23年ぶりの再演!成井豊×関根翔太×鍛治本大樹×近江谷太朗が語る演劇集団キャラメルボックス「ミスター・ムーンライト」 (2/2)

エネルギーを感じる、見られてラッキーなもの…月の魅力

──改めて初演の映像を観ると、最近の成井作品とは少し演出が異なると感じました。今回は初演に近い感じを目指されるのか、新たな2024年版「ミスター・ムーンライト」を目指されるのか、成井さんはどのようにお考えですか?

成井 最近は上演時間を2時間以内にしたいと決めているものですから、話の進行のためにあまりギャグも入れませんし、今の脚本のほうが以前より“忙しく”なっていると思います。今は踊り場のない階段を、つつつーっと駆け上がっていくみたいな感じで……と僕は思っているんだけど、どう?(と俳優たちのほうを見る)

鍛治本 遊びの余地みたいなところは、昔の台本のほうが今よりも多いのかなとは思います。でも、忙しさみたいなものは最近の作品でも特に感じてはいないです。

関根 昔の台本のほうが、1回でしゃべるセリフのセンテンスが多い気がします。以前の台本はけっこう字で埋まっている感じがありましたが、今は一言二言話すと次の人が話す、という感じで。でもテンポ感はまったく損なわれてはいないと思います。

近江谷 昔は抽象的な舞台美術が多かったと思いますけど、この作品は図書館とわかるセットがちゃんとあって、図書館にいることがちゃんと伝わる会話が繰り広げられていますよね。という前提があるから、本当にギャグはあんまり入れないようにしようと……。

関根 近江谷さん、もう壮大な前振りみたいになってますよ!(笑)

一同 あははは!

左から関根翔太、近江谷太朗、鍛治本大樹。

左から関根翔太、近江谷太朗、鍛治本大樹。

──初演は、舞台美術の美しさも印象的でした。今回はどのようなイメージになりそうでしょうか?

成井 初演の美術はゴージャスすぎた感もあり、例えば図書館のカウンターの後ろにもものすごい数の本と本棚があったんですけど今回はシンプルにしたいなと思っていて。最初の美術会議で舞台美術家さんにお願いしたのは、図書館であるということと、大きな月があるということ。その2点だけお願いしたんです。で、今日届いた美術の第1プランではまさにそれが実現していました。

──作品を象徴する“月”。月はさまざまなイメージを想起させますが、皆さんにとっての月はどのようなイメージですか?

関根 僕は「ドラゴンボール」の、“サイヤ人は月を見ると大猿になる”っていうイメージです(笑)。月には何か、不思議なエネルギーがあるんじゃないかと思っています。

近江谷 僕は富士山を見かけたときと同じテンションで、「あ! 月だ!」とうれしくなりますね。半月でも三日月でも満月でも、すごく光が綺麗なときがあって。そういうときはしばらく見つめてしまうぐらい。綺麗なもの、見られるとラッキーなものという印象です。

鍛治本 僕、月がすごく好きで。太陽との対比で好きなんですね。人間でも、求心力があって自分から光り輝いている人もいますが、その光を反射して生きる人もいる。僕はどちらかというと太陽ではない気がしているので、月にシンパシーを感じますし、月みたいにみんなの光を反射して、自分の良さもみんなの良さも引き出せたらなって常々思っています。眺めるのも好きだし、月の絵を描くのも好きです。

──さすがイケメン枠の鍛治本さん、発言もカッコいいです! 成井さんの月のイメージは?

