朗読は、自分を表現できる素敵な箱庭
──お二人が考える朗読劇についても教えてください。朗読劇は、いわゆる声を当てるアテレコと、生身の肉体が伴う舞台作品の間にある表現だと思いますが、丸福ボンバーズにも所属されている神尾さんは、声優として、朗読劇の魅力をどう考えていますか?
神尾 昔、橋爪功さんの朗読劇を観たことがあるのですが、俳優さんの朗読劇ってめちゃくちゃ面白いし、熱量もすさまじく、素敵なものが多いんです。じゃあ、声優の朗読劇の良さは何かと考えたときに、まずは、声のプロとしての見せ方があるということ。だから本当は、チケット争奪戦になるくらいの価値がないとダメだと思っていて。皆さんに「言葉のプロが送る朗読劇は絶対に観に行かなきゃ!」と思ってほしい。でも「純文学の朗読作品は敷居が高い」とか、「声優さんがやるけど(アニメやゲーム)作品のコンテンツじゃないし」とか、今は集客で苦労するイメージがあって。それでも僕にとって朗読は、自分を表現できる素敵な箱庭なんですよ。舞台もアテレコも好きだけど、朗読劇は僕の人生で今後も重要な存在になる、大切にしていきたいジャンル。統計は取っていませんけど、昨年、声優界で一番朗読をやった男だという自負がありますから!(笑)
──神尾さんは詩と音楽をかけ合わせたKATARIでの活動など、声の発展にも興味が向いているんだろうなと感じますが、駒田さんは朗読劇にはどのように取り組んでいますか?
駒田 俳優さんの朗読劇は、役そのものになり切って演じる部分があると思うんですけど、僕は基本的に俯瞰型で、役が降りてくるということはありません。キャラクターライブも、お客さんが観たときにキャラクターが投影されているかということは考えるけど、“そのもの”にならないことが最重要事項なんです。だからこそ、聴覚を通してお芝居で錯覚させようという意識が働きます。息も絶え絶えで死ぬ直前のシーンでも、自分がマイクの位置から倒れるわけにはいかないので、マイク前でいかにその人物を殺すか、どこに熱量を持っていくかみたいなことを考えていますね。あとは本番で周りの皆さんに良い意味でつられたい。
神尾 うんうん。
駒田 だからたくさん練習はしますけど、台本に書き込みはしないです。「強く」「悲しく」とか書いてあると、それに目が行っちゃって、横で神尾さんがどんなに良い息遣いをしていたり、投げかけをしてくれたりしても、瞬時にリアクションが取れなくなってしまうから。
──神尾さんは台本に書き込むタイプですか?
神尾 僕もまっさらです。一筆も入れないですね。そのうえで朗読劇では特に、集中力を途切れさせないように読むようにしています。僕も駒ちゃんと一緒で、朗読劇で一番大事なことは内容理解だと思っています。だから、声に出しての練習もしないんですよ。黙読だけです。
駒田 へえ! 僕は声に出しますね。
神尾 すごく特殊だけど電車の中で、データで台本を読んでいて、本番で初めて第一声を放つことも時々あります。初見めちゃめちゃ強いんで。
駒田 やっぱり人によって違うんですね。こういう話ってあまりしないから。
神尾 そうね。仕事の準備とかアプローチの仕方とかね。
駒田 でも僕は、人のやり方を聞いて「わーそうなんだ! 面白いなー」と盛り上がって取り込めることは取り込むけど、それを全部自分に反映させようとは思わない、ある種ドライな部分があるんですが、神尾さんはそのことをわかってくださるんです。興味のないことにはズバっと言ってくれたりして、すごく楽。
神尾 ああ、そうなんですよ、根が性格悪いので(と満面の笑み)。
駒田 あははは!
あ、時代の寵児だと思います(笑)
──「声優は表に出ない」というのはもはやレトロな考え方で、今や声優さんも歌や踊りなど、さまざまな技術が求められると思いますが、そういったことには最初から苦労なく取り組めましたか?
神尾 そうですね。たぶん駒ちゃんも僕も、「声優とはこうあるべきだ」という発想のない2人なんだと思います。いろいろなことをやるのが当たり前になる中で、なんだったら新しい声優像を作っていって良いのではと。アニメ声優とか、吹き替え声優とか、声優の仕事が細分化されていったり、または新しい声優像を包括した“スーパーマルチクリエイター”的な言葉が生まれていったりしても良いなと思いますし。
──では、最初に声優を目指していたときに望んでいた景色と、今見えている景色にあまり差はないのでしょうか?
