「オレステスとピュラデス」杉原邦生×鈴木仁×濱田龍臣|裸の舞台から、演劇の炎が立ち上がる

世界を知ることで、強くなる

──趣里さん、大鶴さんの鬼気迫る演技にも期待が高まります。そんな色濃い登場人物たちの真ん中で、オレステスとピュラデスは寄り添いながら、しかし少しずつ関係性を変えていきます。2人の関係性の変化について、お二人はどんなふうに見せたいと思っていますか?

左から鈴木仁、濱田龍臣。

鈴木 台本が進化するにつれて、2人の愛情も深まっているように感じていました。さらにその深さは、語られる言葉以上のものを感じ合うことで、より濃くなっているのではないかと思うので、そのことを毎回新鮮に感じながら演じてみたいです。

濱田 オレステスとピュラデスは最初、本当にお互いがお互いしか見えない状態で依存し合っていますが、徐々に別のところへも目を向けられるようになり、世界を知っていく。そのことで、最初は歪んでいた2人の関係が、きれいな支え合いになっていくのではないかと思います。ピュラデスに関して言えば、最初は非常に排他的で、オレステス以外の人たちを“その他大勢のただの人間、死のうと生きようとどうでもいい存在”と感じていますが、“その人たちがいることで自分たちも一緒にいられる”と気付き、それがピュラデスの強さになっていく。そんな彼の変化を、セリフの発し方なのか、立ち方なのか、ほかの人との向き合い方なのか、今はまだわかりませんが、見せていけたらなと。

杉原 今、たっちゃんが重要なことを言ってくれましたね。過去に起きたことや歴史って、改めて向き合おうとしないと、向き合う機会ってないんです。過去に起きたこと、都合の悪いこと、汚いことはどんどん忘却されてないものにされてしまう。でも過去の失敗や歴史の中で起こったことの上に僕らは成り立っていて、社会も演劇も、ベースにあるものを無視することって、とても危険だと思うんです。今、社会全体がそういった流れにあり、簡単に過去のことを蔑ろにできてしまうんだけど、若い彼らが、過去に向き合うことの大切さを演劇できちんと表現してくれることには希望を感じるし、その様をお客さんに目撃してほしいなと思います。

──先ほどお稽古を拝見しましたが、お二人の身体ごと魂をぶつけ合うような演技に、より一層期待が高まりました。ただ、まだ1幕の稽古だったので、このあとの展開を考えると、最初にこんなにパワフルで大丈夫かなと……。

杉原 このあともフルスロットルだからね!(笑)

一同 あははは!

裸の舞台から、演劇の炎が立ち上がる

──本作は、ロードムービーということで、物語の舞台が船の上から崖まで、どんどんと移り変わっていきます。しかし今回は、非常にシンプルな舞台美術になるそうですね。

杉原邦生

杉原 そうなんです。KAATの舞台上で取っ払えるものは全部取っ払いたいと思っていて、大きなセットもなければ、プロセニアムも袖幕も全部なし。そこに俳優たちが立ち、セリフを発することで演劇の炎が立ち上がる、というイメージがあって。そうしようと思ったのは、コロナのことが大きく影響しています。自粛期間に家にいたとき、時間としては非日常的なんだけど、でも極めて日常的な空間にいて、自分が生活している地域や空間を感じる毎日でした。そういう時間を過ごした観客が、劇場にどういうことを求めてやって来るのかと考えたら、圧倒的な非日常なんじゃないかなと。それで、お客さんにどうやって劇場で非日常を感じてもらおうかと考えていくうち、劇場の日常の姿、裸の姿を見せることで、そこから演劇が起こっていく姿を見せたいなと。そのコンセプトを美術の松井るみさんに相談したところ、通常の客席を組んでいる状態としてはKAAT最大級の舞台面を使うことになりました。

