「あらしのよるに」が8年ぶりに歌舞伎座に!中村獅童、尾上菊之助が“命として愛し合う”2匹を演じる

目まぐるしく変化していく日々、ふと非日常的な時間や空間に浸りたくなったら、“ゆるりと歌舞伎座で会いましょう”。12月の歌舞伎座の第一部には、中村獅童と尾上菊之助による「あらしのよるに」がラインナップ。同演目は、きむらゆういちの同名絵本を原作とする歌舞伎作品で、2015年に京都・南座で初演されて以来、繰り返し上演されている。今回、歌舞伎座で上演されるのは、約8年ぶりのこととなる。

ステージナタリーでは、初演版より狼のがぶ役を勤めている獅童と、山羊のめい役を初役で演じる菊之助の対談を実施。2023年上演の「新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX」をきっかけに親交を深めたという2人は、互いに対する印象や、作品への思いを語ってくれた。また特集後半では、本公演で二代目澤村精四郎を襲名する澤村國矢に注目。“兄貴”と慕う獅童のことや、師匠・澤村藤十郎との襲名にまつわるエピソードを明かす。

[対談]取材・文 / 川添史子撮影 / 平岩享[コラム]文 / 櫻井美穂

中村獅童&尾上菊之助 対談

「あらしのよるに」が8年ぶりに歌舞伎座に!

──ある嵐の夜、狼のがぶと山羊のめいが、お互いの姿が見えない真っ暗な小屋の中で出会い、天敵の間柄を乗り越えながら友情を深めていく……名作「あらしのよるに」が、8年ぶりに歌舞伎座に帰ってきます! がぶは初演時から続投の獅童さん、そして今回は菊之助さんが初役でめいを演じられます。

中村獅童 確か菊之助さんにめい役を……というお話は、(2人が共演した)「新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ(以下、FFX)」(2023年)の公演中にご相談したんですよね?

尾上菊之助 はい、「FFX」の昼夜間に獅童さんが楽屋にいらしてお話をした記憶があります。

──菊之助さんは立役も女方もなさいますが、めいという役は、演じる方によって男の子にも女の子にも捉えられますね。

菊之助 いじめられっ子のがぶと、幼い頃に両親を亡くしためい、それぞれの孤独感が2人の距離を一気に縮めて、同じ価値観を確認する……男女間の恋愛ともどこか違う、“命として愛する”ようなことではないかと想像しています。

獅童 舞台を観た帰り道に「メスだよ」「オスでしょ」って、お客さまがいろいろと解釈してくださるのも観劇の楽しみじゃないですか。僕としても、いろいろな見方でいいと思っているんです。

菊之助 思わずがぶがめいに「おいしそう」と言ってしまうセリフもあるぐらいですから、おいしそうに見せたいとは考えているのですが(笑)。雷が嫌いとか、“風のうた”が好きとか、そういったお互いの共通点を見つけて、自分らしく信念を持って生きることができれば、高い壁も乗り越えられるかもしれない。おそらく、種族を超えて感じる命の尊さのようなことですよね。

左から尾上菊之助、中村獅童。

左から尾上菊之助、中村獅童。

獅童の息子たちが、幼い頃のがぶとめいに

──今回は獅童さんのお二人のお子さんも初出演。中村陽喜さんが幼いころのめい、中村夏幹さんが幼いころのがぶを演じます。

獅童 初演時には生まれていなかった2人が、思い入れのあるこの作品に出るなんて信じられません。2人でがぶの取り合いでケンカになるかと覚悟していましたが、陽喜があっさり「将来立役も女方も両方やりたいから、めいがやりたい」と言って、揉めることなくスムーズに決まってホッとしました(笑)。陽喜は新しく加わる、山羊の群れの踊りにも出していただきます。ですので冒頭はガラッと印象が変化すると思いますね。がぶの父親が幼いがぶに語りかける場面では、僕が今回初めて父親役で出ます。

──獅童さんは2役になるんですね。将来、お二人が大人になったら、がぶとめいを演じられる日が来るかもしれません。

獅童 劇中に「自分らしさを信じて生きていれば、あなたを信じてくれる仲間ができる」というセリフもありますし、特に夏幹には、彼が生きていく勇気につながってくれたらうれしいと願っています。もちろん2人がやるのが当たり前ではなく、彼らには努力して役を勝ち取ってほしいとも思います。

中村獅童

中村獅童

共演が増えた獅童&菊之助の絆

──近年はお二人の共演の機会がグッと増え、いろいろな役の組み合わせで拝見するのが新鮮です。

獅童 「FFX」まで10年も共演してなかったなんて驚くほど、近年はご一緒する機会が増えましたよね。

菊之助 今年の6月も「上州土産百両首」で幼なじみの役で共演させていただいたばかりですし。

尾上菊之助

尾上菊之助

獅童 最近は舞台でご一緒するだけではなく、これからの歌舞伎についても、いろいろなお話をさせていただいています。先日ふと思い出したのですが、20年ぐらい前、知人の洋服の展示会で偶然お会いしましたよね? 「お兄さん、◯月ってスケジュールどうなっていますか?」「そこは映像の撮影が入っていて」なんて会話を交わしましたが、今思えば「NINAGAWA十二夜」(2005年)のことだったんだ、と思って。まだそんなにしゃべったこともないときだったので強く印象に残っていますし、声をかけてくれてすごくうれしかったんです。

──「FFX」よりも前に、新作でご一緒される可能性もあったんですね。菊之助さんは獅童さんとの思い出で印象的な出来事はありますか?

菊之助 忘れもしない「FFX」の稽古場で、初日までにやるべきことと、残りの稽古日数がどう考えても合わなくて、進行で悩んでしまったんです。そんなときに獅童さんが「焦る気持ちはわかるけれども、各ポイントをきっちり固めておかないと、先に進んでもうまくいかなくなるから」とアドバイスくださいました。要所、要所でブレーキをかけてくださったり、力を貸してくださったり、本当に支えになってくださいました。