団地もシェアハウスも寂しさを抱える共同体(山田)
──本作にはもう1つのテーマとして、透子が住む団地と、祥示が暮らすシェアハウスという、象徴的な2つのコミュニティが登場します。この2つの対比を描こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
山田 団地とシェアハウスって、時代の変遷を如実に表してるなと思っていて。私は神奈川県の相模原市出身なんですが、地元にロビーシティ五番街っていう大きな団地群があって、小さい頃、その団地に住んでる子供にめっちゃあこがれてたんです。もう1つモチーフになったのは、三軒茶屋にある建て直し中の団地ですね。新しいマンションの目の前に、今にも取り壊されそうな団地が建っていて、なんで壊さないんだろう?って思ったら、その中に1戸でも人が住んでたら壊せないんだって聞いて。そこにすごく刹那を感じたんです。団地に住んでいる透子は、旦那さんから興味を持ってもらえない孤独や、子宝に恵まれなかった寂しさを抱えている。かたやシェアハウスで暮らしている祥示は、毎日晩餐会のような日々を送ってはいるけれど、みんながみんな目先の盛り上がりに心を奪われてしまって、大切なことを落ち着いて話せない環境にいる。団地もシェアハウスも、どこか寂しさが垣間見える共同体だなと思ったんです。
──本作でも、欲望に忠実に生きるシェアハウスの住人たちの姿が描かれています。その中で、祥示だけは彼らと少し距離を取っているように感じますが……。
山田 祥示は、周りに流されないようにするには、どうしたらいいかがわかっていない人だと思うんです。自分は流されないって覚悟できてるとしたら、もうとっくにあの家を出てるわけだから。ここにいたくないっていう気持ちはあるけど、出て行こうと決心することもできなくて、ただ自分が流されていることにも気付いているから、ほかの人が流されてしまうことや、流されたくないと密かに思っている人の気持ちをわかってあげられる人なのかもしれませんね。
本多劇場に立つ大変さを痛感した8年(山田)
──団地とシェアハウスの対比を舞台上でどのように表現するのか、非常に興味深いです。今回舞台美術を手がける文学座の乘峯雅寛さんとは、すでに美術の構想についてお話されていらっしゃるのでしょうか。
山田 先日打ち合わせをしたときにいくつか案を上げていただいたんですけど、脚本を読んだだけでこんなに作品の世界を広げてくださるんだ、乘峯さんって本当にすごいなと感激して。自分の想像がおよばない領域まで、イメージを広げてくれるのがスタッフさんの力なんだと、前回の本公演「荒川、神キラーチューン」(2016年)のときにようやく気が付いたんです。まだ詳しいことはお話できないのですが、「滅びの国」というタイトルに即していて、かつ何かの始まりを予感させるような舞台美術になりそうです。
──そのようにして具現化された「滅びの国」を本多劇場で観られるのは、観客としてもすごくぜいたくな体験だと思います。
山田 いち劇団がこれだけのキャスト、スタッフの力を借りて、本多劇場で初めての公演を打てるっていうのはめちゃめちゃ幸せなことですよね。旗揚げのときに「2年で本多行ってやりますよ!」って大口叩いたんですけど、それがいかに大変なことなのかを、この8年で痛感しました。
──吉本さんは2013年のG2プロデュース「デキルカギリ」、三津谷さんは同年のDステ13th「チョンガンネ~おいしい人生お届けします~」ぶりの本多劇場出演となります。お二人にとって本多劇場とはどのような場所なのでしょうか。
吉本 「滅びの国」のオファーをいただいたときに、本多初進出っていうのは響いた要素の1つでした。小劇場出身として、本多っていうのはやっぱりワクワクドキドキする場所だし、出演するうえでより一層気合が入りますね。今回□字ックさんの“初めて”に乗っからせていただいて、私も初めて本多の舞台に立ったときの気持ちを追体験できたらなって思います。
