祝!25周年 ヨーロッパ企画の“奇跡的な軌跡”を上田誠×諏訪雅×永野宗典が振り返る / メンバーがお気に入り作品をセレクト (2/3)

人が集まってきたことで継続する体力がついた

──次々とアイデアが生まれてくることも素晴らしいですが、それをきちんと継続させていくことはもっと難しいことだと思います。ヨーロッパ企画は本公演を柱に、常にアクティブに、でも無理なく自然に活動を続けていますが、その原動力になっているものは何なのでしょうか?

諏訪 もちろん、ホームページに載せている日記など、続かない企画もありますが(笑)、本公演は年に1回ペースだから、何か別の仕事があっても続けやすいというのはあるかもしれません。またいっとき、上田さんが死にそうになりながら台本を書いてた時期は「続かへんかもな」って思いましたけど、2011年頃に企画性コメディというジャンルを思いついてから全然へこたれなくなった。あのままSFシチュエーションコメディみたいなものを続けていたら、書けなくなっていたかもしれないけど、そこである突破口を見つけて劇団ごとそっちをやっていくことに舵を切ったのは、続いている理由かもしれないですね。

永野 僕は劇が続いているのは制作の井神(拓也)さんが入ったことが大きかったと思う。井神さんが入ったことで、スタッフも集まってきたし、どんどん積み上がっていく感じがして、できることも増えてきた。公演を継続する体制ができたと思います。

上田 そうですね。本当に続けるのってめっちゃ難しくて……本公演はたまたま続いているけど、本公演しか続いてないと言えるかもしれません。本公演については、学生時代の数回はお客さんが来なくてしんどかったけど、「サマータイムマシン・ブルース」でヒットした感覚があり、そこからお客さんが倍増しました。以降は“作る大変さばかりで手応えがない”ということはなく、毎回作るものを作りさえすればお客さんにも注目してもらえるし、それで経済も回り劇団も回ると感じるようになりました。そこには永野さんが言うようにやっぱり井神の存在が大きいとも思いますし、“当たっている”感じがあればみんな続けられるんですよね。例えば今なら、「リバー、流れないでよ」がある程度成功したので、映画は今後も続けられるんじゃないかと思っています。その一方で、13年やっている「暗い旅」や「ヨロ通」(編集注:諏訪が編集長を務める、企画性に富んだ公演パンフ)、DVD制作などは、そういった意味での手応えはあまりないですが、ある種の流れに乗ったから続いているんだと思います。

2001年に初演されその後も上演を重ねた代表作「サマータイムマシン・ブルース」は、大学のSF研部室に突如現れたタイムマシンを巡るSFコメディ。写真は2003年上演時のもの。

2001年に初演されその後も上演を重ねた代表作「サマータイムマシン・ブルース」は、大学のSF研部室に突如現れたタイムマシンを巡るSFコメディ。写真は2003年上演時のもの。

永野 演劇という点では、立ち上げ当初は諏訪さんが仕掛ける感じのプロデューサーで、「次は同志社大学でテント公演やろう、その次は京都大学でやろう、次は東京に行くぞ」という感じでみんなを先導する時代があって。そこに井神さんが入ったことで継続するための体力をつけることができた。本当に出会いの奇跡というところはあるかもしれないですね。

──井神さんをはじめ、ヨーロッパ企画は俳優と同じくらいスタッフの人数も多いですね。その辺りも継続性につながっているのでしょうか?

上田 ヨーロッパ企画で役者をやりたい、という人より、ヨーロッパ企画で物作りがしたいという人がやってくる感じはあるかもしれないです。なんだか面白そうなことをしているから一緒に作りたい、とか。今は特にメンバー募集をしてないのですが、「劇団に入りたい」というわけじゃなくて、よその会社で映像を作っている人が一緒に仕事したいからと手伝ってくださることはよくありますね。

上田誠

上田誠

等身大からアニメ化?

