愛知県芸術劇場「ミニセレ2020」音楽担当プロデューサー 藤井明子 演劇担当プロデューサー 山本麦子|ジャンルを越境するからこそ豊かな作品が生まれる

ジャンルを飛び越えた作品の面白さが、観客にも浸透している

──各プロデューサーは、お互いにどのような関わり方をされているのでしょうか?

山本麦子

山本 まずプロデューサーがそれぞれ企画を出して、ラインナップを合議で決め、実際に公演を行うときは、お互いにフォローし合っています。それぞれの専門分野の垣根を越えてプロデューサー同士もコラボレートするイメージです。そこはうちの劇場らしい部分なのかなと。

藤井 AAF戯曲賞受賞記念公演「シティⅢ」の演出家をダンサー・振付家の捩子ぴじんさんにお願いするとき、山本さんはダンス担当の唐津(絵理)さんに相談してましたよね?

山本 そうですね。音楽を安野太郎さんにお願いするとなったときは、藤井さんにもご相談して。

藤井 「シティⅢ」には、私も昔からよく知っているジャワ舞踊家の佐久間新さんが役者として参加されたりもしました。

山本 「シティⅢ」は、演劇の人がほとんどいないんじゃないか?というコラボになりましたね(笑)。演劇が専門でない方たちと一緒に演劇を作っていく中で、「演劇が何を大事にしているのか?」「どこまで言葉を大事にするか?」といったポイントを探る機会になったと思います。ボーダーを越えていく作品だからこそ、「なぜこれを演劇と言うのか?」「なぜこれをダンスと言うのか?」が問われるし、それぞれ大事にしているものが違うということも見えてきます。例えば、ダンスで言葉を使っているからといって、それは演劇にはならないとはっきりとわかったり。そういった部分も面白いですね。

藤井明子

藤井 私の担当企画だと、「サウンドパフォーマンス・プラットフォーム」で捩子ぴじんさんの作品を紹介しました。「トヨタ コレオグラフィーアワード」で初演された作品でしたが、サウンドパフォーマンスとしても面白い作品でしたので。ダンスだけどセリフのある作品、演劇だけどセリフがない作品、音楽だけどストーリーに沿って曲を並べていくような作品があったり、いろんなところで刺激のある作品がラインナップされてきたと思います。

──ジャンルを飛び越えるからこその面白さがあるんですね。

山本 そうですね。ジャンルが違う人同士のコラボって、アイデアとしては少なくないと思うんです。1つの作品に、言語や創作スピード、大事にしていることが違う人たちが集まったとき、最終的に「この組み合わせだからできた作品だ」というところまで行き着くことが大変で。「ミニセレ」は、スタッフワークを含め時間をかけて作れることもあり、毎回その境地にたどり着けるように四苦八苦しながらやっています。参加したアーティストには、それぞれアイデアを出し合い、何かを得て帰っていただきたい。お客さんにもそういう面白さが少しずつ伝わっている気がします。

藤井 作る過程で、違う言語、違う考え方のアーティスト同士がぶつかり合いながら、その先に進むことは大変だけれど、1人じゃできなかった多面的な作品が生まれたり、普段と違った考え方ができるようになったりする。「ミニセレ」では、そういった豊かさを大切にしていきたいですね。

山本 一昨年から、観客にレビューを書いてもらう「鑑賞&レビュー講座」という企画を始めて、昨年はダンス作品を3作品対象公演にしました。文章を書くのが好きな方には、演劇好きが多かったりするのですが、「コンテンポラリーダンスを初めて観たけど、面白かった!」と興味を持っていただけて。自分の興味の外側にあったものを自分なりの視点で観ることが面白いという感覚が少しずつ伝わればと思います。

左から藤井明子、山本麦子。
藤井明子(フジイアキコ)
愛知県芸術劇場 企画制作部 チーフマネージャー / シニアプロデューサー。1992年の愛知芸術文化センター開館から音楽担当の学芸員として勤務し、ジャンルに捉われない活動を行うミュージシャンや作曲家に注目して音楽公演を企画・制作。2006年から2014年まで「AACサウンドパフォーマンス道場プロジェクト」企画・選考委員、2010年から2016年まで「あいちトリエンナーレ」パフォーミングアーツのキュレーターを務めた。
山本麦子(ヤマモトムギコ)
愛知県芸術劇場 企画制作部 プロデューサー。1982年名古屋市生まれ。大学卒業後、広告代理店の営業を経て、2014年より愛知県芸術劇場にて演劇担当プロデューサーを務める。

