上演を繰り返すことが「再生」につながっていく
──「再生」はさまざまな形で上演されてきましたが、「再生」を“再生”することは、デスロックのお二人にとって作品を“更新”する感覚なのでしょうか、あるいは“ゼロから作り直す”感覚なのでしょうか。
多田 うーん、戯曲がある作品だと、再演するときにそのままやるのか、リライトするかという問題はありますが、「再生」は曲も変わることがあるので、何をもって再演か、というところはありますね(笑)。また「再生」という作品の構造とある意味重なるのですが、同じことを繰り返してはいるけれど瞬間瞬間で1回限り、繰り返せるものではないという部分があって。「再生」を“再生”することが、「再生」という作品とつながっているところがあると思います。
佐山 私は初演以来、16年ぶりに「再生」に参加するので、身をもって初演との変化を感じているところがあります。構成力が強い作品ではありますが、実は顔ぶれによってかなり変わる演目なんです。だからどんなふうに立ち上がるかは顔ぶれ次第というところがあります。と同時に、生死や時代について、初演のときは考えなかったようなことを今回は考えていて。以前と同じ自分が演じるわけではないので、今回はそこが問われる気がしています。
──お仕事しながら参加する谷川さんをはじめ、皆さんそれぞれに劇団に所属し、活動されていますが、今回の「再生」に参加することに、どんな楽しみを感じていますか?
森 どんな作り方をすれば「再生」ができるのか、作品を観るだけではわからなかったので、今回みんなで創作していくことが楽しみですね。また多田さんがおっしゃったように、「生きるのは、つらいけど楽しい」ということを、今の世の中でどのように言っていくかについて考えていて。私は「生きることが素晴らしい」と強くは言えません。もしかしたら本人にとっては、死こそが望んでいた解放かもしれないと思うことがあるからです。この作品を通して、「生きていくってなんだろう?」ということを考えていきたいなと思います。
五島 北九州では、劇場の企画にキャリアの長い常連の俳優たちが参加するという状況が続きがちなんですが、今回は顔合わせがすごくフレッシュで良いなと思っていて。今回のような若いメンバーで1つの作品を作ることが、北九州芸術劇場にとっても転機になるんじゃないかと思います。また脚本がないということは、たぶんみんなで話して作っていくところも多いと思うので、みんなで一緒に作り上げることがすごく楽しみです。
平嶋 北九州Ver.は五島さん然り、身体がしっかりできているというか、ダンスもできる人が多くて。私はどちらかというと踊ることや動くこと自体に苦手意識があるので、自分の身体がどう見えるのか気になります。これまでに「再生」では多くの俳優やダンサーの方が踊り狂ってこられたかと思うのですが、そこに自分がどんなふうにアプローチできるのか楽しみです。舞台上の熱気が客席にも届くんじゃないかと思うので、演劇にしかできないエネルギーを渡したいなと思っています。
谷川 久しぶりに演劇ができるワクワクが大きいです。自分が知っているのは高校演劇だけなので、大人の皆さんと同じ目線で作品に携わることができるのがうれしいですし、演劇の新たな面白さを見つけられたらなと。ただ、背伸びしすぎず、等身大の自分を表現できたらと思います。
──さらに今回は北九州・三重でのツアーから間を空けて、2023年2月に愛知県の長久手でも公演があります。長久手公演に対して多田さんはどんな期待を持っていますか?
