始動から3年、舞台芸術のアーカイブとデジタルシアター化を目指すEPADが実現したこと・実現したいこと

2020年にコロナ禍を背景に立ち上がったEPADは、始動から3年、新たなフェーズを迎えた。EPADが目指すのは、舞台の作り手と観客、どちらにとっても新しい未来。消えゆく舞台芸術をアーカイブおよびデジタルシアター化することで、観客と作品の出会いのチャンスを創出し、地域や時代の違いを乗り越え、舞台芸術の魅力を広く伝えていく。

ステージナタリーでは、EPADの立ち上げから現在までの軌跡を振り返りつつ、特に2023年のさまざまな取り組みを関係者の言葉を交えながら紹介する。

構成 / 熊井玲

EPADとは?

一般社団法人EPADが文化庁や舞台芸術界と連携して進める、舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(Eternal Performing Arts Archives and Digital Theatre)の略称。EPADは、2024年1月時点で舞台芸術映像約2700作品(権利処理サポート含む)、戯曲約900作品、写真やデザイン画など舞台美術資料約20000点を取り扱っており、それらのデジタルアーカイブ化や利活用を進めると共に、収録、保存、配信、上映、教育利用などの標準化と、利用を可能にするための権利処理のサポートを行うことを通して、舞台芸術の収益力や対外発信の強化を支援することを目的として活動している。

立ち上げ当初は、コロナ禍によって上演がストップした作り手たちの金銭的、精神的支援の意味合いも強かった本プロジェクトだが、以前からの課題であった舞台作品のアーカイブ化や配信に伴う権利処理の問題に着手できたことで、プロジェクトの可能性は大きく広がった。EPADの取り組みが拡大することによって、作り手にとっては、限られた数日間の上演では出会えなかった地域、時代の観客に自分たちの作品を届けるきっかけになり、観客にとっては貴重な演劇の史料に触れるチャンスが増える場となる。

立ち上げから3年、EPADの現在地

現在、EPADは「保存・継承」「情報の整理・権利処理サポート」「作り手と観客の新たなマッチング」「教育・福祉などへのパッケージ提供」「ネットワーク化と標準化」の5本柱を中心に展開。「保存・継承」のため、舞台映像をはじめ舞台芸術に関する資料の収集と新規収録、デジタルアーカイブ化を推進し、収集した作品の情報や権利情報などの維持・管理、及び映像を収益化するための「情報の整理・権利処理サポート」を実施。また上映会やシンポジウムを通して「作り手と観客の新たなマッチング」、バリアフリー字幕などのユニバーサル上映や教育現場への活用を促進するための「教育・福祉などへのパッケージ提供」、それらの活動を実践するための各団体との「ネットワーク化と標準化」を行っている。

特に2023年は、バリアフリー字幕をはじめとするユニバーサル上映の実施、上映会や鑑賞ブースの試験的実施など、これまで以上に“見える”形で活動を展開した。本特集では、1つひとつの課題に向き合い、利用者たちのさまざまな声を反映させながら事業全体の可能性を探っているEPADの“現在地”、そして未来への展望を、さまざまな角度から紹介する。


2024年1月31日更新