声優の神尾晋一郎と駒田航が、オリジナル朗読劇「ENIGMA ~Invisible rain~」に挑む。「ENIGMA ~Invisible rain~」は、ニコニコチャンネル「さんたく!!!ぷらす」内で展開されている「さんたく!!!ぷらす朗読部」の、「羊たちの標本」(2019・2020年)、「カラオケ行こ!」(2021年)に続く第3弾。古樹佳夜が原作と脚本、富正弘が演出を手がける朗読劇だ。
声優やナレーターのみならず、神尾はDJにマジシャン、駒田はカメラマン、そして筋トレ好きとしても知られるなど、縦横無尽に活躍の場を広げている2人は、これまでも「レ・ミゼラブル」「嵐が丘」「源氏物語」などの朗読劇で声を交えてきた。そんな彼らが、このオリジナル作品をどう読むのか。お互いを“理解者”とリスペクトし合う神尾と駒田が、言葉の端々に仲の良さをにじませながら、朗読劇への期待を語った。
取材・文 / 大滝知里撮影 / 秋倉康介
初めてほぼ実年齢差に近い関係性を演じるアツさ
──お二人は同じ事務所の1年先輩(神尾)、後輩(駒田)という間柄ですが、最初の出会いは覚えていますか?
神尾晋一郎 全然覚えてないんだよね。
駒田航 仕事と関係ない、飲み会でお会いしたと思うんですが、神尾さんは今も昔も、話が巧みなんです。
神尾 ああ、私、そうなんですよ。
駒田 その場にいる全員と順番に話してくれるようなタイプで、しかも突然、僕にマジックを見せてくれて(笑)。「ほかのは、ほかのは?」と求めつつお話ししていました。僕はそのとき駆け出しで、もともと業界の知識もなかったので、仕事現場の様子や、どんなことをやっていきたいのかなど、ズケズケと聞いて。神尾さんはそれにテンポ良く答えてくれましたね。当時の印象は、今と何も変わらない。ずっと若々しいし、当時も年齢を聞いて「うそつけ!」って驚きました(笑)。
神尾 それは、お互いそうかもしれないですね。駒ちゃんも初めて会ったときから変わってない。僕もいろいろな人の前でマジックはしますが、プライベートで会ったり仕事での今後の話をしたりっていう人は本当に数えるほどしかいなくて、駒ちゃんはその中の1人。
──そんなお二人が今回出演するのが、オリジナル朗読劇「ENIGMA ~Invisible rain~」です。2070年代のアメリカを舞台に、身体に青い花びら型のあざができる謎の病・blue rose(ブルーローズ)を発端にした事件や陰謀に立ち向かう、特殊捜査班たちの姿が描かれます。お二人はその捜査班の一匹狼と新人を演じますが、プロットを読んでどのような印象を受けましたか?
神尾 どこかわからない部分があるっていうのが面白いなと。サスペンス的な要素があるんだけど、そこには仕掛けもあって、でも最初から悪者が出てこない。良いバランスの作品で、読んでいてワクワク感がありました。僕らが演じるのは、物語が二転三転してもまだまだ“見えてこない”2人なんです。そういう役で、駒ちゃんとバディを組めるっていうのが、僕は何よりうれしくて。
駒田 (にこにこ顔)
──お二人は「ヒプノシスマイク-Alternative Rap Battle-」ですでに“バディ”に似た、目的意識を共有する関係性を演じていますが。
神尾 「ヒプノシスマイク」は駒ちゃんと浅沼晋太郎さんとのチームですし、それ以外にも共通のコンテンツに出演していますが、ガッツリ2人で、ほぼ実年齢に近い歳の差の関係性を演じるっていうのが楽しみなんです。アニメでも外画(日本以外の国で制作された映像作品)の吹き替えでもなく、すごく良い攻め方のできる朗読になるんじゃないかなと思っています。
駒田 そうですね。僕は新しいSF作品が出るとNetflixで全部観ちゃうくらい、もともとSFが好きなんです。神尾さんがおっしゃったように、サスペンスの裏にあるトリックや細工が、映像があるとわかりやすくなるところを、今回は朗読劇で、言葉遊びも含まれるような中で、テンポ感などでお客さんをミスリードしていく。僕は結末を知りながら伝えていく立場ですが、物語の当事者として右往左往する姿を演じつつ、観ている人の視線を誘導するには……と考えながらマイクの前に立つんだろうなあって思っています。
