リーディング「星の王子さま」石川瑠華が語る、“分身ロボット・OriHime”との創作の日々 (2/2)

藤原佳奈の教え

──ドキュメンタリーでは、藤原佳奈さんによる稽古場の様子も観ることができます。藤原さんが、石川さんときよさんに「エチュードしてみよう」と持ちかけて2人の距離を近づけていったのには、「さすが演出家!」と感じました。

現場では、藤原さんが毎回「今日の身体の状態はどう?」と確認してくださって、お互いに無理しないよう、体調や心の調子が共有しやすい現場でした。それぞれが「今日は低気圧で体調が悪くて……」と自分の状態を素直に報告することで、新たなコミュニケーションが生まれたのもうれしかったです。

藤原佳奈

藤原佳奈

──ドキュメンタリーでは藤原さんが、大学時代に時代劇の現場で見た柄本明さんの身体から発せられる空気に驚き、「演劇をやっている人は身体の周りの空気を変えられるんだ」と思い演劇の道に進んだ、というエピソードを語っています。稽古や撮影を通じて、記憶に残っている藤原さんの言葉はありますか?

藤原さんからは、「身体の状態は、想像することで作れる」という大切なことを教えていただきました。映像の現場では、役の感情や心境は事前に作ることができても、撮影中の演技をしている身体の状態は、実際に現場に入ってみないとわからないし、作れないと思っていました。ただ、藤原さんの言葉から、身体の状態も、状況を自分の中で組み立てて想像してみることで、リハーサルや稽古の段階でも作ることができるな、と。特に今回、飛行士役という自分の体験をベースに作ることができない役だったので、よりその言葉が助けになりました。

OriHimeの扮装姿、石川瑠華のイチオシは…

──また本作の魅力の1つは、園田あけみさんが手がけた衣裳に身を包む、OriHimeたちのかわいらしい扮装姿だと思います。まさこさん演じるキツネ、優羽さん演じるヘビ、イトさん演じる王様、Akaneさん演じるうぬぼれや、ユキウサギさん演じる大酒飲み、みかさん演じる点灯夫、みちおさん演じる実業家、やまもとよりこさん演じる地理学者、そしてうーさん、ちいさん、ことのはさん、ナオキさん、さえさん演じる花やバラなど、どの役に扮したOriHimeが印象に残っていますか?

どれも本当にかわいいですが、個人的にはチェックの帽子をかぶった、点灯夫の衣裳にきゅんってなりました(笑)。飛行士役としては、王子さまの衣裳もお気に入りです。黄色いスカーフだけのシンプルな衣裳ですが、横や後ろ、前など、見る視点が変わると、風情が全然違って見えるんです。

OriHimeの扮装姿。

OriHimeの扮装姿。

──動くとさらに愛らしさが際立ちます。

頭に花をつけた花やバラたちは、動くと取れちゃうので大変そうでしたよ。

──ボディいっぱいで演技していますからね。

王子さまも、頭を動かすと首に巻いたスカーフがずれちゃって。ずれないよう改良しながら撮影していました(笑)。

左から、みか(OriHime)、きよ(OriHime)。

左から、みか(OriHime)、きよ(OriHime)。

“目に見えない”ものを信じる

──「星の王子さま」には、「ものごとは心で見る。かんじんなことは目に見えない」というメッセージが内包されています。ドキュメンタリーで、石川さんがOriHime越しにきよさんの姿を“想像”しようと奮闘されている姿が、作品のメッセージと重なりました。

この企画を通して、普段自分がいかに“目で”見てしまっているか、無意識に簡潔さやわかりやすさを求めているかを思い知らされました。今回はきよさんを“想像”しながら取り組むのが良いと思って臨んだので、実際にきよさんのお顔を拝見したのは、撮影終了後に行われたリーディング「星の王子さま」試写会のあとに披露された予告編(参照:【告知】OriHimeプロジェクト「ここに、いる。~分身ロボットと創る『星の王子さま』~」 - YouTube)でした。

