グランプリはどの団体の手に?関田育子・演劇ユニットせのび・白いたんぽぽ・スペースノットブランク・老若男女未来学園がしのぎを削る「かながわ短編演劇アワード2023」 (2/2)

白いたんぽぽ

選考通過の電話がかかってきたあとは、興奮して眠れなかった

──2021年に旗揚げされた白いたんぽぽは、大阪の清風南海高等学校演劇部の卒業生で構成されており、学生時代に培ったメンバーの結束力の固さが伺えます。今回は、クリエーションメンバーである制作の村田瞳子さん、演出を担当する吉武沙織さん、出演者の小林留奈さん、ト部花音さんに集まっていただきました。旗揚げに至った経緯はどのようなものでしょうか?

村田瞳子 私たちは高校時代、演劇部OGの中辻英恵さんにずっと戯曲を書いてもらっていて、「卒業後も中辻さんの戯曲を上演したいよね」という思いから旗揚げしました。

吉武沙織 部員が少なかったので、高校時代から少人数であることを生かしたミニマルな上演スタイルを取っていて、心の機微を描いた会話劇を得意としています。なので、高校時代にやっていた演劇と、自分たちが今やっている演劇自体に大きな違いは感じていないのですが、唯一異なるのは劇場の問題ですね。旗揚げするまで、高校演劇のコンクールでしか作品を上演したことがなかったので、“劇場を借りる”ということ自体にも不安を感じていました。でも蓋を開けてみたら、旗揚げ公演でもギリギリ採算が取れて、「公演って自分たちだけでも打てるんだ!」と活動に自信が持てました。

白いたんぽぽ「ひももも」の稽古風景。

白いたんぽぽ「ひももも」の稽古風景。

──「かながわ短編演劇アワード」自体は、何をきっかけに応募しようと思われたのでしょうか?

村田 アワード自体を知ったのは、「かながわ短編演劇アワード2021」のグランプリを安住の地が獲ったときですね。同じく関西を拠点にしている団体がトップに輝いたことがうれしかったですし、希望も感じました。今回応募しようと提案してきたのは吉武です。

吉武 もともと私は、KAAT神奈川芸術劇場がすごく好きで。あそこで作品を上演したい!という思いで提案しました。もちろん、実力を試したい、若手劇団としてステップアップしていきたい、という野望もありましたが、正直、選考を通る可能性は1%もないと思っていたんです。村田に選考通過の電話がかかってきたあとは、全員興奮して眠れなかったですね。「え、私たち出場するんだ!?」って(笑)。公開審査で、良い評価も悪い評価もいただけると思うので、次の成長につなげていきたいです。

──今回披露される「ひももも」は、“華々しい主人公になれない私(アンチヒロイン)”をテーマにした作品です。通販で買ったスウェットのズボンの紐が長すぎたことをきっかけに、引きこもりになってしまった女性の物語が描かれます。

小林 タイトルやあらすじだけでは、きっと「どういうこと?」と思われると思うのですが(笑)、けっこう笑える作品になると思います。異様に長い“紐”が、ビジュアルとして面白い一方で、その“紐”が何を意味しているかは、観る方によって受け取り方が変わるのではないかと。また登場人物たちの関係性も、紐のように絡み合えば絡み合うほど面白くなると思うので、うまく表現したいですね。

ト部 (小林の発言にうなずきながら)これまで上演してきた作品では、近しい関係の人間模様を主軸にしているのですが、今回は“たまたまそこに集まってしまった”人たちによる化学反応が描かれています。白いたんぽぽを観たことのある方にとっても、新鮮に楽しんでいただけるのでは。

白いたんぽぽ「ハートの有無にかかわらず」より。

白いたんぽぽ「ハートの有無にかかわらず」より。

──今後、劇団としてどのようなビジョンを持っていますか?

吉武 やりたいことは日々生まれ続けているので、新作にも挑戦し続けたいですが、一番やりたいのは高校時代に上演した作品のリメイクですね。

村田 「まつまちへ」という作品があって、それは町を出てしまった人を思い続ける“待ち合わせの町”を描いているのですが、その作品の構造と、今の私たちの演劇への関わり方が重なってきていて。というのも、拠点を1つに決めず活動している私たちにとっての“待ち合わせの町”は、演劇なんです。演劇の公演を打つことで、高校時代の友人や知り合いなど、過去に出会った人たちと再会することができる。「まつまちへ」を地元大阪だけではなく、複数の都市で上演できたら良いなと思っています。

プロフィール

白いたんぽぽ(シロイタンポポ)

大阪の清風南海高等学校演劇部卒業生により、2021年に旗揚げされた劇団。同高等学校演劇部OGの中辻英恵の戯曲上演を目的とし、東京・大阪の2拠点で活動している。

スペースノットブランク

ハイリスクな舞台を上演できることは、大きなメリット

──スペースノットブランクは、小野彩加さんと中澤陽さんが、舞台芸術作品の創作を行うコレクティブとして、2012年に立ち上げた団体です。お二人ともパフォーマーでもあり、小野さんはダンサー、中澤さんは映像作家としてのバックグラウンドがありますが、どのように共同で創作しているのでしょうか?

