2025年にデビュー40周年を迎える真琴つばさが、2024年1月より、39周年の“サンキューライブ”こと「MAKOTO TSUBASA Thank You Concert STREAM of TIME ~時の流れ~」(以下「STREAM of TIME」)を3回にわたって開催中。同ライブは、1月に第1弾、5月に第2弾を終え、7月27・28日には第3弾が控える。さらに、11月24・25日には東京・丸の内にあるライブレストラン、COTTON CLUBにて、60歳を祝うバースデーライブ「MAKOTO TSUBASA Thank You Concert 60th Birthday Party」が決定。1年を通して、真琴の歌の力と個性を堪能できるライブが多数、展開される。
ステージナタリーでは5月末に、真琴と、音楽監督・ピアニストとして協働する小泉たかし、5月の「STREAM of TIME」より参加する若手バイオリニスト・杉田駿の鼎談を行った。真琴を中心とするチームが築くライブ、音楽の魅力に迫る。さらに特集後半では真琴が、自身を形成した“39”のものごとを振り返り、写真と共に紹介する。
取材・文 / 大滝知里撮影 / 祭貴義道
芸能生活40周年を前に、“線香花火”のような心温まるライブを重ねたい
──1985年に宝塚歌劇団に入団された真琴さんは、2025年に芸能生活40周年を迎えます。その節目を前に、“サンキューライブ”として39周年のコンサートを開催しようと思われたのはなぜですか?
真琴つばさ 実は、35周年のときにもライブを予定していたのですが、コロナで断念。それがとても心残りで。40周年を前に何かできないかと考えていたところ、39周年……“サンキュー”、いいじゃない!?と思って(笑)。40周年にやるなら皆で見上げる打ち上げ花火のようなライブだろうけど、39周年のライブは皆で見つめる線香花火のように、少し繊細で身近で温かいものがいいんじゃないかと思って、ライブハウス探しをして、原宿にあるMusic Restaurant LaDonnaというアットホームな空間でやろうと決めました。普段はできないことができるんじゃないかという期待もありました。
──「STREAM of TIME」では音楽監督でもある小泉たかしさんがピアノ伴奏を担当されていますが、真琴さんがピアノの演奏のみで本格的にライブを行うのは、今回が初めてだそうですね。
真琴 そうなんです! 初めてだらけで、不安の中でのお稽古だったのですが、2022年のJAZZのCD制作のときから小泉さんが私のことを研究してくださって、見捨てずに、深夜までお稽古に付き合ってくださったおかげで、第1弾は、お客様にとても喜んでもらえるものになりました(参照:真琴つばさの芸能生活39周年を記念したコンサート、“時の流れ”歌う第2・3弾を初夏に開催)。5月の第2弾でバイオリニストの杉田駿さんが仲間に加わって、1つの世界がうまい具合に広がり、“サンキュー”の気持ちが大きな線香花火になったことを実感しています。
──小泉さんは、2022年に真琴さんが発表されたアルバム「MAKOTO SINGS GREATEST HITS WITH BIG BAND~真琴つばさ スタンダードを歌う~」(参照:真琴つばさ「私のハートをお届け」、16名編成のビッグバンド率いてコンサート&Dinner Show開催)でVOCAL DIRECTIONもされたということですが、真琴さんの歌い手としての印象をどのように感じましたか?
小泉たかし “努力家”の一言に尽きると思います。さまざまなアーティストとピアニストという立場でお仕事をさせていただいていますが、1つのステージにこれほどの課題を自分に課して、なおかつそれを実行されている方も珍しいのでは?と思うくらい。真琴さんの音楽に向き合う姿勢に感銘を受けました。音楽家や演奏家って、幼少期に恐ろしいくらいの努力をして育つんです。一方、歌は比較的日常に近いところにあるので、“突き詰める”ことをしない方もたくさんいらっしゃいます。真琴さんは常に僕らと同じくらいの気持ちで、音楽に取り組んでくださるんです。
真琴 未完成であることが頼りなくて、ちょっとでも進歩するためにもがき続けているだけですよ。私ってすごく手間暇かかる人間なのですが、小泉さんは妥協せず付き合ってくださる。“こんな人に巡り会いたかったんだ!”と私に気付かせてくれた方です。
バイオリンの音色で厚みが増し、勢い付いた「STREAM of TIME」
──「STREAM of TIME」は、真琴さんの“歩みをたどる”というコンセプトに基づき、二部構成となっています。一部では、第1弾に1950年代から1970年代まで、第2弾に1980年、第3弾に1990年代といった時代くくりの楽曲が、真琴さんの“時の流れ”を表すかのように披露されます。一方で、公演の二部では、その時代に付随した真琴さんの思い出の楽曲が楽しめます。今回のライブが、“歩みをたどる”というコンセプトになった理由を教えてください。
真琴 私が生きてきた中で、聴いて、親しんできた楽曲を少しずつ深掘りしていったらどうなるのかな?と思ったんです。第1弾は“真琴つばさの紀元前”をテーマに、1970年代以前の懐かしい楽曲と、私がタカラヅカに憧れていた頃の劇団の主題歌で構成して。第2弾では、中森明菜さんや松田聖子さんといった1980年代のアイドルの曲や在団時代の宝塚歌劇団花組メドレーなどを披露し、私の歴史を少しずつ皆様と共有しました。選曲って、ともするとこちらの思い出の押し売りになってしまうのですが、お客様から「両親との思い出がよみがえった」というお声もいただき、思い出の中で共鳴できたことがとてもうれしかったです。
小泉 それは真琴さんの選曲の努力の賜物ですよ。何十曲もある当時の楽曲、どういう人がどんな曲を歌ったか、カルチャーの流れなどをリストに書き出して、それを見ながら、どうしたらお客様がライブを楽しみつつ個々の思い出に浸れるかということを綿密に考えてチョイスされているから。学者脳の真琴さんがその過程を僕らに共有してくれて、そこから音楽作りを進められたので、ありがたかったです。
──杉田さんが「STREAM of TIME」に参加されたのは、第2弾で歌われた、真琴さんの月組トップスター時代の作品「螺旋のオルフェ-Orpheus in Spiral-」(1999年)より「イヴのテーマ」からでした(参照:真琴つばさの“39”コンサート、1980年代の楽曲や花組時代のナンバーを聴かせる第2弾が開幕)。杉田さんは、真琴さんと小泉さんが作り上げた前回のライブに、どのような魅力を感じましたか?
