尾上右近×尾上眞秀、「音菊曽我彩」で“親子”から“兄弟”に 10月は歌舞伎座で会いましょう

目まぐるしく変化していく日々、ふと非日常的な時間や空間に浸りたくなったら、“ゆるりと歌舞伎座で会いましょう”。10月の「錦秋十月大歌舞伎」昼の部には、尾上右近と尾上眞秀が、それぞれ曽我一万、曽我箱王と、“曽我兄弟”に扮する「『音菊曽我彩おとにきくそがのいろどり』稚児姿出世始話」がラインナップされている。2人は、8・9月に大阪・東京で行われた尾上右近の自主公演「研の會」にて「連獅子」で、“親子”役を演じたことも記憶に新しい。

ステージナタリーでは、今、最も息がぴったりな2人にインタビューを実施。撮影で仲良しっぷりを発揮した2人は、「研の會」での思い出や「音菊曽我彩」に対する期待をたっぷりと話してくれた。また、さまざまなアーティストやクリエイターに歌舞伎座での観劇体験をレポートしてもらう企画「歌舞伎座へ」には、内田慈が登場。木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」で玉手御前を演じた内田が、「『摂州合邦辻』合邦庵室の場」に触れる。

取材・文 / 川添史子撮影 / 平岩享

尾上右近×尾上眞秀インタビュー

尾上右近・尾上眞秀が“曽我兄弟”に

──「錦秋十月大歌舞伎」昼の部、「『音菊曽我彩』稚児姿出世始話」で、お二人は兄弟役を演じます。右近さん演じる一万、眞秀さん演じる箱王は、それぞれ十郎と五郎の幼名。父の仇を討った兄弟を描き、多くの歌舞伎の題材となった「曽我物語」の世界です。

尾上右近 父の敵である工藤祐経の顔を知らなかった兄弟が、その相手と初めて会う……歌舞伎がお好きな方にはおなじみ、様式美あふれる祝祭劇「対面」を、秋の趣向を加えて新たな着想で送ります。仇討ちのエピソードゼロと言えばわかりやすいでしょうか? (眞秀の祖父である尾上)菊五郎のおじさま(工藤役)、中村魁春のお兄さん(大磯の虎役)、中村芝翫のお兄さん(鬼王新左衛門役)、といった大先輩の皆様、同年代の仲間である坂東巳之助さん(小林朝比奈役)や中村橋之助さん(秦野四郎役)、さらに18歳の尾上左近さん(化粧坂少将役)が並ぶ、華やかな舞台になりそうです。舞踊劇ですから理屈は考えず、悲願成就を願う兄弟のエネルギーと、個性的なキャラクターたちを楽しんでいただければと思います。

尾上右近

尾上右近

──座頭が演じる工藤祐経、和事の十郎と荒事の五郎、立女方の大磯の虎と若女方の化粧坂少将、曽我の忠臣である鬼王新左衛門、ユーモラスな道化役の小林朝比奈、凛々しい家来の秦野四郎……まさに役柄の見本市。それぞれの拵えの違いも楽しみです。

右近 タイトルに“稚児姿”とありますし、我々の拵えは幼い雰囲気になると思います。ただ隣に本物の少年(眞秀)が並ぶので、稚児の化け物みたいに見えないよう、若々しくがんばります(笑)。

──眞秀さんの意気込みはいかがですか?

尾上眞秀 「対面」の五郎はいつかやってみたい役ですから、その小さな頃を演じられるのがうれしいです。

尾上眞秀

尾上眞秀

“みっくん”大好きな2人

──昨年、「團菊祭五月大歌舞伎」での眞秀さん初舞台(「音菊眞秀若武者」)も豪華出演者で実に華やかでした。こちらは右近さんと巳之助さんがご一緒にたっぷり踊る場面もありましたね。

右近 あのときは大先輩が居並ぶ前で、内心緊張でドキドキ。お祝いの気持ちだけが心の支えでした(笑)。

──お兄さんたち、がんばられたそうです(笑)。眞秀さん、初舞台はいかがでしたか?

眞秀 毎朝9時半には劇場に入って、大道具さんたちとラジオ体操もしました。

右近 そうそう、出演は昼の部の最後なのに早い時間から劇場に入って……ずっとみっくん(巳之助)の楽屋にいたよね。

眞秀 みっくんが入るのを楽屋で待っていました!

右近 あの月は、お風呂に入りながらしみじみと「みっくんとは話が合う」と言ってたらしいですよ。

一同 (笑)。

左から尾上眞秀、尾上右近。

左から尾上眞秀、尾上右近。

──巳之助さんとはどんなところでウマが合うんですか?

眞秀 うーん、マンガの話とか?

右近 何かと周波数が合うみたいね。みっくんは僕とも周波数を合わせてくれる、ホント素晴らしい人なんです(笑)。

尾上右近

尾上右近

尾上眞秀

尾上眞秀

2人で挑んだ「連獅子」の思い出

──劇場に来るのがうれしい、楽屋が楽しいというのは、何よりですね。お二人の共演は、8・9月に行われた右近さんの自主公演「研の會」の「連獅子」から連続となります。

右近 千穐楽のカーテンコールで眞秀がニコニコと「10月は歌舞伎座に出るので観に来てください」とごあいさつしていて、「その気持ち、よくわかるなあ」と思ったんです。というのも僕も小さな頃、千穐楽の日は「次はいつ舞台に立てるんだろう?」と寂しくて仕方がなかったですから。大人になると舞台が続くのが当たり前になってしまって、つい無限ループ状態に慣れてしまうじゃないですか。眞秀のピュアな言葉から、大事な気持ちを思い出させてもらいました。すぐに次の舞台があるのは、やっぱりうれしいよね?

眞秀 (コックリ頷く)

右近 そうだよねー。大人の皆さん、ぜひ眞秀の次の予定も早目にお決めください(笑)。

尾上右近自主公演 第8回「研の會」より「連獅子」。©研の會

尾上右近自主公演 第8回「研の會」より「連獅子」。©研の會

──眞秀さんの仔獅子、真剣にお稽古したことが伝わってくる、勇ましく立派な踊りでしたね。

眞秀 お稽古ではなかなか毛振りをそろえられなかったけど、本番になったらできました。ひーま(菊五郎)からも、「毛の振り方を親獅子と合わせるのが一番大事」とアドバイスされていたので、がんばりました。

右近 僕はなんの心配もしていませんでしたから、稽古で眞秀が「そろえられない」と焦っていたなんてまったく知らなかったんです。やはりお客様を目の前にすると力が湧いてきて、お稽古よりもがんばれる。“狂い”と呼ばれる激しい動きを見せるところは、トランス状態になっていきますし、生演奏の音圧が背中を押してくれるんです。千穐楽の割れんばかりの拍手を眞秀と一緒に浴びることができたのは、忘れられない思い出になりました。あの日、実は、昼の部が終わった後の眞秀の様子を見ていたら、まだまだいけそうだったんですよ。だから最後の夜だけ長く毛を振ったんです。(眞秀に)ね?

尾上右近自主公演 第8回「研の會」より「摂州合邦辻 合邦庵室の場」。©研の會

尾上右近自主公演 第8回「研の會」より「摂州合邦辻 合邦庵室の場」。©研の會

眞秀 昼夜の間にお昼寝したらすごく元気になって、起きた瞬間から「おはようございます!」って大きな声が出ました。

右近 それで「もしかして、最後はもっと行けそう?」と聞いたら「うん!」と威勢のいい返事が返ってきた(笑)。「よく言った、じゃあ全部出し尽くそうぜ!」ってがんばったんだよね。

眞秀 (ニッコリ)