成井豊×猪野広樹×松本幸大が立ち上げる、“令和版”「ナミヤ雑貨店の奇蹟」 (2/2)

複雑さも含めて、原作をそのままに

──確かにこの物語は複数の時間軸が同時進行していくので、カンパニー内でも絡みがない人はいますよね。時間軸と人間関係が複雑で、俳優さんたちも大変そうです。

猪野 難しいですね。最初に台本を読んだときは「ん?」って思いましたけど、稽古場で動くうちに自分の役の部分はある程度大筋ができてきたというか。ただそれも関係性によって変化すると思うので、これからの稽古でまた、変わっていくと思います。

松本 僕も稽古が始まってから整理されてきた感じですね。原作を読んでいるときも、ページを戻って「これはどういうことだったっけ……」と読み直していたので。でも稽古が始まって各シーンの景色が見えてきて、何となく整理されてきた感じです。

──小説から脚本に起こすときにも、かなりご苦労されたのではないでしょうか。

成井 それは考えましたね。でもそこが私の腕の見せどころ。原作をいじることでわかりやすくする、というのはいやなんですよ。そのままやりたいから、原作の複雑さ、頭を使って読む面白さが面白かったなら、それを整理整頓して捻じ曲げることはしたくない。じゃないと原作ではなくなってしまう、ということは常に意識しています。僕は原作ものを40本以上やっていますが、いずれも原作者にすごく褒めていただくんですね。それは当たり前なんです。原作のままやっているので。ということはファンも喜ぶんです!(笑) 近江谷も東野圭吾マニアですが、そんな近江谷も僕が舞台化した東野作品をいずれも「許せる」と言ってくれています(笑)。

成井豊

成井豊

自分の悩みはどうしてますか?

──ナミヤ雑貨店には、過去の人たちからさまざまな悩みが投函されます。皆さんはそれぞれ、自分の悩みを誰かに相談したりすることはありますか?

猪野 僕は、基本的に悩みを人には相談しないです。相談していた時期もありますが、そのときに腑に落ちない答えばかり返ってくることが続いて、「もういいや」と思って、以来、自分で解決するようになりました。

──本を読んだりして、解決法を見つけるんですか?

猪野 そうですね。自分でいろいろ調べたりします。人に直接聞くのではなく、ネットや本に頼って自分で探して解決法を見つけたほうが、後悔しない。人のせいにしないで良いですし。

松本 僕も基本的には言わないですね。ただやっぱり悩むことはあるので、そういうときは事務所の先輩に頼ったりはします。僕は相葉(雅紀)くんや上田(竜也)くんに仲良くしてもらっているので、時々「ちょっとお時間いいですか?」って相談させてもらったりすることがあります。やっぱり、経験している場数が違うので。あと、たぶんこれ、みんなもそうだと思うんですけど、昔は「親や年上の言うことを聞いておけ」って言われても反抗するじゃないですか。でも自分も年齢を重ねていろいろ経験すると、年上の人や親はやっぱり踏んできた場数が違うから、1回は受け入れたほうが良いんだなと痛感していて。今回は成井さんのほうが舞台に関わっている本数は圧倒的に多いわけだから、もちろん自分を殺す必要はないと思うんですけど、成井さんが言ってることをちゃんと聞くべきだなって。また自分にも後輩が出てきて、相談されることもあるんですけど、アドバイスしたときに「でも僕はこうしたいので」って言うやつもいるんですよね。そう言われると「だったらもう君はいいかな」って僕は思ってしまいます。

松本幸大

松本幸大

猪野 わかる! 幸大くんが言ったように、僕も相談されたときにそういう態度を取られると「それならあなたの人生だから、あなたの好きにしたら良いんじゃないかな」って思いますね。

松本 でももしこのナミヤ雑貨店が、実際にあったら最高だと思いますよ。自分のことを隠さずに悩みを相談して、それに対して第三者からフラットな意見がもらえるって最高だな。悩みが殺到するんじゃないかな(笑)。

猪野 俺、Yahoo!知恵袋ってすごいと思うんですよね。

成井 よく見るよ!