杉田駿 ピアノと歌のみでやるライブの音楽的な素晴らしさはもちろん、真琴さんと小泉さんが会場を巻き込んでトークされている空気感が温かくて、まさに“線香花火”を体現しているかのようなライブだなと思いました。その中に僕が入っていけるのか不安でしたが(笑)、真琴さんが“バイオリンに似合う”と挙げてくださった「イヴのテーマ」で、真琴さんの歌声から力をいただいたおかげで、少しはお二人の音楽に乗れたかなと感じました。7月の公演ではお二人の絶妙なトークにも積極的に参加して、まだお声がかからない11月の真琴さんのバースデーライブにつなげられるようにがんばりたいです。
真琴 杉田さんが入ってくれたことで、7月公演に向けてホップ・ステップ・ジャンプの流れが作れましたよ。バンドに新しいメンバーが入ると、お客様の空気感がガラッと変わるんです。私はバイオリンと一緒に単独ライブすることもほぼ初めてだったのですが、小泉さんと杉田さんが奏でる音は厚みがあって、その中で歌うことはこんなにも気持ち良いものかと感動しました。トークでは、3人の年齢が五十代、四十代、三十代と分かれているので、きっと面白い掛け合いになるんじゃないかな。
小泉 良かった、次のライブでは俺がいじられる時間がちょっと減りますね(笑)。
真琴 何を言ってるの? そこは減らしませんよ。
杉田 あははは!
感性のピアニスト・小泉たかしの腕前に、真琴つばさの中の“小人”がざわつく
──2022年に真琴さんはジャズのスタンダードナンバーを歌い上げるCD発売コンサートなどを開催され、今回の「STREAM of TIME」でも過去の楽曲にジャズアレンジを加えて披露されています。昔の楽曲を現代の聴き手に届けるライブで、小泉さんがアレンジの面で意識したことは何ですか?
小泉 実は「カバーとは何ぞや」が僕の音楽活動でのテーマでもあるんです。今回も本来の曲が持つ良さを崩さない程度に、どうやって自分と真琴さんのテイストを盛り込んで作れるかということをずっと考えていて。例えばタカラヅカの楽曲を演奏するときも、オマージュと再構築では意味合いが変わるので、どちらなのかを確認してからアレンジをするようにしています。とは言え、バイオリンとピアノだけではやれることは限られますので、制約の中でも、イントロが鳴った瞬間にお客様が「あ!」とわかりつつ、真琴さんの声で表現することでその曲の新たな魅力に気付いてくださるような方法を模索していますね。
真琴 でも、そのアレンジが毎回違うんですよ、感性の人だから(笑)。それが私にとってはすごく刺激になるんです。タカラヅカって振りが付くから、オーケストラの演奏を崩すことはないのですが、彼は、新しいメロディーラインをジャズセッションのようにその場で生み出すんです。だから、お客様のわからないところで、私の中の“小人ちゃん”が右往左往しちゃって。それでも、ステージ上で即興がハマった瞬間は気持ち良いですね。
杉田 お二人の即興は観ていて面白いですよ。5月の第二部では、僕は、真琴さんの声と被らないようにしたほうが良いのか、伴走したほうが良いのか、と考えながら演奏していました。バイオリンは人の声域と似ている楽器なので、しっとりした曲調だとその選択が難しいんです。一方で、小泉さんはこの業界で“1人オーケストラ”と呼ばれるほど、ピアノ1本ですべての旋律を表現できてしまう人。僕が弾こうとしていたフレーズを「ここに来るんでしょう?」と瞬時に譲ってくださって。お二人に寄り添っていただいたと感じるライブでした。
真琴 ライブって、歌い出しも歌い終わりも“対お客様”の舞台と違い、演奏者とのステージ上のコミュニケーションに委ねられる部分があって、それが自分を柔軟にさせてくれているなと思います。私はとても反省魔なんですよ。舞台だとその反省が明日への希望になりますが、ライブは日数がない分、その時々が勝負。自分に完璧を求めすぎて“良い加減”にできない部分があるのに、行き当たりばったりのフィーリング人間でもあったりするから、小泉さんのように完璧さと柔軟性を瞬間的に両立させちゃう方がうらやましい!
小泉・杉田 あははは!