2006年に初演され、その後、キャストや演出を変えながらたびたび上演を重ねてきた東京デスロック「再生」が、7月に北九州と三重、来年2月に長久手でツアーを行う。今回は、オーディションで選ばれた現地キャストによる現地Ver.と、劇団Ver.の2本立て。上演に向けて、作・演出を手がける多田淳之介と東京デスロック劇団員の佐山和泉、そして北九州Ver.に出演する演劇的パフォーマンスユニット・PUYEYの五島真澄、ブルーエゴナクの平嶋恵璃香、三重Ver.に出演する谷川蒼、演劇ユニットあやとりの森菜摘が座談会を行った。初演の思い出やオーディションでのエピソード、今回の上演についての思いなど、それぞれの目線で「再生」を語っている。
取材・文 / 熊井玲
途中で帰る人や熱狂する人…さまざまな反応があった「再生」初演
──今回は劇団Ver.と現地Ver.の2本立てで、「再生」のツアーが行われます。この企画はどのように立ち上がったのでしょうか?
多田淳之介 2011年に「再生」の新しいバージョンである「再/生」でツアーをやって、そのときに現地の人と「再生」を作って二本立てで上演するということはやっていたんですが、それで今回「再生」を上演するにあたって、劇団Ver.と現地Ver.を両方やりたいというお話を三重県文化会館の方からいただき、だったらほかの地域でも現地Ver.ができるんじゃないかという話になって。
──多田さんと劇団員の佐山さんは、そのアイデアをどう受け止められましたか?
多田 いや、大変な企画だなあと(笑)。
佐山和泉 ほかの作品ではなく「再生」なんだ、そう言ってくださるなら、と思いました。
──デスロック作品は、どれも俳優さんの負荷が多いと思いますが、爆音の中で踊り続ける「再生」は、劇団員の方たちにとっても「大変」という印象がある作品なのでしょうか?
佐山 確かにデスロックは大体いつも大変ですが(笑)、「再生」は動きが激しくて体力を奪われがちなので、そういう点で大変です。
──「再生」は2006年に初演され、多様な顔合わせや演出でたびたび上演されています。“30分のシーンを3回繰り返す”という枠組みは今やすっかり定着していますが、初演時はどのような生みの苦しみがあったのでしょうか?
多田 東京デスロックは2001年に旗揚げして、当初は僕が戯曲を書いていました。劇団名の“ロック”は“ROCK”ではなく“鍵”の“LOCK”で、作家としては死にまつわる話を書いていたんですね。死って、“結局死ぬのに生きている”という点で、ある意味一番の不条理ですよね。それで死にまつわる、主に“死なれた側”や“死に直面した人たち”が、その不条理とどう向き合うかということを書いていたんです。……という思いと、現代口語演劇のスタイルを使って何か新しい演劇のバリエーションができないかと考えている中で思い浮かんだのが「再生」。当時、集団自殺が社会問題になっていたこともあり、自ら死ぬとしたらどう死ぬのが良いのか……まあ、死ぬのが良いってことはまったくないんですけど、どういう死があるのかを考える中で、一番幸せな瞬間に死ぬのが良いんじゃないか、だったら例えばお酒を飲んで音楽に乗って騒いで、という多幸感がある中で死ぬのはどうだろうと思ったんです。
また当時は、演劇の常識を疑って作品を作るとどうなるかということを考えていたので、例えば日本語じゃなくて全部造語の会話劇とか、役が秒単位で入れ替わる芝居などをやっていたんですけど、その一環で、まったく同じことを繰り返す作品ができたら、というアイデアを持っていました。それで、稽古が始まった頃は普通に戯曲を使って会話劇をやってみたり、同じシーンをただ繰り返す稽古をしてみたりしていたんですけど、ある日突然、僕が「全部やめて、宴会みたいなことがしたい」と言い出して、そこからみんなで「どうやったらできるか」という話をした記憶があります。
佐山 そうですね。最初は台本がありましたが、初日までけっこう日が迫っているところで、多田さんが「全部やめる」と言い出して、結局2週間程度でできたのではないかと思います。でも音楽がかかっている中で踊るのは楽しかったですし、実際に開幕すると、途中で帰るお客さんがいる一方で、「すごく面白い」と熱狂している人たちもいて、いろいろな反応があることに驚いた記憶があります。
さまざまな思いをもってオーディションに参加
──4月に北九州と三重で現地Ver.のオーディションが行われました。北九州Ver.に出演する五島さんは福岡、平嶋さんは北九州を拠点にそれぞれ演劇活動をされており、三重Ver.に出演する谷川さんは三重在住の会社員、森さんは愛知県出身で現在は東京で演劇活動をされています。皆さんの応募のきっかけは?
