アーティストが作品のヒントを語る
「ミニセレ2023」
ここでは、「ミニセレ2023」にラインナップされた5作品について、各アーティストに作品をより楽しむためのキーワードやポイントを聞いた。
平山素子×笠井叡 J.S.バッハ作曲「フーガの技法」を踊る
笠井叡と平山素子が、J.S.バッハ作曲”フーガの技法”を、片山柊のピアノの生演奏で踊る。
平山素子
コロナ禍以降、年齢とともに変化していく自身の身体に戸惑い、ネガティブな時期もありました。しかし、叡さんの振付が生み出された瞬間のエナジーを逃すまいと食らいついていくうちに、未知なる世界に触れ、新鮮な身体感覚と向き合う時間に充実感と喜びを感じていました。フーガ特有の神秘性・緊張感に身を預けながら、終わりなき壮大な舞踊の旅の行方を探し続けていられることに感謝。
笠井叡
ゲルハルト・ツァハリアスと言うドイツの舞踊研究家によれば、舞踊は空間的には建築芸術であり、時間的には音楽芸術であるらしいが、このことはバッハの音楽全体にも当てはまるかもしれない。バッハの音楽はピラミッドのように精緻な建築性と、宇宙のかなたから吹き寄せる舞踊の風を併せ持っている。華奢で小柄な平山素子が、ある日、この巨大な音楽建築物、バッハの「フーガの技法」に向かい合った。
その1回目では全16曲のうち、4曲を踊ったが、コンクリートの壁を突き抜ける風のようであった。その2回目は、天使館という小さな空間の中で、全16曲を踊った、笠井とともに。その3回目がこの名古屋の公演である。振付者である自分も舞台に出てしまうわけであるから、一体、そこで何が生じるのかは、全く見当もつかない。
片山柊
この度はこのような公演に携わることができ、とても光栄です。
バッハの「フーガの技法」は私自身以前から取り組んでいるレパートリーですが、今回全曲演奏する機会に恵まれ、改めて静謐ながらエネルギーにあふれる洗練された音楽に練習では発見の連続です。複数の旋律を組み合わせ作曲する「対位法」で構成されている音楽ですが、笠井叡さん、平山素子さんの舞踊が掛け合わされることで「フーガの技法」に新たな視点・風景が広がることを今から楽しみに準備を進めて参ります。
「DaBYパフォーミングアーツ・セレクション2023」
チェコの振付家イリ・ポコルニ振付作品、島地保武×環ROYの新作、初タッグの柿崎麻莉子&アリス・ゴッドフライ演出・振付・出演作品とバラエティに富んだ3作品が並ぶダンスショーケース。
環ROY
まだやったことのない、自身にとって新しい刺激となる作品を、島地さんと模索しています。楽しんでいきます。
島地保武
最近身体が重い。重くないときと比べると。
心に描く動きはいつも自由すぎる。身体と心が乖離して距離を縮められないことにダンサーとしての終末を感じる。でも、身体運動以外で踊りを見せることはできないのか。それは言葉によりそうことなのかもしれない。
柿崎麻莉子
「Moon shine / Good night/dream maker(仮タイトル)」
寝る前にふと思いだして安心できるような、眠れない夜に救いを与えてくれるような”眠りのためのダンス”を作りたいと思います。妖精のようなチャーミングさと浮遊感を持つダンサーのAlice Godfreyと共に、波打つように繰り返しながらいつのまにか変わっていく景色、太陽のあたらない静かな夜の秘密を描きます。
「サウンドパフォーマンス・プラットフォーム特別公演 安野太郎 ゾンビ音楽 『大霊廟Beyond』」
ロボットが奏でる“ゾンビ音楽”で知られる安野太郎が、音楽のエコシステムをテーマにした代表作「大霊廟」の最新版を、3人の演奏家と共に創作・上演する。
安野太郎
「大霊廟シリーズ」は、ゾンビ音楽を通して我々と社会について思考を巡らせる作品(公演)として行われてきました。前回の公演は、2年前から名古屋に拠点を移し、愛知県立芸術大学で働くようになった僕が音楽学部をめぐる音楽家の生態系(エコシステム)に焦点を当てました。ここでいうエコシステムとは、ごく一部のトップアーティストを成立させる背景には無数の屍がいるというピラミッド型の生態系です。愛知公演ではその生態系を維持していく側(音楽学部)にいる僕自身にテーマの矛先を向けるつもりです。僕と二人三脚で公演を作るのは、テレビドキュメンタリーの制作出身の小野寺啓です。音楽の破壊者とも言えるようなゾンビ音楽の生みの親が、音楽大学で音楽を教えているという奇妙な環境から思考される音楽の未来。それが提示できるのか、あるいはできないのか。この見どころはそこにあったり、無かったりします。
ヌトミック+細井美裕 マルチチャンネルスピーカーと身体のための演劇作品
額田大志率いるヌトミックと、マルチチャンネル音響を手がけるサウンドアーティストの細井美裕による体験型演劇作品。聴覚という身体感覚の可能性を、劇場空間で模索する。
細井美裕
舞台の最後の仕上げとして表現を補強 / 拡張することが多い音響や照明のシステムが、我々の場合は脚本の前段階で介入しています。
システムの人格(システム格?)が、俳優や空間にどう影響を与えるか。人とは? コミュニケーションとは? 演劇とは? インスタレーションとは? 今は、終わらない問答の過程で発見される視点が、新たな表現につながろうとしている段階とみています。額田くんとの2度目の共作、とても楽しみです。
額田大志
舞台作品では当たり前のものとして存在する、スピーカーについて考えています。細井さんとの話し合いでは「スピーカーの存在」がたびたび話題に挙がります。そもそもなぜ、舞台では観客の見えるところにスピーカーがあるのか? これは、ミュージシャンにとっての楽器、ダンサーにとっての身体のように、あって当然だと思っていたものを再考する場でもあり、まだ見たことのない作品が生まれるための大事なプロセスでもあると思います。作品の完成をお楽しみに。
第21回AA F戯曲賞受賞記念公演「鮭なら死んでるひよこたち」
2022年に第21回AAF戯曲賞を受賞した守安久二子の戯曲を、同戯曲賞の審査員を務めた羊屋白玉が演出。なお本作はAAF戯曲賞として初の福岡・札幌ツアーも行う。
守安久二子
人生一周した感につつまれていた時期に、何が書きたいのかもよくわからず、イメージ先行で書き上げた「鮭ひよ」がどんな風に立ち上がっていくのか、わくわくしています。