片岡仁左衛門が“一世一代”で「霊験亀山鉾」に挑む、2月は歌舞伎座で会いましょう (2/2)

試行錯誤し、挑戦し続ける思い

──あれだけのインパクトある演技を“自然に”見つける引き出しがビックリなのですが……「霊験亀山鉾」は、実悪を得意とし、見得をしただけで子供が泣いた伝説が残る“鼻高幸四郎(五世松本幸四郎)”主演で大当たりをとった作品。先ほど話題にも出た南北の仇討ち狂言「絵本合法衢」も同じく五世幸四郎に書かれた作品ですね。仁左衛門さんはこうした、さまざまな南北作品を演じてこられた経験から“自然に動ける”土台ができあがったのでしょうか。

それはありますね。ただね、当時五代目さんがおやりになったものと私の水右衛門はずいぶん違うと思うんですよ。先ほど申し上げたように原本にあたると随分とリアルな表現が書いてありますから。もちろん現場で変化していったかもしれませんし、映像はありませんからまったくの想像ですけどね。話が少しずれますが、例えば、古いレコードで先輩方のセリフを聞くと謡うセリフでもやはり今よりリアルなんですね。現代は言葉の意味を伝えるより音符が先行しがちになってきてるんですよね。演歌でもただ節をつけて歌うのと思いを込めて歌うのではずいぶん伝わるものが違いますでしょう? 昔の歌舞伎役者の方は、セリフに心がこもっていて、かつテンポが速かったのだと思いますね。

片岡仁左衛門

片岡仁左衛門

──仁左衛門さんの演技にも、場面や型の中に人物の繊細な心理が1つひとつ縫いとめられていて、美しい様式の中にしっかりドラマが感じられます。「霊験亀山鉾」再演にあたって改めて台本を読み直され、「今回はこうしてみよう」と目論んでいる部分はありますか?

それは何箇所もあります。でも言いません(笑)。言ってしまうと、お客さまがそこばっかり気になってしまいますからね。細部は毎日変化していくでしょうし、自分が思っているように全部できたら名人ですから、試行錯誤し続けると思います。つくづく先輩方がすごいと思うのは、昔は自分の演技を映像で確認したり、自分のセリフを客観的に聞くなんてことはできなかったわけですよね。現代ではそれが可能なのに、先輩方に追いつけない自分はなんて情けないんだろう、昔の方々というのは本当にすごいなあと思います。

──初日が開いても台本を読み直し、映像で確認し、日々向上させていく仁左衛門さんの情熱も素晴らしいと思うのですが……。

私はただ貪欲なんでしょうね。あとは常に“挑戦する気持ち”を大切にすることですね。

片岡仁左衛門

片岡仁左衛門

プロフィール

片岡仁左衛門(カタオカニザエモン)

1944年生まれ。1949年に片岡孝夫の名で初舞台。1998年に十五代目片岡仁左衛門を襲名した。

今月の黙阿弥

ほんに今夜は節分か…「三人吉三」に見える“作者の自信”

「三人吉三廓初買」より、「大川端庚申塚の場」。左から四代目市川小團次演じる和尚吉三、三代目岩井粂三郎演じるお嬢吉三、初代河原崎権十郎演じるお坊吉三。

「三人吉三廓初買」より、「大川端庚申塚の場」。左から四代目市川小團次演じる和尚吉三、三代目岩井粂三郎演じるお嬢吉三、初代河原崎権十郎演じるお坊吉三。

今月の歌舞伎座第一部では、没後130年を迎える河竹黙阿弥の代表作「三人吉三」が掛かる。舞台は節分の夜。和尚吉三、お坊吉三、お嬢吉三、偶然にも同じ「吉三」と名乗る三人の盗賊が出会い、義兄弟の契りを結ぶ……。もっとも有名なセリフは、序幕「大川端庚申塚の場」でのお嬢「月も朧に白魚の篝(かがり)も霞む春の空、冷てえ風もほろよいに、心持よくうかうかと、浮かれ烏のただ一羽、ねぐらへ帰る川端で、棹の雫か濡手で粟、思いがけなく手に入る百両……」だろう。こういった掛け詞(ことば)や縁語を駆使し、七五調の美文でつづった長セリフを「ツラネ」と呼ぶ。俗に言う「厄はらい」で、厄年の者がいる家で縁起直しの祝詞を唱える「厄はらい」の風習が語源。お嬢が「ほんに今夜は節分か」と言うのは、節分の夜に「御厄払いましょう、厄落とし」と町を練り歩く門付けの声を受けている。

今では誰もが認める人気作だが、安政7(1860)年の初演時、隣の座に出演していた四代目中村芝翫の人気に客足を奪われ、評判は芳しくなかったと言われている。しかし作者は同作に自信を持っていたようで、自作の活字化に積極的ではなかった黙阿弥が、「三人吉三」の活字化には2度も関わっている。娘に自信の程を語ったという伝聞も残されており、本人にとっても、会心の作だったに違いない。

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