中村勘九郎&中村七之助が小倉の街を元気に!「平成中村座小倉城公演」成駒屋三兄弟につないでいく“ご当地もの”「小笠原騒動」も

平成中村座が、福岡・小倉城に4年ぶりにやって来る。小倉城で平成中村座の公演が行われるのは、2019年以来、2度目のこと。前回は、平成中村座初の北九州公演ということで、チケットは即日完売した。小倉城下でのお練りも大盛況で、小倉城勝山公園に建てられた特設劇場は、小倉の街を熱狂させた。

その好評を受け、実は早々に2度目の公演が企画されていたのだが、コロナ禍のために延期に。さらに昨年は小倉の商店街・旦過市場で2度にわたり大規模火災が発生するなど、小倉にとって大変な状況が続いた。今回の公演は、中村勘九郎・中村七之助兄弟の「お世話になった小倉の街を元気にしたい!」という熱い思いが詰まっている。ステージナタリーでは、そんな小倉への思いを熱くする2人にインタビューを実施。小倉や、演目に込めた思いを明かしてもらった。特集の後半では、7月中旬に小倉城で行われた会見の模様をレポートする。

取材・文(中村勘九郎・中村七之助インタビュー)・構成(小倉城取材会) / 櫻井美穂 撮影 / 岩村美佳(中村勘九郎・中村七之助インタビュー)、山本聡子(小倉城取材会)

中村勘九郎&中村七之助が語る
「平成中村座小倉城公演」への思い

中村屋兄弟、再び小倉の地で

──4年ぶりの小倉城公演です。会見(参照:中村勘九郎・中村七之助が「平成中村座小倉城公演」4年ぶりの開催に感慨、チャリティイベントの開催も)では、とにかくお2人が「戻って来られてうれしい」と笑顔だったのが印象的でした。

中村勘九郎 前回、小倉の街の皆さんには本当に一丸となって公演を盛り上げていただいて。前回公演が終わったあと、小倉から「すぐに再演しましょう!」と熱烈なラブコールをいただいて、とってもうれしかったんですけど、新型コロナウイルスの感染拡大で延期になってしまって。やっと戻って来られた、という気持ちです。

中村七之助 すぐにまた呼んでいただけることって、なかなかないですからね。コロナのせいで先延ばしになってしまいましたが、ようやく伺えるのがうれしいですね。

左から中村勘九郎、中村七之助。

左から中村勘九郎、中村七之助。

知盛は精神的にキツイ役、典侍の局は最初はコミカルに

──ラインナップには、お2人の熱い思いが詰まった演目が並びました。昼の部「『義経千本桜』渡海屋 大物浦」では、勘九郎さんが渡海屋銀平実は新中納言知盛、七之助さんが女房お柳実は典侍の局を勤めます。勘九郎さんが同役を演じられるのは、2013年の福岡・博多座での襲名興行以来、約10年ぶりとなります。

勘九郎 前回が初役で、今回が2回目。今のところ(勘九郎演じる渡海屋銀平実は新中納言知盛を)観られる機会は、福岡しかない……ということになりますね(笑)。片岡仁左衛門のおじ様に教えていただいた大切なお役です。知盛は、うちの父(十八代目中村勘三郎)にとっても思い入れのあるお役。ただ公演前に父が亡くなってしまい、直接教わることはできませんでした。そこで仁左衛門のおじ様から「知盛の気持ちや仕事は教えるけど、ノリ(勘三郎)のやり方でやりなさい」と優しい言葉をいただき、父から受け継いだ、中村屋でしかやっていない演出を織り交ぜて上演します。

中村勘九郎

中村勘九郎

──「『義経千本桜』渡海屋 大物浦」では、新中納言知盛と典侍の局が、船宿の亭主・銀平とその女房・お柳に身をやつしながらも、安徳帝を命に変えても守ろうとする、厚い忠義心が観客の心を打ちます。それぞれ、演じるうえで意識されることはありますか?

