「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」|「エリア50代」稽古場レポート、小林十市・金森穣・柳家花緑が語る“私とダンス”

自分らしいカラーが出たラインナップに|小林十市

稽古を観て、「僕、ちょっとすごいものを企画したなあ」と思ってしまいました(笑)。現在僕はどのバレエ団にも所属していませんし、日常的に舞台で踊っているわけではなく、誰かに教えたり、(モーリス・)ベジャールさんの作品の振付指導をしているような状況なんです。2015年に(近藤)良平さんが構成・演出・振付した「近藤良平のモダン・タイムス」に出演して以来、誰かの作品を踊るということをまったくやっていなかったんですね。ただ踊りたいという気持ちは常に持っていたのと、「DDD2021」ではコロナ禍によって海外のアーティストを招聘できないという状況になったこともあり、前々から自分が持っていた「50代の身体をもってどんな表現ができるのか」ということをやってみたいなと思って。実はそのきっかけとなったのは、「モダン・タイムス」のときに良平さんが、踊る直前まで舞台の裏で仰向けになって横になっていたことなんです(笑)。僕はきっちり準備してから舞台に上がるほうだったので、「僕もあんなふうに自然に踊りたいな」と。しかも今回、どういう順番で踊るかは当日その場で決めることにしていて、それは順番が決まっているとそこに向けて準備してしまうからなんです。もちろん怖いことなんですけど、あえてそれをやってみたいなと。

小林十市

僕がこういう話をすると、割と皆さん、同じような答えが返ってきました。20代、30代と培ってきたものはあるけれど、だんだん瞬発力がなくなってきて回復も遅くなってきて、そういう中で日々生活しつつ、でもまだ踊りと向き合っている。そんな今、50代として舞台に立って何ができるのかを見つめ直したいというか。ただ今日の稽古を観て、皆さん本気で攻めまくっていて(笑)、ちょっと驚きました。伊藤キムさんは、最初は「今日、腰の調子があまり良くない」っておっしゃっていたのに、1回踊って体が温まったのか2回目のキレがすごかったし、SAMさんはストリートダンスとお能を違和感なく融合されていて、歩いているだけでも圧倒されるというか。僕、「エリア50代」の中では年齢的に一番若いんですけど「本当にすみません!」という感じがしました(笑)。

今回、僕はアブー・ラグラさんの振付作品を踊ります。昨年の7月に初めてお会いして、ワークショップ的な感じで彼の動きを体験しているうちに少しずつ振付が始まっていって。コロナの影響でしばらく稽古に行けなかったんですが、今年の5月に1週間の集中稽古をしたら、最初の3日間くらい筋肉痛がすごかったです(笑)。10月にはNoismとのコラボレーションもあります。こうやって団体に入って踊るというのは本当に久しぶりなので、大丈夫かなっていう思いもありますが(笑)、楽しみです。

小林十市

今回の「DDD」は、結果的に良い具合にプログラムできたかなと思っています。例えば「International Choreography × Japanese Dancers~舞踊の情熱」は、そこらのガラ公演では観られないようなダンサーや作品が並んでいますし、Noism Company Niigata×小林十市では、金森穣くんがベジャールさんの学校出身だということで、僕とベジャールさんのつながりを知っている方ならこの共演をきっと楽しみにしてくれていると思います。また弟の花緑と東京シティ・バレエ団が共演する「おさよ(落語版ジゼル)」など、自分らしい色が出せたプログラムになったのかなと。

今回、「踊りの現在地」ということを1つの目線として掲げていますが、日本のダンスは、海外で今活躍しているダンサーたちも含めて踊りの水準が本当に高くて、僕が20代前半の頃からは考えられない状況になっているなと思います。そういう意味では、日本のダンスの現在地は世界レベルに達しているのではないでしょうか。さらに踊りは今、日常生活にあふれていて、フランスでもそうですが、CMには必ず踊りがあるくらい。そういう意味で、時代が変わったなという感じもしますし、でもそんな踊りがあふれている中だからこそ、プロとして活動していくことに別の意義があるようにも感じるので、ぜひさまざまな踊りを体感していただきたいと思います。

小林十市(コバヤシジュウイチ)
1969年生まれ。1979年に小林紀子バレエシアターでバレエを始める。1989年にスイスのベジャール・バレエ・ローザンヌ(BBL)に入団。「春の祭典」「火の鳥」「くるみ割り人形」「シエラザード」など多数のベジャール作品に出演。BBLを退団後、世界各国のバレエ団にベジャール作品の振付・指導を行っている。2004年に「エリザベス・レックス」で俳優デビューした。

金森穣と柳家花緑が語る「私とダンス」

私にとってダンスは“願い / 祈り”|金森穣(演出振付家、舞踊家。りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館舞踊部門芸術監督、Noism Company Niigata芸術監督)

金森穣(Photo:Kishin Shinoyama)

──今回上演される、「A JOURNEY~記憶の中の記憶へ」について、作品を楽しむヒントになるキーワードやポイントを教えてください。

今回の作品はなんといっても小林十市さんですね。我が恩師ベジャールから誰よりも薫陶を受けた日本人舞踊家であり、私にとっては兄のような存在でもある十市さんとのコラボレーション。十市さんのために上演プログラムを構想し、十市さんのために新作を創りました。普段のNoismとは少し異なる、小林十市とNoismの化学反応を楽しんでいただければうれしいです。そして小品ですが、私と十市さんのデュオもお楽しみに! というか私自身とても楽しみにしています。

──あなたにとってはダンスとはどんな存在ですか?

私にとってダンスは願い / 祈りです。

その理由は、何かを願わなくても、何かに祈りを捧げなくても、人は生きていけます。それでも古代から人間は、苦悩から解放されたいと願ったり、地平線の果てを知りたいと願ったり、他者とつながりたいと願ったり、さまざまなことを願い、その願いが成就するように祈り続けてきました。私にとってダンスとは、まさにその願いを全身体的営みとして実践する行為、それを他者と共有するための祈りの儀式なのです。

私にとってダンスは“もう1人の私”|柳家花緑(落語家)

柳家花緑

──今回上演される「おさよ(落語版ジゼル)」について、作品を楽しむヒントになるキーワードやポイントを教えてください。

今回の落語「おさよ」の聞きどころは、バレエ「ジゼル」を花緑がやったら喜劇になっちゃったという部分。

そして何より東京シティ・バレエ団の皆様とのコラボが見どころです。

バレエと落語を一緒に楽しむといういまだかつてない体験ができる公演は世界でここだけです!

──あなたにとってはダンスとはどんな存在ですか?

私にとってダンスは“もう1人の私です”。

その理由は、子供の頃、兄・小林十市と共にクラシックバレエを習い、その後ブレイクダンスにハマり、ジャズダンスも習い、ついでに社交ダンスも経験し、ディスコやクラブで少ない青春を経験した記憶がある。

落語家の私とダンスを踊っているときの私。どちらも気に入っています。

※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。


2021年9月13日更新