畠中祐が語る、音楽座ミュージカル「シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ」の“尊さ” (2/2)

音楽座ミュージカルの皆さんとなら、やっていける気がする

──今回の「シャボン玉」では、音楽座ミュージカルの皆さんと一緒に舞台を作り上げます。佳代役でコンビを組む高野さんや、Wキャストで悠介役を演じる小林啓也さん、高野さんとWキャストで佳代役を演じる森彩香さんの印象はいかがですか?

高野さんは歌もお芝居も素晴らしく、音楽座ミュージカルのボスみたいな方だと勝手に思っています! 演技や関係性の作り方についてはまだお話しできていませんが、稽古で実際に高野さんと掛け合いをしながら見つけていけたらなと、ワクワクしています。小林さんと森さんは「俺がこれをやったら1公演で声枯れちゃうかも」というくらい、演技から熱量があふれていて。お二人の演技は音楽座ミュージカルの「ラブ・レター」や「泣かないで」で拝見していますが、客席でずっと熱を浴びている感覚でした。“熱い”と“熱い”がぶつかり合ったら、どんな悠介と佳代になるんだろう? とにかく早くお二人の稽古が観たいです!

──期待が高まりますね! そのほかの音楽座ミュージカルの皆さんの雰囲気についても教えてください。

この間、音楽座ミュージカルの男性メンバーと6人でご飯に行ったんですが、皆さん根っから良い人でした。声優業界で一緒に飲む仲間たちの中には、ひと癖ある先輩や後輩が多いんです(笑)。それはそれで楽しくて大好きなんですが、音楽座ミュージカルの皆さんからは、考え方や人との向き合い方からすごく“良い人オーラ”が出ていて、「こういう飲み会も良いなあ」なんて。男子トークで何を話したかは内緒ですけどね!(笑) 客演という立場で感じたのは、音楽座ミュージカルの皆さんはすごく統制が取れているということ。全員が1つになっているから「この中にちゃんと入れるかな」とドキドキしていたんです。でも一緒にご飯に行った皆さんはすごくざっくばらんな雰囲気で、ホッとしました。それに僕は小さい頃、親に連れられて音楽座ミュージカルのオフィスや稽古場に遊びに行っていたらしいです。あまり当時の記憶はないのですが、やっぱり音楽座ミュージカルにもなんとなくなじみがあって。だから人見知りの僕でも、「シャボン玉」の現場に入るときもそんなに“キュッ!”とならずに過ごせました。まだまだ稽古はこれからですが、やっていける気がします。

畠中祐

畠中祐

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追求したいのは“本当”の瞬間、これからも舞台を続けたい

──畠中さんはご両親の影響で幼少期から俳優を志していたそうですが、舞台というフィールドに興味を持ったのはいつ頃でしたか?

小さいときからずっとです。父や母が出ている舞台や、両親の知り合いの舞台をいつも観ていたから、週2・3のペースで劇場に行っていました。だから子供の僕には舞台しかなかったですね。ただ両親の仕事はミュージカルが多かったので、振り返るともっとストレートプレイも観ておけば良かったなって(笑)。

──声優のお仕事をしながら高校を卒業したあとは、桜美林大学で演劇を専攻します。過去のインタビューでは、鐘下辰男さんの指導が印象的だったとおっしゃっていました。

鐘下先生は本当に面白い方です。授業では鐘下先生や、ほかの演出家の方から印象深い話をたくさん聞けましたし、今まで自分が持っていなかった視点を得ることができましたね。僕は大学のときに小劇場演劇に出会ったんですが、ミュージカルをよく観ていた僕にはもう衝撃で! 講義を聴いたり、唐十郎や寺山修司の戯曲を読んだりしながら「『書を捨てよ町へ出よう』……うわあ、おもしれー!」と思っていました。

大学では、どんなジャンルでも“演じる”ことの根本は同じで、いかに演技でうそをつかず“本当”の瞬間を生み出せるかが大切だということを知りました。ミュージカルやストレートプレイ、声優はそれぞれ表現方法がまったく異なります。例えば声優の仕事には制約が多くて、一発勝負の舞台とは違い、監督や音響監督のディレクションでどのテイクが使われるか決まるという側面もあります。でもどんなジャンルでも、演技のどこかに“本当”があるから受け手は感動できるんだなと思います。世の中にはさまざまな形のお芝居があって、僕はミュージカルを観ることからスタートして声優になりました。だけどやっぱりやりたいのはお芝居全般なんだなと、大学での学びを経て改めて思えた。実は親からは「演劇じゃなくて、一般の大学に行きなさい」と桜美林への進学を反対されていました(笑)。でも振り返ると、本当にたくさん発見があって良かったですね。

畠中祐

畠中祐

──ミュージカルへの挑戦は、“とにかく演じること全般に興味がある”畠中さんにとっては、自然な選択だったということでしょうか?

