「Our Glorious Future ~KANAGAWA2021~ カガヤク ミライ ガ ミエル カナガワ 2021」|共生社会の実現に向けて、カナガワから文化芸術を発信!|森山開次×大前光市が語る「ダンスのミライ」 多田淳之介&藤川悠が語る「演劇のミライ」「アートのミライ」

「Our Glorious Future ~KANAGAWA2021~ カガヤク ミライ ガ ミエル カナガワ 2021」が、8月から9月にかけて特設サイトでオンライン開催される。「Our Glorious Future」は、「東京2020 NIPPONフェスティバル」の主催プログラム「ONE -Our New Episode- Presented by Japan Airlines」におけるコンテンツの1つ。「Our Glorious Future」では、神奈川県にゆかりのある各分野のアーティストが、「共生社会の実現に向けて」をテーマにした映像を世界に向けて発信する。

本イベントは、「ダンスのミライ」「演劇のミライ」「アートのミライ」「音楽のミライ」「工芸のミライ」という5つの要素で構成され、ダンス部門のディレクションを森山開次、演劇部門のディレクションを東京デスロックの多田淳之介、アート部門のキュレーションを神奈川・茅ヶ崎市美術館の藤川悠学芸員が担当している。ステージナタリーでは、ダンス部門で映像作品を発表する森山と義足のダンサー・大前光市にインタビューを実施。また、多田の寄稿、藤川のインタビューに加え、「演劇のミライ」のフィナーレを飾るパフォーマンス「いる・おどるセレモニードキュメント『わんす おぼん な たいむ』」の撮影レポートを掲載する。

取材・文 / 熊井玲(P1〜2)、興野汐里(P3)

森山開次×大前光市が語る「ダンスのミライ」

いつか生のパフォーマンスをするための準備として

──「Our Glorious Future ~KANAGAWA2021~」では、「共生社会の実現に向けて」をテーマに、ダンス・演劇・アート・音楽・工芸と5つのジャンルのアーティストたちが軸となり、それぞれの思う“ミライ”を描き出します。森山さんはダンスジャンルのディレクターとして4本の映像作品を作成し、ご自身も振付・出演されています。

森山開次©︎Sadato Ishizuka

森山開次 まずこのプロジェクトは、当初、オンラインの企画ではなかったんです。この1年半、新型コロナウイルスの影響でこれまで通りのパフォーマンスがなかなかできない中、それでもリアルなイベントにこだわっていろいろと試行錯誤を重ねてきたのですが、最近の感染拡大を受けてやはりオンラインで実施することになったため、新たな試行錯誤が始まりました。ただ僕たちはそのこと自体は前向きに考えていて。というのもこの企画自体が“ミライ”を謳っているので、今の在り方が未来、つまりいつかまた生のパフォーマンスをするときの準備でもあると考えて、オンライン発信に前向きな期待を持って臨んでいるんです。

──「ダンスのミライ」には、森山さんが「心臓」と「胆のう」をテーマに踊る「AR森山開次」のほか、森山さんと大前さんによる新作映像「BODY difference | めぐり逢う内臓」「BODY face | 目と目で向き合う」「BODY resonance | からだの音色」、大前さんのソロ作品がラインナップされています。さらにデザイナーのひびのこづえさん、現代サーカスユニット・ホワイトアスパラガス、そして作曲家・川瀬浩介さんのコラボレーション作品「WONDER WATER」が並びました。また、ひびのさんと川瀬さんは、「WONDER WATER」だけでなくすべての作品で衣装、音楽を担当されています。今回、このプロジェクトに大前さんが参加されることになったのは?

大前光市

大前光市 今年の初めくらいだったか、森山さんから「こんな企画を考えているんだけど」と声をかけていただいて、「ぜひ」と。

森山 今、社会の在り方とか日本のいろいろな課題が浮き彫りになっている中で、大前くんは表現者の枠組みにとらわれずいろいろな場所で活動していて、多くの方に希望を与える存在になっていると思うんです。なので、大前くんにこのイベントに参加してもらえたら、このイベントの主旨がより強くなる気がして、協力をお願いしました。

大前 ということです(笑)。

なんとなく“塩梅”がわかる2人

──お二人は以前もお仕事をご一緒されていますが、今回ダンサーとして共演されて、新たな発見はありましたか?