平嶋恵璃香 私は、「再/生」を観た人の話を以前聞いてとても興味を持ち、デスロックで上演されることを心待ちにしていたんです。でもなかなか上演されなくて、そのうち、2015年に岩井秀人さんが快快「再生」を演出されたのを観て、今までにないくらい熱狂して(笑)。それで今回オーディションがあることを聞き、「これは受けないと!」と思ったんです。演劇って何回も本番があって何回も同じことをやりますが、その中で少しずつ作品が変わっていくんですよね。「再生」では、それを1回の上演の中で観られるというのが面白いと思いました。また死をテーマにしているのに非常に生きるパワーを感じる作品で、それって演劇でできることの、ある種の到達点なんじゃないかと思うので、そんな「再生」に私もぜひ参加したいと思いました。
五島真澄 僕は東京デスロックの作品をまだきちんと観たことがないのですが、多田さんが演出された木ノ下歌舞伎「義経千本桜」だけ観たことがありました。僕、団体や作品で興味を持つより、人に興味を持つということが多くて、過去のインタビューで多田さんが「俳優になりたかったけど、演劇はダサいから嫌だと思った」と語っているのを読んで、「バリバリ演劇をやっている人でもそんなふうに思うんだ」と多田さんに興味を持っていました。あと実は僕、過去に北九州で上演された、多田さん演出のとあるリーディング作品のオーディションに落ちたことがあって(笑)、そのリベンジも兼ねて応募しました。
谷川蒼 私は高校時代に3年間演劇部で活動していて、2019年にはロロいつ高シリーズ2本立て公演に出演したことがあります(参照:いつ高2本立て開幕、三重の高校生キャスト「改めて十代っていいなと感じた」)。また高校時代に東京デスロック+第12言語演劇スタジオ「カルメギ」(参照:東京デスロックが日韓共同制作「カルメギ」再演、「かもめ」を翻案)を観たのですが、それまで高校演劇しか知らなかったので、プロのすごい劇団の方たちの作品に圧倒されて。それで、高校を卒業したあとも何かしらの形で演劇に携わりたいと思っていたのですが、それができないまま2年が過ぎていました。でも今回、この企画のことを偶然知って「これは行くしかないな」と(笑)。仕事をしながらではありますが、これから演劇に携わっていくきっかけの1つとしてオーディションに応募しました。
森菜摘 私も「再生」を拝見したことはないのですが、デスロックの作品は数作品拝見していたので、今回の募集を見て「やりたい!」と思いました。多田さんは先ほど、「再生」が生きることを扱っている作品だとおっしゃいましたが、私もこの1年、生きることや死ぬことについて考えていたので、この作品を通して“生きる”ということに対してもう一度向き合いたいなと思います。また、私は今東京に住んでいますが、愛知県出身で、高校時代には三重県文化会館のミエユース(編集注:三重県文化会館が主催していた、高校生以上25歳以下を対象にした演劇ラボ)に参加したことがありました。今回、オーディションで6年半ぶりに三重県文化会館を訪れたとき、18歳のときの自分と24歳の自分が再会したような気持ちになりました。
筋肉痛に大量の汗!でもやっぱり、その場にいる人と作るのは楽しい
──北九州と三重のオーディションで、多田さんの印象に残っていることはありますか?
多田 それぞれけっこう印象が違いますね。オーディションではまず僕がどういうことを大切に活動しているかということを伝えつつ、1曲振りを作って、それを3回繰り返すということをやってもらいました。北九州Ver.は北九州のほかに福岡や東京から参加してくれた人もいて、かつ応募資格35歳以下という制限があったので、これまで出会ったことがない若い人たちとの出会いがあり、新鮮でした。地元でオーディションをやって、世代を限定してもこれだけ力のある人が集まる北九州の層の厚さは、劇場や地元劇団のこれまでの活動の成果だと思います。三重は、三重以外に名古屋や関西圏からも受けに来てくれて立地の良さを感じつつ、森さん、谷川さんのように、高校時代から劇場と関わりがあった人たちが再び劇場の企画に参加してくれる劇場の引力を感じます。
──皆さんがオーディションで覚えていることは?
平嶋 作品について大まかには知っていたので、覚悟してオーディションには行ったんですけど、次の日に信じられないくらいの筋肉痛になって(笑)。だから今、稽古に向けて、少しずつ筋トレを始めています。
谷川 私も2年半くらい何も演劇活動をしていなくて、今回が初めて参加した本格的なオーディションだったので、「これがプロの世界か!」と思いながらひたすら踊りました。でも全身で表現できるのはとても楽しかったです。普段仕事をしていると、毎日がただ日常を過ごすだけになってしまいますが、オーディションだけでもすごくリフレッシュして、ワクワクしました。
五島 オーディションが終わったとき、マスクの中に汗の水溜りができていたことをすごくよく覚えています(笑)。「疲れた! 楽しい!」みたいな気持ちで、久しぶりにこんな汗が出たなという感じでしたね。僕はオーディションで最初のグループだったんですけど、水分不足になる人が続出して、僕の次の回からは、カゴいっぱいの水が用意されていました(笑)。
森 オーディションの応募要項に「運動量が多い審査があります」と書かれていたので、だいぶ身構えてジムでトレーニングの日を増やして臨んだんですけど、そのおかげで、オーディションの日は筋肉痛を抱えながら踊ることになりました(笑)。でもその場で生まれるものを、その場にいる人たちと積み上げていくということがとても楽しかったです。
──という参加者の皆さんのお話を、佐山さんはニコニコ聞いていらっしゃいます。
佐山 いや、ついつい「『再生』は疲れる作品だ」と先に思ってしまうんですけど、「そうそう、その場にいる人と作り上げていくのは楽しいよね、演劇を作るのって楽しいよね」と思い出し、皆さんのお話を聞きながらニコニコしてしまいました。ただケガと熱中症にだけは気を付けてもらいたいです。
──現地Ver.では各地のエピソードが盛り込まれる可能性があるそうですね。
多田 おそらく作品ごとに曲も変えるし、曲と曲の間にしゃべったりもするので、そのときはその人自身のキャラクターで話してもらうことになると思います。北九州だったら地元の話が出ると良いなと思いますし、三重はいろいろな地域から来ている人が集まっているので、また全然違う雰囲気になれば良いなと。デスロック版については、今のご時世というか、令和の人々を描くというコンセプトで作っていく予定です。お客さんにとっても劇団Ver.と現地Ver.ではかなり作品との距離感が変わるのではないかと思いますし、日本で暮らす生きづらさとか、あるいは「生きていくのは、つらいけど楽しい」こととか、前回の上演からさらに5年経った“現在”を描きたいと思っています。
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上演を繰り返すことが「再生」につながっていく