OSKのアツい夏がやって来る。OSK日本歌劇団(以下OSK)の公演が、3年ぶりに京都・南座で開催される。“待ってました!”の南座公演「レビュー in Kyoto」では、第1部に夢枕獏の「陰陽師」シリーズをもとにした「陰陽師 闇の貴公子☆安倍晴明」(「☆」は五芒星が正式表記)を上演。OSKでは2001年に「ミュージカルロマン『闇の貴公子 源博雅と安倍晴明』」、2003年には「ミュージカル『新・闇の貴公子』」が披露され、今回はトップスター・楊琳を安倍晴明役に据えてお目見えする。また、第2部では今年の「レビュー春のおどり」(参照:OSK日本歌劇団、創立100周年記念公演「レビュー春のおどり」華やかにスタート)に続き「INFINITY」が南座バージョンで登場する。
ステージナタリーでは創立100周年を迎え、トップスターとして初めて南座に登場する楊、本公演でOSKを退団する虹架路万と愛瀬光、そして次代を担う華月奏、翼和希に、南座公演への思いを聞いた。
取材・文 / 大滝知里撮影 / 桂秀也
OSKの夏が来た、男役スターが浴衣姿で南座に参上!
──本日は皆さんに南座の劇場内で、浴衣姿で撮影に臨んでいただきました。
楊琳 撮影していただきながら思ったのですが、南座って本当にカッコいいですよね! 浴衣を着た時点で私はもう「夏、来たな」という感じがしました(笑)。
虹架路万 私は「歌劇 海神別荘」(参照:OSK日本歌劇団×サクラ大戦コラボ、南座で華々しく開幕)のときに、南座新開場記念の館前行事でお役の姿で立たせていただいたんです。そのときも行き交う方に「これから何やるんだろう?」と反応をいただいたのですが、今日もチラシを眺めていただいたりして、感激しました。それに、南座はどこも画になりますよね。
華月奏 劇場入り口の階段も、いつも観ている風景とは違うなと感じました。
愛瀬光 私たちは、ロビーをじっくりと観る機会がなかなかないですからね。通行はしますけど、わあーってダッシュしているので(笑)。電気とか、あんなにきれいな装飾になっているんですね。
翼和希 真っ赤な色で統一されているのもレトロな趣があって私はすごく好きです。撮影であのロビーに立たせていただいて、新鮮な気持ちになりました。
──そんな南座での公演は、2019年の南座新開場記念「OSK SAKURA REVUE」「OSK SAKURA NIGHT」以来となります(参照:OSK日本歌劇団×サクラ大戦コラボ、南座で華々しく開幕)。「レビュー in Kyoto」はOSKの100周年記念公演と銘打たれていますが、どのような思いが巡りますか?
楊 3年ぶりなので、まずは自分たちにとっても「やっとできる」という気持ちです。待ってくださっているお客様もいらっしゃいますし、私事ですがトップスターに就任させていただいてから初めての南座公演なので、しっかり勤めないとなと。「がんばるぞお!」と思っています(笑)。
虹架 (気合いが入った楊の様子に目を細めながら)楊ちゃんがトップにご就任されてから、1つひとつの公演を大切になさっている背中をずっと観てきましたが、コロナ禍で、公演をすることが当たり前ではないとみんな気付かされましたので、大事にしたいです。自分は2007年(OSK南座公演復活)の1回目から出させていただいて、今回で10回目になるんですが、その節目に、しかもOSKの100周年で京都で公演できるのが、とってもうれしいです。
楊 3年の月日が経って、気持ちを入れ替えて新たなスタートを100周年公演で切れることに感謝しています。南座では毎回、新作をさせていただいているんですよ。大阪松竹座、新橋演舞場でも上演した「INFINITY」では、メンバーが変わります。そういう意味でも、南座は自分たちにとって“挑戦させていただける場所”で、とても神聖な部分があります。
愛瀬 「春のおどり」公演はスタンダードレビューですが、南座の公演には必ず、一風変わった演出があるんですよね。演目がガラッと変わることもあるので、出演者としてはお稽古が大変ですが、「こんなことやって良いの?」と思うくらい、南座公演は夏のお楽しみというか、面白いことが待ち受けているイメージです(笑)。
華月 それに、なかなか映像化されることがないので、記録じゃなくて記憶にしか残らない公演でもありますよね。
翼 あの、「安土ロマネスク」(2011年)ですっぽん(編集注:舞台寄りの花道にある小型のセリ)から梯子をかけて登ってくる……。
虹架 カッパ?