──大学のサークルから始まったヨーロッパ企画が、二十代、三十代、四十代と年齢を重ねても同じメンバーで活動できている背景には、舞台をはじめ、さまざまな活動の中で、年齢に応じた作風や活動へと緩やかにシフトして行ったことも大きいのではないでしょうか。岸田國士戯曲賞を受賞した「来てけつかるべき新世界」では中年ホームレスたちを巡る物語、映画「リバー、流れないでよ」では京都・貴船の料理旅館を舞台にするなど役やシチュエーションが少しずつ変化してきました。

2016年に上演された第35回公演「来てけつかるべき新世界」は、新世界の外れにある串カツ屋に集う“おっさんたち”とテクノロジーを描いたSF人情喜劇。本作で上田誠が第61回岸田國士戯曲賞を受賞した。

2016年に上演された第35回公演「来てけつかるべき新世界」は、新世界の外れにある串カツ屋に集う“おっさんたち”とテクノロジーを描いたSF人情喜劇。本作で上田誠が第61回岸田國士戯曲賞を受賞した。

諏訪 いつの間にか、ですよね。家庭を持ったり、この仕事で食えるようになったということもあって普通に歳を重ねたんだとは思います。それと上田くんが当て書きするからじゃないでしょうか。年齢に応じた無理のない役を当て書きしてくれるから、劇と共に僕らも年齢幅のある役もできるようになってきたというか。

永野 僕自身はあまり考えていないですね(笑)。まだあまり“おっさん”ってことは意識してないかなあ。

上田 若者の群像劇って、見ていられるんですよ。だから世の中にそういう物語は多いと思うんですけど、おっさんの群像をドラマにして、それが最高に見えるのって、割と考えないとできない。なので、例えばドリフターズなら見てもらえるな、シティボーイズだったら、YMOだったら……って、おじさんたちに憧れる感じはどうやったら出るんだろうということはよく考えていますし、似合う風景もめっちゃ考えてます。貴船もまさにおっさんの劇をしてもいい場所だなって思ったんですけど、貴船を選ぶには少し早すぎたかもしれません(笑)。若い人たちが似合う空間があるように、京都はまさにおっさんになって似合う場。だから今からわりと、京都の力って出ると思うんですよね。

諏訪 初期は等身大の学生の役をけっこうやっていたんです。でも等身大じゃないこと、つまりある種学芸会のような設定で“劇”を演じることが増えてきたかもしれません。例えばロンドンとか香港とか、舞台を海外にすることで等身大じゃなくなるというか。

左から諏訪雅、永野宗典、上田誠。

左から諏訪雅、永野宗典、上田誠。

上田 ファンタジーになりますね。

諏訪 そうそう。

上田 アニメ化していくことは意識しています。「ヨーロッパ企画のYou宇宙be」も、あれをリアルな四十代の人たちがやっているとなると見てられないかもしれませんが、ロボットが演じているというふうにすることでSFやファンタジーをまとうので見ていられるようになる(笑)。その感覚は強いかもしれません。

──25周年記念公演「切り裂かないけど攫(さら)いはするジャック」もそういった意味では大きくかぶいたと言いますか、19世紀ロンドンを舞台にしたミステリー劇です。大きなフィクションを設定することで自由に遊べそうですね。ただ今回、あらかじめ配役が決まっているのが珍しいなと感じました。ヨーロッパ企画ではエチュードを重ねながら徐々に配役が決まると以前伺ったことがありますが、今回は8月上旬の会見時にすでに配役が決定していました(参照:ヨーロッパ企画新作ミステリーは予想を超えた展開に…永野宗典「僕もその境地へ」)。

永野 確かにそうですね。

上田 うん、まあやっぱり最近、お互いプロとしての敬意として、あまりに役が決まっていない状況で何週間も稽古してもらうのはさすがに申し訳ないなと思って、僕のリスペクトがだんだん実装されてきた現れと言いますか(笑)。ちょっとずつ台本が上がるのも早くなってますよね?

諏訪永野 えっ……あ、うんうん(笑)。

永野 今回は稽古初日でいつもの5日分くらい進んだって言ってましたよね。

諏訪 たまにそういうことがあるらしくて。

上田 うちって主役がいない劇団と言われがちですが、作家上田も勘定に入れると上田が主役というような作品もあるんですよ。例えば「サマータイムマシン・ブルース」のように時間のパズルを考えるのが僕みたいな。逆に「九十九龍城」は、最後は上田節だったけれど、前半はそれぞれの演技力やスタッフ力で持っていこうという作品で、今回はそっちの作り方にしたいなと思っているんです。推理劇だから結末をどう決めるかっていうことはありますが、それも上田がどれだけボールを持つか、かなと。またそういうこととは別に、酒井が演じた貴族役がめちゃ面白かったからやっぱりそれ入れたいなとか、そういったさまざまな要素を含めながら作品の方向性が決まっていくのが劇団公演の醍醐味だと思います。

