“追いつけ追い越せ”じゃなくて、どんどん“追い越し”ながら進んで行ってる感じ
“誰が何を発言してもいい稽古場”に
──非常に熱気あふれる稽古がハイスピードで展開されていますが、皆さんの今の手応えは?
中島広稀 稽古が始まる前に、台本を読んで想像していたものとは全然違うものになるだろうなということはわかっていたのですが、本当にいろいろな角度からいろいろな意見が出てくるので、頭の中がてんやわんやしていますね(笑)。
一同 あははは!
中島 皆さん、言われたことを一瞬で形にすることができるので、僕も必死に食らいついていくしかないと思ってます。
さとうほなみ まだあまりよくわからない状態でやっているところが多いのですが、稽古を通してブラッシュアップしていけば本当にいいものになるだろうなと。なので私も必死に食らいついていくしかないと思っています。本当に大先輩たちがいらっしゃる現場ですから、“食らいつかせて”いただきます(笑)。
名児耶ゆり 稽古が始まる前に台本や作品に関連する資料を読んだりして、頭の中でいろいろ思い巡らせていたので、やっと稽古が始まった!という喜びがあります。でも柔軟に考えながら、あまりイメージを固めず、求められたことを求められた瞬間にやっていけたらいいなって。すごく勢いのある現場なので、その勢いを止めたくないって言うか、みんな“追いつけ追い越せ”と言うより、どんどんお互いを追い越しながら前に進んで行ってる感じがするので、この勢いのまま最後まで駆け抜けたいです。
永島敬三 “誰が何を発言してもいい稽古場”に、最初からなっていたし、本当に何もないところからみんなで意見を出しながら作っていて、こういう現場は滅多にないなって。思ったことがあれば自分も言うし、僕自身、何を言われても「ああ、そうか」って思える。そういう状態で臨んでいる感じがあります。
名児耶 今思うと、やっぱり稽古前にやったワークショップが、今すごく効いてきているなって。
一同 うん。
名児耶 11月から定期的にワークショップがあったんです。毎回出席率はバラバラだったんですけど、シアターゲームをやったり、バレーボールをやったり、ちょっとしたシーンをやったりして。それがあったおかげで、基本的にみんなを人として好きになれた感じがあるし、顔合わせのときに澄まして「よろしくお願いします」って言ってるのを見て「そんな顔しちゃって!」って和やかな空気になったのがすごくよかったなって。
永島 いつもの顔を知ってるよ、みたいな(笑)。
名児耶 別に特別飲みに行ったわけでもないのに、あのワークショップだけで「好き」って感情になれたのがすごくよかった。だから誰が何を言っても、「うんうん」って聞ける雰囲気になっているよね。
中島 僕はワークショップ自体が初めてだったので、本当にどうなるかわからないと思いながら参加してました。そもそも「カノン」のオーディションもワークショップに近い感じで、グループで何かを作る形式だったんですけど、僕は人見知りなのですごく苦手で……。
さとう・名児耶・永島 (ニヤニヤしながら)へー、人見知りなんだ?(笑)
一同 あははは!
中島 敬三くんはワークショップのとき、ずっとしゃべってたよね。
永島 え? しゃべってた?
中島 うん。だから敬三くんのイメージは“ずっとしゃべってる人”。
永島 でも必要ないことばっかりしゃべってたでしょ?
中島 そうそう。
永島 そこなー、そこが俺のだめなところなんだよね。
一同 あははは!
さとう ワークショップは絹代さんを中心にしつつ、キャストそれぞれ得意分野がある人たちなので、みんなが持ってるものを出し合いました。例えばゆりちゃんはボイトレをやってくれたんですけど、ゆりちゃんがいないときはみんなで探り探りやったから正解がわからなくて、「ゆりちゃん、早く帰ってきてー」って(笑)。ワークショップ中にみんなあだ名で呼び合っていたから、稽古初日からすごく距離が近くて、やりやすかったです。
名児耶 そう、だから稽古初日に本読みをしたときに、「沙金をほなちゃんがやってる」じゃなくて「ほなちゃんが沙金をやってる!」っていう興奮があって!