多田 長久手はオーディションもこれからなので、北九州と三重公演を観た人たちも受けに来てくれると良いなと思っています。7月と来年2月では世の中の流れも少し動いていると思うので、気分がまたちょっと変わっているんじゃないかと思いますし、それも楽しみですね。
初演から16年、「生きる」ことを考える上演に
──劇団Ver.と現地Ver.3作品と、今回のツアーでは4つの「再生」が立ち上がります。ツアー3カ所に出演する佐山さんは、すべて目撃することになりますね。
佐山 実はそれをけっこう楽しみにしています。劇団Ver.は平均年齢も高めなので、現地Ver.とは動きの質感が全然違うでしょうし、今日も皆さんのお話を聞きながら「へえ」と思うことがたくさんあったので、ますます楽しみになりました。
多田 そうですね、デスロックVer.は二十代から六十代が出演しますが、北九州は35歳以下、三重は女性だけなのでそれぞれ雰囲気が違うと思います。
──この2年、新型コロナウイルスやウクライナ侵攻など、生死の問題はより身近に感じられるようになり、「再生」が16年前の初演時とはまた別の受け止められ方をされる可能性があると思います。多田さんは今回の「再生」をどんなふうに楽しんでほしいと思っていますか?
多田 初演時は、先ほどもお話しした通り集団自殺がモチーフになっていたので、その要素が目立っていたと思います。でも上演を繰り返す中でこれは自殺ではなく、限りある私たちの“生”を描いていて、「生きることは有限なんだけど、そこに何らかの価値を見出していく」という向きの作品になっていったなと。どうせ死ぬのになぜ生きるのか、この不条理に、観客の目の前で上演する舞台芸術だからこその表現で向き合います。今目の前にある“生”のまぶしさや力強さを浴びるような体験をしてもらえたらうれしいです。
プロフィール
多田淳之介(タダジュンノスケ)
1976年、神奈川県生まれ。演出家。東京デスロック主宰。古典から現代戯曲、ダンス、パフォーマンス作品まで幅広く手がけ、現代社会における当事者性をアクチュアルに問い続ける。公共ホールや自治体、フェスティバルなどのアートディレクターを歴任し、全国の学校や文化施設での創作やワークショップ、韓国、東南アジアとの国際共同製作などを手がける。2014年、韓国の第50回東亜演劇賞演出賞を外国人として初受賞。「東京芸術祭 ファーム」ディレクター。四国学院大学、女子美術大学非常勤講師。
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佐山和泉(サヤマイズミ)
東京都出身。俳優。2006年より東京デスロックに参加し、以降多くの作品に出演。東京デスロックと並行し、平田オリザが主宰する青年団に2022年3月まで所属。近年の出演作品に、青年団国際演劇交流プロジェクト「その森の奥」、木ノ下歌舞伎「義経千本桜―渡海屋・大物浦―」など。
五島真澄(ゴトウマスミ)
俳優、パフォーマー。2016年に演出家・俳優の高野桂子と演劇的パフォーマンスユニット・PUYEY(ぷいえい)を結成し、俳優のほか美術と音楽も担当。主な外部出演に北九州芸術劇場「せなに泣く」、宮崎県立芸術劇場「幻視~神の住む町」など。「東京芸術祭 ファーム」2021YFF修了生。
五島 真澄/Masumi Goto (@rmg510) | Twitter
平嶋恵璃香(ヒラシマエリカ)
福岡県北九州市生まれ。2015年より北九州を拠点に活動する劇団ブルーエゴナクに所属。主な出演作品にブルーエゴナク「眺め」、田上パル「Q学」、北九州芸術劇場モノレール公演「アイ・ノチス・バイ・ストッピング・ブレシング」など。
平嶋恵璃香 (@erika_hirashima) | Twitter
谷川蒼(タニガワアオイ)
三重県生まれ。地元の高校で3年間演劇部に所属。2019年に三重県総合文化センターの開館25周年記念事業として行われた公演、ロロのいつ高シリーズよりvol.1「いつだって窓際であたしたち」に三重県高校演劇部選抜メンバーとして出演。高校を卒業し、今回、3年ぶりに再び演劇に携わる。
森菜摘(モリナツミ)
1997年、愛知県生まれ。演劇ユニットあやとり主宰。俳優、劇作・演出家。桐朋学園芸術短期大学卒業。近年はシライケイタ、瀬戸山美咲の演出助手も務める。主な出演作品は、舞台版「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」「東京ディグ / ライズ2」など。