愛知県芸術劇場「ミニセレ2020」ラインナップ

中川賢一・野村誠ピアノ・コンサート「愛と知のメシアン!!」チラシ
中川賢一・野村誠ピアノ・コンサート「愛と知のメシアン!!」
2020年4月12日(日)16:00~
※2020年4月2日追記:本公演は新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、2021年1月7日(木)に延期になりました。

出演:中川賢一、野村誠

公演紹介

フランスの作曲家オリヴィエ・メシアンの生誕111年を記念して行われるコンサート。第1部は、メシアン演奏のスペシャリストであるピアニストの中川賢一が楽曲の魅力を紹介。第2部は、メシアンに多大な影響を受けた作曲家・野村誠と中川が2台のピアノで演奏を披露する。“メシアンLOVE!”な2人のトークも繰り広げられるプログラム。

「TRIAD DANCE PROJECT 安藤洋子×酒井はな×中村恩恵『ダンスの系譜学』ダンスアカデミックの継承、そして未来へ提言 フォーキン、キリアン、フォーサイス そして岡田利規」チラシ
「TRIAD DANCE PROJECT 安藤洋子×酒井はな×中村恩恵『ダンスの系譜学』ダンスアカデミックの継承、そして未来へ提言 フォーキン、キリアン、フォーサイス そして岡田利規」
2020年5月15日(金)~17日(日)
※2020年4月9日追記:本公演は新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため中止になりました。
振付の原点

ミハイル・フォーキン振付「瀕死の白鳥」

出演:酒井はな、四家卯大(チェロ)

イリ・キリアン振付「BLACK BIRD」よりソロ

出演:中村恩恵

ウィリアム・フォーサイス振付「Study #3」よりデュオ

出演:安藤洋子、島地保武

振付の継承 / 再構築

「瀕死の白鳥」を解体したソロ

演出・振付:岡田利規

出演:酒井はな、四家卯大(チェロ)

「BLACK ROOM」(世界初演)

振付・出演:中村恩恵

「新作」

振付:安藤洋子

出演:安藤洋子、小㞍健太、木ノ内乃々、山口泰侑

公演紹介

安藤洋子、酒井はな、中村恩恵。日本を代表するダンサー3名が、それぞれの原点、転機となったオリジナル作品と“継承 / 再構築”をテーマとした作品を披露する。

「白痴」より。左から佐東利穂子、勅使川原三郎 ©︎Akihito Abe
勅使川原三郎 芸術監督就任記念シリーズ「白痴」
2020年7月17日(金)~19日(日)

構成・照明・衣裳・選曲:勅使川原三郎

ダンス:勅使川原三郎、佐東利穂子

公演紹介

「アップデイトダンス」ほか、国内外で上演が重ねられてきたダンス作品。ドストエフスキーの小説「白痴」を下敷きに、長大な物語の中にある愛や葛藤、欲望など深い精神世界を凝縮して届ける。

鈴木竜「AFTER RUST」より。 ©︎Sugawara Kota
「ダンス・セレクション」
2020年10月3日(土)
公演紹介

国内外で活躍するダンサー・振付家の話題作をオムニバス形式で上演する。

第18回AAF戯曲賞受賞記念公演「ちた蔓延はびこる」
2020年11月7日(土)~9日(月)

作:山内晶

演出:篠田千明

公演紹介

第18回AAF戯曲賞受賞作である山内晶作「朽ちた蔓延る」を、戯曲賞の審査員を務めた篠田千明の演出で上演する。

「調べー笙とダンスによる」より。左から宮田まゆみ、佐東利穂子。 ©シアターX
勅使川原三郎 芸術監督就任記念シリーズ「調べー笙とダンスによる」
2020年12月4日(金)~6日(日)

ダンス:勅使川原三郎、佐東利穂子

笙:宮田まゆみ

公演紹介

言葉と音楽とダンスをテーマに創作され、2018年に東京・シアターXで上演された作品。雅楽器である笙の演奏家・宮田まゆみをゲストに迎える。

地点×空間現代「グッド・バイ」より。 ©片山達貴
地点×空間現代「グッド・バイ」
2020年12月17日(木)~19日(土)

原作:太宰治

演出:三浦基

音楽:空間現代

公演紹介

地点と空間現代のコラボレートにより、2018年に京都・東京で上演された作品。太宰治の遺作にして未完の小説である「グッド・バイ」をモチーフに、敗戦から太宰の死までの間に書かれた小説をコラージュする。

勅使川原三郎 ©︎Norifumi Inagaki
勅使川原三郎 芸術監督就任記念シリーズ「新作ダンス公演」
2021年2月21日(日)~23日(火・祝)

2020年4月2日更新