一同 あははは。
さとう それはなかなかない感覚ですよね。
それぞれの役を模索しながら
──本作は、牢番の太郎と盗賊団のお頭・沙金を軸に、ある絵画の“ある事”を巡って物語が展開します。皆さんそれぞれの、役のイメージを教えてください。
永島 僕は盗賊チームの1人、刀野平六役ですが、猪熊の爺、猪熊の婆、十郎坊主とお頭の沙金のバランスの中で、自分の居場所を探っている状態です。情熱的なところがある人物で、情熱的と言えば「松岡修造さんだ!」と思い、そういうアプローチもありかなと(笑)。また“刀”という字が名前に入っているので、刀の扱いがうまい人なのかな……とか、そういうことは考えてはいるんですけど、ほかの登場人物の間で平六が落ち着いた人なのか、興奮してる人なのかということを考えながら、もうちょっと探ってみたいと思っています。
名児耶 私は猫役です。猫はストーリーテラー的な存在なので、いきなりみんなとは違う空間を作り出さなきゃいけなかったり、逆に突然みんなとなじんだり、いろいろな時間軸にいて、いろいろな視点から発言するので、つかみどころがない感じがしていて。そこがいいところでもあるし、猫っぽいところでもあるなと思います。みんなの役がどんどん立ち上がってきているから、その間をどうすり抜けていけばいいのかなと、猫としては思ってるんですけれど。
──稽古では猫が、非常に笑いを取っていました。
名児耶 (笑)。NODA・MAPの初演があり、絹代さん演出版の初演があって、これまで猫役を演じてきた人がいるわけですし、今後もまた、この役を別の人がやるかもしれなくて……。これまで自分がやる役は自分の役だとしか思ってなかったし、役のことをそういう視点から考えたことがなかったんですけど、役を受け継ぐ気持ちと壊していきたいという気持ち、そういう波が自分の中にあるのが面白いなと思っています。
さとう 沙金は、わかりやすいキャラクターではあると思うんです。例えば妖艶だったり、盗賊のお頭だから頼られる存在だったり。でも、沙金がどうしてそういうキャラクターになったのか、まだよくわからないところもあります。ただ沙金は人が好きで、だから人に好かれやすいんじゃないかと思うので、公演が終わる頃にはみんなが私のことを好きって言ってくれるようになったらいいのかなって思っています(笑)。
永島 それならすでにみんな、好きだよね?
中島 うん。次郎が沙金と長くしゃべってると「あれ?」って思うもん。
名児耶 わかる。沙金じゃなくて次郎にイラっとするよね(笑)。
永島 もう術中じゃん!
一同 あははは!
中島 僕が演じる太郎は、この作品の中で一番成長が見える役です。自分の中でもなんとなくそのイメージはあるんですけど、今回はみんなで作っていくやり方なので、自分の中でもまだ太郎をあえて確立させてないと言うか。自分が思っている太郎よりもっと成長できるなって思ってます。
年齢もキャリアもさまざまな共演者たち
──本作には、年齢もバックボーンもさまざまな22名のキャストが出演します。皆さんは共演者からどんな影響を受けていますか?
