MISSION|福士誠治と濱田貴司が語る、MISSIONがたどり着いた演劇×ロックで紡ぐ“シアターロック”の世界

濱田貴司が語るMISSION
濱田貴司

セージのサディスティックな魅力が聴き手を突き放す

──「シアターロック・ザ・ミッション『半人半鬼』」はどのように制作されたのでしょうか?

「シアターロック・ザ・ミッション『半人半鬼』」の配信日は、緊急事態宣言が発令されている真っ最中でした。この作品を作ろうと決めたときは、こんな状況は予想していませんでしたが、本来ならアーティスト活動が自粛に向かうタイミングに、むしろ挑戦的な発信ができること、それを実現させてくれたすべての関係者、何より視聴してくれる人たちに感謝の思いでいっぱいでした。振り返ると、この作品での創作はいつものMISSIONの活動よりも平穏だったかもしれません(笑)。僕は映画やドラマ、舞台の音楽を作る仕事をしているので、映像作品に対峙するということは、まだ始めて2年のロックバンドと対峙するより、ナチュラルな行為でした。

──「半人半鬼」「鬼の涙」のライブ映像を中心に、物語が融合した作品となっていますが、2曲の聞きどころを教えてください。

「シアターロック・ザ・ミッション『半人半鬼』」の中で、「半人半鬼」と「鬼の涙」という曲を新たに発表したのですが、「半人半鬼」については、僕自身かねてから言っているセージのサディスティックな魅力が、聴き手を華麗に突き放してくれると思っています! 一方、「鬼の涙」では、コンプレックスを持った人間(鬼)の、人に対する憎しみが描かれている。それでも人を、あなたを、愛していくしかないのだという覚悟が歌われています。

──「シアターロック・ザ・ミッション『半人半鬼』」では鬼役として福士さんと対峙するシーンがありますね。

「シアターロック・ザ・ミッション『半人半鬼』」は、物語を紡ぐ映像が入ってくるのですが、僕が役を演じてセージと対峙するシーンは、やっていてとても面白かったですね。僕はもともと、自分のことを他人ごとのように俯瞰する癖があるので、“演技をする=他人になる”という行為はやってみてすごく……面白かったです(笑)。ただ、鬼セージは怖かったです。一流の役者が演じる鬼、そこにいたのは本当の鬼だったから。やっぱスゲエなあって、震えるような感覚がありました。

「シアターロック・ザ・ミッション『半人半鬼』」より。

──なぜ“鬼”の物語にしようと思ったのでしょうか。

僕が福士くんのお芝居をこれまで何度か観させてもらったとき、たまたま彼の役柄が“心根の優しいお兄ちゃん”だったんです。でも、彼がふと見せるギラっとした眼に、どきっとすることが何度もあって。この人に「ステージの上から、あの眼でファンのみんなをにらみつけてほしい!」と思ったことが、僕の中でMISSIONを始めた理由の1つなんです。それを具現化できるものを長い間探していて、セージ自身がやってみようと選んだテーマが“鬼”でした。

この作品は、演出を彼自身がやっています。撮影当日は、歌って、舞って、叫んで、カメラをのぞき込んで、指示を出して……本当に多才だよなあ、俺の相方は優秀だなあと感心しっぱなしでしたね(笑)。

やってこなかったことの中にやるべきことがあった

──MISSIONはこれまでの濱田さんの活動では「やってこなかったこと」ができる場だそうですが、具体的にはどんなことに取り組まれているのですか?

濱田貴司

僕自身、デビューが女性シンガーとの2人組(arp)でしたから、解散後に改めてもう一度、歌に挑戦できるなら男性とやりたいなということはずっと思っていました。そして、その気にさせてくれるセージに出会って。もう最大限に「やってこなかったこと」になっているなと思います。MISSIONでは、これまでの音楽家人生の中で、自分自身が作ってきた“こうでなくちゃ”という自分のキャラクターを捨てると決めているんです。そうしたら、今までやってこなかったことの中に、自分がやるべきことがたくさんあるのだと気が付きました。そしてそれが、いつの間にかやれるようになっていたということにも。だから、今では誰かに「やってみれば?」と言ってもらったことは、とりあえずやることにしています。例えば今回の「シアターロック・ザ・ミッション『半人半鬼』」。冒頭から流れる和太鼓、すごくなかったですか? あの音は山梨のスタジオにこもって、マイキングからミックスまで研究を重ねた音なんです。とにかく、MISSIONでは出し惜しみは一切なしで、何事にも挑戦していきたいですね。

──MISSIONの核を成す“シアターロック”で目指すもの、目指す場所とは何ですか?