駒田 僕はこんなに声優がテレビに出ているとは、声優になった頃はイメージしていませんでした。ただ、当時からライブや舞台をされている方がいることは知っていたので、声優がブースの中でマイクの前に立つだけの存在ではなくなるんだろうなとは思っていました。なので、いろいろなことをする覚悟を持って入ったかな。役割を担うものが加速度的に広がっている今は、個人的には「望むところだ」という感じです。
神尾 声優業界も変わるのは当たり前ですし、僕は過渡期っていうより、黎明期のどんどん動いている中にいたい人間。自分で作っていけるのって楽しいですよ。
駒田 本当に。最初の数年間はウエディングプランナーの会社で社員として働きながらっていうくらい、仕事がなくて暇でしたから。当時は暇がないほど数々の芝居をこなしている姿が理想だったので「おかしいじゃん!」と思っていましたが(笑)、その時代に不貞腐れず、“ブライダルの仕事をやっていた声優”を強みにできると信じて、カメラの知識を付けて。振り返るとそこで蓄えられたものが、今、出られる場所を増やしてくれたんだと思います。この先、パタっといろいろなものが終わる可能性もあるけど、その次に何がしたいかを考えるのもワクワクします。
神尾 TikTokしたりね。
駒田 「新人おぢさん声優」(編集注:神尾が“おじさん構文”を用い、顔出しなしの動画を1月6日から13日の誕生日までカウントダウン投稿していた)って、神尾さんがわけのわからないことをやるのも、「負けてられないな」って思いますもん。
神尾 声優業界が自分たちの蓄えに仕事を紐付けできる下地になっているというところで、業界の進み方と僕らがマッチしている気がしますね。
──お二人にとっても今が面白い時期なんですね。
神尾 面白いと思います。
駒田 そうですね。
神尾 10年前だったら、うまくいってなかったかもしれない。今だから伸びやかにできるんだろうなって。あ、時代の寵児だと思います(笑)。
駒田 なんで今言い直したの?
神尾 いや、こういうことも言っておいたほうが良いのかなって(笑)。
──改めて朗読劇「ENIGMA」への意気込みを教えてください。
神尾 駒ちゃんは、太陽みたいな人というか。現場にいるだけで、「もののけ姫」のシシ神様が地面を踏んだみたいにふわーっていう空気になるんです。それは駒田航という人生が生んだ素敵な光だと思うんですけど、今回はそんな彼と対等なバディとして言い合えるキャラクターを演じる貴重な機会。僕自身、オリジナルの創作物での主人公って実はあまり経験がなくて、どうやって作るのが正解か、自分の辞書に載っていないものの答えを探すという、ぜいたくな悩みを今、味わっているところです。作品の世界観としては、ちょっとハードボイルドで緊迫した雰囲気の中に、アメリカ的なウィットに富んだ要素もある。そんな世界にこの2人で挑む姿を、ぜひ注目してもらえたらと思います。
駒田 理解者である神尾さんが居てくれるだけで僕も心強いですし、気心の知れたプロデューサーさんがこだわって作ってくれている作品なので、創作への思いや熱量をスタート地点からきちんと感じています。だからこそ、この作品を開いていく楽しさもありますし、伝え方を工夫して、僕らが感じている楽しさを共有してもらいたいなと。声質からお芝居まで、出演者のキャラクター性も出ると思うので、相乗効果で感情を揺さぶることのできるお芝居を作れたら良いなと思って取り組みたいです。
プロフィール
神尾晋一郎(カミオシンイチロウ)
1月13日生まれ、北海道出身。声優・ナレーター。作曲家の間宮丈裕と純文学樂団・KATARIとしても活動。落語家とのコラボ公演にも出演する。主な出演作に「世界はほしいモノにあふれてる」のナレーション、「あんさんぶるスターズ!」の鬼龍紅郎役、「ヒプノシスマイク-Alternative Rap Battle-」の毒島メイソン理鶯役など。声優デビュー10年を記念したフォトエッセイ「あまねく/ひろく」が発売中。4月に「KATARI独奏会-聖域-」が控える。
Shinichiro Kamio (@shinichiro_kamio) | Instagram
駒田航(コマダワタル)
9月5日生まれ、ドイツ連邦共和国出身。声優・ナレーター・カメラマン。主な出演作に「あんさんぶるスターズ!」の椚章臣役、「アイドルマスター SideM」の古論クリス役、「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」の入間銃兎役、スマートフォンゲームアプリ「ディズニー ツイステッドワンダーランド」のジェイド・リーチのボイスキャストなど。日本テレビ系「news zero」で金曜日のナレーターを務める。2021年11月に「駒田航のKomastagram 2nd PHOTO FRAME」が発売された。現在、テレビアニメ「TRIBE NINE」(五反田豊役)が放送・配信中。