名児耶 私は、女たち(中林舞、手代木花野、佐々木美奈、前原麻希)。彼女たちが出てくるシーンを最初にやったとき、「ここに天才が……4人も?」ってすごく驚いて、「ヤバい」って気持ちになりました。私は今、子育て中で、隙間を縫いながら演劇をつかみ取っている感じなんですけど、彼女たちは演劇のことをとてもよく考えてて、いろいろな演劇に触れていて、すぐにいろいろなことが体現できる。私はその筋力が落ちてるなと痛感して、すごく刺激を受けました。
中島 確かに爆発してましたね。
さとう キャラ、大渋滞でした(笑)。
永島 僕は(渡辺)いっけいさん。いきなり余すところなく見せるってことを芝居で教えてくれると言うか。ワークショップや本読みのときからそうでしたけど、毎回同じだけエネルギーを使って(自分を)晒していくんだってことを見せてくださいます。かしこまったり行儀良くしたりするのはもったいない、これからは晒していく時間なんだってことを感じました。
中島 自分の中で、チャレンジする瞬間と守りに入る瞬間と波があるんですけど、守りに入りそうになった瞬間、誰かしらが突っ走るから……。
名児耶 そうそう! 殻に閉じこもりそうになると……。
中島 すぐに出してもらえる(笑)。
永島 あと大村(わたる)くんには勇気をもらいます。もう10年くらいの付き合いで、同じ劇団の劇団員ですし、数いる俳優さんの中でも共演回数が多いんですけど、今回は登場シーンが違うこともあって、「絹代さんにもこう使われるのか」と思ったり、「そんなこともやるんだ?」と思ったり……。
名児耶 「出てきた出てきた」ってワクワクさせてくれるよね。
一同 あははは!
名児耶 ほなちゃんには、みんながどう見えてるの……?
さとう え?(笑) 本当にみんな、自分自身のキャラがあるから、自然に何かやってるだけで面白いなって。だから見てて面白いですよ、悪い意味じゃなくて!
中島 年上の方々はもちろんなんですが、24・5歳のメンバー、オダダツ(小田龍哉)とか長南(洸生)くんもみんな意識が高くて、すごい負けん気でやってるし、お互いを本当に高め合おうとしてるなって。だから僕は、年齢が近い人たちからすごいエネルギーをもらってます。
野田戯曲のセリフを楽しむ
──野田戯曲のセリフは1つの言葉に多様な意味が込められていて、それを発する俳優さんにとってはテクニックや配慮を必要とする、非常に難しい言葉なのではないかと思います。実際にセリフを発語して、どんな実感を得ていますか?
さとう 難しいですね。言葉遊びがいっぱいあって、なのにそれがこんなにもきちんと意味がつながっているってすごいなと。私たちがそれを、観ている人にどう伝えられるのか。「何を言ってるんだろう?」って思われないように伝えられたらと思います。
永島 1年半前くらいに、中屋敷(法仁)の演出で「半神」をやったんですけど、役者が言いたくなるようなセリフがたくさんあったんですよね。野田さんの戯曲は観て面白いだけでなく、読んで面白いというところもあって、学生時代に戯曲を買って読んでいたんです。で、「半神」では、セリフを戯曲のままに言ってみたいという憧れもあってそのようにアプローチしたら、公演を観に来てくださった久ヶ沢徹さんが、「もっと楽しめよ」と言ってくださって。「名作に挑む、みたいな気持ちになっちゃうかもしれないけど、今の楽しさを見つけてやるべきじゃないのか」と。それで、そのときまであえて観ないようにしていた、遊眠社の「半神」の映像を観たら、本当に遊びまくっているというか、セリフを超えた楽しさを見出そうとしている雰囲気があって、「そうか、野田さんに『俺たちはこういう楽しみ方をしています!』っていうのを見てもらうのもいいんじゃないか」と思うようになりました。
名児耶 いい話!
中島 本当に、伝えたい思いがいっぱいあるので、セリフをどう言うか、というよりは、場面ごと、その場にいる人たちと対話する中で、“自分から勝手に出てきた”というようにセリフが言えればいいなと思っていて。セリフを自分の中に一度吸収して、それが出せたらいいなって思います。
名児耶 私はなんだか、ミュージカルをやってるみたいな気持ちになることがあって。言葉のリズムや音がすごく面白いし、本当にセリフが曲のように聞こえたりすることもあるんです。NODA・MAPを観るといつもすごい速さでセリフを言ってて、なんでそんなに早口なんだろうって疑問だったんだけど、なんとなくわかってきたというか。すごく意味がある言葉に、俳優が自分の中の意味を被せてしまうと、言葉が重たくなって前に進めなくなるんじゃないかなって思うんです。ミュージカルは音楽にしっかり抑揚があり、その抑揚に合った歌詞が付いているから、俳優がそこに自分の心情を乗せると進みが悪くなったり、お腹いっぱいになってしまうんですよね。野田さんの戯曲も、セリフに潜り込んで(意味を)引きずり出して、みたいなことをしなくても、セリフをそのままどんどん走らせれば、受け手にシンプルに届くんじゃないかなって。
演出家・野上絹代は「カッコいい」
──野上さんの演出でも、テンポや音は非常に意識されている感じがしました。演出家としての野上さんにはどのような印象をお持ちですか?
