佐藤正和が“やりたい芝居をやる”ために立ち上げた、ゴツプロ!Presents 青春の会。第6回公演では、福田雄一の代表作の1つ「大洗にも星はふるなり」が上演される。福田が主宰するブラボーカンパニーのメンバーでもある佐藤は、ブラボーカンパニーで過去3回上演された際も出演している。そんな「大洗」を知り尽くした佐藤が今回演出を託したのは、小松台東の松本哲也だ。そしてオーディションで選出された“ヤングな男子”役には、葉山昴、杉田大祐らが名を連ねる。
夏、海の家のバイトで知り合った面々は、その年のクリスマス、とあるマドンナの手紙に誘われて、冬の海の家を訪れ……。
2024年版の「大洗にも星はふるなり」は、どんな作品として立ち上がるのか。演出を手がける松本、出演者の葉山と杉田、そしてプロデューサーで出演もする佐藤に作品への思いを聞いた。
また特集の最後では、作者・福田雄一が青春の会での上演に向けてメッセージを紹介している。
取材・文 / 熊井玲撮影 / 祭貴義道
青春の会で、“ド・コメディ”をやりたい!
──まずは佐藤さんに、青春の会のコンセプトや、大事にしていることを伺いたいです。
佐藤正和 青春の会を立ち上げた最初のきっかけは、2018年ころに僕が突然、「熱海殺人事件」をやりたくなったことなんです。「熱海」をやりたいがために、昔から交友がある★☆北区つかこうへい劇団出身の井上賢嗣に声をかけて、青春の会が立ち上がりました。つまり、自分がやりたい芝居をやりたいがために立ち上げたユニットなんです(笑)。その後コロナがあり、芝居がやりづらくなっていく中で、僕はブラボーカンパニーとゴツプロ!にも所属していますが、小規模公演のほうがやりやすいなっていうことに気づいて。それで、思いついたことや面白そうだと思ったことを、とにかくフットワーク軽くやろうとしているのが青春の会です。そんなわけで第1回公演が「熱海殺人事件」(演出:井上賢嗣)、第2回公演が井上ひさしさんの「父と暮せば」(演出:青山勝)とやってきたのですが、もっと“ド・コメディ”みたいなことを、若い男の子たちとわちゃわちゃやりたい!というざっくりしたイメージが浮かんだときに、「あ、福田雄一の本があるじゃないか!」と思って。中でも「大洗にも星はふるなり」を今の若い子たちでやったら面白いんじゃないか……と思いつき、現在に至ります。
──ブラボーカンパニーで2006年に初演、その後2009・2019年にも上演され、2009年には福田さんの脚本・監督により映画化もされている作品です。舞台はクリスマスイブの茨城県大洗海岸にある、季節外れの海の家。夏のバイトで知り合った面々は、とあるマドンナの呼び出しによって続々と海の家に集まって来る……という内容です。佐藤さんにとって「大洗にも星はふるなり」はどんな印象の作品ですか?
佐藤 福田作品の中ではちゃんとストーリーがあるというか(笑)。ブラボーカンパニーでは普段、1人何役も兼ねることが多いんですけど、「大洗」は1人の俳優が1役やることで面白さを表現できるのが珍しいし、そこがこの作品の印象かなと思っています。
──また、今回の上演では、小松台東の松本哲也さんが演出を担うことも大きなトピックです。佐藤さんが「松本さんに」と思われたのはなぜですか?
佐藤 まず「大洗をやろう」「オーディションをやろう」ということを決めて、「演出は誰にお願いしよう?」と考え始めて多分5分くらいで(笑)、松本哲也だ!と。小松台東でやられている芝居のテイストと、福田雄一ワールドは全然違うということはわかっているんですが、「大洗」は笑いが絶対に不可欠なお芝居なので、松本さんにお願いしたいなと。……これは以前から松本さんご本人にお伝えしていたんですけど、松本さんの笑いのセンスが僕はとても好きなんです。意外とベタで、なのにわかりやすくないというか、バーンと前に出てこない笑いで。シチュエーションや関係性で笑いが生まれるところが好きだなと思っていたので、福田さんの笑いの世界を松本さんが料理したらどうなるんだろうというところを見てみたくなって、松本さんにオファーをしました。
──松本さんは、オファーをどう思われましたか?
松本哲也 単純にうれしかったです。ゴツプロ!さんとも交流があったので、「ぜひ」っていう感じだったんですけど、「大洗」の台本を読んで「これは大変だな」と思いました(笑)。
──「大変だな」とは、どういう「大変」さだと?
松本 佐藤さんが言ったように、福田さんと僕とはまったく系統が違うので、笑いに関していえば、小松台東では台本を読んだだけだと笑いがなさそうなところに笑いを作る作業をしてるんですけど、「大洗」は台本上にすでに笑いがちりばめられている。笑いが起こらなさそうなところで笑いを起こすほうが、直球のコメディに向かうよりハードルが下がっていると思うので、今回はそこが難しいなと思います。
──過去の上演や映画版はご覧になりましたか?
松本 映画は観ました。……台本のままでした!
一同 あははは!
“二十代に見える三十代”葉山、“海の匂い”がした杉田
──冒頭で佐藤さんは、当初からオーディションをするつもりだったとおっしゃいました。新たな出会いを求めていた、ということでしょうか?
