坂東玉三郎が魅せる“江戸っ子の意気地や粋”を味わいに、12月は歌舞伎座で会いましょう (2/2)

“これから”の肝になるのは「お客様とどう向き合っていくか」

──玉三郎さんが「助六」に初めてご出演されたのは1960年、新宿第一劇場、お父様(十四世守田勘弥)が助六をなさったときです。

10歳のとき、禿(花魁の身の回りの世話をする子ども)をやりました。あのころは終演が遅くても平気な時代でしたから、お化粧を落として帰るのが22時半過ぎ。そんな深い時間を子供が新宿で過ごすのは、なんだか心細かったことを覚えています。劇場に向かう手すりのある坂を歩いていく感覚も記憶にありますし。澤村宗十郎さん(当時訥升)がまだ二十代で揚巻をなさっていて、すごく良かった。思えばあっという間の60年ですね。ついこの間のような気がしてしまうけれど。

今回の舞台に向けて撮り下ろされた、坂東玉三郎扮する白玉。(撮影:柏原孝史)

今回の舞台に向けて撮り下ろされた、坂東玉三郎扮する白玉。(撮影:柏原孝史)

──今回の公演は十三代目市川團十郎白猿襲名披露での「助六」。2004年、十一代目市川海老蔵襲名披露にも揚巻でご出演されました。

十一代目さんにもお目にかかっていますし、十二代目さん十三代目さんとはたくさんの舞台をご一緒し、三代にわたってのお付き合い。もう“海老蔵”がいないのが、不思議な感じがします。でも襲名とは1つの通過点のようなもの。(市川)新之助さんもお芝居がお好きだと伺っているので、とても楽しみです。

──先月から今月は、尾上菊之助さんや中村七之助さんはじめ、玉三郎さんにいろいろな役を教わった若い女方の皆様が立派に大役を勤められます。

段取りや仕事については教えられますが、心情はお1人おひとりがご自分で作っていくものです。“感覚”は移植できませんし、こればっかりは山中伸弥教授にもお願いできませんしね(笑)。決まった型はありますが、ご自分が持っているものを生かし、役を作り上げていただければと思います。

──最後に、歌舞伎の未来についてのお考えも伺えますか。

言っておきたいことなんて何もないんですよ。あえて言うなら、やはり「お客様とどう向き合っていくか」だと思います。お客様に媚びずに、しかもお客様が求めている所に芝居をもっていく。その心意気がある人、そこの線引きができる人が、未来の歌舞伎を引っ張っていくのでしょう。けれどもこの“線”は、時代、時代によって揺れていくもの。常に探り続けるしかないのだと思います。

坂東玉三郎

坂東玉三郎

プロフィール

坂東玉三郎(バンドウタマサブロウ)

1957年に坂東喜の字を名乗り初舞台。十四代目守田勘弥の養子となり、1964年に五代目坂東玉三郎を襲名。重要無形文化財保持者(人間国宝)、フランス芸術文化勲章コマンドゥール章他、受章・受賞多数。歌舞伎以外では、1988年にモーリス・ベジャール振付「ベジャール・バレエ・ガラ」に出演、1991年「外科室」で映画初監督を務めた。

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