愛知県芸術劇場「ミニセレ2020」音楽担当プロデューサー 藤井明子 演劇担当プロデューサー 山本麦子|ジャンルを越境するからこそ豊かな作品が生まれる

“メシアンLOVE!”なピアノコンサート
&継承・再構築を試みる「ダンスの系譜学」

──「ミニセレ2020」のトップバッターとして、4月にはフランスの作曲家オリヴィエ・メシアンの生誕111年を記念したピアノコンサート「愛と知のメシアン!!」が開かれます。ピアニストの中川賢一さん、作曲家の野村誠さんという“メシアンLOVE!”なお二人が出演されますが、どのような形でメシアン愛を垣間見ることができそうでしょうか?

藤井 第1部の中川さんのソロは、メシアンがどんな作曲家で、それぞれの曲がどういう曲なのかがわかる構成です。中川さんには演奏だけでなく解説もしていただきます。第2部は中川さんと野村さんのデュオです。野村さんには、メシアンの音楽「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」をもじった「オリヴィエ・メシアンに注ぐ20のまなざし」や、新曲「メシアン・ゲーム」を披露していただきます。事前に中川さんと野村さんにお話を伺ったとき、「メシアンの音楽は“色彩感”が尋常じゃない!」とおっしゃっていて。その色彩感はチラシの色遣いにも反映されています(笑)。

──確かに尋常ではなさそうな色遣いですね(笑)。5月のTRIAD DANCE PROJECT「ダンスの系譜学」では、マリウス・プティパ、ミハイル・フォーキン、イリ・キリアン、ウィリアム・フォーサイスといった、バレエの歴史を更新してきた振付家の理念を引き継ぐ3人のダンサー、安藤洋子さん、酒井はなさん、中村恩恵さんが、それぞれ原点となるオリジナル作品の上演と、その再構築に挑みます。

藤井 日本を代表する3人のダンサーに、ご自身の転機となった巨匠振付家の作品を1作ずつ上演していただき、そのあとに“継承 / 再構築”をテーマにした作品を披露していただく6本立ての公演です。横浜に新しくオープンするDance Base Yokohamaでクリエーションを行い、トライアウト公演を経て、愛知県芸術劇場で世界初演を行います。

山本 上演作の中には岡田利規さんが演出・振付をされ、酒井はなさんが出演される「『瀕死の白鳥』を解体したソロ」という作品もあったりするので楽しみです。

──演劇が好きな人も楽しめそうな公演ですね。ダンス演目としては、国内外で活躍するダンサー・振付家の話題作を紹介する「ダンス・セレクション」が10月に実施されます。昨年度は、渡邉尚さんとギヨーム・マルティネさんの「妖怪ケマメ」、横山彰乃さんの「ペッピライカで雪を待つ」、鈴木竜さんの「AFTER RUST」のトリプルビルでした。

横山彰乃 / lal banshees「ペッピライカで雪を待つ」より。 ©︎bozzo

藤井 横山彰乃さんは「横浜ダンスコレクション2020」のコンペティションで審査員賞を受賞されましたね。2020年度の出演者発表はもう少し先になりますが、今回も気鋭のダンサー・振付家が登場する予定です。

山本 「ダンス・セレクション」は、再演の機会が少ない小規模なダンス作品に、再演・ブラッシュアップの機会を作るということも重視していて、仕込み・リハーサルの時間をしっかり取って、作品として改めて見せることに力を入れています。

化学反応に期待のAAF戯曲賞受賞公演「ちた蔓延はびこる」
&地点×空間現代の集大成「グッド・バイ」

──11月には第18回AAF戯曲賞を受賞した山内晶さん作の「朽ちた蔓延る」が、審査員を務めた篠田千明さんの演出で上演されます。山本さんは戯曲賞の担当プロデューサーでもありますが、今回はどのような作品になりそうですか?

山本 昨年の秋頃から、篠田さんと戯曲の読み込みやリサーチを始めています。さまざまな文化や歴史が入り混じる中で、「What is authentic?(本物とは何か?)」という問いから制作をスタートしました。篠田さんにとっても久しぶりの大型公演になるので、劇場とのコラボレーションでどのような化学反応が起きるのか、今から楽しみです。

──作家の山内さんもクリエーションに参加されるとか(参照:第19回AAF戯曲賞 篠田千明×羊屋白玉 対談)。

山本 そうですね。篠田さんが「せっかく生きている作家の作品なので、作家にもクリエーションに関わってほしい」とおっしゃっていて。新たに書くテキストもありますし、山内さんも関われることを楽しみにされていました。

地点×空間現代「グッド・バイ」より。 ©片山達貴

──12月には、これまでも共同制作を重ねてきた地点と空間現代による「グッド・バイ」が上演されます。今作は2018年に京都と東京で上演された作品の再演ですね。

山本 太宰治の遺作「グッド・バイ」や、そのほかの小説をコラージュした作品で、私は“地点版ミュージカル”だと思っています。地点の言葉を大事にしている部分と、空間現代の音楽的な部分がうまく融合した“集大成”と言えるのかなと。舞台上で空間現代が生演奏を繰り広げ、俳優もある意味バンドの一部のように存在している。地点を観慣れている方にも面白く観てもらえますし、「難しそうだな」と思っている方にもライブのようなノリで楽しんでいただけると思います。地点には、これまでにも「かもめ」や「忘れる日本人」を上演していただいて、空間現代の野口順哉さんには「サウンドパフォーマンス・プラットフォーム」の審査員を務めていただいています。「いつか地点と空間現代の公演を愛知でやりたいね」という話もあり、今回それが実現しました。


2020年4月2日更新