猪野 面白いですよね、悩みも、それに対する回答も。

成井 何、あなたは自分の悩みは人には言わないで、人の悩みを見るのは好きなの?(笑)

猪野 あははは! だからあれは現代版のナミヤ雑貨店じゃないかなって思うんですよね。

猪野広樹

猪野広樹

それぞれが感じる、“グッとくる”ポイントは?

──本作はタイムトラベルというエンタテインメント性をベースにしつつも、親子や友情といった人間ドラマ、手紙が結ぶ心のつながりなど、さまざまな要素が詰まった作品となっています。演劇としては、複数の時間が1つの舞台で展開する面白さ、登場人物たちの関係性の変化なども見どころですが、皆さんがこの作品でもっともグッとくるのはどんなところですか?

成井 僕はラストかな。ナミヤ雑貨店に白紙の手紙が投函されて、それに対して店主が返答するんだけど、初演・再演とあのシーンを客席で観ていると泣けてきちゃう。それは店主・浪矢雄治の人生と、3人組の人生がどちらも“白紙”の状態で舞台に並ぶからで、そこがすごく切ないなって。

猪野 終わる人と、これからの人と。

成井 そうそう、そこにジーンときてしまって。芝居にしたいと思った最大の決め手もそこですね。最後の最後に白紙の手紙を出してくるなんて、本当に東野圭吾はすごい作家だなと思う。

猪野 1つに絞るのは難しいですけど……敦也って自分のことしか考えていない男なんだけど、最後は人のためになることをするんですよね。その変化を表現するのは難しいですが、僕がグッとくるのはそこかな。

松本 原作を読んでもそうだったんですけど、親子の愛に僕は感動しました。例えば(悩みを投稿する)“魚屋ミュージシャン”に対して、お父さんは本当は店を継いでほしいと思ってるけど、息子には後悔しないで生きてほしいとも思っているところとか、そんな魚屋ミュージシャンがほかの子の命を助けたりとか……さまざまな形で愛が表現されていて、そこにグッときます。僕ら3人組が直接そういった愛を表現するところはありませんが、ほかの皆さんが演じてくれるところを受け取って、僕らも大切に演じられたら良いなと思っています。

左から猪野広樹、成井豊、松本幸大。

左から猪野広樹、成井豊、松本幸大。

プロフィール

成井豊(ナルイユタカ)

1961年、埼玉県生まれ。劇作家・演出家、日本演出者協会理事、成井硝子店三代目店主。早稲田大学第一文学部卒業後、高校教師を経て、1985年に演劇集団キャラメルボックスを創立。劇団では、脚本・演出を担当。オリジナル作品のほか、北村薫、東野圭吾、伊坂幸太郎、辻村深月、筒井康隆といった作家の小説の舞台化を手がけている。

猪野広樹(イノヒロキ)

1992年、神奈川県生まれ。これまで舞台を中心に、多数の人気作品に出演。主な出演作は、「ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』」(菅原孝支役)、「舞台『刀剣乱舞』」(大倶利伽羅役)、「ペルソナ5 the Stage」(主人公役)、「『池袋ウエストゲートパーク』THE STAGE」(マコト役)、テレビドラマ「REAL⇔FAKE 2nd Stage」(卯野紘希役)など。4・5月に主演舞台「冤罪執行遊戯ユルキル the stage」を控える。自身の生誕30周年記念プロジェクト「猪野広樹 30th Anniversary year “Inoversary”」が進行中で、3月18日に「猪野広樹カレンダー2022.4-2023.3」、6月23日に「猪野広樹30歳アニバーサリーブックⅠ&Ⅱ(仮)」が発売される。

松本幸大(マツモトコウタ)

1989年、東京都生まれ。ジャニーズ事務所所属。古典作品からゲーム原作の舞台まで幅広い作品に多数出演しており、近年の代表作には「Retrial:実験室」「イケメンヴァンパイア◆偉人たちと恋の誘惑 THE STAGE ~Episode.1~」、舞台「レ・ミゼラブル~惨めなる人々~」、「喜劇 老後の資金がありません」「九識のスプリント~いざ、駆ける瞬間~」、舞台「夏の夜の夢」などがある。4・5月に「冤罪執行遊戯ユルキル the stage」に出演予定。