神尾 そうだね。
駒田 バディだって、得体の知れない敵に立ち向かう中で衝突もするだろうし、ほかのキャラクターとの絡みもある。人間ドラマを描きながらSFを扱っているという僕の興奮感が、うまく朗読に乗っていったらなと。
──確かに、トリックがあるものを声だけで伝えるのは難しそうですね。
神尾 そうですね、映像での補足がない分、何が使えるかっていうと、音。でも、音だけだからこそ、聴いている方の想像力や僕らが発する色で、自由に染められる余白があると思うんです。十人十色の違う意見が出てくる“正解のなさ”が朗読劇の良さでもありますし。何より、今回はもう、共演のお歴々ですよ! 平川大輔さんとかがいらっしゃるんだから。
駒田 楽しみですよね、加藤将之さんも。石毛翔弥さんはちゃんと共演するのは初めてですし。
──ほかにも土岐隼一さん、榊原優希さんが出演されます。
神尾 アニメの吹き替えは、総尺を合わせる、つまり口の動きと間尺を合わせることが仕事。一方、朗読劇では舞台上で初めて役者の“間”で演じることができる。皆さんがどんな芝居をされるのか、楽しみなんです。
帰り道に駐車場で語り合う、神尾&駒田はアオハル中
──ちなみに、お二人にとってのバディのイメージは?
神尾 僕の中でのバディのイメージは、ずっと「海猿」です(笑)。
駒田 わかるわかる!
神尾 それか「シティーハンター」の冴羽獠と海坊主のほうのバディ。何もしなくても、根っこの部分はつながっていて、どんなにけんかしても同じ方向を向いているっていうのがバディかなと。2人の熱量も一緒でね。
駒田 僕は、深いところでの会話や、本質に突っ込んでいくっていう意味で、苛立ちが如実に出る関係がバディかなあ。ビジネスライクなぶつかり合いというよりは、リアルにキレて、相手のことをリアルに怒れることが大切。
──役を抜きにして、お互いのことをバディだと思いますか?
神尾 声優界で「1人バディを挙げて」と言われたら、そうなる可能性は、僕は高いと思います。
駒田 (満面の笑み)
神尾 未来を語るとか「今後の声優界どうしていこうね」とか、ちょっとアツい話をするときに、僕は彼の言うこともわかるし、彼は僕の言うことにもうなずいてくれるので、バディ感は強いです。
駒田 年々、やれる範囲が広がってきている仕事で、ふと横を見ると神尾さんが毎月、毎週のように新しいことに着手されているんですよ。新しいことに対して卑屈になるでもなく、どう物事を好転させていくかということに頭を働かせていて。そこが僕はすごく好きなんです。
神尾 うれしいっす(笑)。
駒田 で、そういう話をしているときが一番盛り上がる。
神尾 スタジオを出て帰り道が一緒のとき、そのまま駐車場でずっとしゃべったりするよね。
──青春の再来という感じですね。
駒田 そうそうそう(笑)。
神尾 青春ストライクしていますね、割と。
駒田 基本的に現状維持が嫌いな先輩ですし、僕もたとえ一瞬苦痛を味わったとしても、面白いことの先にある快楽を求めたいタイプなので。
神尾 81プロデュース(2人の所属事務所)の回遊魚ですから、私たち。
駒田 あははは! 今回の「ENIGMA」も、新しい挑戦の1つだと思うんですけど、そういう企画に嬉々として飛び込んでくれる先輩が10年間、同じ姿勢で前を走ってくれるので、僕も負けないくらい面白いところに行ってみたくなるんです。確かに、バディは誰かと言われたら、意思疎通が図れる神尾さん以外にはいないかもしれません。
神尾 だから今回の朗読劇もこの距離感でできるんじゃないかなっていう期待と、そこに何枚自分の役を乗せるのかっていう部分で、初回の本読みが待ち遠しいです。
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朗読は、自分を表現できる素敵な箱庭