歌・踊り・芝居が全方位にパワーアップ!オリジナル&新キャストが届ける2022年版「気づかいルーシー」 (2/3)

音楽は…「めちゃくちゃ難しい!」

──歌、踊り、演技に加え、舞台上ではセットを動かしたり楽器を演奏したりととても要素が多い作品だと思いますが、皆さんそれぞれに、「今回はここを特にがんばりたい」と思っているところはありますか?

ノゾエ 僕は今回、役を演じる以外にも音を鳴らしたり、セットを動かしたりとやらないといけないことが異常に増えたので、それをまず覚えないと。序盤はあまり演出家のモードではいられないかもしれません(笑)。

小野寺 全部がんばります! が、特に今回は、ルーシーとお馬役のお二人が本当に素敵なので、演技の部分なのか動きの部分なのか、身体で2人に寄り添えたら良いなと思っています。

大鶴 僕も全部がんばります。これは自分との闘いになりますけど、公演中に失速せず加速していきたいなと思っています。線より点の展開が多い作品だと思うので、最後までクレッシェンドし続けられるようにがんばります。

栗原 今回、今までなかなか出したことがないようなキーで歌って踊るシーンがあるので、そこをブレずにやり遂げたいなと。のどや身体を壊さないように、稽古から良い塩梅を見つけていきたいと思っています。

栗原類

栗原類

岸井 今回感じているのは、音楽家の(田中)馨さん、振付の崎山さん、演出のノゾエさんの“個”が強くなっているなということなんです。音楽はこうしたい、振付はこうしたい、演出はこうしたい、ということがすごく前に出てきていて、それを私はポジティブに受け取っているんですが、実は俳優部もそうだと思います。佐助くんがそういう空気を作ってくれているというのも大きいんだけど、俳優部も何か新しいことをしたいという思いが強くなっている気がするんですよね。そしてこの作品は始まると誰1人休める人がいない、本当にノンストップでわーっと広がっていく作品。そういう前向きな力が働いていると思うから、このまま全力で9月の千穐楽まで走り抜けられたら良いなって。

──確かに最初から最後まで非常にパワフルな作品ですよね。また内容的には少々グロテスクな部分がありつつ、明るさや愛らしさをずっと保ちながら本作が展開していくのは、音楽の力も大きいのではないかと思います。観劇後も耳に残り続ける印象的な楽曲ばかりですが、稽古の様子を拝見すると、歌うのはとても難しそうですね。

岸井 めちゃくちゃ難しいですよ!

一同 (大きくうなずく)。

大鶴 ノゾエさんと僕が演奏する部分を、馨さんがお手本として演奏した動画を送ってもらったんですが、変拍子すぎてめちゃくちゃ難しくて。面白い、けど“ドS”だなって思いました(笑)。

──田中さんとノゾエさんはこれまでも多くの作品でご一緒されていますね。本作では森ゆにさんと共に生演奏で参加されます。

ノゾエ 馨くんは「こんなもんか」ってことがなく、常に壊して先に行こうとしていて、更新し続けてくれるんですよね。毎回、想定外のものが生まれるし、驚きがある。そこが彼とやっていて飽きないところです。特にこの作品は、肉体と音が響き合わないといけませんし、ほかの要素と同様、音に関してもボーダーをなくしたいと思っているので、同じ舞台上で生演奏してもらうことにしています。

ノゾエ征爾

ノゾエ征爾

気づかいはピュアなものであってほしい

──絵本「気づかいルーシー」のあとがきで、本作の原作者である松尾さんは、「人によって、気づかいの方向性が違う場合もあり、お互いの気づかいの歯車がかみ合わないと、やっかいなことになりがちです。よかれ、と思ってやったことが、他人にとっては悪かれになる。もしかしたら、戦争というものは、そういうかみ合わなさの積み重ねで起きたりするのではないでしょうか?」と書かれています。このコメント自体は以前書かれたものですが、内容は今ダイレクトに響いてきます。

そんな絵本から生まれた舞台「気づかいルーシー」は、子供にとっては見た目や展開の面白さを楽しめる作品ですが、大人にとっては笑ったあとにふと我が身を振り返ってしまうような、シニカルさと深みのある作品になっています。多彩な魅力のある作品ですが、皆さんが本作に感じる面白さはどんなところにありますか?

