「8つの国際共同制作を振り返る オンライン座談会 ~プロセスオブザーバーの視点から~」が2月18日と25日に開催された。この座談会は、国際交流基金が主催として2020年度から2021年度にかけて制作した8つの舞台芸術国際共同制作事業に対して、研究者や制作者、批評家などさまざまなバックグラウンドを持つ第三者が、“プロセスオブザーバー”として作品の創作過程を記録し、報告書やイベントを通じて発表するもの。ステージナタリーではその座談会の様子を2回に分けてレポートする。第2回には、プロセスオブザーバーの島貫泰介、堀切克洋、高橋彩子、南出和余が登壇。堀切はフランス在住のためオンラインで参加した。なお座談会の様子は国際交流基金の公式YouTubeチャンネルでも公開されている。
取材・文 / 熊井玲撮影 / 桧原勇太(写真提供:国際交流基金)
第2回の座談会で語られる国際共同制作4作品
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チェルフィッチュ×藤倉大、クラングフォーラム・ウィーン(オーストリア)「新作音楽劇ワークインプログレス公演」
2021年11月5日(金)※公演終了
東京都 タワーホール船堀 小ホール作・演出:岡田利規
作曲:藤倉大
出演:青柳いづみ、朝倉千恵子(ワークインプログレス公演は出演なし)、大村わたる、川﨑麻里子、椎橋綾那、矢澤誠
演奏:クラングフォーラム・ウィーン、吉田誠(クラリネット)、アンサンブル・ノマド(弦楽四重奏)
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SPAC-静岡県舞台芸術センター×フランス国立 演劇センタージュヌヴィリエ劇場(フランス)SPAC秋→春のシーズン2021-2022 #2「桜の園」
2021年11月13日(土)・14日(日)、20日(土)・21日(日)、23日(火・祝)、28日(日)、12月12日(日)※公演終了
静岡県 静岡芸術劇場作:アントン・チェーホフ
演出・舞台美術:ダニエル・ジャンヌトー
アーティスティックコラボレーション・ドラマツルギー・映像:ママール・ベンラヌー
翻訳:アンドレ・マルコヴィッチ、フランソワーズ・モルヴァン(仏語)、安達紀子(日本語)
出演:鈴木陽代、布施安寿香、ソレーヌ・アルベル、阿部一徳、カンタン・ブイッスー、オレリアン・エスタジェ、小長谷勝彦、ナタリー・クズネツォフ、加藤幸夫、山本実幸、アクセル・ボグスラフスキー、大道無門優也、大内米治
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カンパニーデラシネラ×リー・レンシン(マレーシア)、リウ・ジュイチュー(台湾)「TOGE」
「TOGEアトリウム」無料パフォーマンス
2021年12月9日(木)~11日(土)※公演終了
神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 アトリウム「TOGE」劇場公演
2021年12月17日(金)~19日(日)※公演終了
神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ演出・出演:小野寺修二
出演:梶原暁子、リー・レンシン、崎山莉奈、リウ・ジュイチュー、藤田桃子
島貫泰介・堀切克洋・高橋彩子・南出和余 座談会
国際交流基金の、プロセスオブザーバー制度立ち上げへの思い
国際交流基金とは、世界の全地域において総合的に国際文化交流を実施する専門機関。“日本の友人をふやし、世界との絆をはぐくむ”をミッションに、文化と言語と対話を通じて、日本と世界をつなぐ場を作り、人々の間に共感や信頼、好意を育むことを目指している。
国際交流基金はこれまで、日本の優れた舞台芸術作品を海外に派遣する事業を行ってきたが、2020年度から新たなプログラムとして、日本と海外のアーティストらが共同で作品を制作する「舞台芸術国際共同制作事業」を実施。2021年度は8つの舞台芸術国際共同制作事業が行われた。このうち、島貫泰介はチェルフィッチュ×藤倉大、クラングフォーラム・ウィーン「新作音楽劇ワークインプログレス公演」、南出和余はエス・シー・アライアンス×シェン・響盟・リベイロ、ガブリエル・レヴィ、アリ・コラーレス「空の橋」、高橋彩子はカンパニーデラシネラ×リー・レンシン、リウ・ジュイチュー「TOGE」、堀切克洋はSPAC-静岡県舞台芸術センター×フランス国立演劇センタージュヌヴィリエ劇場SPAC秋→春のシーズン2021-2022 #2「桜の園」のプロセスオブザーバーとして作品に伴走した。
第2回の座談会では第1回同様、始めに国際交流基金文化事業部舞台芸術チーム長の小林康博があいさつ。小林は国際交流基金の基本的なミッションとして、海外の人との相互理解のため、長年にわたって日本から海外へ舞台芸術を送り出してきたこと、国際共同制作では創作の過程で考え方の違いに直面したり“調整”したりする必要があり、その調整こそが新たな価値の創造につながると考えていることなどを語った。またプロセスオブザーバー制度は、その創作の“プロセス”を可視化することを目標としており、プロセスオブザーバーには国際的な共同制作のプロセスを、報告書やイベントなどを通じて公表してもらうと説明した。
