「Our Glorious Future ~KANAGAWA2021~ カガヤク ミライ ガ ミエル カナガワ 2021」|共生社会の実現に向けて、カナガワから文化芸術を発信!|森山開次×大前光市が語る「ダンスのミライ」 多田淳之介&藤川悠が語る「演劇のミライ」「アートのミライ」

障壁は可能性

──お話を伺っていると、お二人の信頼関係のうえで、キャッチボールしながら作品が生まれていったのだなということがよくわかります。お二人のデュオ「BODY face | 目と目で向き合う」「BODY resonance | からだの音色」「BODY difference | めぐり逢う内臓」は、「1人ひとり異なるからだ」がテーマですが、身体でもそれ以外でも、“自分にはないけれど相手の「ココが素敵だな」”と思うところがあれば教えてください。

大前 森山さんは、動く仏像って感じですね。性格もだんだんと悟りを開いていっているような方なので、まさに“動く仏像”です。

森山 いやいやいや(笑)、でもうれしいですね。実はよく、興福寺の阿修羅像に例えていただくことがあるんですけど、3面ある阿修羅像の姿に、自分としてもリンクするようなところがあるような気もしていて。でも悟りは開いてません。煩悩の塊です(笑)。

大前 あははは!

──森山さんから見て、大前さんの素敵なところは?

森山 大前くんには何でも楽しむ姿勢があって、そこが一緒にいて一番面白いところですね。障害はありますけど、創作の中には障害っていつもどこかにあるし、僕たちはさまざまな条件の中で行き詰まったり、壁にぶち当たったりするんです。でも、それ自体を楽しんでクリアしていくように考えたいなといつも思っていて。そういう意味で大前くんは、クリエーションにおいて、すべての障壁を楽しんでいるスタイルなので、それが一番大きな力だと僕は思っています。

大前 障壁に、可能性が見えるんですよね。“できない”ってこと自体が可能性だと思うし、逆に何ができるかが見えてくる、というか。

森山 うん。だから何かが起きると「あ、また障壁が来た! 食べてやれ!」ってワクワクしながら解決するっていうか。普通の感覚だと「問題が起きた! えーどうしよう、ウソだろ!」ってことになると思うけど、僕たちはほとんどそういうことがないんです。もちろんコミュケーションの中ではいろいろなことがありますけど、それ自体が楽しく思えてきちゃうような僕たちなので……(笑)。障壁に臨む姿勢さえあれば、絶好のクリエーションになると思うので、いつも楽しくやっているかな。

大前 そうなんです。森山さんは、すごくやりやすい方なんですよ。

県立音楽堂が与えてくれたインスピレーション

──そのことは、お二人のやりとりを伺っているとよくわかります(笑)。また今回の作品では、“場所”も重要なポイントかなと思います。「AR森山開次」では、スマホやタブレットを介して日常空間にボンっと森山さんが現れ、目の前でダンスが始まる奇妙さがあります。一方の映像作品は、前川國男建築で知られる神奈川県立音楽堂で撮影され、開放的かつレトロモダンな空間が、お二人のダンスをより趣深く見せます。空間と踊りについては、どんなことを意識されましたか?

森山 僕たちは身体を軸にして踊っているわけですが、例えばカフェに行けば気持ちも身体もリラックスしたモードになるのと一緒で、その場の状況によって身体が変わることは当然ありますし、環境は身体表現にとって重要な要素なので、大事に考えています。劇場で踊る場合は、その中で自分の理想の空間を作ろうとしますが、屋外や劇場以外の場所で踊るとリフレッシュできますし、場が踊りのインスピレーションを与えてくれるので、劇場だけじゃなく、いろいろな空間で踊りたいと思っているんです。その点、今回は音楽堂の特色ある素晴らしい空間を背景に、そこから作品を発信できることの意味を感じました。と同時に今、劇場がお客さんを呼ぼうと長い時間をかけて準備しても、これまでのようには作品が上演できない、という窮地に立たされていて、劇場が四苦八苦している。そんな劇場の声も届けられたらいいなと思っています。

大前 実は今回、場所のほうが主役なんですよね。

森山 本当にそう。環境が踊りを作ってくれました。

2人が思う、魅力的なダンサーとは

──お二人とも近年ますます多彩なジャンルやバックボーンのダンサーとのクリエーションが続いていますが、それぞれの枠組みを超えて、お二人それぞれが魅力的だなと思うのは、どんなダンサーですか?

大前 自己肯定感が強い人! 自分が好きで、どんなジャンルに当てはまらなくても、自分のキャラを自分として受け入れて、それを楽しんで踊っている人ですね。

森山 僕も同じかな。やっぱり、楽しんでる人でないと一緒に踊れないですね。何かを見出して、すでに一歩前に踏み出している人なら一緒に走りたいし、踏み出そうとしている人であれば僕たちが導いていけるかもしれないし……。でもそもそもダンサーって、一歩前に踏み出そうとしている人たちばかりだという気がするから、そういう意味では、最終的に誰とでも踊りたいっていうことになりますね。

森山開次(モリヤマカイジ)
1973年、神奈川県生まれ。21歳でダンスを始める。2007年、ヴェネツィア・ビエンナーレに招聘。2012年、「曼荼羅の宇宙」で芸術選奨文部科学大臣新人賞ほかに輝く。コスチュームアーティスト・ひびのこづえ、音楽家・川瀬浩介との協働「LIVE BONE」では、国内27都市以上で作品を披露した。2019年、「ドン・ジョヴァンニ」でオペラ初演出。近作に新国立劇場バレエ団「竜宮」ほかがある。大前光市も出演した、TOKYO2020パラリンピック開会式で演出・振付チーフを担当。2021年、作曲家カイヤ・サーリアホの金獅子賞記念公演でヴェネチア・ビエンナーレに出演する。
大前光市(オオマエコウイチ)
1979年、岐阜県下呂市生まれ。高校時代よりバレエ教室へ通い、大阪芸術大学でもバレエを専攻した。2003年、交通事故により左脚の膝から下を切断。ダンサーとしての夢を断たれるも、義足のダンサーとして奇跡の生還を果たす。国内外のコンクール受賞歴多数。2016年にリオデジャネイロ・パラリンピックの閉会式、2021年にTOKYO2020パラリンピック開会式に出演した。