品と勢いと若さのあるオイディプスを
──キャスティングでは若さを意識されたそうですね。
杉原 はい。まず若い王を、と思いました。でも若いと言っても、ただその辺を歩いている普通の兄ちゃんではなくて、オイディプスは生まれが王族ですから、品のよさは欲しいと思ったんです。それでいてやんちゃで暴走しちゃってすぐにキレるような勢いも欲しい。それをキャスティングでどう成立させたらいいだろうと考えていたときに、「歌舞伎俳優さんがいいんじゃないか」とピンと来て。もともと橋之助くんのことはずっと気になってて……名前も同じ、“くにお”だし。
橋之助 あははは!
杉原 橋之助くんが「勧進帳」を観に来てくれたこと、面白がってくれていたことも聞いていましたし、襲名してから顔付きがぐっと引き締まって目力が強くなり、舞台の上で覚悟を感じるようになったんですね。そういう点でも、今勢いのある彼と一緒に「オイディプス王」を作ったらすごくいいものができるんじゃないかと思ったんです。
橋之助 (照れた笑顔)。
杉原 果歩さんは、先日ご本人にもお話したんですけど、学生時代からの憧れで。「キレイ~神様と待ち合わせした女~」(00年初演)のDVDを観て一目惚れしちゃったんです(笑)。声に透明感があって、甘くて優しいんですけど芯がある。そのイメージが、僕が思うイオカステとぴったり重なって、「果歩さんにぜひ出演していただきたい!」と思いました。
南 フフフ、ありがとうございます(笑)。
杉原 だからこのお二人に出演していただけて本当にうれしいです。また宮崎吐夢さんは舞台で何度も拝見していて、吐夢さんも僕の作品を観てくださっていて、「いつかご一緒できたら」と言っていただいていたんですね。今回のキャスティングを考える中で、ギリシャ悲劇って当時は娯楽の中心だったわけだから、あらゆる要素のエンタテインメントが入っていたはずで、であれば俳優さんも硬質なタイプだけじゃなく、いろいろなキャラクターの人がいてもいいんじゃないかと思ったんです。それで吐夢さんにご出演いただきたいと思ったんですが、稽古場ですでに「こんなクレオンは観たことがない!」という演技を見せてくれています(笑)。
橋之助 僕、稽古中に笑いが止まらなくなったの、初めてです!
一同 あははは!
橋之助さんは信頼できる仲間(南)
──橋之助さんと南さんは今回が初共演です。
南 まだ手探りですけど、橋之助さんはお芝居に対して真面目で、とても気持ちいいですね。私たちとは比べものにならないほどのセリフ量なんだけど、稽古初日からちゃんと台本を手放してらっしゃるので、この作品に懸ける思いはもう、そこからも伝わってくる。歌舞伎以外の舞台は初めてだそうですが、幼い頃から培ってきた型やいろいろなものが身に付いていらっしゃいますし、好奇心が強くて吸収力がすごいんです! 言ってみればガツガツしてはいるんだけど(笑)、でも生まれながらの品性があるから「いっただきまーす」って感じじゃなくて「頂戴いたします」っていう感じで。
一同 あははは!
南 そういうアツい人、私は大好きです。稽古場で橋之助さんが、外聞を厭わずにいろいろやってみる姿勢を見ても、舞台の上で信頼できる仲間だなって感じがしています。
橋之助 今回のように、1カ月稽古してお芝居を作ることってほぼ初めてなので、「こんなふうにしてもいいんだ!」っていうワクワクが毎日あります。南さんがおっしゃってくださったように、僕は好奇心が旺盛なほうなんですけど、南さんや吐夢さんの、思い付いたことを次々とやってみる度胸、引き出しのあまりの多さに、“国生”個人としては本当にすごいなと思うばかりで。その一方で、“橋之助”としては今回、「僕もそうなっちゃおうかな、なりたいな」っていうのがあって(笑)。以前は手ぶらで稽古に行くのが得意じゃなくて、ある程度自分の中で「このセリフはこう言おう」「ここはこういう気持ちで作ろう」と考えてからお稽古に行ってたんですけど、最近家ではセリフを覚えるだけにして、あとは稽古場でやってみようと思っています。歌舞伎の場合は相手役のセリフに音やリズムでお返しするという感じですが、今回は相手のセリフに対して自分が心で感じたままに反応したり、行動したりという表現方法。稽古の中でその感覚に少し触れられたような気がするので、さらにそれを深めていきたいです。
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日本一わかりやすくてスピーディな河合祥一郎の新訳
- KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
「オイディプスREXXX」 - 2018年12月12日(水)~24日(月・振休)
神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
- スタッフ / キャスト
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作:ソポクレス
翻訳:河合祥一郎(光文社古典新訳文庫「オイディプス王」)
演出:杉原邦生
出演:中村橋之助、南果歩、宮崎吐夢 / 大久保祥太郎、山口航太、箱田暁史、新名基浩、山森大輔、立和名真大
- ストーリー
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テーバイの都に突如襲い掛かってきた疫病の原因が、先王ライオスの殺害の汚れにあるとアポロンの神託によって知らされたオイディプス王は犯人糾明に取り掛かる。しかしその犯人が実は自分であり、しかも産みの母と交わって子をもうけていたことを知ると、オイディプスは自らの目を潰し、王位を退くのだった。
- 杉原邦生(スギハラクニオ)
- 1982年東京生まれ、神奈川県茅ケ崎市育ち。京都造形芸術大学 映像・舞台芸術学科在学中に自身がさまざまな作品を演出する場として、プロデュース公演カンパニー・KUNIOを立ち上げる。これまでにイヨネスコの「椅子」や、上演時間が約8時間半におよぶ「エンジェルス・イン・アメリカ」第1・2部を連続上演している。2008年から10年には、こまばアゴラ劇場主催の舞台芸術フェスティバル「舞台芸術フェスティバル<サミット>」ディレクター、10年から13年まではKYOTO EXPERIMENTフリンジ企画のコンセプターを務めた。第36回京都府文化賞奨励賞受賞。近年の演出作に、KUNIO「ハムレット」「TATAMI」、木ノ下歌舞伎「黒塚」「三人吉三」、東京芸術劇場+ホリプロ「池袋ウエストゲートパーク SONG&DANCE」、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「ルーツ」、「八月納涼歌舞伎」(構成)など。
- 中村橋之助(ナカムラハシノスケ)
- 1995年東京都生まれ。成駒屋。八代目中村芝翫の長男。2000年、九月歌舞伎座「京鹿子娘道成寺」所化、「菊晴勢若駒」春駒の童で初代中村国生を名乗り初舞台。16年に四代目橋之助を襲名した。17年には「車引」の梅王丸や「寿曽我対面」の五郎など、さまざまな立役に挑戦。19年1月には「新春浅草歌舞伎」への出演が控える。
- 南果歩(ミナミカホ)
- 1961年兵庫県生まれ。84年に主演映画「伽倻子のために」でデビュー。89年に「夢見通りの人々」でエランドール賞新人賞を受賞。また同作と「螢」でブルーリボン賞助演女優賞、「お父さんのバックドロップ」で高崎映画祭最優秀助演女優賞を受賞。近年の主な出演作にテレビドラマ「定年女子」「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」、映画「オー・ルーシー!」、舞台「パーマ屋スミレ」など。