2021年に上演された第40回公演「九十九龍城」では“異貌の魔砦・九十九龍城”を舞台にさまざまな人間模様を描き出した。

2021年に上演された第40回公演「九十九龍城」では“異貌の魔砦・九十九龍城”を舞台にさまざまな人間模様を描き出した。

──記者会見で、永野さんは本作の座長に任命されたとおっしゃっていました。

永野 座長って言われると緊張感がありますね(笑)。ただ会見でも話しましたが、25周年を記念してヨーロッパ企画でこれまで演じられた役が、現在のメンバーを祝福するというイラストを描いたのですが、それを描くにあたり過去の映像などを見返して、見入ってしまう自分もいればとても見ていられない自分もいて(笑)、じゃあどうしたら思い描いているような芝居ができるんだろうという思いに至ったので、ここからは精一杯稽古場で、課題に答えられるようにしていきたいですね。

左から上田誠、永野宗典、諏訪雅。

左から上田誠、永野宗典、諏訪雅。

左から上田誠、永野宗典、諏訪雅。

左から上田誠、永野宗典、諏訪雅。

さらにもう四半世紀!思いはさらに広がる

──またヨーロッパ企画の客席には常に若い観客が入ってきていて、新しいファンも獲得し続けているところがすごいなと思います。その一方で、「ヨーロッパ企画25周年記念カフェ」(参照:日替わりの「夜のイベント」も、「ヨーロッパ企画25周年カフェ」オープン)ではまるで知人のような感覚でヨーロッパ企画の面々にお客さんがフラットに話しかけていたのも印象的です。ヨーロッパ企画にとって、ファンの人たちはどのように見えていますか?

永野 良いか悪いかはさておき、確かにフラットな関係性だなと思います。そういうフラットさは良くないという人もいますが、僕たちはそれしかできないしお客さんもそれを望んでない感じがします。

──「YouTube Live『ヨーロッパ企画の生配信』@ヨーロッパ企画公式チャンネル」ではより敷居が低くなり、皆さんとファンがやりとりしているのが面白かったです。

諏訪 けっこうみんないいことを言ったりするんですよね、お客さんが(笑)。

上田 そうですね(笑)、味方という感じ。

諏訪 生配信でよく25周年の企画会議をやってるけど、ファンの人が普通に意見をくれて、それを僕らも普通に受け入れてアイデアを考えるし、確かに本当に対等。みんなヨーロッパ企画、みたいな。

上田 「リバー、流れないでよ」のクラウドファンディングで改めて実感したのは、ファンの方たちにもコアな人からライトな人までグラデーションがあるんだけど、コアな人が盛り上げを作ってくれて、新しいお客さんに向けて発信してくれるんです。お客さんなのにお客さんのほうを向いている人がいるというか(笑)。「25周年カフェ」のときもファンの方が「自分たちが伝えないと!」という感じでSNSで発信してくださったりして、古くからのファンの方が僕らの活動を手伝ってくれている感じがあるし、僕らも頼っている感じがあります。

左から諏訪雅、上田誠、永野宗典。

左から諏訪雅、上田誠、永野宗典。

──25周年となる2023年は、7月の「ヨーロッパ企画25周年カフェ」を皮切りに秋の全国ツアー、11月に京都・南座で行われるヨーロッパ企画25周年特別興行 in 南座「きっと、私UFOを見た。」と、次々とプロジェクトが続きます。活動の場が広がり続けているヨーロッパ企画ですが、今後さらにやりたいことや、今後の展開にどんな可能性を感じているか、教えていただけますか?