栗原 “気づかい”って言葉は英語にはなくて、日本語オリジナルの言葉なんですよね。僕は気づかいの裏には優しさが詰まっていると思っていて。松尾さんのメッセージにもありますが、優しさがあれば本当に争いもなくなると思うんです。ここにいる人たちは、人としても優しい人たちで、そのような人たちが作っている作品だから、大人にも子供にもダイレクトに伝わるものになっていると思っています。

大鶴 この数日、「気づかいとは?」と考え続けているんですけど……気づかいが発露する場の違いによって、気づかいの意味も変わってくるんじゃないかなって。純粋さや愛からの、優しさの気づかいと、遠慮や卑屈さからの気づかいでは、同じ気づかいでも全然回路が違うんじゃないかなと。そしてゆきのちゃんがまさに愛や優しさからの気づかいをする人だから、この作品もそういった気づかいにあふれたものになっているんじゃないかと思います。また、この稽古場にいる人たちは皆さん目が澄んでいるので、そういう人たちが集まって創作する場に参加できて良かったです。

大鶴佐助

大鶴佐助

小野寺 今、人にアプローチするとき、気づかいとか忖度がどのように行われているのか、そこに焦点を当てることはすごくプラスなことだと思っています。と同時に、ものを作るときには遠慮しすぎると良くない部分もあって……というのは、佐助ちゃんの稽古場での姿を観て痛感していることですが(笑)、風通しの良い環境で、お互いに嘘なく、言いたいことを言い、やりたいことを出し合っていくことは重要だなと。上っ面の楽しさを追求するだけじゃなく、「今この作品をやる意味は何だろう?」と考えながら作り続けたいし、そうやってできたものは子供にもちゃんと届くのではないかと思います。

2015年に上演された「気づかいルーシー」より。(撮影:阿部章仁)

2015年に上演された「気づかいルーシー」より。(撮影:阿部章仁)

2015年に上演された「気づかいルーシー」より。(撮影:阿部章仁)

2015年に上演された「気づかいルーシー」より。(撮影:阿部章仁)

ノゾエ 僕は気づかいの中身は“思う”ということだと思っています。ただそこに、遠慮とかいろいろなことが付いてきちゃっているのかもしれませんけど、“思う”ことは常に大事で。何か言動に移すときに、何も考えたり思ったりせず言葉や行動にするのではなく、1回考えて、思ってからやってみるということができれば、もう一歩先に進めるのかもしれないと思っています。

岸井 松尾さんもおっしゃっているように、気をつかいすぎるとやっかいなことが起きるというのは、気づかいという言葉にいろいろな無駄なものがついているからじゃないかと思っていて。この作品がそうであるように、気づかいの発端がピュアなものであれば最終的には良い方向に行くと思うんですが、発端が不純だと不純なことが起きていくんじゃないかと思います。

現在の生活の中での気づかいって、例えば「自分はこう思われたくないからこうしておく」ってことを気づかいと取る風潮があるような気がしていて。そういう気づかいは自分がなくなってしまうようで危険だし、本来は気づかいって思いやりとか“考えること”だと思うんです。この作品を通して、思いやりや手を取り合うことの大切さを私は強く感じますし、気づかいはピュアなものであってほしいなと。ピュアなエネルギーとして気づかいができたら、すごく良い空気が生まれるのではないかと思っています。

──初演から7年。中学1年生のときに初演を観た人は二十歳になっていて、年齢が変われば、この作品の見え方がまた変わってくるかもしれません。

ノゾエ 僕たちは変わらず、ただただ必死な姿を見せるだけですけど(笑)。

小野寺 ああ、でもこの間ノゾエさんと今回の公演の関連ワークショップをやったとき、初演を6歳のときに観たという14歳の子が参加してくれたんですが、アーティストになっていて!

小野寺修二

小野寺修二

岸井 14歳で!?

小野寺 自分で作った作品をSNSとかで発表しているそうです。別の子で、今回も観に来てくれるという子は「今回はおじいさんを怖く感じないと思います」と言ってくれました(笑)。

一同 あははは!

