劇場からはみ出す舞台美術
──本作は愛知県芸術劇場で開幕したあと、静岡、熊本、福岡、茨城、愛知の知立市と小牧市をツアーします。サイズや造りがかなり異なる劇場での上演となりますね。
宮城 愛知県芸術劇場は一度やったことがあって、やりやすい空間だと思いました。でも今回はさまざまな空間に変容し得るものの出発点として愛知で上演するので、愛知県芸術劇場の空間に縛られずに、舞台からはみ出すくらいに考えていかなきゃいけないと思っていて。舞台美術のカミイケ(タクヤ)さんもそんなふうに考えてくれていますし、実際明らかにはみ出しそうな装置になっているんですね(笑)。作品のイメージとしては、まったく囲いがない、途方もなく広いところでポツネンと芝居をやっている、みたいに見えればいいなと思っているんですが、カミイケさんはそこにあえてかなりごちゃごちゃと物を置くことを提案してくれていて。一見するとその2つは両立しないんだけど、実現できれば面白そうだなと思っています。
──静岡では、舞台芸術公園 野外劇場「有度」での上演となります。
宮城 野外の難しいところは、風が吹いたり雨が降ったり鳥が鳴いたり、自動的にたくさんの情報が観客に伝わるってことなんですよね。だから普段僕は、野外でやるときはそれらに負けない俳優の強度みたいなことを考えてきたんです。でもこの戯曲には隙間と言うか、俳句で言うところの“切れ字”のような空白があると感じていて。例えば「夏草や」の「や」のあとにある真空が、野外であることによって観客にわーっと情景を体感させてしまうというような。言葉と言葉の間にある真空が、野外が持っているたくさんの情報とうまく呼応できればいいなと思っています。
ゲサクは関西弁ネイティブの俳優で
──本作にはゲサクとキョウコ、そしてヤスオの3人が登場します。キャスティングではどんなことを意識されましたか?
宮城 ゲサクとキョウコについては関西弁ネイティブを配役しました。ヤスオは静岡ネイティブですね(笑)。
──北村さんはそれぞれの役について、作者として何かイメージをお持ちですか?
北村 宮城さんの言葉を借りるんだったらゲサクは関西弁ネイティブ、とは思いましたね。でも、特に定着したイメージはないんですよ。そもそも練習用台本だったので、役者さんには悪いんですが誰にでもできるように書いたものなので。でも誰にでもできるっていうのはうまい下手ってことじゃなくて、簡単にやっちゃうと誰にでもできるんだけど、実際にやってみるとそうはうまくいかないものだっていうことで……。
──この戯曲が関西弁で描かれていることは、確かに大事なポイントですね。シリアスなシーンだったとしても、セリフの角が取れると言うか、言葉に温もりが篭ります。
北村 でもあれね、正確な関西弁じゃないんですよ。だから最初に大阪で公演した時に、そういえば「正確な関西弁じゃない」ってお客さんから言われました(笑)。その人には、「正確な関西弁が聞きたいのでしたら、上方落語をお聴きになればいいんじゃないですか。そもそもそんなつもりで書いてないので」って言いましたけど。
宮城 あははは!(笑)
北村 そもそもそのころはリアリズム演劇が主流でしたから、なんで「寿歌」では一度死んだ者が「乾電池ひろうてきました」って言いながら生き返るんだって言われましたし、面と向かって「北村さん、あなたが日本の演劇をダメにしました」とも言われた、そんな時代です。だから俺も「そうなのかな」って若干不安になって、懇意にしている編集者に電話して聞いてみたんですよ。そうしたら「10年後」とひと言だけ。「10年待ってみましょう、必ず評価が変わってますから」と。それを聞いて安心しましたけれど……。でもね、今はそういうことを言ってくれる編集者もいないんですよ。
──耳が痛いです……。
宮城・北村 あはははは!(笑)
“音”をどうするか
──また、近年は「真夏の夜の夢」や「アンティゴネ」など空間をダイナミックに使った、大所帯での作品が続いたSPACにとって、今回は稽古へのアプローチもだいぶ違うのではないでしょうか?
宮城 出演者の人数はあまり問題ではなくて、一番の違いは生演奏が入らないことですね。セリフ以外の音をどうするのか、僕も楽しみなところなんです。また、とても意味がある歌詞の歌謡曲を劇中で使うことも、僕はあまりやったことがなくて。ただ二十代のころには、歌の詞に意味のズレを発見して楽しむということをしていた気がするので、今回の稽古で、もしかしたらそんな感覚をひさびさに思い出すかもしれないなって思っています。
──それは楽しみですね。最後に確認ですが、北村さんは今回、宮城さん演出の「寿歌」をご覧には……。
北村 もちろん観ますよ! だって観ないなんて、ここで言えないでしょ(笑)。
- 愛知県芸術劇場・SPAC(静岡県舞台芸術センター)共同企画「寿歌」
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2018年3月24日(土)~26日(月)
愛知県 愛知県芸術劇場 小ホール2018年4月28日(土)・30日(月・振休)
静岡県 舞台芸術公園 野外劇場「有度」2018年5月18日(金)・19日(土)
熊本県 ながす未来館2018年5月26日(土)・27日(日)
福岡県 北九州芸術劇場 小劇場2018年6月8日(金)
茨城県 ひたちなか市文化会館 小ホール2018年6月16日(土)
愛知県 パティオ池鯉鮒 花しょうぶホール2018年6月23日(土)
愛知県 小牧市市民会館作:北村想
演出:宮城聰
出演:SPAC(奥野晃士、春日井一平、たきいみき)
- 北村想(キタムラソウ)
- 1952年滋賀県生まれ。劇作家、小説家、エッセイスト。劇団T.P.O師★団、彗星‘86、プロジェクト・ナビを主宰。79年に代表作「寿歌」を発表し、15年にわたって上演を続ける。84年に「十一人の少年」で第28回岸田國士戯曲賞、89年に「雪をわたって…第二稿・月のあかるさ」で紀伊國屋演劇賞個人賞、ラジオ・ドラマ「ケンジ・地球ステーションの旅」でギャラクシー賞を受賞。96年に兵庫のAI・HALLにて伊丹想流私塾を開塾する。2012年にはシリーズ4作を収めた「寿歌[全四曲]」、13年には「恋愛的演劇論」(松本工房発行)を上梓した。なお13年からシス・カンパニーのプロデュースにより、日本文学へのリスペクトを込めた「日本文学シリーズ」を始動。その第1弾「グッドバイ」にて、第17回鶴屋南北戯曲賞を受賞した。第5弾「お蘭、登場」は6月中旬から7月中旬に東京、7月下旬に大阪にて上演される。
- 宮城聰(ミヤギサトシ)
- 1959年東京生まれ。演出家。SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京大学で小田島雄志・渡邊守章・日高八郎各師から演劇論を学び、90年にク・ナウカを旗揚げ。国際的な公演活動を展開し、同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出で国内外から評価を得る。2007年4月、SPAC芸術総監督に就任。自作の上演と並行して世界各地から現代社会を切り取った作品を次々と招聘し、“世界を見る窓”としての劇場作りに力を注いでいる。14年7月にアビニョン演劇祭から招聘された「マハーバーラタ」の成功を受け、17年に「アンティゴネ」を同演劇祭のオープニング作品として法王庁中庭で上演した。代表作に「王女メデイア」「ペール・ギュント」など。06年から17年までAPAF(アジア舞台芸術祭)のプロデューサー、18年より東京芸術祭総合ディレクター。04年に第3回朝日舞台芸術賞、05年に第2回アサヒビール芸術賞を受賞。