OriHimeを介し、演技をするきよ。

OriHimeを介し、演技をするきよ。

──そのときの石川さんの様子は、ドキュメンタリーのラストに収められています。

ドキュメンタリーでは、きよさんが明るく振る舞おうとしてしまうことに葛藤されている様子が映っていましたが、私も最初は、きよさんのことを「明るい方なんだな」とそのまま受け取ってしまっていました。ただ一緒に過ごしているうちに、きよさんの明るいだけじゃない一面も知ることができて。どちらも併せ持ったきよさんだからこそ、王子さまを演じられたのだと思います。だって、王子さまがただ明るいだけの性格だったら、私はちょっと信じられない。私が飛行士として「星の王子さま」の世界にすっと入り込めたのは、きよさんの王子さまのおかげでした。

──「星の王子さま」に出てくるのは、みんな一言では性格を説明できないキャラクターばかりですが、現実の社会でも本当はそうで、ただ明るいだけ、暗いだけという人間はいないですもんね。

リーディング「星の王子さま」を作っている間、サン=テグジュペリの“きれいな世界”にいた感覚がありました。それは、“OriHime越しに役を演じる”ということに果敢に挑戦されているパイロットの皆さんや、藤原さんや大金さんといった「星の王子さま」に向かっている皆さんが、“目に見えない”ものを当たり前のように信じていたから。そんな皆さんの姿を見て、私も「現状に甘えちゃダメだな」と思いました。

──観客としては、パイロットの表情を意識しながら見ることで、作品の新たな広がりを感じることができました。

普段演技をするときに自分の中で記憶に残るものって、相手の顔だったり、表情の作り方だったりと、けっこう視覚的なものなんですけど、今回記憶に残ったのは、声など“目に見えない”ものでした。またOriHimeを通して、「こんなに人って話し方が違うんだ」とか「同じボディなのに、これだけ違うんだ」って気づかされました。

左から、やまもとよりこ(OriHime)、きよ(OriHime)。

左から、やまもとよりこ(OriHime)、きよ(OriHime)。

OriHimeの存在を広める手助けになりたい

──お話を伺っていると、ドキュメンタリーも1つのドラマのようで、OriHimeパイロットそれぞれにも興味が湧いてきます。

OriHimeを知らない方にとっては、少しハードルが高く感じられるかもしれませんが、「星の王子さま」という題材と掛け合わせることでかなり入りやすく、見やすく、そして興味を持ってもらいやすくなると感じています。リーディングを観ていただいたら、もっとOriHimeに興味が湧くんじゃないかな。そこからさらに「もっと知りたい」という気持ちになったら、心のままにドキュメンタリーに進んでいただいて、「面白いな」って思っていただけたらうれしいですね。ドキュメンタリーを観ることで、リーディングがまた違って見える気がします。

──リーディングを観たあとにドキュメンタリーを観てさらにリーディングを見返すと、各シーンがさらに奥深く楽しめるのではないでしょうか。

私はドキュメンタリーで、OriHimeパイロットの皆さんが苦悩しながら「星の王子さま」に挑んでいる姿を見て、皆さんのことがさらに愛おしくなりました。創作中は実際に見えなかった皆さんをさらに知れたことがうれしかったですね。この作品を通して、OriHimeの存在がたくさんの人に広まったら良いなと思いますし、私もその手助けをしていけたらと思っています。

プロフィール

石川瑠華(イシカワルカ)

1997年、埼玉県生まれ。2017年に舞台「SUGAR WORKS」でデビュー。近年の舞台出演作に、リーディング公演「さよならの幕開け」、二兎社特別企画 ドラマリーディング3「振り返る人たち」。2021年に公開された映画「うみべの女の子」では青木柚とW主演、映画「猿楽町で会いましょう」では主演を務めた。

リーディング「星の王子さま」視聴はこちら

OriHimeプロジェクト リーディング「星の王子さま」

ドキュメンタリー映画「ここに、いる。~分身ロボットと創る『星の王子さま』~」