成井 僕はたまに昼間に出ている月が好きですね。夜出る月ももちろん綺麗ですけど、青空に浮かんでる月は綺麗だなって。僕はあらゆる色の中で青が一番好きなんですけど、非常にいい青空に月が浮かんでいる様子は、本当に綺麗です。ちなみにこの物語でも、鹿島は昼間に大活躍します(笑)。

左から成井豊、関根翔太、近江谷太朗、鍛治本大樹。

左から成井豊、関根翔太、近江谷太朗、鍛治本大樹。

作品の中にある芯を、大切に上演したい

──初演が23年前ですから、今回初めて本作をご覧になる方も多いと思います。改めて皆さんが「ミスター・ムーンライト」のどんなところを魅力に感じているか教えてください。

鍛治本 僕にとっては初演の印象がやっぱり強いのですが、癖がある人がたくさん出てきて、好き勝手やって去っていき、その真ん中に鹿島がいる……というのがこの作品です。今回の再演では、翻弄される鹿島を関根くんが演じるので、その面白さがより引き立つんじゃないかと思いますし、ほかの出演者も大先輩から新人まで、やはりそれぞれ好き勝手やるだろうなと思うので(笑)、わちゃわちゃした感じが一番の魅力になるんじゃないかと思っています。

近江谷 僕が演じる利根川は、ダメダメな鹿島くんが周囲に翻弄されながらもがんばる姿を実は応援している人物で、そんな鹿島のキャラクターやそれぞれの人間関係が信じられるものであれば、いい作品になると思います。鹿島がこの物語の中でがんばろうとしている姿とせっきーが役に対してがんばる姿が重なれば、とてもいい状態になると思うので、(関根に)より自分に近づけて作っていったら良いと、俺は思ってるよ!

関根 (うなずきつつ)本当にお二人がおっしゃってくださったように、僕が汗だくになって振り回されてこの物語の中で生き、いろいろな人たちとどう向き合っていくかが見えてくると面白くなると思うんですよね。まあ、いざ稽古が始まったらそんなことを意識ながらやっていけるのか?という不安はあるんですけど(笑)、とりあえずは目の前に起きることに集中して、僕がもがいている姿をエンタメとして楽しんでいただけるようにしたいと思っています。

成井 初演は大変評判が良かったんですけど、特にオープニングのダンスがめちゃくちゃ評判が良くて、劇団内でも人気があったんです。今回もあれに近いものを、今のダンスで表現したいと思っています。なので、まず見どころの1つはオープニングのダンスですね。それから、今回はよりシンプルに、グッと刺さるものにしたいと思っているので、そこが2つ目の見どころになるんじゃないかな。決して静かなものを作ろうという思いはなく、僕はやっぱり笑いが欲しいですし、登場人物も面白い人たちであってほしいと思っていますが、“おもろうてやがてかなしき”という言葉があるように、笑いがあるからこそ伝わるものがあると思っていて。この作品で伝えたいことはかなり脆いものだから、大切に、大切に上演したい。鹿島やかすみ、結城たちが抱えるさまざまな思いが、作品を通して伝わるといいなと思っています。

左から成井豊、関根翔太、鍛治本大樹、近江谷太朗。

左から成井豊、関根翔太、鍛治本大樹、近江谷太朗。

プロフィール

成井豊(ナルイユタカ)

1961年、埼玉県生まれ。劇作家・演出家、成井硝子店三代目店主。早稲田大学第一文学部卒業後、高校教師を経て、1985年に演劇集団キャラメルボックスを創立。劇団では、脚本・演出を担当。オリジナル作品のほか、北村薫、東野圭吾、伊坂幸太郎、辻村深月、筒井康隆といった作家の小説の舞台化を手がけている。代表作に「銀河旋律」「広くてすてきな宇宙じゃないか」「また逢おうと竜馬は言った」「サンタクロースが歌ってくれた」など。

関根翔太(セキネショウタ)

1991年、埼玉県生まれ。2013年に演劇集団キャラメルボックスに入団。劇団公演のほか外部公演や声の出演も行っている。

鍛治本大樹(カジモトダイキ)

1983年、宮崎県生まれ。2007年に演劇集団キャラメルボックスに入団。劇団公演のほか、ほさかよう、瀬戸山美咲などの作品にも出演。2025年2月にパラドックス定数「ズベズダ-荒野より宙へ-」に出演予定。

近江谷太朗(オウミヤタロウ)

1965年、北海道生まれ。劇団SET研究所を経て1989年に演劇集団キャラメルボックスに入団。2002年退団後はフリーとしてテレビドラマや舞台で幅広く活動。