三津谷 ちょうど「ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン」に出演していたとき、石田衣良さんの「下北サンデーズ」っていう作品を読んで、小劇場の方々が目指す場所は本多なんだっていうのを知ったんです。「いつか本多に立ってみたい」と思っていたときに、ちょうど「チョンガンネ」の出演が決まって。本多はいろいろな経験を経てようやく到達する場所という印象があったので、自分にはぜいたくすぎるかもしれないという気持ちが当時はありましたね。今年はザ・スズナリで、Dステ20th「柔道少年」を上演したんですが、そのときは自分たちで搬入して、実際にナグリ(かなづち)を持ってセットの建て込みをやったんです。あこがれといったら失礼かもしれませんが、しっかりと順序を踏んで本多に立ちたいと思っていたので、今回1つ夢が叶いました。
──旗揚げ前、山田さんがレコード会社で勤務されていたこともあり、□字ックでは、フェス企画「鬼(ハイパー)FES.」や、真心ブラザーズ、フラワーカンパニーズとのコラボレーションなど、バンド音楽と親和性の高い作品作りをされてきました。一方、今作では劇中にユーロビートが使用されるとのことですが、これにはどんな意図があるのでしょうか。
山田 「滅びの国」では、喧騒の中にいる2人の孤独を描きたかったので、それを表現するにはユーロビートだったり、四つ打ちだったり、煩雑な音楽が必要だと思ったんです。音楽も人間も一緒で、賑やかな音楽もあれば、静かな音楽もあるし、アッパーな人もいればダウナーな人もいる。これまでも作品のイメージによって音楽を変えていて、「荒川、神キラーチューン」(2014年初演、16年再演)ではBLANKEY JET CITYの曲をかけました。今回の「滅びの国」では、バカ騒ぎしたあとに帰りのタクシーの中で感じる寂しさみたいなイメージを、音楽で表現できればいいなと思ってます。
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アイドルだって思われてもいい(三津谷)
- □字ック「滅びの国」
- 2018年1月17日(水)~21日(日)
東京都 本多劇場 -
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脚本・演出
山田佳奈
出演
吉本菜穂子、三津谷亮 / 小野寺ずる、日高ボブ美、山田佳奈、大竹ココ、Q本かよ、滑川喬樹 / 大鶴美仁音、小林竜樹、冨森ジャスティン、水野駿太朗、東谷英人、キムラサトル、ホリユウキ / オクイシュージ、黒沢あすか
柏崎絵美子、倉冨尚人、近藤洋扶、三丈ゆき、JUMPEI、照井健仁、難波なう、橋本つむぎ
- 山田佳奈(ヤマダカナ)
- 1985年神奈川県生まれ。レコード会社のプロモーターを経て、2016年に□字ックを旗揚げ。本公演の傍ら、フェス企画「鬼(ハイパー)FES.」や、真心ブラザーズ、フラワーカンパニーズ、BOMI、THE BOHEMIANS、THEラブ人間とのコラボレーションを行うなど、バンド音楽と親和性の高い作品で注目を集めている。16年には初監督作、映画「夜、逃げる」が公開され、17年には「今夜新宿で、彼女は、」で再びメガホンをとった。また堤幸彦プロデュース「上野パンダ島ビキニーズ」の脚本や、パショナリーアパショナーリア「絢爛とか爛漫とかーモダンガール版ー」の演出を担当するなど、外部作品でも活躍中。
- 吉本菜穂子(ヨシモトナオコ)
- 1977年埼玉県出身。1998年、劇団チャリT企画の旗揚げに参加し、2004年まで同劇団で活動。同年の「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」や、翌05年「乱暴と待機」をはじめ、劇団、本谷有希子作品への出演で知られるほか、近年ではケラリーノ・サンドロヴィッチ、福原充則、G2、河原雅彦、上村聡史作品などで幅広く活躍している。
- 三津谷亮(ミツヤリョウ)
- 1988年青森県出身。2009年に俳優デビュー。その後、舞台を中心に活躍し、近年はテレビドラマや映画にも多数出演している。主な出演作にはDステ作品のほか、「學蘭歌劇『帝一の國』」シリーズ、「超歌劇『幕末Rock』」シリーズ、「SHOW BY ROCK!! MUSICAL~唱え家畜共ッ!深紅色の堕天革命黙示録ッ!!~」「ミュージカル『黒執事』~NOAH’S ARK CIRCUS~」や、NHK大河ドラマ「真田丸」、テレビドラマ「3人のパパ」(TBS)、映画「ひだまりが聴こえる」など。11月、12月には「超歌劇(ウルトラミュージカル)『幕末Rock』絶叫!熱狂!雷舞(クライマックスライブ)」の公演を控えている。