老若男女未来学園
2度目の出場、でも初心の気持ちで
──老若男女未来学園は、“老若男女ありとあらゆる人びとの未来を明るく照らすことのできるような作品の創作を通して、多様なクリエイターが対等な立場で研鑽に励むことのできる学園のような場を追求していく”ことを掲げ、2017年に結成された団体です。昨年開催された「かながわ短編演劇アワード2023」に続き、2度目の参加となりますが、どのような意気込みで参加されますか。
加納間一 愛知・名古屋を拠点にしていた僕らにとって、東京と愛知の2拠点での活動の出発点になったのが、「かながわ短編演劇アワード2023」でした。アワードを通じて、団内の創作へのモチベーションも大きく上がりましたし、僕たちが憧れていたKAAT神奈川芸術劇場 大スタジオという舞台で上演ができた、ということも自信につながりました。ただ、“パフォーミングアーツアワード”と名称が変更になり、身体表現に強みのある出場団体が増えている印象があるので、僕たちとしても初心に帰り、初めて出場するという気持ちで挑もうと思っています。
──老若男女未来学園では、主宰の森悟さんが劇作・演出を担うことが多いですが、今回は加納間一さんが戯曲を書き、森さんが演出する「一度に全部は無理だとしても」が上演されます。加納さんはこれまで、団体内ではドラマトゥルクや文芸を担当されていらっしゃいましたが、戯曲を書かれるのは初めてでしょうか?
加納 前にコントとかかなり短いものなら書いていたことはあるのですが、1つのお話として戯曲を書いて上演までするのは初めてです。僕自身、普段は小説を書くことが多くて、団内で発行しているZINEで発表したこともあるのですが、戯曲と小説の書き方の違いには苦労しましたね。小説の地の文の癖で、セリフが説明過多になってしまったりして。森さんにはアドバイザーとして支えてもらいながら、2人で作っています。ただうちの団体の良いところは、トップダウンではなく、立場や役割の垣根もなく、自由に意見を言い合えるところ。みんなにも戯曲を読んでもらって、どんどん内容を改善していく作業は楽しいですね。
──老若男女未来学園では近年、リアルタイムでの映像演出や、ロボットを用いた作品上演など、演劇とテクノロジーを融合した作品上演が増えています。「一度に全部は無理だとしても」でも、ロボットが登場するとのことですが、どのような作品になるのでしょうか。
加納 今回は“関係性を築くうえでの言葉”をキーワードに、ロボットを用いて、言葉を使わずに社会に存在している人を描こうとしています。“極度の口下手”である物語の主人公・rをロボットと、ロボットの操作者の2人で演じることで、ままならなさや、コミュニケーションの難しさを表現したいと思っています。ストーリーとしては、友達が2人だけのrの社会のカタチが1人の人間との出会いによって微かに変化していく、そのさまを描くものになっています。ロボットを使ってはいますが、SF的な世界を描くわけではなくて、1人の人間の中にある人格の1つの度合いとしてロボットを使います、rの中の内面の気持ちの変化や揺れが、ロボットのぎこちない動きを通して、表出することができれば良いかなと思っています。
──今後の目標を教えて下さい。
加納 前回のアワードで、僕らのことを初めて知ってくれた人が多かったですし、団体として、愛知と東京の2拠点活動が軌道に乗ってきている実感があるので、よりいろいろな方々に僕たちのことを知ってもらえるよう、関東でもコンスタントに公演を打っていきたいですね。僕個人としては、戯曲を書いていてとても楽しかったですし、団内の未来を考えていくうえで、物語を作れる人間は森さん以外にもいたほうがいいと思うので、今後も戯曲の執筆は続けて、表現の幅を広げていきたいです。
プロフィール
老若男女未来学園(ロウニャクナンニョミライガクエン️)
2017年に森悟を中心に、名古屋工業大学の公認演劇サークルとして旗揚げ。大学卒業後しばらくは個人のプロデュースユニットとして活動していたが、2022年末頃に数名のメンバーが加入し現在の体制となる。東京・愛知の2拠点で活動。
譜面絵画
“泳ぎ方”が徐々にわかってきた
──譜面絵画は、“新たな体験性(ライブ性)”をコンセプトに掲げ、主宰の三橋亮太さんが全作品の脚本と演出を務めるカンパニーとして2016年に発足しました。今回は三橋さんのほか、メンバーで制作担当の大川あやのさんと河﨑正太郎さん、そして俳優の小見朋生さんがインタビューに参加してくれました。まずは大川さん、河﨑さん、小見さんが、譜面絵画のユニークだと感じるところを教えてください。