小野彩加 プロダクションごとにクリエーションメンバーとのコミュニケーションに重きを置きながら創作環境を作る、というのが私たちの大きな特徴だと思います。

中澤陽 1人が演出するのと同じように、ただ2人で演出しているイメージです。考えや意見を共有しながらやっています。

スペースノットブランク「本人たち」より。

スペースノットブランク「本人たち」より。

──スペースノットブランクは、松原俊太郎さんや、ゆうめいの池田亮さんといった、劇作家とのクリエーションが続いています。今回上演される「また会いましょう」のクリエーションメンバーは、演出の小野さんと中澤さん、そしてパフォーマーの渚まな美さん、西井裕美さん、近藤千紘さんの5人と、少数精鋭ですね。

中澤 私たちとパフォーマーが直接対話し、作っていく形になります。劇作家とコラボレートをしない形態を私たちは“オリジナル”と呼んでいるのですが、その最新形の舞台となる予定です。“オリジナル”におけるこれまでのテキストの作り方は、パフォーマーが私たちに話したことをすべてテキスト化していく、“聞き取り”と呼ばれるものになります。そのやり方では、パフォーマーが私たち、つまり観客の皆様だけに向けてしゃべっているような姿勢になってしまうこともあり、パフォーマーも私たちの「こういうことを話してほしい」という実際には存在しないはずの狙いを無意識に考えてしまう場合があるため、ある意味“作る”ということに特化したコミュニケーションになってしまっているように感じていました。そのため「また会いましょう」では、1人のアーティストとしてのパフォーマーと私たちのコミュニケーションの指向性を、多方向に展開させてみることができないか、と考えています。

──具体的にはどのようなクリエーションが行われているのでしょう?

中澤 渚さんと西井さんにどこかへお出かけしていただき、2人がそこで話した内容を私たちの前で再びしゃべろうとする形で、テキストを作っています。このやり方では、パフォーマーたちにしか知り得ない会話が繰り広げられるので、“上演の向こう側”で話しているような印象が生まれ、私たちの手に負えることのない何かが、舞台上で自動的に展開されます。もちろん最終的には上演台本としてまとめて、ディレクションもするので即興劇というわけではありませんが、舞台上に“過去にしゃべっていたときの本人の状態”を再び表そうとしていただくことが上演にとって重要な質感の1つになってくると思います。

──俳優さんのスキルが求められそうですね。

中澤 お出かけのときの、過去の会話を“再現”していただくわけですが、見ている私たちにとっては、1時間ぐらいどこかに行ったときの、何の話をしているのかが完全にはわかることのできない状態が続きます。私たちのためにしゃべられているわけではないので、その時点ではある意味即物的なのですが、それが何度も繰り返されることで最終的に上演になると思います。

小野 今回、私たちはパフォーマーに特別振付のようなことをしない予定です。例えば“動かない”ということも、パフォーマーにとっては負荷になる可能性があると思っているので、両側面からケアをしながら繰り返して、上演を作っていきたいです。

──スペースノットブランクは、「かながわ短編演劇アワード」の「演劇コンペティション」に2020年・2021年と続けてファイナリストに残り、上演審査に挑んでいました。

小野 応募は今回で3回目です。前回の「かながわ短編演劇アワード2022」には応募しませんでした。

スペースノットブランク「救世主の劇場」より。

スペースノットブランク「救世主の劇場」より。

中澤 2020年と2021年の2回が無観客開催だったので、前回はその状態のままもう1回応募することに悩んでいたんだと思います。今回応募したのは、審査員の皆様にも変化が起こり、新しい方にどのように見ていただくことになるのか気になったからです。あとは、コンペティションの設え自体が魅力的だったからです。これまで2回出場して実感したことは、このコンペティションは一体どうなるかわからないようなことを積極的に試みたとしても、誠実に見ていただける場所であるということ。もちろんコンペティションに向けて優れた舞台を作ろうという気持ちはありますが、そのうえでハイリスクな舞台を上演できることは、私たちにとっては大きなメリットだと思います。また審査員の皆様に評価いただくことで、私たちの現在地を探れる場所でもあると思っています。

──カンパニーとしてはこの先、どのように活躍していきたいと考えていますか?