そうですね。もしかしたら、ミュージカルというジャンルに敷居が高いイメージがあったり、声優業とは遠いものだと感じたりする方もいらっしゃるかもしれません。確かに画面と向き合って演技するのと、舞台で俳優や観客と対面して演技を見せるのは全然違います。今回は歌や踊りもありますしね(笑)。そういう意味で声優とミュージカルには距離があるように思えるかもしれませんが、僕にとって演じるという点で同じ。「シャボン玉」の面白さをお客さんに伝えたいし、欲を言えば公演が終わったあと、俳優としての自分の引き出しにこの舞台の経験がずっと残れば良いなあと思います。

──今後も舞台作品やミュージカルで輝く畠中さんが観られたら、観客としてもうれしいです。

僕、定期的に舞台をやっていきたいんですよ。なぜなら、1本の“線”が続くお芝居をやるのはすごく大切だと思うから。舞台は幕が開けば、俳優がどうにかするしかないですよね。そんなヒリヒリした空間で綱渡りのように板の上に立ち続けて、セリフをしゃべっていないときもそこにいなきゃいけない。舞台にはやっぱり声のお仕事とは違った面白さがあるし、演じ手としての器を広げることもできると思います。それに僕はとにかく「好き!」と思えるものに関わっていきたい。だから今回の「シャボン玉」は本当に貴重な経験になるはずです。音楽座ミュージカルさん、ありがとうございます!

迷路から出たいとき、「シャボン玉」が背中を押してくれる

──お話を伺って公演がますます楽しみになりました。35年間も受け継がれてきたこの作品を今この時代に届けることで、観客にどのような思いを伝えたいですか?

何か伝えたいメッセージが僕にあるかというと、そうではないです。僕の原動力はあくまでも作品の面白さと、「これを自分でも演じてみたい」という好奇心ですね。でも思うのは、悠介と佳代がそうだったように、今の時代はみんなが“迷路”で迷っているんじゃないかなということ。SNSができたことで人とつながる方法が増えたように見えますが、孤独から解放されたわけではないと思います。SNSのリアクションの数にすがって、一時的な喜びで寂しさをごまかして……“いいね”が増えると誰かとつながっている気がしちゃうけど、実は全然そうじゃない。コロナ禍でそういう感覚はますます強くなったし、誰もがいろいろな意味で迷うことが増えてきちゃったんじゃないかなと思います。

僕は、今本当にみんなが求めているのは、五感を通じて何かを受け取ることだと思う。SNSへの“いいね”やコメントより、目の前で誰かの喜びや怒りに触れたり、生身の人間に手を握られて「おめでとう」や「大丈夫?」と言われたりするほうが、グッとくるんじゃないかな。「シャボン玉」は、そういう尊さを思い出させてくれる作品です。きっと現代の人に響くはずだし、“迷路”から出たいと思ったときに観れば、背中を押してくれるはず……っていろいろ言っちゃいましたけど、決して説教臭い作品ではないので、肩ひじ張らずにラブコメを楽しんでほしいです! スマホで何でも観られる時代に、わざわざ劇場に足を運ぶなんてちょっと面倒だなって感じることもあるかもしれない。でも「シャボン玉」は、生で観ることに面白さがある作品だと思うんです。きっと「うわー!」という温かい感動があると思うので、ぜひ体感しに来てください!

畠中祐

畠中祐

プロフィール

畠中祐(ハタナカタスク)

1994年、神奈川県生まれ。声優・俳優・アーティスト。2006年に映画「ナルニア国物語」の一般公募オーデイションに合格し、エドマンド・ペベンシー役の吹替えで声優デビュー。その後「遊☆戯☆王ZEXAL」「僕のヒーローアカデミア」「SK∞ エスケーエイト」「LUPIN ZERO」など多数のアニメに出演する。2017年には1stシングル「STAND UP」でアーティストデビュー。