ついに開幕、平野良・鎌苅健太・髙木俊が語る「ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.5 -最後の事件-」

竹内良輔が原作・構成、三好 輝がマンガを手がける「憂国のモリアーティ」(集英社)の第1部が、2023年1月号で完結した。8月には、同作を原作とした「ミュージカル『憂国のモリアーティ』」(以下モリミュ)の第5弾「ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.5 -最後の事件-」が上演される。

2019年の「Op.1」から鈴木勝吾と平野良が中心となって紡いできた、“犯罪卿”ウィリアム・ジェームズ・モリアーティと“諮問探偵”シャーロック・ホームズによる宿命の戦いもラストスパートに突入。ウィリアムが企てた“モリアーティ・プラン”の総仕上げとなる“最後の事件”が、ついに幕を開ける。佳境を迎えた「Op.5」に向け、シャーロック役の平野、シャーロックの相棒ジョン・H・ワトソン役の鎌苅健太、ロンドン警視庁の警部ジョージ・レストレード役の髙木俊は何を思うのか?

取材・文 / 興野汐里撮影 / 藤記美帆ヘアメイク / 山田亜沙美、松野亜莉沙

さまざまな出来事がゆるやかに完結していく「Op.5」

──2019年にスタートしたモリミュもいよいよ第5弾となりました。お三方は「Op.1」から参加されていますが、“最後の事件”に挑むにあたって現在の心境を教えてください。

鎌苅健太 いち役者として、モリミュからすごく大きな影響を受けてきたので、「ああ、ついにここまで来たか……」という、なんとも言えない感情になっていますね。「Op.5」にたどり着くまで、みんなで一丸となってやってきたから、そんな僕たちが紡ぐ”最後の事件”をぜひ見届けてもらいたいなと思います。

髙木俊 物語の内容とはあまり関係ないんですけど、「Op.5」に新しいキャラクターが登場しないというのも、個人的に感慨深い気持ちになりますね。今まで一緒にモリミュを作り上げてきたメンバーで作品を完結させられるのは、これ以上ないほど素敵なことだなって。

平野良 確かに、今回はおなじみのメンバーばかりだね。「Op.1」から「Op.4 -犯人は二人-」まで、加速しながら物語が進んできたので、今回の「Op.5」ではさまざまな出来事が1つひとつゆるやかに完結していく予感がしています。

平野良

平野良

──「Op.4」上演前のインタビュー(参照:鈴木勝吾×平野良×藤田玲、三つ巴の闘いが幕を開ける「ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.4 -犯人は二人-」)で、ウィリアム役の鈴木さんが、モリミュの終着点に向かうにあたって怖さやプレッシャーを感じているとおっしゃっていたのが非常に印象的でした。

平野 モリミュでは僕と勝吾くんの2人で主演を務めさせてもらっていますけど、原作の「憂国のモリアーティ」はやっぱりウィリアム・ジェームズ・モリアーティの物語なので、勝吾くんはほかのキャストとは比べものにならない、大きなものを背負っているんじゃないかなあ。

髙木 うん。でも、モリアーティ陣営だけでなく、勝吾くんを支える心強いキャスト・スタッフが周りにいるから、安心して自分のやりたいことをやりきってほしいね。

鎌苅 うん。勝吾ならきっとやってくれると思う。

重くなりすぎないように…今回の課題はバランスを取ること

──以前、平野さんはご自身の役について、「孤独な変人だったシャーロックが、周囲との出会いを経て少しずつ軟化してきた」とお話しされていました。前作「Op.4」では、ウィリアムとシャーロック、そして脅迫王チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートンによる三つ巴の戦いが描かれましたが、「Op.4」を経て感じた変化はありますか?

