「High Life」谷賢一×古河耕史×ROLLY 鼎談 / 吉田悠(Open Reel Ensemble)のコメントも|闘う演出家・谷賢一と4人の俳優が体現する、人間の不毛さと“悪の喜び”

“悪の喜び”を体感してほしい(谷)

──本作の上演決定の際に発表されたコメントで、谷さんが「毎晩酒を飲み、タバコを吸っている自分も哀れな薬物中毒者」とおっしゃっていたのが印象的でした。強いて言うなら、ROLLYさんと古河さんのお二人は、ご自身は何中毒だと思いますか?

ROLLY(手前)

ROLLY 音楽はもはや中毒を飛び越えて、DNAに書き込まれたものなので……そうだなあ、最近はVRゴーグルにハマって毎日トリップしてます。この話をしたら谷さんはすぐにVRグラスを買ったそうで、「この方ノリがいいぞ!」って思いました(笑)。

古河 僕は、演劇となんだろう……。あんまり自覚がないですけど、節約かな。

 なに、節約って!

古河 「もうそのくらいにしとこう!」みたいな感じで、リミットをかけるのが逆にやめられなくて(笑)。

 僕もきっと演劇中毒なんでしょうけど、ここ10年くらいずっと切らしたことがないからなあ。活字中毒なんだなっていうのは最近思いますね。忙しくなってくるとどうしても本を読む時間がとれないじゃないですか。そういうのが続くとあるタイミングで我慢がきかなくなってきて、その作品に関係ない本まで読み始めちゃったりします。

──今、活字中毒というお話が出ましたが、「High Life」の翻訳を手がけている吉原豊司さんと、今回の上演台本をどのように立ち上げていったのかについてもお伺いできたらと思います。

 僕のほうでこういうテキレジ(※編集部注:テキストレジ。脚本を上演用に訂正すること)でやりたいということを提示して、原作サイドからOKをもらった形です。

──吉原さんの翻訳から、かなりテキストを変えていらっしゃるのでしょうか?

 1980年代から90年代のカナダのリアリズムをベースとした演劇なので、当時の時代描写がある種の見どころなんですが、これを現代のお客さんにそのまま紹介して面白いのかと考えたときに、僕はそうじゃないと思ったんです。なので枝葉末節を大胆に刈り込んで、お話の基軸だけ残しました。また今回は音楽や映像が入ることもあって、原作の台本で上演すると2時間半くらいかかるので、それを避けるためにカットした部分もあります。最初2人の男が犯罪を計画するところから始まって、「ジャンキーの生活から抜け出そう!」「上々の生活を手に入れよう!」と言いつつ、最後にまた同じようなシーンに戻ってきてしまうところが、不条理演劇めいているなと僕は感じていて。あえてテキレジを加えて謎めいた部分を出すことによって、お客さんに不条理な世界観を提示することができるんじゃないかと考えています。

──不条理というキーワードも飛び出しましたが、谷さんは本作を通して、原作者のリー・マクドゥーガル氏からどのようなメッセージを受け取りましたか?

左からROLLY、古河耕史、谷賢一。

 初読の段階では、不毛な話だなと思いました。ドラッグから脱却しようとか、自分たちの生活を根本から変えようという意思が彼らにはまったくないでしょ。結局同じところに話が戻ってくるうえに、状況はさらに悪化している。でも4人には悲壮感が漂っているわけではなくて、むしろ捨て鉢な明るさがあるように思えるんですよね。俯瞰して彼らを見ると不毛だなと思うけれど、そんなことを言ったら僕も、酒もタバコも演劇もやめられずに不毛な人生を送っているわけで、結局同じところをグルグル回って死に近づいてるのは、僕も彼らもそう変わらない気がするんです。

──これまでに、日本でもいくつかのカンパニーが本作に挑戦しています。今回の上演版で谷さんが最も伝えたいことは何でしょうか。

 自分の欲望に忠実で、ろくでなしの彼らが知っている“悪の喜び”を、お芝居の間だけでも体感してもらえるといいかなと思います。「ドラッグはダメ、ゼッタイ」という言葉が最終的にパンフレットには書かれるんでしょうけど、世の中でタブーとされているがゆえの喜びや、快楽すぎるから禁止されていることを、無限の想像力が働く劇場という空間の中で、お客さんも一緒に味わってほしいですね。