鈴木濱田 わあ……。

杉原 なので、照明さんも音響さんも、どこに機材を仕込むか、大変そうです(笑)。

──俳優さんも大変ですね。

濱田 でもすごく邦生さんのエネルギーを感じますし、それを僕たちにぶつけてくれるのがうれしいです。役者を信じてくれているからこそ、だと思うので、僕たちとしては、それ以上のエネルギーで、演出家が見たい世界を作らないといけないなと思いますし、ギャフンと言わせられるくらいになればいいなって。

杉原 頼もしい(笑)。

鈴木 正直に言いますと、僕はまず、舞台って怖いと思っているんです。しかも以前、セットがあまりない舞台を観たことがあって、その舞台が衝撃的だったので、「こういう舞台はいくつになったらやれるんだろうな、まだ絶対にやらないだろうな」と思ってたんですけど……初舞台がそうなるなんて!(笑)

一同 あははは!

鈴木 「マジか、これ本当に最初にやるの?」って思いましたけど(笑)、しっかり稽古してお客さんに作品を届けられたら、今後もう怖いものはないなって思うのでがんばります。

2人で支え合い、楽しみながら本番を迎えたい

──改めてKAATとの取り組みで上演されるギリシャ悲劇シリーズの最終章にかける思いを教えてください。

杉原 ギリシャ悲劇については、まだやりたい演目もあるので、またいつかやる可能性がありますが、KAATとの取り組みとしては一区切りということになります。現在のさまざまな社会状況も含めてですが、今回は僕自身、シンプルに「演劇っていいな」「演劇って面白いな」と思ってもらえる作品にしたいと思っていて。コロナによって演劇の仕事がなくなってしまった人もいる中、KAATのスタッフさんたちが公演に向けて動いてくださり、みんなで稽古場に集まって、マスクをしながらではあるけど一緒に稽古できるのはありがたいですし、そうやって本番に臨めるのは貴重だなと。そういう感謝もありつつ、やるからには観に来てくれたお客さんに満足してもらえる作品を見せたい。それが僕らの仕事ですから。なので、本当に良い演劇をきちんと上演したいと思っています。

──実際に舞台で、観客を前に演じられるお二人としては、今、どんな思いを感じていらっしゃいますか?

濱田 僕はお客さんで満席の客席を知らないんですよ。夏に出演させていただいた「大地」のときはお客さんが全員がマスクをして、1席ずつ空けた状態だったので。でもそんな中でも来てくださった方々の熱気というか、「これを待ってたんだよ」という思いを感じられて、「ああ、生で芝居をやるってこういうことなんだ」ってうれしかったんですね。なので、今回も「舞台っていいな」と思っていただけるように、がんばりたいです。前回はそうそうたるベテランメンバーの中で恐怖だったんですけど(笑)、今回は歳が近い仁さんがいるので、支え合いながら成長していきたいと思います。

鈴木 舞台は初めてなので、正直わからないところが大きいですが、イベントなど以外で自分がやっている仕事を生でお客様に観ていただく機会は今までなかったので、そう考えるとうれしいです。お客さんにとっても僕自身にとっても、生だからこそ感じることは多いだろうと思うので、たっちゃんと楽しみながら本番を迎えたいと思います。

左から鈴木仁、濱田龍臣。

──頼もしいお二人ですね!

杉原 本当に頼もしいです。正直、仁くんは初舞台だし、たっちゃんは舞台2回目だし、少し心配もあったんですけど、ポンコツだった二十歳の頃の自分を思い返すと、2人は本当にしっかりしてるなって、恥ずかしくなりました(笑)。

鈴木濱田 あははは!

杉原 これから稽古を重ねる中で、日に日に楽しみが増していくんだろうなと思います。稽古前に考えていた「このへんまでは行ってほしいな」というラインはもうクリアできると思うので、さらに上に行ってほしい。舞台で彼らを初めてご覧になる方もいらっしゃると思うので、そういった方たちには「良い俳優がいるな」って、しっかり目に焼き付けていただきたいですね。