“シアターロック”は僕たちにとって、目指してたどり着いたというよりは、とにかくセージとロックバンドを始めて2年が経ち、改めてMISSIONに熱くなってきた自分たちが、過去に培ってきた能力を融合させた結果、こういうことになったという感覚で。今はまだ自分たちにも「へえー」という感じがあると思います。

“シアターロック”にたどり着くきっかけとなった“鬼”というテーマは、もっと深く掘っていく意味があると思っていて、やり続けていきたいなという気持ちがありますね。そしてこの世界観を海外の人が観たら、どのように感じるのだろう?と思ったりもしています。

自分たちの表現がより濃くなった「シニガミ」が扉を開く

「シニガミ」ビジュアル

──2ndライブ「SECOND」は、映像の演出を交えた演劇のような幕開きで、MISSIONの特徴である演劇×ライブの芽生えを感じさせるものとなりました。手応えはありましたか?

当時の新曲「シニガミ」の存在が大きかったと思います。これは作詞家の溝口貴紀くんと、物語先行で作りました。主人公がある朝目覚めると、死神が「明日の夜明けまでの命」と告げてくる。それがきっかけで、“生きる”ことに覚醒していくという曲なのですが、シーンもリズム感も、常軌を逸して、とんでもなく飛躍しまくるんですよ。よくこんなむちゃくちゃな曲作ったよなあと、今でも思います(笑)。そんな「シニガミ」をえいっと投げたら、それをセージと演出家の本間律子さんが「SECOND」のステージにしてくれました。でも、このライブはいろいろな扉を開いてくれたと思っています。僕ら以上に、周りの皆さんがMISSIONの可能性を感じてくれたライブだったんじゃないですかね。

──「シニガミ」はこれまでのMISSIONの楽曲とどんなところが違うのでしょうか?

「シニガミ」は、デビューのときに作った「人として、花として、時として」と、僕の中では同じ方向を向いている曲。だから、「シニガミ」が“シアターロック”を確立した楽曲として何かが異なるのではなく、僕らが表現できることがもっと濃くなったという印象です。今さらながら、「人として、花として、時として」は「半人半鬼」と「鬼の涙」のように、2曲に分けても良かったのかも(笑)。まだ活動を始めてすぐだったので、そんなふうに冷静に見ることはできなかったのかな。若かったですね(笑)。でも、MISSIONのそういう感じも悪くない。クレイジーで大好きです。

──新たなサービスであるMISSION PREMIUMが始動しました。ここでは「シアターロック・ザ・ミッション『半人半鬼』」の未公開ロケ写真やインタビューが掲載されたパンフレットの販売など、ファンにはうれしい内容が展開していきます。

まだまだMISSIONを知ってくれている人が少ないと思うので、3月末にスタートしたMISSION PREMIUMを通して、MISSIONがより皆さんにとって身近な存在になってくれたらなと。MISSION PREMIUMはコロナ禍でなければ生まれなかった場所かもしれませんが、世の中が正常になったあとでも続くよう、スタッフと共に魅力的な発信をしていきたいと思っています。

2ndライブ「SECOND」より濱田貴司。

──濱田さんはアーティストとして、MISSIONでの手応えをどのような部分で感じられていますか?

一番は、立って弾くことに慣れたことでしょうか(笑)。MISSIONの1stライブでは、本当にぎこちなく、「ロックバンドのキーボーディストってこんな感じかな?」と、ただブラブラ立っていた感覚があったのですが、だいぶちゃんとしてきた(笑)。表現したい音が全身をしなるように指先に伝わっていく感覚……どうです? ロックなこと言ってますでしょ?(笑) MISSION以前はこんな自分が未来にいることなんて、想像できませんでした。

テイクワンがほぼOK、セージは唯一無二の実力派シンガー

──福士さんとは演劇ユニット“乱-Run-”の第1回公演「金沢の乱〜ラストネーム〜」(2009年)で舞台音楽を手がけて以来の仲ですが、MISSIONを通して福士さんの新たな魅力は発見できましたか?

一番衝撃だったのは、「鬼の涙」でのレコーディングです。セージがスタジオに入ってきて、最初に歌った、いわゆるテイクワンがほとんどOKになりました。僕自身、J-POP界で長くやってきたつもりですが、こんな経験はこれまで記憶にありません。MISSIONを知った人の多くは、“俳優の福士誠治がボーカルも始めた”と思っているかもしれませんが、それは間違いで、彼は唯一無二の実力派シンガーです。わざとらしく聞こえてしまうかもしれませんが、まだMISSIONのステージを観ていない人、歌を聞いていない人には、そのことを理解してもらえていないなあという感覚はあって。この記事を通して、声を大にして伝えさせていただきます!

2ndライブ「SECOND」より濱田貴司。

──6月に控える有観客のライブでは、久々にお客さんの前でパフォーマンスを披露されます。

コロナはみんなを閉じ込め、がんじがらめにしましたが、同時にコロナはこんなにも、みんながつながっていたということに気付かせてもくれました。人は決して1人では生きてはいけないし、気付かないところで誰かによって生かされていて、誰かを自分が生かしていることもある。せっかく気が付くことができた大切なことを、ライブでは特に目いっぱい喜び、楽しみたいですね。6月27日は僕ら2人、本当に、本当に、楽しみにしています!