ステージナタリー Power Push - 「過激派オペラ」江本純子インタビュー

青春と愛とエロを描いた処女小説で初メガホン

俳優は、天然物のように、そこにいるだけでいい

──キャスティングについては、どのように意識されたのでしょうか?

早織演じる重信ナオコ。

重信ナオコ役と岡高春役はオーディションです。早織さんと中村有沙さんを選んだのは、2人がなぜか自然とカップルに見えたから。あと、オーディションの中で演出をつけた時に、2人には私の演出の言葉とか要求がすっと伝わった感じがしたので。劇団員の出水、工藤、寺山田は、いろいろ可能性を考えすぎてなかなか決まらなかった役です。最終的に決まった桜井ユキさん、森田涼花さん、佐久間麻由さんは、私が当初、頭で想像していたそれぞれの役のイメージを確実に凌駕してくれたので、よかったなと思っています。

──この映画のために集められたメンバーなのに、稽古場のシーンでは本当に劇団っぽく見えました。

そうですね、劇団っぽくなったのは毛布教の稽古場となる工場跡地で、ひたすら稽古場シーンのリハーサルを行った成果だと思います。稽古場のシーンが多かったのは、ロケ地の制約があったということもあるんですけど、すべてのことが稽古場で起こり、稽古場で解決して、すべての出来事が稽古場に詰まっているというふうに見せたかったからなんです。

──結果、薄暗く濃密な稽古場の雰囲気と、さわやかな外の様子がとても対照的でよかったです。

そうですね。稽古場の中の閉塞感や、その中だけでの熱狂が浮き彫りになりました。いったいあの稽古場の中で何が行われているのか、っていう異様な感じが出ました。

──撮影では、役者さんたちにかなり厳しく演出をつけられたのでしょうか? というのも、役者さんたちからそのようなコメントが……。

中村有沙演じる岡高春。

え? (早織の「あーもう監督に会いたくない。でも忘れられない、あの創作に向かう非情な非常な愛。」というコメントを読んで)ほんとだ(笑)。私は今、ハリボテで世界を作っているものが嫌で、最近は俳優がフィクションの世界で演技をすることにまで、“ハリボテ”を感じてしまうときがあります。私が見たいのは、演技をしている俳優の姿よりも、天然物のようにその場にいることができる動物のような姿なんです。とはいえ、この映画には脚本がある。今回は、脚本に書かれていることを「演技ではない方法」でどう表現するか、ということを俳優と追求していこうと思いました。でもそんなに難しいことは要求していません。俳優として指定された場所に入り、そこで俳優として指定された役に……ならなくてよくて、自分でいてもらえればいいんです。役を捨てて、セリフを捨てて、自分の言葉でしゃべってくれればいい。結果、俳優としてやらなきゃいけない部分は、指定された場所にいるだけでいい、その場所でどう過ごすかは、自由。すると、そこに集っている人たちによって、行われていくこと、起こっていくことは、その集団にとっての本当になります。これが「演技をする」「役を演じる」ということが当然になっている俳優にとっては、非常に難しく、不安になることのようで、私はその囚われた部分を、解いていくための誘導もしました。人工的な俳優の精神を、動物的な状態にしていくこと……それは稽古というより、よい言葉ではないけれど “調教”のようなことかもしれません。その調教の先には、俳優たちの“役”を集めて作っていくニセのドラマではなく、俳優たちの“個”の姿で描いていく嘘も本当も境のないようなものが生まれるはずです。私はそれが撮りたかった。でもなんであんなに感情的になっちゃうんでしょうね(笑)。私も未熟な調教師だから、感情のままにやっちゃうことがあるんです。

──早織さんは、透明な柱のような存在というか、強烈な押し出しがないのに、確固とした存在感を感じさせましたね。

劇団としてのリハーサルが長かったので、自然とそうなりましたね。早織さんがナオとして無理して劇団を引っ張るというよりは、劇団員役の俳優それぞれが早織さんを支えているような、それは脚本上とは違う関係性でしたけど、リハーサルを経て自然と生まれたものだったので、その姿を尊重して撮りました。

劇団毛布教のメンバー。

──また、大駱駝艦のダンサーや高田聖子さん、安藤玉恵さん、岩瀬亮さんといった舞台で活躍する面々が要所要所に出演されているのも気になります。

高田さん演じる桜田は、怪しい店にいる演劇プロデューサーの役なんですけど、私の中で「異質な世界ってなんだろう?」って考えたら白塗りの人たちが思い浮かんで(笑)。大駱駝艦を自分の映画で撮ることができて、すごくうれしかった。安藤さんはナオコと春が同棲するアパートを借りる、不動産屋の女という役。本番前に安藤さんとエチュードをして、そこで生まれたおしゃべりを、1人で語ってもらいました。岩瀬くんは春が以前所属していた劇団の演出家で春を連れ戻しに来る役。岩瀬くんにはカットごとに春や毛布教に投げつける言葉を変えてもらったので、スタッフの皆さんはすごく困ったと思います(笑)。

映画「過激派オペラ」

映画「過激派オペラ」

東京・テアトル新宿:2016年10月1日よりレイトショー、大阪・第七藝術劇場:10月29日より、愛知・名古屋シネマテーク:11月12日より、福岡・福岡中洲大洋:12月17日より、ほか、順次全国公開予定
あらすじ

“女たらし”の女演出家・重信ナオコは劇団「毛布教」を立ち上げ、旗揚げ公演「過激派オペラ」のオーディションを開催。そんな中、1人の女優、岡高春に出会う。春に一目惚れしたナオコは春を主演に抜擢し、学生時代からの演劇仲間や新たに加わった劇団員たちと旗揚げ公演に向けて邁進していく。同時に、ナオコの猛烈なアタックにより春との恋愛も成就。絶好調のナオコは旗揚げ公演を大成功に終わらせ、すべて順調に進んでいるように思えたのだが……。

スタッフ

監督:江本純子
原作:江本純子「股間」(リトルモア刊)
脚本:吉川菜美、江本純子

キャスト

重信ナオコ:早織

岡高春:中村有沙

出水幸:桜井ユキ
工藤岳美:森田涼花
寺山田文子:佐久間麻由
麿角桃実:後藤ユウミ
松井はつね:石橋穂乃花
三浦ふみ:今中菜津美

夏村ゆり恵:趣里

ミツキ:増田有華
里菜:遠藤留奈
伊集院吹雪:範田紗々

仙川:宮下今日子
バイト先の女:梨木智香
松平了:岩瀬亮
劇場スタッフ:平野鈴

白塗りの男たち:<大駱駝艦>小田直哉、小林優太、金能弘、宮本正也

オーディション志願者:大井川皐月、木村香代子、妃野由樹子、藤井俊輔、巻島みのり、安川まり、吉川依吹、吉水りふ

不動産屋の女:安藤玉恵

桜田美代子:高田聖子

江本純子(エモトジュンコ)

1978年千葉県生まれ。立教大学入学と同時に演劇を始め、21歳で劇団「毛皮族」を旗揚げ。2009年の「セクシードライバー」、2010年の「小さな恋のエロジー」が岸田國士戯曲賞の最終候補作となる。2012年に初の海外公演として、毛皮族「女と報酬Le fric et les femmes」をフランス・パリ日本文化会館にて上演。近年の主な演出作品に「ライチ☆光クラブ」「幕末太陽傳」など。今年は「二月のできごと」、小豆島の大部で滞在制作した野外演劇「とうちゃんとしょうちゃんの猫文学」で台本・演出・出演を務めた。