翼 カッパのシーンです! 学校生のときに3階席から見学させていただいたんですが、まだ舞台のことを習い始めの時期だったので、とにかく衝撃的だったのを覚えています。
(一同、パンフレットを眺めながら「私、カッパBを演じた」と盛り上がる)
楊琳と安倍晴明は似ているか?舞台人が持つ力
──そんな南座で第1部に上演される「陰陽師 闇の貴公子☆安倍晴明」(以下「陰陽師」)は、OSKで語り継がれるレビューショー「闇の貴公子」の新演出版です。
楊 これからお稽古で深めていきますが、これまでの「闇の貴公子」をアップデートしたものになると思います。式神の戦いのシーンを群舞で見せるというスペクタクルな部分に期待していただきたいです。
──劇中では陰陽師・安倍晴明と、彼が唯一心を許す友・源博雅が、都の怪異に挑み、敵の野望を打ち砕こうとする物語に、恋や友情といったエッセンスが盛り込まれます。楊さんが演じる安倍晴明は、誰もが知るような人物ですね。
楊 原作を読んでいると、つかみどころがなく、性別さえもあやふやに感じてしまうような透明さ、ミステリアスさがあって。でもそれが、“歌劇ならでは”に生かせるんじゃないかなと思っています。男っぽく、女っぽくという概念から外れた、“晴明”という人物を演じられるように、固定概念を持たずにお稽古に臨みたいです。安倍晴明って私にはひょうひょうとしたイメージがあって、母親が人間じゃないと言われるくらいなので、どこか人間離れした感じの人物像にできたらなと今は思っています。
虹架 晴明神社に行かせていただいたとき(参照:OSK日本歌劇団が西陣織とコラボの着物ショー、南座公演へ向けて晴明神社でご祈祷も)に、澄んだ空気が流れていて、楊ちゃんもそういう空気をもとからお持ちなんです。照明がキュッと寄っていくような。陰陽道の魔法のようなゆめゆめしさって、舞台人が持つ力と通じるので、楊ちゃんにピッタリなお役だと思います。それに、魑魅魍魎を成敗するだけではなく、世の中を明るく照らす存在であるということが、楊ちゃんと晴明様のつながりなのかなって思いながら脚本を読ませていただきました。
楊 本当ですか?(照)
虹架 本当に! 私は式神の維摩として、そう思いながらそばにいれたら良いなと思っています。
華月 私は「陰陽師」には出演しませんが、脚本を読ませていただいて、(蘆屋道満役の)登堂結斗くんとか(酒呑童子役の)椿りょうくんとか、楊さん演じる晴明様との関わり方が全然違うんだろうなと思ってワクワクしました。普段は自分のことでいっぱいいっぱいになってしまって、客観視できる機会がないので、勉強させていただけるチャンスだと思って楽しみにしています。そのぶん、第2部の「INFINITY」に力を注ぎます!
──晴明のバディ的な存在である源博雅に扮する翼さんは、どのような役作りを考えていますか?
翼 正直、人間離れした晴明様と博雅はどこで気が合ったんだろう?と思ったんです。博雅は高貴な出ですが、雅楽を愛していて、でも友を連れずにいる自由人。そういうところで晴明様の前では気が休まるのかなと。博雅の真っすぐで男気があるところと、ちょっと抜けているけど晴明様とは息が合う、そんな様子が良いバディ感として出ればと思います。
──愛瀬さんが演じる藤原道長についても教えてください。
愛瀬 あまり詳しく言えないんですが、問題を起こすキーパーソンです。時代設定には少しファジーな部分もありますが、道長は晴明さんと同じような位にいる人で、ちょいと出てきては問題を起こし、「すいません」って晴明さんを頼って、助けてもらう。奥さんの言うことを聞いていたら、こんなことにはならなかったのに!と思いながら脚本を読んでいました(笑)。
楊 いや、道長がいなかったら物語が起こらなかったし、道長のおかげでお客さんが楽しいよ!