大前 僕がどれだけ茶々を入れても、森山さんは怒らないんです(笑)。「どこまでいったらこの人は怒るんだろう?」って思いながらやるんですけど、それでも怒らないですね。

森山 あははは! その壁を壊すのはなかなか難しいですよ、僕は簡単には怒らないから。

大前 (笑)。僕は昔から森山開次さんの作品を劇場でよく観ていて、森山さんが作りたいものとかノリが大体わかるので、今回も入りやすかったですね。それに、僕の世界観とけっこう近いものを森山さんも持っているなと感じていて、僕の中にある要素を使って表現することができました。だからクリエーションの時間は限られていたけど、とんとん拍子に撮影が進んで、かつクオリティの高いものができたと思います。

──森山さんも、想定以上に作品が膨らんでいった実感がありますか?

左から森山開次、大前光市。

森山 そうですね。普段ももちろん、稽古場に入る前にいろいろとイメージしていきますが、基本的に“空想魔”なので(笑)、稽古が始まるとあらかじめイメージしていたものが飛んで行っちゃうことはよくあるし、その場で生まれたことをどれだけ紡いでいくかということが重要だと思うので、それがプラスに働くように考えていきます。今回も、せっかく大前くんとやるのだし、神奈川県立音楽堂というぜいたくな空間で撮影するのだから、僕たちが現場で意見を交わしながらできあがったものがリアルだと思うし、そのことを楽しんでやるのが一番かなと考えて取り組みました。それに僕たち2人、なんとなく“塩梅”がわかるんですよ。どちらかが出すと他方が受け止める、っていうバトンタッチが、大前くんとは何の心配もなくスムーズにできるので、作品をどんどん紡いでいけたなって。

でもそれは僕たちの力だけではなくて、「LIVE BONE」シリーズで10年以上活動を共にしてきた、ひびのさんや川瀬さんの存在も大きいです。そこに新たなメンバーとして大前くんに入ってもらったことで、僕自身が、今までやってきたものに固執するのではなく、大前くんの感情をできるだけ受け止めて、自分が「こうしたい」ということにこだわらずにやりたい、という思いが生まれました。

大前 なので、僕が調子に乗ってあれやりたい、これやりたいと言ったことを、森山さんに「やってみて」と採用してもらっています(笑)。

作品は決断の連続でできていくもの

──大前さんのソロはどんな作品になるのでしょうか?

大前 振付については、僕が森山さんにいろいろとわがままを言って考えてもらい、撮り方は監督や森山さんと話し合いながら作っていきました。昔の森山さんの作品っぽいところもあったりするんです。

LIVE BONE×大前光市より。

森山 大前くんのソロでは、「LIVE BONE」で僕が親しんできた楽曲を大前くんが踊っています。数年前だったら「自分の作品だから踊ってほしくない」と思ったかもしれないけれど、これについてはそういう思いがあまりなくて。“心臓”をテーマにした踊りなんですけど、大前くんはまったく違うものにしてくれたので、僕もとてもうれしいし、面白かったですね。踊る人が変わるだけで全然違うものが生まれるんだなと思いました。まあ、僕たちはそれがやりたくてやっている、というか、それ以外やりたくないと思っていますし、自分自身が何を選ぶか、どの音楽を選択して、どの振りを動きの1つに選択して、どこでどう動くのかなど、自分自身の決断の連続で作品はできていくものだと思うんですね。その意味では今回も、大前くんが自分なりの選択をたくさんしてくれたら良いなと思っていました。また今回は配信なので、監督やカメラマンによって作品が切り取られるところもあるし、自分たちが最終的に作品をどういう形で終わらせるかは悩ましいところだと思っているんですけど、大前くんに「最後は任せます」と言われたので、2つ考えていた選択肢のうち、「大前くんだったらこっちだな、こっちのほうが面白いな」と思ったほうを選択したつもりです。

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障壁は可能性