小見朋生 僕が譜面絵画に所属している理由の1つは、三橋の存在ですね。三橋は学生時代から、作品ごとに文体を変えてみたり、方法論を変えてみたりと、実験を重ねていくタイプ。一緒にいると、演劇の幅広い面白さを体感させてくれるんです。
大川あやの 小見くんの言う通り、実験しながら作品を作っているのが団体として面白いところだと感じています。あとは、制作が2人体制というところが独特かと思います。
河﨑正太郎 俳優2人、制作2人を抱えていることで、団内でも多角的な視点が生まれているのが、良いところですね。企画自体も、クリエイター1人に権力が集中しないよう、それぞれの専門知識を尊重しながら話し合って進めています。
──皆さんの言葉を伺うと、団体としても成熟されてきている印象がありますが、三橋さんの実感としてはいかがでしょうか。
三橋亮太 コロナ禍を経てからの、“泳ぎ方”が徐々にわかってきた感覚はあります。そこでついた筋肉は、助成金の応募といった書類作成時にも生かせるようになってきました。制作目的として掲げている“新たな体験性(ライブ性)”については、おそらく一般的にはまだ、演劇を観に行くこと自体が珍しい体験ではあるので、その体験がより良いものになるよう、お客さんと一緒に上演を作り上げる感覚で作品を発表しています。
──アワードの前身となる「かながわ短編演劇アワード」では、2020年と2021年に「戯曲コンペティション」で、三橋さんの作品が最終候補作品に残りました。今回は名称が変更になり、上演部門にしぼられましたが、応募する際に意識されたことはありますか?
三橋 上演部門だけが残った、ということは意識しましたね。1つになったことで、上演への注目度も増したかと思いますし、フォーマット的な部分で意識するところはあります。
──今回上演される「ホームライナー新津々浦1号」は、2023年12月に上演されたSTスポット・急な坂スタジオ合同ショーケース企画「コーラル&ストロベリー」(参照:STスポット・急な坂スタジオ「コーラル&ストロベリー」本日スタート)で発表されたものと同じ作品でしょうか?
三橋 そうですね。もともとが20分程度の作品だったので、KAAT ver.として30分に膨らませる予定です。出会いと別れを描いた作品で、端的に言うとロードムービーのような手触りの作品です。
小見 “ロードムービーのような手触り”には納得なのですが、ちょっと違うのは、空間や時間がシームレスに変化していく部分かもしれません。会話のテンポが特別早いとか、シーンの展開が早い、というわけではないのですが、どんどん新しい情報が加えられて、新しい空間に流れていく部分に、爽快感や、疾走感を感じます。
河﨑 また、12月の上演が神奈川・STスポットと、今回の会場よりかなり小さい空間だったので、会場の変化により作品の要素も変わるかと思います。どこまで「ホームライナー新津々浦1号」が拡張されて進化するのか、制作としても楽しみです。
大川 私は、12月の公演では制作として関わらず、初めて譜面絵画の作品をお客さんとして観る、という体験をしました。そこで感じたのは、譜面絵画としてこれまでの文脈がありながら、新しい手触りのある作品である、ということ。譜面絵画の作品は、硬質で冷たいという印象を持たれがちだと思うのですが、最新作の「ホームライナー新津々浦1号」には、柔らかさや、温かさもあります。
三橋 今まではカッコつけていたのかもしれませんね(笑)。自分個人としても、徐々に肩の力が抜けてきている実感はあります。演劇の手法とか方法論をいろいろと試す中で、取捨選択ができるようになってきて、その結果がラフさにつながっているのかもしれません。
──今後の目標を教えてください。
三橋 団体の目標としては、レパートリーとなる短編をもっと作るということ。ショーケースや演劇祭に招聘していただく機会も増えてきたのですが、そういったときに、持ち運びやすい短編作品を作っておきたいなと。
小見 最近、シーンが入れ子構造になっていたり、作品内で人が入れ替わっていたりする、場所を選ばず、また何人でもできる作品が増えてきていて。作品の方法論がもっと確立されたら、もっとフットワーク軽く、いろいろなところで上演ができるのではと思っています。
河﨑 持続的に、健康的にクリエーションを続けていくことです。全員が同世代で、三十代が見えてきたこともあり、譜面絵画の中でも、自分たちがどのように演劇を続けていきたいか、どうなっていきたいかということを話し合うようになりました。
