OSK日本歌劇団特集 高世麻央インタビュー|男役として一番いいときを覚えていてほしい

大阪のレビュー劇団、OSK日本歌劇団が東京にやって来る。1922年に松竹楽劇部として誕生し今年で96周年を迎えたOSKは、スピード感あふれる迫力の群舞を中心とした、見どころ満載の和洋ショーと、歌劇の楽しさに満ちたステージで観客を魅了し続けている。今回、新橋演舞場で上演される「レビュー 夏のおどり」は、まさにそんなOSKの歴史と魅力が体感できる作品だ。さらに本作は、2014年以来OSKを牽引してきたトップスター・高世麻央のさよなら公演でもある。劇団解散の危機から奇跡の復活まで、激動の時代を歩み、トップとして劇団を支えた高世のインタビューを軸に、OSKの多彩な魅力に迫る。

取材・文 / 熊井玲 撮影 / 川野結李歌

あの群舞の一員になりたい!

──高世さんは男役に憧れてOSKに入団されたとのことですが、OSKに出会う以前から舞台にはご興味があったのですか?

姉の影響と学校の先生の勧めで演劇をやってはいましたが、人前で表現することが苦手な大人しいタイプだったので、やりたくてやっていたわけではなかったですね(笑)。

──そうだったんですか!

高世麻央

はい。なので歌劇に出会ってから自分自身のあり方とか、自分から発信する力が変わったと思いますね。

──舞台や男役に対する憧れと、自分が舞台に立ちたいと思う感覚はイコールではない気がします。なぜ舞台に立ちたいと思われたのでしょう。

私もそれは不思議なんです(笑)。特に歌劇に必要な何かをやっていたわけではないし、演劇をやっていたので演じることの難しさはわかっていたんです。ただ……今まであまりそういう角度から考えたことはなかったですけど、振り返ってみると、演劇をやりたいと言うより、男役として表現することに強い魅力を感じたんでしょうね。歌劇の男役さんって非日常的と言うか、現実にはいませんよね、もちろん。でも女性が演じるからこそ魅力があるのだし、自分自身、そこに惹かれたと思うんです。

──男役を演じる場所として、高世さんがOSKにこだわったのはなぜですか?

初舞台「セロ弾きのゴーシュ」(1996年)での高世麻央。

かつて近鉄劇場でやっていた舞台を姉が友人と観に行っていたりして、(OSKの存在を)知ってはいたんですが、私自身は映像でOSKの舞台を観たのが初めてで。映像なのに躍動感が伝わってきて、中でも群舞力が素晴らしかった。もちろん作品によっていろいろ方向性は違いますが、そのとき観た群舞が、自分の焦点とピタリと合って、「あの一員になりたい!」と思ったんですよね。でも思ったからと言って入れるわけではないので(笑)、そこからいろいろ調べて、入団にはまず歌劇学校に入らなくてはいけないこと、学校には入学試験があることなどを知り、当時は踊りと課題曲1曲、それからセリフ朗読と面接があったので習いに行かないといけなくなり。家族に「やりたい」と話したら、「無理だからやめておきなさい」と言われました。まあ当然ですよね(笑)。でもその頃から「何があっても諦めない」という思いが続いているのかもしれないです。

──歌劇学校時代、高世さんは常にトップクラスの成績だったとか。

いえいえ。歌劇学校に入ってみたら、同期生には小さい頃からクラシックバレエをやっている子や、すでに日本舞踊の名取の子もいたので、みんなの倍努力しないとそこには並べないと思ったんです。なので、当時は「もっと小さなときから踊りをやっていたらよかった」と思いましたが、今になってみると、反対に何もやってこなかったからこそがんばったんだと思いますし、それが今につながっていると感じるので、むしろ何もやってなくてよかったのかなって思います。歌劇の学校に入ったら、本当に日本舞踊やダンス、歌、タップダンスと朝から夕方まで自分の好きなことがやれて、レッスンが楽しくてしょうがなかったですね。そうやって稽古することで、OSKに携わっていると実感できましたし。

ゼロからの再出発、ダメだったらそのときに考えようと

──2年間の学校生活を経て、高世さんは1996年にOSKに入団されました。その後2002年に当時の親会社・近鉄からの支援打ち切りが発表され、OSKは一時解散となります。

高世麻央
高世麻央

解散の報せを知ったときはまず頭が真っ白になりました。歌劇の世界にあって、まさかリストラに遭うとは思ってなかったので。しかも劇団から聞いたのではなくニュースでまず知ったんですよね。だから「うそでしょ?」としか思えなくて。その報道の翌日だったか、集合がかかり劇団から解散宣告があったんですが、目の前で言われても何も感情は湧かないんです、ただ涙が出るだけで。個人的には下級生のときから少しずついろんなお役をやらせていただけるようになって、まだ全然ですけど少し男役としてやり方がわかってきて、これからもっといろいろやっていきたいと思っていたときだったので、自分自身が憧れてきた男役を、自分の意思とは別に続けられなくなることがあるんだ、とまず認めなければいけなくなりました。

──その後、03年5月に最終公演「Endless Dream~終わりなき夢」と解散式が行われますが、劇団員によってすぐに「OSK存続の会」が発足されます。

2代先輩で同じく横浜出身の大貴誠さんが、「OSK、残そうよ」とおっしゃったんです。「残すって発想があるんだ、その可能性がまだあるんだ!」と驚きました。それで、「どうせ終わりになるなら今がんばってみよう、そもそもゼロからのスタートなんだから、例えダメだったとしてもマイナスにはならないんだ」と思うようになって。その思いは、OSKに入るときと一緒だったかもしれないです。「ダメだったらどうするの」って何度も周りには言われましたが「ダメだったらそのときに考える」とずっと思ってましたから。