諏訪 初の長編映画「ドロステのはてで僕ら」が今けっこう海外で評価されているそうで、海外でも伝わるコメディなんだって実感したんです。「リバー、流れないでよ」も海外での上演が始まり、あれもお客さんにウケているという噂を聞くと、だったら海外でも舞台を試してみたいな、という気持ちが芽生えてきました。僕ら、美術を作り込むので、これまであまり海外公演って現実的じゃないと思っていたんですが、やり方を考えれば海外でやってみても面白いんじゃないかなって。

永野 うちは若い作家も多いので、僕もラジオをやっていたときにラジオドラマを書いてもらったりしたんです。今でさえコンテンツ地獄と言われていますが(笑)、まだまだ作れる才能がいると思っているので、若い作家の新しい感性を引き出せるようなもっと大きなチームになりたいですね。会社としても、2022年に上田が(ヨーロッパ企画を運営する株式会社オポスの)社長になったこともあり、それぞれのスタッフに例えば経理としてこんな能力があるんだとか総務としてこんなことができる子だったんだと、それぞれの才能が開花してチーム感が増している感じがするので、このままもっと魅力的な会社になっていきたいしそれを知ってもらいたいなと思い始めたところです。

上田 やっといろいろな意味で少しずつ味方がついてきて、さらに欲が出てきた、というか。今まで25年なんとなくずっとやってきましたが、「好きな人は好きだけどやっぱり知られていない」存在だったのが、少しずつ「前からヨーロッパ企画が好きだったんです」という声が増え始めて、やっと作りやすくなってきたなと感じています。永野さんが言うように、狭い範囲のお客さんにだけ向けて量産したら確かにコンテンツ地獄になるかもしれないけど(笑)、もう少し幅広いお客さんにも観てほしいし、なんなら過去の公演でも今やったらもっと見られるんじゃないかっていうものもあるから、ここから何をどの順でやっていけば、みんながもっとワクワクするだろうと考えていて。ただ、まずはメンバーやスタッフがワクワクしないとつまらないから、それぞれが、例えば世界に打って出るでも、後進を育てるでもいいんだけど、ドキドキすることをやっていきたいし、それがどんどん広がっていくといいなと思います。ここからもう四半世紀、世界のヨーロッパ企画として羽ばたけるよう、どうぞよろしくお願いします。

プロフィール

ヨーロッパ企画(ヨーロッパキカク)

1998年に旗揚げ。上田誠を代表に、京都を拠点に活動を行っている劇団。SFやファンタジー、非日常的な設定における群像コメディや、特殊造形や仕掛けを取り入れた“企画性コメディ”を持ち味としている。映画化もされた「サマータイムマシン・ブルース」(2001年初演)で注目を集め、「来てけつかるべき新世界」(2016年)が第61回岸田國士戯曲賞を受賞した。

上田誠(ウエダマコト)

1979年、京都府生まれ。劇作家、演出家、構成作家。ヨーロッパ企画代表。「来てけつかるべき新世界」で第61回岸田國士戯曲賞を受賞。近年の仕事に「夜は短し歩けよ乙女」(脚本・演出)、「たぶんこれ銀河鉄道の夜」(脚本・演出)、テレビドラマ「あいつが上手で下手が僕で」(脚本)、「リフォーマーズの杖」(脚本)、「魔法のリノベ」(脚本)、映画「ペンギン・ハイウェイ」(脚本)、「前田建設ファンタジー営業部」(脚本)、「四畳半タイムマシンブルース」(原作・脚本)、「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」(日本語版脚本)など。10月から脚本を手がけたテレビドラマ「時をかけるな、恋人たち」が放送スタート。

諏訪雅(スワマサシ)

1976年、奈良県生まれ。俳優、脚本家、演出家、監督。劇団では旗揚げメンバーとして多くの劇団公演に出演。また公演パンフレット「ヨロッパ通信」では編集長としてライティング、編集、撮影を担う。外部では「チコちゃんに叱られる!on STAGE~そのとき歴史はチコっと動いた!~」(脚本・演出)、「CHOCOHOLIC」(構成・演出)、チョコレートプラネット単独ライブ「PLANET TRAIN」(構成・演出)、Aぇ! groupの「THE GREATEST SHOW-NEN 舞台『ガチでネバーエンディングなストーリぃ!』」(脚本・演出)などを手がけている。

永野宗典(ナガノムネノリ)

1977年、宮崎県生まれ。俳優、脚本家、演出家、監督。劇団では旗揚げメンバーとして多くの劇団公演に出演。また監督した短編クレイアニメ「黄金」が第1回デジタルショートアワードにて総合グランプリを獲得。「祇園太郎 THE MOVIE」(監督)は「Seoul Guro International Kids Film Festival」で長編アニメーション部門最優秀賞を受賞した。出演するテレビドラマ「スーパーのカゴの中身が気になる私」が放送中。