中澤 今考えているのは、2020年と2021年の「かながわ短編演劇アワード」で上演した2作を、再び上演したい、ということ。それから、KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオという空間がすごく好きなので、この場所でのコンペティションではない形での上演もやってみたいと思っています。

プロフィール

スペースノットブランク

二人組の舞台作家である小野彩加と中澤陽が、2012年に設立した舞台芸術の創作を行うコレクティブ。「第8回せんがわ劇場演劇コンクール」グランプリ、「利賀演劇人コンクール2019」優秀演出家賞二席、「ヨコハマダンスコレクション2022 コンペティションⅠ」城崎国際アートセンター賞、若手振付家のための在日フランス大使館・ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル賞を受賞。

老若男女未来学園

関東圏での活動に大きくつながる公演に

──森悟さんが主宰を務める老若男女未来学園は、“受け取る人が前向きな気持ちになれるような作品の創作”をテーマに掲げつつ、メディアアーティストやプロダクトデザイナーといった、異分野のクリエイターをクリエーションメンバーに加えて活動をされています。名古屋工業大学の公認演劇サークルとして旗揚げされたとのことですが、演劇を始められたのは大学からでしょうか?

森悟 いえ、僕は高校演劇出身です。高校生の頃、「人と違う変なことをやってみたい」という気持ちから演劇部に入部したのですが、やってみるととても楽しかった。大学では演劇系の大学には進まず、建築デザインを学びました。大学で演劇を続けるつもりはなかったんですけど、知り合いに誘われて演劇を観に行ったり、公演を手伝ったりしているうちに、気がつけば劇団を立ち上げていました。

老若男女未来学園「もういい、俺は死後評価されるタイプの芸術家で」より。

老若男女未来学園「もういい、俺は死後評価されるタイプの芸術家で」より。

──工業大学出身ということですが、理系思考で作品を作られるのでしょうか?

 僕自身ロジカルに物事を考えられるタイプではないので、感覚で創作することが多いのですが、映像を使ったり、その演出にプログラミング的な要素を噛ませてみたりするという点では、理系的かもしれません。昨年行ったコント公演「アザンシアコント vol.1」では、舞台上にグリーンバックとカメラを設置し、合成映像を客席に設置したモニターにリアルタイムで投影する試みを行いました。もともとは、シンプルに演劇をやろうと思っていたのですが、活動を重ねていくごとに、演劇以外の分野の人と共作することの面白さに気づいて。団体としては、演劇という形態に限らず、幅広く面白い活動ができればと思っています。

──今回上演される「シーユレーター」について、森さんは企画書で「“人との別れをポジティブに捉え、前向きに生きていくための考え方”をポップに表現する」と企画目的を説明されています。どのような作品になりそうでしょうか?

 人との別れというテーマと、映像加工技術を組み合わせた作品になる予定です。最初は特にテーマを決めず、ただ単に人の生活を書こうと思っていたんですけど、考えてみると、人生の中で一番心に残る出来事って、人との出会いや別れだなと。そこに主眼を置いたほうが、物語として成立しやすいと思ったので、今回はとりわけ別れに注目してみることにしました。また映像演出の面では、人の視線をカメラを使って可視化するという手法を思いついて。俳優がカメラを持って、その映像をスクリーンに映すことで、それぞれが“見ている”ものからそれぞれの別れの捉え方を表現できたらと思っています。

老若男女未来学園「アザンシアコント vol.1」より。

老若男女未来学園「アザンシアコント vol.1」より。

──「かながわ短編演劇アワード」を通し、実現したい目標などはありますか。

 これまで僕たちは名古屋でしか公演を打ったことがないのですが、今後は愛知と東京の2拠点で活動していきたいと考えています。そのきっかけを探していたとき、見つけたのがこのアワードでした。上演のサポートも厚く、審査員も豪華ですし、グランプリの賞金も良いなと(笑)。全国から応募があるので、参加団体同士で交流できる機会も魅力的に感じました。僕らの作品を観る機会のなかったお客さんにも観て知っていただき、関東圏での活動に大きくつながる公演にしたいですね。

プロフィール

老若男女未来学園(ロウニャクナンニョミライガクエン)

2017年に森悟を中心に、名古屋工業大学の公認演劇サークルとして旗揚げ。大学卒業後しばらくは個人のプロデュースユニットとして活動していたが、2022年末頃に数名のメンバーが加入し現在の体制となる。東京・愛知の2拠点で活動。