佐藤 そうです。昨年6月に上演した、青春の会「熱海殺人事件」でも水野役をオーディションで決めたんですけど、役者って基本的にはキャスティングされるのをじっと待っている立場なんですよね。であれば、自分たちで仕事や現場を作ってしまえばいいんじゃないか、と思って。しかもそういう機会を一番欲しているのは、僕ら小劇場の役者じゃないかってことも自分自身が一番よくわかっている。もちろん、青春の会は“自分がやりたい芝居をやりたいがために立ち上げたユニット”なので「この人とやりたい」という決め方でもいいんですけど、アンテナを張ってなんとかチャンスを得たいと思っている人たちと一緒に芝居を作ったほうが、作品のうねりがどんどん大きくなっていくんじゃないかと思って、オーディションをやることにしました。結果、面白い人たちがたくさんオーディションに来てくれて、今回に限らず今後もぜひ一緒に芝居したいな、と思う人たちと出会えました。
──そんな、チャンスに対する“アンテナ”を張って、本作のオーディションを受けた葉山さんと杉田さん。お二人はなぜ今回、オーディションを受けようと思ったのでしょうか?
葉山昴 僕は、以前共演させていただいたゴツプロ!の俳優さんから、「葉山にめちゃくちゃ合いそうなオーディションを今やってるから受けてみたら」と教えてもらって。僕もなんとなくその情報は知っていたものの、改めて応募要項を見たら「二十代に見える男子」と書いてあったんです。僕は今年39歳なので、「果たして二十代に見えるだろうか?」と迷い、最初はステイしました。ただやっぱり先輩が「お前に合う」と言ってくださったし、と思い直してダメもとで応募したら、ラッキーなことに書類選考が通って審査を進むことができ、三次オーディションでは、選ばれし十数人の“ピチピチの二十代”候補の中、松本さんが「ここに三十代がいるからリラックスしてがんばって」とおっしゃり、候補者の人たちが驚いて……(笑)。そんなわけで、運よく出させていただけることになりました。
松本 応募要項にある「二十代に見える」っていうのは本人の気持ち次第なので(笑)。自分が二十代に見えるって思えば書類を送ってもらえば良いんです。
──杉田さんは?
杉田大祐 オーディションの情報を知ったのは、SNSですね。実は僕、映像でのお芝居はやってきたつもりですが、これまで演劇を経験したことがなかったんです。でも4年前にコロナのせいで演劇が公演中止や延期になって、演劇の人たちがすごく悔しい思いを抱えながら闘っていることを知り、当時僕自身はもう(俳優活動を)やめようかなという気持ちだったのですが、「自分はまだ闘ってもいないのに負けちゃってる!」と感じたんです。そんなときにこのオーディションを知って、ブラボーカンパニーも小松台東も青春の会も観に行ったことがあるし、僕が知っている人たちが重なったな、松本哲也さんが福田雄一さんの本を演出するってすごいな……と思い、当たって砕けろで挑戦した次第です。
──合格にはどう感じましたか?
杉田 いや、全然信じられなかったです。みんなで台本の読み合わせをしたんですけど、演劇をずっとやってきた人たちがいっぱい来ていたので、例えば“セリフを立てる”というような、みんなが当たり前にできることが僕は全然できなくて。二次オーディションが終わったときに佐藤さんから、「自分でもわかったと思うけど、今回はまだちょっと難しいと思うよ。ただ杉ちゃんの人柄みたいなものは良いと思うから、続けていってほしいとみんな言っていたよ」というメールをわざわざいただいて、「ありがたいな、でも確かに自分としても何もできなかったな」と思っていたんです。そうしたらなぜか三次オーディションに呼んでいただけて! 「ああ、これは、オーディションには落ちてるけど、勉強としてこの場に呼んでくださったんだな」と思いながら三次に参加しました。それで、「すごい人たちの中に入れてもらって、本当にいい経験ができたな」と思いながら帰ろうとしたら、佐藤さんから電話がかかってきて、「今飲んでるから戻って来たら?」と。戻ってみたら、佐藤さんのほかに松本さん、ゴツプロ!の塚原さん、青春の会の井上賢嗣さんまでいらっしゃる席で、佐藤さんから「杉ちゃん、来年まで演劇がんばれる気持ちはある?」と聞かれたんです。「はい!」と即答したら「じゃあ『大洗にも星はふるなり』出演よろしくお願いします」と言っていただけて本当に驚きました。
佐藤 正直なところ、杉ちゃんは確かに技術という点でまだまだな部分もあったんですけど、この人、湘南の辺りに住んでいて、実際に海にも出ているんですよ。だからオーディション参加者の中で、誰よりも“海の匂い”がぷんぷんしていて!
一同 (笑)。
佐藤 それに人間的にも本当にこのままで、作品にも合ってるなと思いました。なので、ちゃんと自分でも努力して演劇に取り組んでくれたら、すごく面白いものになるんじゃないかと思って、その“努力する覚悟”みたいなことを直接本人に確かめようと思ったんです。
──オーディションの段階で、役の振り分けはある程度決めて、選考されたのですか?
松本 書類で写真は見ていたからある程度イメージはしていましたけど、自己紹介などでコミュニケーションを取りつつ、その場で決めていきました。ちなみにオーディションでは、台本を頭から最後まで丸々1冊読んだんです。稽古のように、ちゃんと1回台本を読んで考えたいと思ってそうしたんですけど、その際に年齢的にやっぱり合わない役もあったりしたので、バランスを考えて役を当てていきました。
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正直で可愛げある人たちが演じる「大洗」