六角精児が語る、ドラマ「#声だけ天使」|青春は必ずしもイケてない

若いときに本当に無駄に過ごす1、2年

──岡森さんと言えば、ドラマで演じているアングラ先生は小劇団を主宰している設定で、生徒たちに「シラノ・ド・ベルジュラック」の読み合わせをさせたり、体幹トレーニングで身体を鍛えさせたりと熱血指導をされていましたね。

劇団でも昔は肉体訓練をやってたことがありましたが、僕は嫌で嫌でしょうがなかったです。学校だと授業だから、みんな一生懸命やると思うんですが、我々劇団は有志で集まってるので、エネルギーにバラつきが出てくるんですね。中でも僕のエネルギーが一番低かったと思います。みんなが真面目にやってるとき、僕は女の子とデートすることばっかり考えてましたから(笑)。「#声だけ天使」も「イケボイ」の活動に恋愛が絡んでくるじゃないですか? 自分のやりたいことと恋愛を分けて考えられないのが若者らしさだと思います。

AbemaTV「#声だけ天使」より。「イケボイ」メンバーたち。

──「#声だけ天使」は専門学校が舞台ですが、扉座にも研究所があります。六角さんが研究生と接する機会はあるんですか?

研究生が実習として劇団公演に出たりすることがあって、そういうときは一緒に稽古します。若い研究生たちの中にたまに1人だけ年を取った感じの人がいたりして、その辺がこのドラマで言うと久ヶ沢徹さんが演じている寺本(「イケボイ」メンバー最年長の寺本武文 / 離婚調停間近の元エリートエンジニアで45歳、アクター名は“デラ隊長”)の感じなんだと思います(笑)。

──デラ隊長みたいな人が現実にいたりするんですね(笑)。六角さんは研究生に何か助言するんですか?

声優や俳優に限らず芸能の世界は人から何か言われて学んでいく世界ではないと思います。「自分はこれが好きだ、これが素晴らしい」という気持ちが芽生えたとき、それに影響を受けて真似してみたり、真似から入ったものが個性を通して新しいものになっていくこともある。だから僕は自分からああしろ、こうしろとは言わないです。

──いまどきの若者についてどんなイメージを持っていますか?

無駄がなさすぎると思います。パソコンで検索したらなんでも目的にヒットするじゃないですか。それは的確な答えなんでしょうが、若い人たちにとっては、どういう紆余曲折を経てそこにたどり着くかという過程が大切だと思うんです。若いときに本当に無駄に過ごす1、2年というのは大事で、「こんな感じで、この先、大丈夫かな」という不安定な時代を過ごしたことがのちのち、生きてくるはずです。

──「#声だけ天使」の主人公・ケンゾウもまさに模索している最中で、声優として声が特別いいわけでもなく、演技力もない、しかし自分の夢や好きな女性に向かって一途に情熱を傾ける人物です。六角さんも若い頃、仲間と演劇について熱く語り合ったんでしょうか?

劇団の運営や方針については、横内や岡森さんとファミリーレストランに集まって話したりしてました。ただ2人ともお酒を飲まないんですよ。僕は若い頃からお酒が好きでしたから、下北沢で若いミュージシャンたちと飲んだときなんかは「演劇ってどうあるべきなんだろう?」ってことを語っていた……ということを人から聞いたことがあります。自分では覚えてません(笑)。

AbemaTV「#声だけ天使」より。仁村紗和演じる安西さくら。

──「#声だけ天使」の登場人物は「イケボイ」として、チームで活動していますが、俳優さんには劇団員を経てフリーになったり、自分でユニットを立ち上げたり、いろいろな活動形態があると思います。六角さんはなぜ今も扉座に籍を置かれているんですか?

辞めるタイミングがなかったからですね(笑)。……いや、正直な話をすると、劇団ってある意味“ぬるま湯”なんですよ。そこで育ってきて、ぬるま湯の良さをわかってる自分もいる。温かいし居心地がいいんですね。でも一歩外に出たら、役者は最終的に1人で考えて切り開いていかなきゃいけない。いつまでもぬるま湯にいる必要はないんだけど、僕の場合は劇団があってこそ今の僕がいるわけで、そこに自分の役目があったり、後輩の役に立ったりするなら辞められません。

この主人公、僕に寄せてませんか?

──このドラマはいわゆるメジャーキャスティングではなく、脚本ができてからオーディションでキャストを決定しています。ある意味パンクな作り方のドラマですが、登場人物の中で気になった人はいますか?

(ケンゾウの写真を見ながら)あの……この主人公、僕に寄せてませんか?

──そう思われますか(笑)。

六角精児

若い頃は僕も痩せてましたので、このケンゾウという男は昔の僕にちょっと似てると思います。僕はもうちょっとダサいメガネをかけてて、髪型も今と同じ坊ちゃん刈りのような感じでした。やっぱりどこか似てるな……この人の“イケてなさ”っていうんですか。イケてない人間を主人公にして、そいつががんばって活躍する物語というのは、横内が昔、僕を主人公にしたお芝居としてよく書いてたんです。“必ずしもイケてない人間の青春”、演じている亀田さんには申し訳ないですがイメージとして近いものを感じました。

──ケンゾウにシンパシーを感じられたんですね。

普通ドラマにするならイケメンを使うでしょう。「#声だけ天使」は、そうじゃないところにAbemaTVの挑戦を感じます。あと引っ込み思案なおとなしい彼(佐久本宝演じる長友信二)、こういう人も横内の脚本にはよく出てくるんですよ。ケンゾウと長友を足して2で割ったような役を僕はやらされてたんで、彼にもシンパシーを感じます。ただ、このヒロイン(仁村紗和演じる安西さくら)みたいな可愛い女性はうちの劇団にはいませんでした(笑)。

「#声だけ天使」
毎週月曜22:00~

脚本:横内謙介
音楽:平床政治
演出:尾形竜太
プロデューサー:稲葉尚人
エグゼクティブ・プロデューサー:藤田晋

出演

岸田建造:亀田侑樹
長友信二:佐久本宝
小森茜:松本妃代
寺本武文:久ヶ沢徹
葛原しのぶ:山口景子
安西さくら:仁村紗和

小此木理恵:清水葉月
ハル♡ビッグユニット:
柿本光太郎
三澤貴之:馬場良馬
江津子:立石晴香
メグミ:今田美桜
アングラ先生:岡森諦

STORY

池袋の声優のための専門学校で出会った主人公・ケンゾウと4人の仲間たち。彼らは声優になるという夢を実現するため、ボイスサービスサイトを立ち上げる。ある日、1人の女性からケンゾウにリクエストが送られてきた。その依頼主であるさくらが気になって仕方ないケンゾウは、彼女に直接コンタクトを取ってしまうのだった……。登場人物達それぞれが抱える問題が明かされる中、ケンゾウとさくらの恋の行方は?

六角精児(ロッカクセイジ)
1962年兵庫県生まれ。劇団善人会議(現・扉座)の旗揚げに参加。劇団公演をはじめ、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、中島淳彦、大谷亮介、福原充則、倉持裕などさまざまな演出家の作品に出演する。また映画やドラマへの出演も多く、特に「相棒」で演じた米沢守役は、主演映画「鑑識・米沢守の事件簿」が制作されるほど人気を博す。鉄道マニアとしても知られ、「六角精児の呑み鉄本線・日本旅」などの番組にも出演。ギターと歌を得意とし、バンド活動も行なっている。5月15日から鈴木裕美演出「シラノ・ド・ベルジュラック」(東京・日生劇場 ほか)に出演。