──本作は東京公演のあと、全国ツアーを控えています。まつもと市民芸術館以外の、神戸・東広島・北九州・水戸、そして今年リニューアルオープンしたパルテノン多摩では初めての上演です。

岸井 私、北九州に行くのは人生初なんです。

岸井ゆきの

岸井ゆきの

一同 (口々に)すごく良いところだよ。

ノゾエ 福岡県は松尾さんの出身地だしね。

岸井 楽しみだなあ。

ノゾエ 8月4日に東京公演初日を迎えて、ツアー最終日が9月10日……。初日までに、この作品はどうなっているのかなあ。まだまだ試行錯誤を重ねていきます!

左から大鶴佐助、ノゾエ征爾、岸井ゆきの、栗原類、小野寺修二。

左から大鶴佐助、ノゾエ征爾、岸井ゆきの、栗原類、小野寺修二。

プロフィール

岸井ゆきの(キシイユキノ)

1992年、神奈川県生まれ。2009年にデビュー。以降、映画「友だちのパパが好き」(山内ケンジ監督)、「愛がなんだ」(今泉力哉監督)、NHK大河ドラマ「真田丸」など話題作に出演し注目を浴びる。舞台は「ヒッキー・ソトニデテミターノ」(岩井秀人作・演出)、ベッド&メイキングス「墓場、女子高生」「サナギネ」(福原充則作・演出)、城山羊の会「身の引きしまる思い」(山内ケンジ作・演出)、「るつぼ」(ジョナサン・マンビィ演出)、「月の獣」(栗山民也演出)など。映画「犬も食わねどチャーリーは笑う」が9月23日公開、主演映画「ケイコ 目を澄ませて」が冬に公開予定。フォトエッセイ「余白」が発売中。

栗原類(クリハラルイ)

1994年、東京都生まれ。モデルとしてキャリアをスタートさせ、2012年からは俳優として映画やテレビドラマ、舞台に出演。2014年にはパリコレのランウェイデビューを果たした。近年の主な出演作に舞台「春のめざめ」「プレイハウス」「フリムンシスターズ」「未練の幽霊と怪物」、映画「108~海馬五郎の復讐と冒険~」「シグナル 100」「とんかつ DJ アゲ太郎」「劇場版 ルパンの娘」「おそ松さん」など。

大鶴佐助(オオツルサスケ)

1993年、東京都生まれ。舞台、映画、テレビドラマなど多方面で活動。近年の主な出演作に「ピサロ」「ボクの穴、彼の穴。」「両国花錦闘士」「リボルバー~誰が【ゴッホ】を撃ち抜いたんだ」「ともだちが来た」「シラノ・ド・ベルジュラック」、座長を務めるヒトハダの旗揚げ公演「僕は歌う、青空とコーラと君のために」「パンドラの鐘」など。

小野寺修二(オノデラシュウジ)

1966年、北海道生まれ。演出家。日本マイム研究所にてマイムを学び、1995年から2006年にパフォーマンスシアター水と油にて活動。その後、文化庁新進芸術家海外留学制度研修員として1年間フランスに滞在し帰国後、カンパニーデラシネラを立ち上げる。音楽劇や演劇での振付も多数。第18回読売演劇大賞最優秀スタッフ賞を受賞した。近年の主な演出作に「Knife」「ドン・キホーテ」「TOGE」「ふしぎの国のアリス」など。

ノゾエ征爾(ノゾエセイジ)

1975年、岡山県生まれ。脚本家、演出家、俳優。はえぎわ主宰。1999年にはえぎわを始動。以降、全作品の作・演出を手がける。2012年「◯◯トアル風景」にて第56回岸田國士戯曲賞受賞。世田谷区内の高齢者施設での巡回公演や、北九州、静岡など地方での長期滞在創作活動、さいたまスーパーアリーナに約1600人の高齢者が出演した「1万人のゴールド・シアター2016」など幅広い作品の演出を行う。近年の主な演出作品に「ボクの穴、彼の穴。」「ピーター&ザ・スターキャッチャー」「病は気から」「ぼくの名前はズッキーニ」「物理学者たち」「ベンバー・ノーその意味は?」など。11月にジョンソン&ジャクソン「どうやらビターソウル」に出演予定。

2022年8月2日更新