──皆さんが街頭で署名活動をされている姿は何度も報道され、印象的でした。

OSKを残したい一心でみんなが何かに突き動かされるように動きましたね。最終公演後、最初に私が出た舞台が、戎橋筋商店街の夏祭りのライブステージだったんですけど、男役は私1人、全部で5人しか出なくて、どれだけ緊張したかわかりません。それぞれがいろいろな道を選びましたけど、私を含めて存続させたいと思ったみんなは、そういうところから始まりましたね。

劇団員の一生懸命さを、周囲が支える

──そして激動の11カ月を経て、04年4月に存続の会旗揚げ公演「春の踊り 桜咲く国/ルネッサンス」が大阪松竹座で行われます。その好評を受けて、翌年から大阪松竹座で毎年「春のおどり」が上演されることになりました。

自分たちの力だけでは絶対に成り立たなかったと思います。私たちが一生懸命にやっている姿を、こんなにも多くの方が支えてくださり、手を差し伸べてくださって、夢を実現させてくださったのだと思います。

──さらに13年には、73年ぶりとなる東京での「春のおどり」が日生劇場にて行われました。

先斗町での公演の様子。

それまでも東京で自主公演はさせていただいていて、もちろんそれはうれしかったのですが、私の出身が関東ということもあり、どうしても東京に大きな公演を持ってきたかったんです。それはOSKの夢でもあり、私の夢でもあったんですが、その夢も叶いましたね。ですので、ただ普通に公演を重ねて今回があるのではなく、ここに来るまでにその何倍もの思いや経験が凝縮された時間を過ごしてきたなと思います。

──大阪公演の千秋楽に立ち会ったお客さんの様子から、高世さんのその思いはお客さんにも十分伝わっていると思いました。

みんな一緒に歩んできてくれたんですよね。解散のときを知ってるファンの方たちは特に、自分たちが舞台を観に行くことでしか応援できないと思ってくれているので、公演が決まると「観に行こう!」とがんばってくれました。それは今も変わっていないです。最近になってOSKの一生懸命さに虜になって(笑)、公演を観てくださるようになった方たちも、「そういうことがあったんだね」と感動して泣いてくださったりして、それがすごくうれしくて。「歌劇って女性が観に行くものでしょ」ってよく男性の皆さんはおっしゃられるんですけど……。

──でも男性のお客さん、多いですよね?

高世麻央

そうなんです! 男性のお客様が「おいちゃんなのに感動して泣いちゃったよ」って言ってくださったりして、それがまたうれしくて。OSKは大阪で育った劇団で、ミナミの旦那衆に支えていただいていたそうなんですけど、それは今もあまり変わっていないように思いますし、ミナミの街の方の中には「『春のおどり』は春の風物詩だ」と毎年お運びくださる方もいます。

──大阪の千秋楽を、京都・先斗町の芸舞妓さんたちも総見されていました。地域の方たちにOSKが受け入れられ、愛されていることを感じます。

そう言っていただけてうれしい!(笑) 10年の「総司恋歌~沖田総司の青春~」で、初めて芸舞妓さんと共演させていただいたんですが、私たちからするとまさか同じ舞台に立てるとは思っていませんでしたし、失礼があってはいけないと思っていろいろプレッシャーがあって。でも先斗町とのご縁が続いて、総見までしていただけるようになりました。先斗町の歌舞練場にも私は2回立たせていただいているんですが、先斗町の街を歩いていると「高世さん!」って皆さんがお声がけくださるぐらいになって。そういったことも含め、言葉では言い尽くせないほどの感謝を、感じています。

OSK日本歌劇団「レビュー夏のおどり」
2018年7月5日(木)~9日(月)
東京都 新橋演舞場
OSK日本歌劇団「レビュー夏のおどり」
スタッフ / キャスト

第1部「桜ごよみ 夢草紙」
構成・演出・振付:西川箕乃助

第2部「One Step to Tomorrow!」
作・演出・振付:名倉加代子

出演:高世麻央、桐生麻耶、楊琳、真麻里都、虹架路万、舞美りら、愛瀬光、白藤麗華、遥花ここ、華月奏、城月れい、麗羅リコ、実花もも、栞さな、穂香めぐみ、桃葉ひらり、由萌ななほ、朔矢しゅう、壱弥ゆう、椿りょう、りつき杏都、唯城ありす、結菜ほのり、雅晴日、羽那舞、凜華あい、琴海沙羅、紫咲心那 / 朝香櫻子(特別専科)、緋波亜紀(特別専科) / (94期初舞台生)叶望鈴、依吹圭夏、純果こころ、有絢まこ、水葉紗衣、瀧登有真、優奈澪、涼乃あゆ、せいら純翔、知颯かなで

高世麻央(タカセマオ)
5月25日生まれ、神奈川県出身。1996年にOSK日本歌劇団に男役として入団。2010年5月、自主公演「バンディッド!~雲隠才蔵外伝~」にて大阪文化祭賞グランプリを受賞。11年9月にはOSKとして8年ぶりとなる東京公演「桜NIPPON踊るOSK」を東京・三越劇場にて主演。以降、劇団が毎年東京公演を続ける基盤を作った。14年にトップスターに就任。16年12月には大阪の地域活性化の原動力である企業活動や文化的活動において活躍する女性を讃える「大阪サクヤヒメ賞」を受賞。18年1月にOSKからの卒業を発表。2月の「三銃士La seconde」がOSKとして最後のミュージカル出演となり、大阪は大阪松竹座「春のおどり」、東京は新橋演舞場「夏のおどり」でラストステージを迎える。

2018年7月3日更新