吉田悠(Open Reel Ensemble) ミラーニューロンを刺激し、聴覚のディープドリームへ巻き込む

Open Reel Ensemble。右が吉田悠。

今回、わたくし吉田悠と吉田匡(ともにOpen Reel Ensemble)、そして山口元輝(Molt Beats)の3人で劇伴をつとめます。

谷賢一さんより「『このシーンは音楽チームの時間だ。俳優のセリフは聴こえなくてもいい』というくらいの野蛮な気概を持って望んで頂きたい」という力強すぎるお言葉を頂戴しており、この上ない遊び甲斐を感じております。

皆さまのミラーニューロンを刺激し、聴覚のディープドリームへ巻き込むことができれば幸いです。

吉田悠(ヨシダハルカ)
Open Reel Ensembleのメンバー。鍵盤・打楽器奏者としてライブサポートや舞台音楽を手がける一方、映像作家としても活動。代表作に短編アニメーション「Experiment for Animated Graphic Score」、ドキュメンタリー映画「カントリー・ジェントルメン」などがある。
SMA_STAGE 第1弾公演
2018/2019 あうるすぽっとタイアップ公演シリーズ
「High Life」
SMA_STAGE 第1弾公演 2018/2019 あうるすぽっとタイアップ公演シリーズ「High Life」

2018年4月14日(土)~28日(土)
東京都 あうるすぽっと

  • 作:リー・マクドゥーガル
  • 翻訳:吉原豊司
  • 演出:谷賢一
  • 音楽:吉田悠(Open Reel Ensemble)、吉田匡(Open Reel Ensemble)、山口元輝(Molt Beats)
  • 映像:清水貴栄(DRAWING AND MANUAL)
  • 出演:古河耕史、細田善彦、伊藤祐輝、ROLLY
谷賢一(タニケンイチ)
1982年福島県生まれ、千葉県柏市育ち。作家・演出家・翻訳家。DULL-COLORED POP主宰、Théâtre des Annales代表。明治大学演劇学専攻、ならびにイギリス・University of Kent at Canterbury, Theatre and Drama Studyにて演劇学を学んだのち、DULL-COLORED POPを旗揚げ。2013年には「最後の精神分析」で翻訳・演出を務め、第6回小田島雄志翻訳戯曲賞および文化庁芸術祭優秀賞を受賞。また近年では海外演出家とのコラボレーション作品も多く手がけ、15年のシディ・ラルビ・シェルカウイ演出「PLUTO」では上演台本を担当し、同年のアンドリュー・ゴールドバーグ演出「マクベス」には演出補で参加。さらに16年のデヴィッド・ルヴォー演出「ETERNAL CHIKAMATSU」では脚本を手がけている。近年の代表作は、「わたしは真悟」(脚本)、「白蟻の巣」(演出)、「超進化ステージ『デジモンアドベンチャー tri. ~8月1日の冒険~』」(上演台本・演出)、「三文オペラ」(上演台本・演出)など。
古河耕史(フルカワコウジ)
福岡県で高校演劇を始めたのち、文学座、新国立劇場演劇研修所を経て、舞台を中心に活動。最近の主な出演作に「トーキョー・スラム・エンジェルス」「従軍中の若き哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインがブルシーロフ攻勢の夜に弾丸の雨降り注ぐ哨戒塔の上で辿り着いた最後の一行“──およそ語り得るものについては明晰に語られ得る/しかし語り得ぬことについて人は沈黙せねばならない”という言葉により何を殺し何を生きようと祈ったのか? という語り得ずただ示されるのみの事実にまつわる物語」(以上、谷賢一演出)、「マニラ瑞穂記」(栗山民也演出)、「書く女」(永井愛演出)、「ペール・ギュント」(ヤン・ジョンウン演出)ほか。近年は、「獄の棘」(WOWOW)、「コードネームミラージュ」(TX)など映像作品にも活動の場を広げている。
ROLLY(ローリー)
1990年、ロックバンド・すかんちのボーカル・ギターとしてデビュー。96年にバンド解散後、ソロ活動を開始。2009年に放送された朝の連続テレビ小説「つばさ」(NHK)にレギュラー出演および楽曲提供を行ったほか、エアギター、弾き語り、シャンソン、ジャズ、クラシックをアレンジしたライブなども実施。代表的な出演作に「ロッキー・ホラー・ショー」(1995年~2017年)、「三文オペラ」、ミュージカル「ビッグ・フィッシュ」(白井晃演出)、「ア・ラ・カルト」シリーズ、「ムジカ・ピッコリーノ」(NHK Eテレ)など。6月には3日間にわたり、神奈川・横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホールでライブ「Glory ROLLY Groovy」を開催する。