永島 4年前に絹代さんのソロプロジェクト・三月企画の旗揚げ公演「GIFTED」に呼んでもらって、そのときも感じたのは「絹代さんって、魔法使いだな」と。気付くとそうさせられている、って言うか、いつの間にかどんどん立ち上がっていってしまっている。それと、みんなの状況とかパーソナルなこと、人となりも絹代さんは面白がっていますよね。
──確かに稽古中もずっと楽しそうですよね。
永島 絹代さんのこと、楽しませたくなっちゃうんですよね。
さとう うん、笑っててほしい。
中島 野上さんのことは、会った日から好きで。一瞬で見抜かれるというか、「この人は自分のことをわかってくれるんじゃないか」と思ってしまう節があるので、野上さんの言うことに応えたいという気持ちで稽古してます。
名児耶 顔合わせのときに、絹代さんが「このカンパニーは子供がいる人もたくさんいるし、こういう時代なので、保育園の中で稽古していると思うくらい寛容な心でいてください」って言ったんですね。それと、「ハラスメントの問題に気を付けているので、嫌なことがあればすぐに直接、言ってください」と。そういうことを稽古の初めに言うところが、カッコいいなって。何を大切にしているのかっていう絹代さんのパーソナルな部分が見えて、そこが、みんなが絹代さんを好きになっちゃうポイントかなと思います。
さとう 私も最初に会った瞬間から「この人好き」って感じました。お茶目で、男前で、すごく親しみやすいんだけど、伝えるべきことは伝えてくれる。お芝居についても自分の中で決まっていることが絹代さんの中にはあって、わからないとかどうしようって言いながらも気付いたらちゃんと仕上がってる。だから今回、ご一緒できるのがうれしいですね。
こんなことになるとは……!
──本番1カ月前にチケットが完売し、追加公演も行われるなど勢いを増す「カノン」ですが、どんな作品になりそうでしょうか?
中島 「カノン」という舞台を全員で作れるのがすごくうれしくて、すごいものができるって、とてつもない予感しかしてないです。
さとう 絹代さんにもお話したんですけど、オーディションのときに目についた人、覚えている人が集結してるんですよね。そういう人ばかりが集まったカンパニーなので、絶対面白いと思います!
名児耶 オーディションに1200人も応募があったとか、チケットがものすごい速さで完売したとか、「あれ、私、こんなすごい作品のオーディションに応募してたの……?」って(笑)。オーディションの書類を出したときのイメージとは、作品の規模感が違うぞっていうのが、正直な気持ちで。
さとう 私も正直、こんなことになるとは思ってなかった(笑)。
名児耶 しかもそれをカンパニー全体としては、プレッシャーじゃなくて「よっしゃ! やってやるぜ!」って楽しんで、力に変えていっている感じがして、これをバネに、さらにビョーンって飛んでいくんじゃないかなって。
永島 前回の演大連版はエネルギーがすごかったって評判だけど、僕らも僕らのエネルギーで、いい作品をより良くしていきたいし、僕個人としても、躊躇せずに作品に臨みたい。オーディション告知のときに絹代さんが、「“無駄”に“キボウ”を抱いてくれる俳優を募集します」ってコメントを寄せていて、それ、すごくいい言葉だなって。今まさにそういう方向に向かって進んでいる気がしますし、そのような舞台になってきていると思います。
さとう 伝説を作ります!
一同 あははは!
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「東京演劇道場」の軌跡 ─日々是好日─ その3
2020年2月28日更新