大川 制作の立場として、譜面絵画という団体を続けていくことに加えて、団員がどのように生活をしていくか、というところまで考えていくことを目指したいと思っています。生活の向上は、良い作品作りにもつながってくると思うので、その相互作用を生み出せるように、より良い形を模索していきたいですね。
プロフィール
譜面絵画(フメンカイガ️)
三橋亮太が全作品の脚本と演出を務めるカンパニーとして2016年に発足した演劇団体。“新たな体験性(ライブ性)”を制作目的とし、演劇的想像力を介して誘発および展開するための作品を発表している。
神田初音ファレル
この状況下で、いかに希望を見つけていくか
──神田初音ファレルさんは、ダンサーや俳優として多くの作品に参加しながら、振付家・演出家としてご自身も精力的に作品を発表しています。作品を作り始めたきっかけを教えてください。
神田初音ファレル 桜美林大学で、コンテンポラリーダンスを木佐貫邦子先生に師事して、そこからダンサー、振付家としての活動も始めました。そもそもの表現との出会いは、自分の出身地の静岡県浜松市で、3年に一度、小学生から高校生までを対象に行われていた「こどもミュージカル」です。自分は父親がアメリカ人で母親が日本人というミックスで、野田秀樹さんの「赤鬼」の鬼のように、日常では異質なものとして扱われていたという思いがあります。でも板の上に立てば、その人のバックグラウンドは関係なくなる、ということが個人的な救いでもありました。
──「かながわパフォーミングアーツアワード」は、どこで知りましたか。
神田 知り合いの劇団やダンスカンパニーが出場していたので、「かながわ短編演劇アワード」時代から知ってはいました。今回“パフォーミングアーツアワード”に名称が変更になり、演劇に限定せず、ダンスにも開かれるということで、自分のスタイルのままで挑戦できるかなと思い、応募しました。
──上演されるのは「懺肉祭 ~希求夜想曲 Ver.~」。2023年にこまばアゴラ劇場で開催された、オドリバ ライスボールダンスクラブ「ことば mono くうき」で披露された「懺肉祭」を再構築するそうですね。。
神田 初演では、本当は父親との共同作品として発表する予定だったのですが、父が体調を崩してしまい、結果的に1人で出演することになりました。「ことば mono くうき」は、“ことば”、“くうき”、“もの”をテーマに、参加団体それぞれが作品を作るオムニバス公演で、自分は“くうき”の役割を担っていたんですけど、自分にとっての“くうき”は、国際社会を取り巻いている戦争の空気でした。当事者以外は、ある種、戦争が起こっている場所を“向こう側”として認識していると思うのですが、日本に住んでいる限りできることは非常に少ない。もちろん、署名活動や、特定の企業の不買などはできるとは思うのですが、明確に止めることができない、ということに歯がゆさを感じています。一方で、現在の社会状況を考えると、イスラエルとパレスチナ間で行われている民族浄化が激化を極めるなど、自分もいつ徴兵されてもおかしくないなという危機感を感じていて、その未来への危惧を父と一緒に警報として表現したかったのですが、父が12月に亡くなってしまいました。初演時は、祈れば必ず叶うという思いがあったたのですが、今は、1人の祈りでは状況を変えられないという実感があります。でもだからといって、希望を捨ててはいけないと思うんですね。世界で今起こっていることに対して「怖くて見られないから」と目を瞑るのではなく、人類がこれまで進化してきた能力を今こそ使うべきなんじゃないかなと思っています。「懺肉祭 ~希求夜想曲 Ver.~」では、自分自身の個人史と人類の歴史を交差させながら、自分が世界に感じているリアルを表現しつつ、この状況下で、いかに希望を見つけられるか、という部分に焦点を当てようと思っています。
──今後の目標を教えてください。
神田 すべての魂を、その都度、作品に注いでいきたいですね。自分の父の家系は、もともとアイルランドからイギリス、アメリカに渡っているのですが、ファレル家には家訓がありまして。日本語にすると、「平和のために悪いことをせず、良いことをしていく」という意味なのですが、アーティストとしても、神田初音ファレルという人間としても、いかに自分にとって自分が“中央”に居続けるか、信じたことを貫き続けるか、ということを頭にしっかり置きながら、生き続けたいと思っています。
プロフィール
神田初音ファレル(カンダショーンファレル️)
1994年、静岡県生まれ。ダンサー、俳優、振付家、演出家、モデル、舞踏手。桜美林大学にて、コンテンポラリーダンスを本佐貫邦子に師事。