平野 蝶って幼虫からサナギになるじゃないですか。サナギの中って実は固体ではなくドロドロした液体なんですよ。「Op.3 -ホワイトチャペルの亡霊-」までのシャーロックはおそらくそのような状態だったんじゃないかと思うんです。シャーロックが人間らしくなるにつれて、綺麗に羽が生えてくるのかと思っていたら、「Op.4」でもう一度ドロドロになってしまった。ジョンやウィリアムのためを思ってシャーロックなりの信念を貫いた結果、混沌とした気持ちのまま「Op.5」に向かっていく。そんな印象ですね。

鎌苅 ワトソンはどんどん骨に肉がついていったなというイメージです。「Op.1」のときから、シャーロックにとって一番の味方でありたい、“光”のような存在でありたいという思いは一貫して変わらないんですけど、物語が進むにつれて、ワトソンが抱えるコンプレックスや弱い部分が見えてきて、無意識にシャーロックにすがっている部分があることがわかったのが「Op.4」でしたね。

鎌苅健太

鎌苅健太

髙木 僕は、登場人物の中で“正義”という言葉が似合うのはレストレードだと思っているんです。ウィリアムなりの正義もあれば、シャーロックなりの正義もある。だけれども、一番真っ当な正義を掲げているのがレストレードなんじゃないかって。その気持ちを貫いてほしいと思いながらレストレードを演じる中で、シャーロックが徐々に真っ当な人間に近付いていっているのを強く感じるんです。僕としては変化の過程を見ているのがすごく楽しいですし、レストレードとしてもうれしいんじゃないかなと思いますね。

──シャーロック、ワトソン、レストレードを演じるうえで、「Op.4」で得たものをどのように「Op.5」へつなげていきたいと考えていますか?

平野 今の時点で自分に課しているのは、役者として気持ち良くなりすぎないようにすることですね。シャーロックはこれまで、怒りや鬱憤、わだかまりのようなマイナスの感情を出すことが多いキャラクターだったけれど、今回は人間味のある、温かい感情を発露することが多いと思うんです。「Op.4」までの過程もありますし、どうしても役者として気持ちが乗ってきてしまう部分はあるんですが、作品はお客さんへの届けものなんだということを忘れずに、一度冷静になって作品と向き合いたいなと思います。

髙木 僕もけっこう似ているかな。レストレードは楽しいシーンを任せられることが多いぶん、僕自身が楽しみすぎないように、お客さんを楽しませることを第一に考えて、作品に合ったワードを選ばないといけないなって。あと、レストレードって実は苦労人なんですよ。だからこそ、楽しんでいる姿を見せるんじゃなくて、周りに翻弄されている姿が面白い、という見せ方ができたらなと思います。

髙木俊

髙木俊

鎌苅 ワトソンを演じる中で、「Op.3」「Op.4」……と回を追うごとに不要な部分を削れるようになってきた気がします。過剰にやらずとも、ほかのキャストが必要な部分を補ってくれるので。ワトソンは「シャーロックはなんでそんなことをするの?」というふうに、お客さんと同じ目線を持っているキャラクターだから、そういった部分も大切にしたいですし、誰のためにやるか、何のためにやるかを考えながら行動する真っすぐさも大事にしていきたいですね。

──以前、鈴木さんと平野さんが、モリアーティ陣営はディスカッションをすることが多く、一方のホームズ陣営はあまり打ち合わせをせずに稽古を進めているとおっしゃっていました。「Op.5」の台本を読んで、今回の稽古場の雰囲気はどんなふうになりそうですか?

平野 今まではウィリアムがメインのパート、シャーロックがメインのパートというふうに分かれていたので、稽古も別々にすることが多かったんですけど、「Op.5」はきっとみんなで紡いでいくことになる気がします。集大成ではありますけど、重くなりすぎないように気を付けたいですね。重くしようと思ったらどこまでも重たくすることはできるけど、演じる僕たちもお客さんもつらくなってしまうと思うので。さっき、しゅんりー(髙木)さんが言っていたように、レストレードのような場を和ませてくれるキャラクターもいますし、緩急をつけてやっていきたいですね。

髙木 「Op.5」は特に、ストーリーに集中したいというお客さんが多いと思うんです。物語の進行を邪魔したくないという思いがある反面、重くなりすぎないようにしたいとも思うし、そのバランスを取るのが今回の課題ですね。

平野 難しいところですよね。モリミュにおいては音楽がすごく重要な要素になるので、音の連なりがどうなるかによって、緩急をつけるポイントも変わってくるんじゃないかなと思います。