映画「キャッツ」安倍寧×堀内元|舞台「キャッツ」の息遣いが、映画ならではのアプローチで立ち現れる

巡り巡る「キャッツ」のキャスティング

──先ほど、ロビー・フェアチャイルドの名前が出ました。ミュージカル「パリのアメリカ人」のオリジナルキャストとして知られる彼は、堀内さんにとってニューヨーク・シティ・バレエ団の後輩にあたりますね。

堀内 はい。もともとミストフェリーズのオリジナルキャストだったウェイン・スリープが英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルで、アメリカで上演するときはニューヨーク・シティ・バレエ団のダンサーにやらせようということで、僕のところに話が来たんです。そういった流れを今回のキャスティングでもくんでくれているようで、すごくうれしいです。

安倍 ヴィクトリア役のフランチェスカ・ヘイワードは相当人気があるダンサーなんですか?

堀内 ええ、英国ロイヤル・バレエ団に入った当時から人気があります。ケニアにルーツを持った彼女をヴィクトリア役に据えたところも現代ならではじゃないかなと。

映画「キャッツ」より、ジュディ・デンチ演じるオールドデュトロノミー。

安倍 確かに。あとやっぱり、村長のオールドデュトロノミーを女性にしたっていうのも今の時代だからでしょう。ご存じのように、演じるジュディ・デンチはもともと初代グリザベラをやるはずだったんです。ところが稽古で張り切りすぎてアキレス腱を切り、出演がパァになっちゃった。あれから40年くらい経った今、オールドデュトロノミー役で「キャッツ」に返り咲いたっていうね。

堀内 彼女、曲のメロディを歌おうとしているんじゃなく、歌詞を一生懸命歌っていて。まさにそれだよ!と。発声や言葉を観客に届けることを大事にするイギリス演劇の良さがちゃんと表れていて、ほんと素敵だなと思いました。

安倍 字幕版ではブリティッシュ・アクセントが醸し出す心地良さをぜひ味わっていただきたいよね。1つひとつのリズムと韻がうまく合っていて、聴いていてほんとに気持ちが良い。特に詩、最後のところ、脚韻が秀逸です。

猫たちとロンドンの街並みを楽しんで

安倍寧

──そのほか、ここぞという映画版の見どころを教えてください。

安倍 僕はね、冒頭から「おー!」と思った。ロンドンの街を見下ろしたシーンでいくつものネオンサインが灯っているんだけど、「ライジング・サン」というパブなど、実際の店なんかが仕込まれているんですよ。そういうのを見つける楽しみはありますね。

堀内 年代こそ違っても、今実在するロンドンの街を舞台にした物語ですからね。「Up, up, up past the Russell Hotel♪」(「Journey to the Heaviside Layer」より)と歌にも出てくるラッセル・ホテルなど、歌詞と実際の場所とを映像が結び付けてくれて、より作品に入りやすくなっているなと思いました。

安倍 ロンドンという1つの街を実体験する。あるいは、ロンドンという場所を知らなくとも、「こんな魅力がある街なのか」と知るきっかけとなる。いろいろな見方ができるよね。

堀内 あとミーハー的だけど、ボンバルリーナ役でテイラー・スウィフトが出ているというのが、すごくうれしかった(笑)。本来はボンバルリーナとディミータのデュエットの曲を、1人で歌っているんですよね。