勘九郎 銀平は船宿の亭主ですので、どっしりした風格を出さないといけないなと思っています。知盛は、位の高さが大事ですね。“新中納言知盛”ですので、ただの荒くれではないという神々しさを持っていないといけないんです。カッコよくて良い役なんですけど、演じていてまあ疲れる(笑)。源氏に対して恨みを晴らそうとしていた気持ちが、浄化されていくという心の変化も含めて、精神的にキツいお役ですね。

七之助 典侍の局は、銀平の女房に扮しているときは、世話女房らしく、コミカルな仕形咄(身振り手振りを交えた様子)で話しますが、渡海屋の途中からガラッと“典侍の局”らしく雰囲気を変える必要があります。格好はそのままなので、そこが難しいところですね。「大物浦」からは、安徳帝のことを一番に考えつつも、平家が滅んでいくさまを目の当たりにするわけですが……戦をしている男性たちと異なる立場で、その時代を俯瞰して見ている女性の悲しさだったり、匂いみたいなものを出せれば、兄が演じる知盛ももっと良い役に見えてくるのではないかなと思っています。大好きな役なので、演じられるのはうれしいですね。

中村七之助

中村七之助

──クライマックスも派手で、心にグッと来る「『義経千本桜』渡海屋 大物浦」のあとに、昼の部ラストの舞踊「風流小倉俄廓彩」が続きます。“小倉”というワードが入っていますね。

勘九郎 「俄獅子」の“平成中村座小倉城公演特別バージョン”として、出演者総出の、この瞬間にしか見られない舞踊にする予定です。小倉城を借景とした演出も取り入れるので、存分に昼の小倉城を楽しんでいただきたいですね!

橋之助は明るさと愛嬌、福之助は“変”、歌之助は二枚目らしく…成駒屋三兄弟の個性

──夜の部「小笠原騒動」は、小倉藩で起こったお家騒動を題材にした、小倉にとっては“ご当地もの”です。お家乗っ取りを企む犬神兵部とお大、そしてその陰謀を阻止しようとする小笠原隼人や、飛脚小平次とその女房・お早らの、ファンタジー要素あり、派手な立廻りありのスペクタクルな狂言ですね。長年上演されていなかった本作を、1999年に中村芝翫さん(当時中村橋之助)が京都・南座で復活上演し、それ以来上演が重ねられています。平成中村座でも、これまで2度上演されました。

勘九郎 小倉城での再演が決まったとき、小倉の方々から「『小笠原騒動』は必ず持ってきてほしい」という熱いオファーがありました(笑)。私自身、この作品のファンですので、大事に上演を重ねていきたいと思っています。

中村勘九郎

中村勘九郎

──今回は芝翫さんの長男・次男・三男である、中村橋之助さん、中村福之助さん、中村歌之助さんが、岡田良助と小笠原遠江守、飛脚小平次、奴菊平と小笠原隼人をそれぞれ初役で勤めます。昨年の「平成中村座 十一月大歌舞伎」にも三兄弟そろって出演されていましたが、今回も大抜擢です。

勘九郎 芝翫のおじから私へ、そして三兄弟へと、「小笠原騒動」をつないでいく思いも込めてキャスティングしました。まず橋之助は、子供の頃から「小笠原騒動」に憧れていて、小さい頃、良助と小平次による水車の立廻りを、福之助と一緒に、お風呂で再現していたと聞いています。なので、物語の主人公とも呼べる良助は一番やりたかった役なんじゃないのかな。“憧れる”っていう気持ちは、役をやるうえで大きく作用すると思っているので、お願いしました。良助は、悪人サイドから善人側に寝返る“返り忠”を見せる、とても難しい役。ただ持ち前の明るさと愛嬌で、面白い岡田良助像を立ち上げてくれるんじゃないかな、と期待しています。

小平次と、菊平・隼人は、どっちをどっちにするか、とても悩みました。菊平と隼人の方が役としては良いので、福之助にお願いしようかと思ったんですけど、さっきもお話した幼少期のエピソードを聞いてしまったら、これはもう平成中村座で、橋之助と福之助の水車の立廻りをやるべきだな!と、福之助に小平次、歌之助に菊平・隼人をキャスティングしました。福之助は……なんだろうな、すごく変な魅力があるんです(笑)。小平次も、唐突に出てきていきなり立廻りに突入するという難役ですけど、彼なら理屈を跳ね除けて演じ上げられるのでは。

歌之助が演じる隼人は、演目の中では圧倒的な“善”。彼はビジュアルが良いので、隼人を二枚目らしく、すっとした良い男として立ち上げられると思いますし、狐になっても、可愛らしさや妖艶さが出せるんじゃないでしょうか。

──七之助さんは、三兄弟についてどのような印象がありますか。

七之助 3人の細かな魅力は兄が申し上げましたが、3人共、芸に対してとても真摯で真面目。今回も一生懸命、自分の力を出し切ってくれるんじゃないかな。すごく期待しています。