観劇のヒントに、5人5様の「INFINITY」“推し”場面
──第2部「INFINITY」は南座ver.になるそうですが、どのあたりが新しくなるのでしょうか?
楊 一部出演者が変わるので、観え方もちょっと違うと思います。あとは、新しい場面が追加されますね。
華月 南座公演では初舞台生が登場するので、彼らがどう出てくるかというのも、見どころになるのではないかなと思います。
──「INFINITY」はOSKの過去の名曲なども織り込まれたショーとなりますが、「春のおどり」では出演していてどういった思いが巡りましたか?
楊 作・演出の荻田(浩一)先生が「『春のおどり』は年に1度の大劇場で上演できる、OSKにとってお祭りのような機会。それを大事にしてください」とおっしゃって。大先輩の笠置シヅ子さんが歌われていた楽曲や第1回公演「アルルの女」の楽曲などが使われていますが、振付や物語は今回のオリジナル。古いものと新しいものをミックスした、ハイブリッドな作品だなと思いながらやっていました(笑)。
──では、皆さんのお好きな場面は?
翼 ラインダンスです! 大阪松竹座と新橋演舞場では馬車に乗った実花ももさんがせり上がってきて、ラインダンスに入ったんですが、頭の羽と腰羽がついたラインダンスがもう、大好きで。観るのが! 観るのが大好きで!
愛瀬 “観る”を強調するね(笑)。
楊 “やるほうではありません”って(笑)。
翼 (笑)。お芝居の要素も入っていますが、最後に「これがOSKのラインダンスだ、ジャン!」で終わるのが好きなんです。
華月 私はオープニングです。「INFINITY」の曲なんですけど、楊さんの歌から始まって、波が押し寄せて、風が吹いて、濁流がうごめいて、無限につながったあとにちょっとおしゃれで……イタズラなメロディラインになる。
一同 あははは!
華月 “自分じゃなくて良かったな”と思うくらい、めちゃくちゃ難しそうなところを楊さんが歌われているんですよ。昔から観てきたOSKのレビューで何にワクワクしたかというと、トップさんからテーマソングを歌いつないでいくことなんですよね。最後までずっと何かでつながっている、今回、その歌い継ぐ1人になれたこともうれしいですし、「INFINITY」を通してラストまで壮大にうごめく感じが好きなので、オープニングが良いなと思います。
愛瀬 私は海外にもレビューを観に行ったことがあるくらい、レビューが好きなんです。「パリパナム」の場面はいかにもレビューという感じですが、花道で男役と娘役がスタンダードに踊る部分こそ、実は観てほしい歌劇のスタイル。また、そのあとにみんなが羽を背負って出てきたときに、「これぞレビュー」って思うんですよね。
楊 確かに。“ザ・レビュー”って感じだもんね。
虹架 自分はそうですね……全部好きです(笑)。「INFINITY」という題名を初めて聴いたときに、OSKにピッタリだなと思いました。つらいことやたくさんの危機を乗り越えて、みんなで未来に向かってひたむきに歩んでいる姿を荻田先生はくんでくださったんだなと。3都市を回って「INFINITY」が完成されるのが、とてもうれしくて。新しく入ってきた子たちもきっと安心してご一緒できるんじゃないかと思いましたし、踊り継いでいくことの大切さや、大変なことばかりではないということを伝えたいです。
楊 私は1回目の「ジャストダンス」から出演させていただいているんですが、端っこの立ち位置からどんどん真ん中に寄っていって、(トップスターの衣裳である)白を着させていただき、とても感慨深いです。今回、最後の「虹色の彼方へ」で初めて、平の舞台でパレードをさせていただくんですが、それはこの100周年が新たな一歩だからという意味。これで力尽きないように自分たちがもっともっとがんばっていかなきゃいけない、そんな大きな意味が込められた「ジャストダンス」であり、フィナーレであり……まあショー自体が意味だらけなんですけど(笑)、そういう意味を自分たちの中に根ざして、実のあるショーにしたいです。そのうえで、お客様に好きなように観ていただけたらなと。
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