2019年2月、大阪城公園内に劇場型文化集客施設COOL JAPAN PARK OSAKAがオープンする。新劇場WWホールのオープニング公演として上演されるのが、“クールジャパン”をテーマとしたオリジナルレビュー「KEREN」だ。“ノンバーバル・ノンストップショー”を掲げる本作にて振付を担当するのは、ブロードウェイでキャリアを重ねてきた女優・演出家・振付師のバーヨーク・リー。そして国内外で活動するタップダンサーのHIDEBOHがタップ振付を担当する。1月下旬、大阪の稽古場に集まった2人は、対面するなり力強く握手を交わし、英語で語らい始める。笑い声の絶えない対談は、終始リラックスしたムードで行われた。
なお本特集では「KEREN」の稽古に密着したレポート、脚本・演出の髙平哲郎と映像を担当するMoment Factoryからのメッセージも掲載する。
取材・文 / 川口聡
[バーヨーク・リー×HIDEBOH 対談]撮影 / 清水俊洋
大阪城天守閣を中心に据える観光スポット・大阪城公園にオープンする新施設。「世界に通ずるエンタテインメントの発信」を合言葉に、世界各国から大阪を訪れる訪日外国人をはじめ、国内外の来園者の増加を目指して運営される。
プロジェクションマッピングによる映像演出に対応した大ホールのWWホールと、中ホールのTTホールは、それぞれ1138席+車いす6席、702席+車いす4席を擁し、4K放送の設備を備えた小ホールのSSホールは、着席で300席、スタンディングで400~500人を収容可能。なお各ホールの名称は明石家さんまが命名した。
「KEREN」に必要なのは、第一に強い身体
──バーヨーク・リーさんとHIDEBOHさんは、今回の「KEREN」が初顔合わせとなります。
HIDEBOH バーヨークさんとご一緒させていただけることは、ダンサー・振付家として本当に光栄なことです。タップダンサーだった私の父(火口親幸)は、俳優のユル・ブリンナーさんが大好きだったのですが、バーヨークさんと言えば、ユル・ブリンナーさんが主演したミュージカル「王様と私」の初演に5歳で出演されて、ブロードウェイデビューを飾っていますから。僕自身はバーヨークさんが初演版でコニー役を演じられた「コーラスライン」の世代で、映画はもちろん、ブロードウェイでミュージカルも観ました。バーヨークさんの振付を観ながら育ったので、今回「KEREN」で初めてお会いできたときは「わあ、本物のバーヨーク・リーさんだ!」って感激しました。
バーヨーク・リー ありがとうございます! もちろん私もHIDEBOHさんを存じ上げていましたよ。映画「座頭市」でHIDEBOHさんが手がけた“下駄タップ”のシーンを観たときは本当にびっくりしました。「KEREN」で、そのクリエーションを目の当たりにして、さらに驚いています。
HIDEBOH とんでもない……そう言っていただけて、光栄です。
──バーヨークさんは昨年2018年に「KEREN」の稽古のために1カ月日本に滞在され、キャストに稽古をつけました。今回は最終仕上げのために再来日されたんですよね。
バーヨーク そうです。前回の来日では、まず「コーラスライン」時代に私が考案したエクササイズをキャストに教えました。これはダンス用ではなく、総合的に身体を引き締めるためのもの。「KEREN」はダンスや殺陣を中心としたハードな作品なので、まず第一に身体作りをする必要があったんです。また、“ボキャブラリー”と呼ばれる、ダンスで使う動きをとことん教え込みました。
HIDEBOH バーヨークさんのエクササイズは筋トレの基礎から始まるんです。ダンサーたちは、それを定期的なメニューとして8月から半年間続けてきて、明らかに身体が強くなりました。
バーヨーク もともと5曲くらいを振り付ける予定でしたが、レッスンを進めるうちにダンサーの身体が強くなっていったので、気付けば10曲分振り付けていました(笑)。シーンごとにまったく違うスタイルのダンスを繰り広げるので、ここまで仕上げてくれたダンサーたちを誇りに思います。
日本だけど日本じゃない“NIPPON”を表現する
──「KEREN」の脚本を読ませていただいたのですが、本作にはダンスだけでなく、剣劇や歌舞伎、水芸、屋台崩し、イリュージョンといった多岐にわたる芸の形が登場します。また、侍や忍者、芸者、修行僧、妖怪、大仏、巨大マグロまで、“クールジャパン”から連想されるモチーフがふんだんに取り込まれていますよね。
HIDEBOH 大きなテーマが“クールジャパン”なので、海外の人たちから見た日本を描いています。例えば、本作の殺陣を担当する島口哲朗さんが参加されていた、クエンティン・タランティーノ監督の映画「キル・ビル」では、タランティーノさんが考える独特な日本が描写されてますよね。「KEREN」も、いわゆる“和洋折衷”とは一味違う、日本だけど日本じゃない“NIPPON”を表現していきたい。そして、言語を用いないノンバーバルな作品だからこそ、人種を超えて世界中の人に通じると信じています。
バーヨーク 最初に「KEREN」のお話をいただいたとき、きっとストーリーラインがあるのだろうと予想していたんです。でも髙平(哲郎)さんの脚本を読んでみたら、とても自由な発想でユニークなイメージがつづられていた。「KEREN」は、普通から外れた考え方で作っていいんだと感じ、自分のやりたいように表現させてもらいました。現場では、みんなで1つの巨大なケーキを作っているような感覚があります(笑)。
HIDEBOH 髙平さんはじめ、スタッフ陣はベテランぞろいなので、すでに持っている手駒だけでも作れたりするでしょうが、皆さん新しいエッセンスを取り入れながら、けっこうムチャクチャな発想をされるので、どうなるのか先が読めないんです(笑)。僕は今回のスタッフの中だと若手のほうですが、刺激的で、とても勉強になりますね。
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温故知新でありながら、従来の考えにとらわれない精神
- COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
オープニング公演「KEREN」 - 2019年2月25日(月)~ロングラン公演
大阪府 COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
- スタッフ
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脚本・演出:髙平哲郎
振付:バーヨーク・リー
タップ振付:HIDEBOH
殺陣:島口哲朗
音楽:仙波清彦、久米大作
ステージング・演出助手:室町あかね
ビデオ コンテンツ クリエイター:Moment Factory
宣伝美術:横尾忠則
主催:吉本興業株式会社
企画・制作:よしもとクリエイティブ・エージェンシー
- バーヨーク・リー
- 女優、演出家、振付師。1946年、ニューヨーク生まれ。51年、初演版「王様と私」に子役として出演しブロードウェイデビュー。ワークショップから参加した初演版「コーラスライン」では、のちにダンスキャプテンを務め、2006年のリバイバル版では振付の再構成を担当。現在も振付・演出を担っている。17年、トニー賞で功労者に贈られるイザベル・スティーヴンソン特別賞を受賞。
- HIDEBOH(ヒデボウ)
- タップダンサー。1967年、東京都生まれ。北野武監督作品「座頭市」のハイライト、農民のタップ&ストンプシーンに出演し、振付・総合演出を手がけた。音楽性の高いリズムタップを基調とし、パフォーミング性を高めたオリジナルスタイル“Funk-a-Step”を考案。ダンサー、アクター、シンガー、コレオグラファー、また、よしもと坂46のメンバーとして多方面で活動している。2019年3月には、髙平哲郎が構成・演出を手がける「DOWNTOWN FOLLIES Vol.11~Four Fools Strike Back~」に出演する。