中村七之助

中村七之助

──良助の女房おかのは、坂東新悟さんが勤めますね。

勘九郎 三兄弟をキャスティングしたあと、おかのは誰が良いかな……という話になったときに、やっぱり新悟だな!と。味が出て、絶対良いおかのになると思います。

──そして勘九郎さんと七之助さんは、作品の“悪の華”、犬神兵部とお大を演じられますね。

勘九郎 犬神兵部っていう役は、昼の知盛と真逆で、純粋な悪。やっていてもストレートに楽しいですし、昼夜公演を通して立役の幅をお見せできるんじゃないかなと。やはりお家騒動ものは、悪の魅力がないと善が引き立たないので、とことん3人をいじめ抜いてやろうと思っています(笑)。

中村勘九郎

中村勘九郎

七之助 お大は自分の欲のために、父親を殺すような人ですからね。本当に悪い人で……僕、大好きです(笑)。たまらなくゾクゾクしますし、やっていて楽しいですね。

公演を通して、小倉の皆さんの力になりたい

──改めて、小倉城公演に向けた気持ちを教えていただけますか。

七之助 前回上演して感じたのは、小倉のお客様が、本当にパワフルでエネルギッシュであるということ。「小笠原騒動」も、熱狂しながら観たほうが楽しい作品ですので、上演するに向いている場所だと思っています。最後の兵部の立廻りなんて、舞台が崩れるんじゃないかってぐらい歓声がすごかったですし……。今回も、お客様に楽しんで帰っていただけるよう、一生懸命いろいろなことを考えて、センスの良いことができればと思っています。

勘九郎 4年前、地元の方たちと一体になって芝居をやっていた記憶があるんです。なのでコロナ禍で、旦過市場が二度も大きな火災に見舞われたのは、とてもショックでした。大変に盛り上がった前回に負けないように盛り上げて、公演を通して、小倉の皆さんのお力になりたいですね。

左から中村勘九郎、中村七之助。

左から中村勘九郎、中村七之助。

中村勘九郎 in 小倉城!
4年ぶりの天守閣に「あれ、もしかしてこれって…」

7月中旬、中村勘九郎の姿は小倉城にあった。小倉のメディアに向けた取材会で、会場は小倉城天守閣。窓からの景色に目をやった勘九郎は「平成中村座が建っていた勝山公園が見えて、懐かしい感じがします。あそこに、また(平成中村座が)建つんですねえ」と笑顔を見せる。

小倉城での取材会に登壇した中村勘九郎。

小倉城での取材会に登壇した中村勘九郎。

小屋の話から、話題は平成中村座恒例の“隠れ中村勘三郎”に。これは、“十八代目中村勘三郎の目”が平成中村座場内に隠れているというもので、一度見かけたら場内をキョロキョロせずにはいられなくなる、平成中村座ならではのお楽しみだ。「平成中村座はうちの父の夢でした。そんな父に見守っていてほしいという思いも込めて、実施しています。(父は)ディズニーランドが好きだったので(笑)、隠れミッキーならぬ、“隠れ勘三郎”ということで」と実施の経緯を明かす。「基本は劇場内なんですけど、前回の小倉城公演では天守閣の中にもあって……」と勘九郎が話していると、ふと「あれ? ……もしかして」と何かに気づく。なんと、天守閣には4年前から“中村勘三郎の目”が潜んだままになっていたのだ。勘九郎は「まだ貼ってあるんだ(笑)」と破顔し「5月にやった姫路城公演もそうなんですけど、だんだんと(隠れの)難易度が上がってるみたいです。街を楽しみながら、探してみてほしいですね」と話した。

小倉城の天守閣から、報道陣に向かって手を振る中村勘九郎。

小倉城の天守閣から、報道陣に向かって手を振る中村勘九郎。

小倉城をバックにした中村勘九郎。

小倉城をバックにした中村勘九郎。

プロフィール

中村勘九郎(ナカムラカンクロウ)

1981年、東京都生まれ。1986年に歌舞伎座「盛綱陣屋」の小三郎で波野雅行の名で初お目見得。1987年歌舞伎座「門出二人桃太郎」の兄の桃太郎で二代目中村勘太郎を名乗り初舞台。2012年新橋演舞場「春興鏡獅子」の小姓弥生後に獅子の精ほかで六代目中村勘九郎を襲名。

中村七之助(ナカムラシチノスケ)

1983年、東京都生まれ。1986年に歌舞伎座「檻」の祭りの子勘吉で波野隆行の名で初お目見得。1987年歌舞伎座「門出二人桃太郎」の弟の桃太郎で二代目中村七之助を名乗り初舞台。