男役時代と退団後の朝夏まなとを自然な形で表現したい
──野口さんは、今回のコンサートで朝夏さんのそういった決意を、どのように抽出したいと思われていますか?
野口 ハンサムウーマン的な、女優としての経験を経たカッコいい女性を演じていただけたらなと考えています。男役時代の曲も、卒業後に演じられた女性役の曲も歌っていただいて、両方を自然な形でうまく表現できたらなと。男役の歌をあえて女性的な衣裳で歌うのも面白いんじゃないかと思っています。先日、NHKの番組で「王家に捧ぐ歌」の「エジプトは領地を広げている」をドレス姿で歌われているのを拝見して、とてもカッコよかったし、エジプトが見えました。
朝夏 あははは! “将軍になりたい”という歌をドレス姿で歌いましたね。
野口 それはそれで成立していたし、素敵だなあって。
──今回のキャスティングは朝夏さんのご指名ですか?
朝夏 そうですね。実咲とはミュージカル「モダン・ミリー」で共演したり、愛ちゃん(愛月)とはテレビ番組で会っていたりしていて、あきも(秋音)は6月に卒業したばかりです。それぞれいろいろな場所で活躍しているけれど、みんなスッと戻るんだろうなと思っています。男役だった子には男役時代のエッセンスを出してほしいですし、今のみんなの持ち味も見せてもらいたいなと思っています。
野口 私は朝夏さんと実咲さんのコンビを観られることが、楽しみです。伶美さんとのコンビもそうですね。朝夏さんと愛月さんの並びは現役時代ではあまりなかったような気もしますが、いかがですか?
朝夏 確かに、あまりやってないかもしれないです。「A Motion(エース モーション)」くらいですかね。2人でガッツリと組んだのは。
野口 カンパニーとして、懐かしさもあり、新しさも感じられるというところを目指したいです。皆さんが経験を積んだうえで宝塚歌劇団時代のことをやると、どういうふうに素敵に見えるのか、よりパワーアップしているのではないかなと期待しています。
朝夏 けっこう個性の強いメンバーがそろいましたもんね。
野口 そうですね。風馬さんって、退団後に劇団でよく振付助手をされていて、すごく真面目な印象だったのですが、この前拝見した「2STEP」ではものすごくはっちゃけていたので、今回もちょっとふざけてもらえたらなと(笑)。
朝夏 はい、それはもうやっていただいて! 愛月もやると思います。何なら実咲も、伶美もやってくれると思いますよ。みんなやれる子たちです。
野口 あははは。もちろん朝夏さんの面白い部分を見せる場面もありますので。
──ちなみにセットリストは公演をご覧になるお客様の楽しみに取っておくとして、一番楽しみにされている曲など、少しだけ予定曲について教えていただけますか?
朝夏 そうだ、ちょっと出ししておかないとね!
野口 何だろう……「EXCITER!!」の「若さスパークリング」の場面というのがあって、めちゃくちゃマニアックな場面なのですが、朝夏さんと実咲さんが花組時代に初めて組んだシーンなんです。その曲がどこかに入ってくるかもしれません。
朝夏 エピソードとしてはよくしゃべっている場面なんですよ。“花組から組替えした2人が宙組でトップコンビを組むなんて。その原点はここです”という話で毎回挙がる“原点の曲”が聴けるかもしれないですね。
野口 「若さスパークリング」の場面はその後、どこかでやっていないのですか?
朝夏 あのとき以来初めてです。今回のコンサートは21周年ということで、21曲で構成しますが、お客様の中には曲を聴くだけで作品が浮かぶ方が多くいらっしゃると思うので、世界旅行に行った気分にもなるし、私の“21年間の旅”として、当時にタイムスリップするような時間旅行もしていただけるのではないかなと思っています。
宙組だから作れた“自分のカラー”
──朝夏さんはこれまでの21年を振り返って、ご自身の中で大きな転機となったポイントはどこにありましたか?
朝夏 21年で、ですか!? 数えきれないくらいいっぱいあります。強いて言えば、組替えと卒業でしょうか。花組は、自分の基礎、男役としての基礎、舞台人としての基礎をたたき込んでもらった組。そこから組替えをして新しい環境に行って、今回出てくれる人たちとも出会いましたし、出演する作風がガラッと変わったんですよ。花組では重厚というか、王道な舞台作品が多かったんですけど、宙組はもっとポップで。
野口 朝夏さんの花組最後の大劇場公演は「復活 -恋が終わり、愛が残った-」「カノン」でしたが、組替え第1作目は何だったのですか?
