ここでは、「ちいさなちいさな王様」の出演者である藤野涼子とさえ、そして撮影・監督を務めた大金康平と、脚本を担当した山谷典子が、それぞれの視点で「ちいさなちいさな王様」の制作秘話や、注目ポイントを紹介する。
- 「ちいさなちいさな王様」配信
- 2021年3月14日(日)~
- スタッフ / キャスト
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原作:アクセル・ハッケ「ちいさなちいさな王様」(日本語訳:那須田淳・大本栄 / 講談社)
脚本:山谷典子
監督・撮影:大金康平
出演:藤野涼子、さえ(OriHimeパイロット)
いつの間にか大人になってしまった方々にもぜひ観てほしい藤野涼子
──「ちいさなちいさな王様」への参加が決まったときの心境と、原作や脚本を読んだときの感想を教えてください。
原作者のアクセル・ハッケさんのことを初めて知ったのですが、ファンタジーでありながら哲学的なことが書かれていて、王様が“僕”に対して聞く質問1つひとつが胸に刺さり、私自身も“僕”と一緒に考えた部分がたくさんありました。そんな私は、いろんなことを気付かせてくれる王様と“僕”とのやりとりをうらやましく思って、ソファーの下に王様の部屋がないか探してみたり、外に出たとき、自分の右胸ポケットに王様がいないか、ひそかに確認してみたりしました。
──“僕”を演じるうえで、またこの作品に関わるうえで、どのような部分に苦労し、また手応えを感じましたか。
ナレーションや、モノローグの“僕”のセリフの言い回しにはとても苦戦しました。舞台ではなく映像作品ですし、モノローグのときは朗読する場所が変わるので、(ナレーションとモノローグの)それぞれのセリフの違いはわかると思うのですが、声だけでもきちんと聞き手にもわかるように、“僕”のセリフが続くときには、声のスピードやトーンを変えてみたり、固有名詞や指示語を強調してみたりして、メリハリを付けて読もうと心がけていました。
──さえさんがOriHimeを操縦し始めたとき、藤野さんがOriHimeに向かって「寂しかった!」とおっしゃっていたのが印象的でした。さえさんが“入って”いるOriHimeと、さえさんが“入って”いないときのOriHimeでは、どのように感じ方が違いましたか。
まったく違いました! さえさんは連続して撮影する時間が限られていたので、参加できないときは、現場にいるスタッフの方がOriHimeを遠隔操作で動かしていました。ただそのときは、OriHimeの電源がONになって、目が光って動いていたとしても、空っぽのロボットがいるだけにしか見えませんでした。
さえさんがOriHimeパイロットとして入っているときは、さえさんが何も話していなくても、ちゃんと“誰かがいる”という感覚になるのです。それは、スタッフの方々も感じていて、王様の衣装の下にマイクを仕込むときなどまるで本当の人とやりとりするときみたいに「失礼します」と言って慎重に触っていました。
──視聴者には、「ちいさなちいさな王様」をどのように楽しんでほしいですか。
手乗りサイズのOriHimeロボットが、本当にちいさな王様のようで可愛らしいので、その姿に癒されながらアクセル・ハッケの世界観にどっぷり浸かってほしいです。セットや小道具もマッチしていて、きっと観終わった頃には、私のようにちいさな王様を一瞬探したくなると思います。子供から大人まで、多くの世代の方々に楽しんでいただける作品ですが、いつの間にか大人になってしまった方々にもぜひ観てほしいです。
目の前の視界が開けるような気持ちにさえ
──「ちいさなちいさな王様」への参加が決まったときの心境と、原作や脚本を読んだときの感想を教えてください。
まさか家にいながら、こういった作品を作る場に関われると思わなかったので、どきどき半分わくわく半分という気持ちでした。物語を読むうちに、当たり前だと思っていた常識や、こうあるべきという気持ちがどんどん変わっていき、読み終えたあとには、自分の見ている世界が少し違って見えるような、目の前の視界が開けるような気持ちになりました。
──OriHimeを通じて“王様”を演じたとき、どのようなことを意識されていましたか。
