声や話し方が大好きなので、お芝居を通して会話できることがとても楽しみです!

聴いて、自分の好きに作り上げられる朗読劇

──朗読劇の醍醐味はどこにあると思いますか? また、普段の舞台との向き合い方の違いはありますか?

あまり視覚的な情報を与えないのが朗読劇の醍醐味じゃないかなあと思っています。音を耳と頭で楽しむと言いますか、それ以外のことは聴いている人が脳内で自分の好きに作り上げて良いという点が僕は好きです。俳優として、動きのある舞台との取り組み方の違いは、音から得る情報量を少し多めにすることですかね……。目を瞑っていても声だけで喜怒哀楽が伝わるように意識しています。

──演出の山崎彬さんとは、舞台「賭博黙示録カイジ」でもご一緒されました(参照:ざわ…ざわ…舞台「賭博黙示録カイジ」開幕、山崎大輝「新しい感覚を与えられる」)。再び演出を受けることへの期待は?

山崎さんご自身もプレーヤー(俳優)なので、きっと今回も役者と同じ目線で話してくださり、僕にない引き出しなどをたくさん教えてくださるのでは?とワクワクしています! まだ稽古は始まっていませんが、以前ご一緒させていただいたときはとにかく役者たちがストレスなく舞台に立てるようにいろいろと気にかけてくださいました。優しいです。LOVE。

──朗読劇「妖琦庵夜話 その探偵、人にあらず」では、観客に何を楽しんでもらいたいですか?

朗読劇なので、僕たちの会話からお客様1人ひとりの脳内に「妖琦庵夜話」の世界観が観えていたら良いなあと思います。また、少しずつ点と点がつながっていき、少しずつ謎が解けていくドキドキワクワク感を楽しんでいただけるのではないでしょうか!

佐奈宏紀

佐奈宏紀

プロフィール

佐奈宏紀(サナヒロキ)

1997年、愛知県生まれ。俳優。主な出演作に、「ミュージカル『黒執事』~寄宿学校の秘密~」、「『BANANA FISH』The Stage」、「Paradox Live on Stage」、ミュージカル「あなたの初恋探します」など。12月には花輪和彦(花輪クン)役で「ちびまる子ちゃん」原作35周年記念公演「ちびまる子ちゃん THESTAGE『はいすくーるでいず』」に出演する。