朝夏 「銀河英雄伝説@TAKARAZUKA」のジークフリード・キルヒアイス役です。赤色のカツラをかぶって、宇宙の軍服を着て、「一気に違うところに来た!」という感覚でしたが、実はそれがすごく合っていたんです。だけど私の中には花組の基礎がある。そこから“自分のカラー”ができていったんだろうなと思います。組替えは自ら望んでできない唯一のことですから、そういう意味でもすごく変えてもらいましたし、存在の仕方も変わりました。結果、チャラ男になったんですけど……。
野口 あははは。
朝夏 でもそれで認知してもらえるようになったし、親しみやすさが湧いたと思うんです。振り返ると、花組時代はいつも責任のある場所に置いていただいていたので、自分らしさよりも「ちゃんとやらなきゃ」という、野口先生がさっきおっしゃったように、“向き合っている”感覚が強かったですね。
──デビューから21年目を迎えて、今はどのようなお気持ちですか?
朝夏 気付いたら21年経っていた、という感じです。最初の3年は何もわからず、「舞台って楽しい」と思ってやっていたので、21年と言われると長いけど、自分としては目の前のことをやっていたらあっという間に経っちゃった。宝塚歌劇団を辞めたあとも、目の前のことに一生懸命取り組んでいたら5年が経っていた。何だかんだ、舞台から離れずやらせていただけているのは、ありがたいです。
自分たちはどうなっていくのか、という期待を込めて
──そんな朝夏さんの次なるステージに向けた今回のコンサートで、野口さんは朝夏さんのどういった部分を見せたい、観てほしいとお考えですか?
野口 朝夏さんの、今話していらっしゃるような自然な感じが舞台のどこかに現れたら良いなと思います。いろいろな曲を歌う中で、朝夏さんがさまざまな姿を見せてくれるはずなので、共演者も含めて、作り込まない魅力、今のキラキラした感じを出すことができたらなと。私の仕事はそういうふうに持っていけるようにリラックスしてもらうことかなと思います。あまり縛られることなく、女性としてのナチュラルな美しさや、新しい、無理のないカッコよさを今回のコンサートでは表現したいです。
朝夏 私はもう、野口先生に来ていただいて、料理していただけるという夢がかなうことが、本当にうれしくて。お稽古はもちろん、舞台装置や照明など、先生の色に染められるのが今から楽しみです。これまで応援してくださった方に懐かしんでもらいつつ、私も一緒に振り返りたいですし、1人だと思い出せないことも、メンバーやお客様がいることで思い出せるかもしれない。ここまで来た道をみんなでたどりながら、未来に、自分たちはどうなっていくのかという期待を込めて、たくさんのイメージが湧くようなコンサートにしたいです。終わりではなく1つの区切りとして、こういったコンサートができるのは幸せなことだと思っています。それに……たった1日の公演というはかなさも良いですよね!
野口 2回公演ですが、3000人しか観ることができないんですよね。
朝夏 そのはかなさがたまらなくて。もう何が何でも予定を空けて観に来てください!という感じです(笑)。
プロフィール
朝夏まなと(アサカマナト)
佐賀県生まれ。2002年に宝塚歌劇団入団。2015年に宙組トップスターに就任し、2017年の「神々の土地」「クラシカル ビジュー」で退団。以降、舞台を中心に活躍し、第45回菊田一夫演劇賞で演劇賞に輝く。近年の出演作に、ミュージカル「オン・ユア・フィート!」「Little Women -若草物語-」「ローマの休日」「マイ・フェア・レディ」、「こどもの一生」、ミュージカル「モダン・ミリー」「SPY×FAMILY」など。8月に「SHINE SHOW! シャイン・ショウ!」、9月に「加藤和樹×朝夏まなと THE Roots Returns-Thank you-」、11月にミュージカル「天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~」への出演が控える。
朝夏まなとマネージャー(時々朝夏まなと) (@asakamanatomg) | Twitter
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野口幸作(ノグチコウサク)
神奈川県生まれ。作・演出家。2006年に宝塚歌劇団入団。2013年、花組「フォーエバー・ガーシュイン」で演出家デビュー。2016年、星組「THE ENTERTAINER!」で宝塚大劇場デビュー。以降、レビューやショーに現代的なエッセンスを加えた“スペクタキュラ-”シリ-ズなどを手がける。近年の作品に宙組「Delicieux!-甘美なる巴里-」、コンサート「FLY WITH ME」、大劇場での初の芝居作品となった宙組「HiGH&LOW -THE PREQUEL-」、花組「ENCHANTEMENT -華麗なる香水-」など。11月から2024年2月にかけて雪組「FROZEN HOLIDAY」の上演が控える。