OriHimeを通じてですが、遠隔でもそこに人の温かさだとか、心を感じてもらえればいいなと思っていました。王様がちゃんと王様としてその場に存在して、OriHimeが王様に見えるように、観ている方に思ってもらえるよう意識して演じました。
──視聴者には、「ちいさなちいさな王様」をどのように楽しんでほしいですか。
ご自宅のリビングや、ベッドの上など、おのおのの場所から観ていただき、作品を通して、物語の世界に心をゆだねて広がっていけるような気持ちになっていただけたらうれしいです。また、こういった初めての試みが、また別の新たな可能性につながっていけばいいなと思っています。
身体的距離の壁を超えた芝居が”当たり前”と言えるようになったら大金康平
──OriHimeを介した遠隔演技や、“リーディングシネマ”という形式など、本企画では、大金さんにとって新たな挑戦の連続だったかと思います。撮影を終えて、いかがでしょうか。
朗読劇の演出や、生身の俳優と遠隔出演の俳優が同一画面で芝居をすること、そして分身ロボットの登場と、本企画は僕にとって初めての課題はいくつもありました。OriHimeを使ってご自宅から稽古・撮影に参加されたさえさんとのやりとりは、いわゆる非言語的コミュニケーションをふんだんに体験できた時間だったかと思います。さえさんの顔は見えなくても、OriHimeの身振りや顔向きを通して、彼女のテンションや表情が予想以上にこちらに伝わってきたことが驚きでした。「あ、今ちょっと緊張してるのかな」とか「うまく芝居できて少し安心してるかな」など、微妙な感情がわかる瞬間が多かったですね。普段のZoom会議や、既出のリモート作品とは違う新鮮味に感動したと同時に、もしも近い将来、こんな風に身体的距離の壁を超えた芝居が“当たり前”と言えるような現場があるならちょっと素敵だな……とも思ったので、この状況を極力特別扱いせず、実際現場にいる藤野さんと共に、いつも通りの稽古・撮影を心がけました。
──撮影でこだわったポイントを教えてください。
劇中に登場する“僕の部屋”や“屋上”(原作ではベランダ)は、それぞれセットを組んでいただいたので、芝居の動線や表情など、映像で説明できるト書きやセリフはところどころ省略しました。主人公の“僕”が、本棚と壁の隙間に入り王様と同じ背丈になる場面では、ミニチュアセットやクロマキー合成などを使い、舞台上では実現できないファンタジックな画面作りを目指しています。
ただ、偶然にも(?)原作の掲げる大きなテーマの1つが“想像力の肯定”なんですよね。これは、セリフや音だけで楽しむ朗読劇の醍醐味ともリンクするもので、この物語を発信する我々が、何でもかんでも映像で可視化してしまうのはナンセンスだな、と思う一面もあるのです。しっかりビジュアライズする場面と、あえて無機質な黒背景に立つ藤野さん、さえさんのかけ合いだけに任せてしまう場面。その2つのバランスは特に気を付けた部分です。
──視聴者には、「ちいさなちいさな王様」をどのように楽しんでほしいですか。
“OriHimeとの共演”、“リーディングシネマ”という企画上の構造なしにしても、原作が放つメッセージには、こんな現代に生きる僕たちが少し豊かになれるかもしれない“生(せい)と暮らしの本質”が隠れていると思っています。本編後半、“僕”は部屋の隅にある絵持ちの家に、ミニカーを運転する王様とともに会いに行きます。その方法は至って簡単で、目をつむってその道中を想像するのみ。ここはぜひ、視聴者の皆さんも目をつむって、2人の会話に身を委ね、一緒にドライブを楽しんでみてはいかがでしょうか。
親子で作品を楽しんでいただけたら山谷典子
──脚本を執筆された際、特にこだわった部分を教えてください。
原作がとても面白いので、原作の素敵さを壊さないように……というのが一番気を付けた点です。お菓子のグミと比較されて書かれていた王様のサイズを忘れないように、パソコンの横にグミを置いたまま執筆していました(笑)。
──視聴者には、「ちいさなちいさな王様」をどのように楽しんでほしいですか。
物語自体、そして王様のセリフは、大人が楽しめる仕掛けにあふれています。同時に、小さな王様を可愛らしいロボットのOriHimeが演じていることで、子供も楽しめるのかなと思います。親子で作品を楽しんでいただけたらうれしいです。我が家も、3歳の息子と一緒に楽しもうと思っています。