エンジニアチームがリモート稽古に貢献、チェルフィッチュと藤倉大による新作音楽劇
まずは第2回のモデレーターでもある島貫が、チェルフィッチュ×藤倉大、クラングフォーラム・ウィーン「新作音楽劇ワークインプログレス公演」について報告する。本作は、チェルフィッチュの岡田利規が現代音楽家の藤倉大と生み出す“新たな音楽劇”で、2023年のウィーン芸術週間で上演される予定となっている。昨年11月にはその試演会が日本で行われ、クリエーションの一部が公開された(参照:“新しい音楽劇”を目指して、チェルフィッチュ×藤倉大の新作音楽劇試演会)。作品の内容について島貫は「新作音楽劇なので、演劇と音楽が新しい関係性を結ぶ、ということが主眼の1つですが、『消しゴム山』『消しゴム森』同様、岡田さんが近年大事にしている、人間中心的ではない世界や社会の在り方がテーマとなっています。『消しゴム山』『消しゴム森』では舞台美術と人間の関係性が描かれましたが、今回は音と人間がどのような関係を作っていけるかが骨子となっています」と説明した。
稽古は昨年7月にスタート。日本の稽古場と、イギリス・ロンドンの藤倉のスタジオをオンラインでつなぎ、まずはどのような方向性の作品にするかを模索していった。稽古の立ち上がりについて島貫は「作品のフォームがある程度決まっていて、その延長線上で作品を発展させていくのかと思ったら、本当に一から作品の方向性を考えていくんだなと。例えば岡田さんは近年、想像力を重視した考え方を大切にされていますが、それさえも取り払った状態でクリエーションに臨んでいることに驚きました」と語る。「11月には2度目のクリエーションが行われ、江戸川区のタワーホール船堀 小ホールでより実践的な稽古を行いました(参照:“新しい音楽劇”を目指して、チェルフィッチュ×藤倉大の新作音楽劇試演会)。直前に岡田さんがオペラ『夕鶴』(参照:「誇らしさと感謝と安堵を感じています」、岡田利規演出「夕鶴」東京で開幕)に参加していた影響もあって、音楽と演劇の関係性に、より踏み込むような形でクリエーションが再開されたのですが、このとき注目したのはリモートでのクリエーションを支えるエンジニアチームの役割です。今回のクリエーションには「ボンクリ・フェス」(編集注:毎年秋に開かれている音楽フェス。藤倉がアーティスティックディレクターを務める)のエンジニアチームが参加していたのですが、ロンドンの藤倉さんのスタジオとクリエーションが行われている劇場を、音や映像のクオリティを落とさず、ほぼリアルタイムにつないで、まるで藤倉さんのスタジオをそのまま劇場に持ってくるようなシステムを構築していたんです。そのことによって、藤倉さんが実際に稽古の現場にやって来るよりも、スタジオにある機材をすべて使ってクリエーションに参加できたり、その場で作曲した曲をすぐ稽古に使うことができたりして、『リモートになったことでより踏み込んだクリエーションができた』と藤倉さん自身もおっしゃっていました」と話す。
地球の反対側で共同制作、ブラジルと日本による「空の橋」
続けて南出が「空の橋」について発表した。「空の橋」は日本とブラジルの文化を融合させたオリジナルドーム映像、つまりプラネタリウム作品で、地球の反対側に位置するブラジルと日本が実は根っこでつながっていることを、神話的な世界観で表現する。本作には映像作家の橋本大佑、音響家の大竹真由美、音楽家の小林洋平といった日本のメンバーと、シェン・響盟・リベイロ、ガブリエル・レヴィ、アリ・コラーレスらブラジルのメンバーが参加し、プラネタリウムの教育的価値ではなく、エンタテインメントとしての価値を追求することを目指した。
南出は「当初、昨年8月にブラジルのアーティストの方が来日して合宿形式で共同制作する予定でしたが、コロナ禍によって実現せず、結局最初から最後までオンラインでクリエーションが進められました。まずはコンセプトを考える会議が重ねられ、それが決定すると絵コンテでストーリーの大枠を決めていき、映像と音楽それぞれの制作が進んでいきました。オンラインでの制作になったことでさまざまな変更があり、アーティストの皆さんは苦労されたと思いますが、その反面で、オンラインの可能性が開かれた取り組みだったとも思います。というのも、先ほど島貫さんのお話にもありましたが、日本のアーティストとブラジルのアーティストがそれぞれのスタジオで楽曲制作する様子がライブで共有されていたので、その場にある楽器をパッと持ち込んで、試しに演奏してみる、ということができたんです。もしブラジルのアーティストが来日し、合宿形式での制作をしていたら、ブラジルのスタジオにある楽器をすべて日本に持ち込むことはできなかったので、こういった試みはできなかったのではないでしょうか。また、実際に対面で制作する以上に、オンラインでは頻繁にコミュニケーションを取る必要があって、その結果、共有する時間が増え、相手を思いやる気持ちが芽生えたそうで、その点で国際共同制作の目的の1つは達成されたのではないかと思います」と語った。また12月に1日だけ行われた上映会については、「ドームを最大限生かしたダイナミックな作品で、プラネタリウムの芸術性やエンタテインメントとしての可能性を感じられたことは意義深かったと思います」と話した。
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アジア女性の強さに迫った「TOGE」