文学座附属演劇研究所 60期生 稲岡良純×村田詩織×中川涼香&主事・植田真介が語る“コロナ時代の研究所生活” (2/2)

いよいよ授業スタート!問題は“マスク”

──2020年6月に、ようやく文学座研究所の授業がスタートしました。ただ、植田さんをはじめ講師の皆さんがさまざまなアイデアを出し合って、昼間部と夜間部が各30名で行われるところ、各部を2つに分けて1クラス15名で行われるなど、新型コロナウイルス感染予防対策を踏まえた、新しいカリキュラムで授業が編成されたそうですね。

植田 60期が“コロナ初年度”だったので、感染対策については随分と文学座附属演劇研究所の委員会で悩みました。開講前には何を準備すべきかとにかく調べ、カリキュラムについても講師陣と意見を交わして作りました。これまでは、授業では講師に好きなことをやってもらうというのが文学座のやり方だったんですけど、講師全員で情報共有しながらカリキュラムを刷新したのは、60期が初めてのこと。今、62期でやっていることも60期で作られたものがベースになっていますし、59期と60期では、やっていることが似ていても講師の感覚は違っていると思います。ただ、一番苦労したのは、“マスクをつけなくてはいけない”ということ。今では講師も生徒も慣れましたが、当時は違和感がすごくて。ストレスを抱えながら授業をしていましたね。

──プロの現場でもマスクをつけての稽古には、さまざまな苦労があると聞きます。

植田 ただ60期以降の生徒は、マスクで口元のお互いの情報を得られないからか、しっかり相手の目を見て、話をよく聞いてくれる印象があります。また、授業が終わってもご飯に行けるわけではなく、すぐ帰らなきゃいけなかったので、「授業の時間を大事にしないと」という気持ちが強く、稽古や授業の濃さはコロナ前よりも明らかに変わりましたね。特に60期は、開講が2カ月遅れても「それでもやりたい」と思っていた人たちだから、授業だけではなくコミュニケーションにおいてもモチベーションが高かったです。

──2年前の本科生時代、どのような思いで授業を受けていましたか?

村田 開講時に植田さんから言われたのは「少人数で授業を行うことで、密を避けつつ授業内容は密になる」ということ。実際その通りで、1人ひとりを見てもらえる時間が増えたことに、ちょっと得したような気持ちになりました(笑)。ただ、マスクをつけながらの実習は確かに大変でした。うまく演技ができないのは、自分のせいなのか、マスクのせいなのかがわからなくて(笑)。

一同 (笑)。

村田 生徒同士で「このマスクしゃべりやすいよ!」という情報交換は活発にしていましたね。また、顔半分がマスクで隠されていて、表情からの情報を得ることができないからか、コミュニケーションの熱量が高かった。講師の話はすごく前のめりに聞いていましたし、生徒同士も“積極的に関わるぞ!”という意識が強かった。

村田詩織

村田詩織

中川 表情がわかりにくい分、相手に対してアンテナを張るようになったよね。だから研究所では、いつも密度の高い時間を過ごしていました。マスクの話で言えば、アクションの授業が……。

村田 大変だったよね!(笑)

中川 すごく息がしづらくて!(笑) でもその分、肺活量が上がった気がするし、体力は付いたんじゃないかな。とにかく、60期生はやる気で満ちあふれていた。

稲岡 僕はとにかく、発表会をやらせてもらえたことがうれしかった。ほかの劇団が、コロナ禍で全然演劇ができていない状況でも、1年目の本科の卒業公演も含め、4回も舞台に立てたことがありがたかった。無観客だったり、マスクをつけながらとか、もうしょうがない!って思えるぐらい。

植田 カリキュラムの変更を、マイナスに思わせちゃいけないということは講師共々意識していました。マスクをつけながらの実習や、無観客での発表会など、制限はあるけど、やっぱりモチベーションは高く持ってほしかった。だから「コロナ禍でできないことはあるけど、逆にこんな新しいことを用意しました」って伝えられるように考え続けていました。

これからの演劇界をリードしていくのは

──コロナ禍も3年目になり、演劇の上演自体は少しずつ増え、活発になってきました。皆さんは演劇を続けていくことに今どのような希望を持っていますか?

村田 演劇業界への風当たりの強さも少し和らいできましたし、マスクをつけたまま演劇を行うなど、コロナ禍だからこその新しい表現も出てきた印象があります。制限があるからこそ、それを突破しようとする新しい力が働いている気がして。演劇界の転換期にいられることに、ワクワクしています。

中川 コロナ禍で情報が錯綜して、何を信じたら良いのかわからない状況が続いたからか、社会的に考え方が統一化されている感覚があって。だからこそ、演劇を通じて「自分が何を感じたか」ということを演じ手である自分たちが、お客さんと一緒に考えていくことは価値のあることだと思っています。

稲岡 舞台が中止になったり延期になってしまうことはもちろん悔しいですけど、永遠にこの状況が続くわけがないと希望を持っています。もう少し乗り越えたら、状況が好転するんじゃないのかな。

植田 彼らは“コロナ以前の演劇界”をほぼ知らない世代だけど、“以前”を知っている側からすると、今後新型コロナウイルスの感染拡大がもし収束していったとしても、多分以前とまったく同じようにはならないと思うんです。そうなったときに、演劇界をリードしていくのは、コロナ以前を知らない世代、つまり彼らなんですね。60期以降の生徒たちがどのように新しい未来を切り拓いていくのかすごく楽しみですし、文学座にとっても重要なターニングポイントになってくるんじゃないのかなと思います。

植田真介

植田真介

求めるのは“コロナ抜け”を考えられる人

──10月1日に、2023年度の入所案内・応募書類の請求がスタートしました。エントリーは12月5日からですが、文学座附属演劇研究所への応募を考えている後輩たちへのメッセージをお願いします。

村田 「やらない後悔よりやる後悔」と言いますか(笑)。かつての私のように、演劇に対してちょっとでも未練があるなら、挑戦してほしい。文学座は、多様な表現や考え方が認められる環境で、講師陣は私たちの個性を大事にして、伸ばしてくれる。私のように演劇業界を知らないなら、なおさら受けることをおすすめします。

稲岡 僕は「この時勢でも、入所したら確実に4回は舞台ができる」ということかな。

一同 (笑)。

村田 一貫してるなあ(笑)。

稲岡 でも、それってこの時代には本当に大きいことだと思うから。もし今、演劇がやりたいんだったらぜひ入所してほしい。

中川 私も詩織ちゃんと同じく、「やらない後悔よりやる後悔」ですね。研究所では、今後の人生においてもプラスになることを学べるし、迷っているんだったら、とにかく1年はがんばるぞっていう意思を持って飛び込んでみてほしい。

──植田さんは主事として、どんな人に来てほしいですか。

植田 決して簡単なことではないですが、“コロナ抜け”を考えられる人ですね。コロナ禍だからと萎縮したり、諦めてしまうのではなく、この環境だからこそ新しいことに挑んだり、自分なりの新しいアイデアを持っている人を待っています!

文学座附属演劇研究所の研修科の生徒たち。

文学座附属演劇研究所の研修科の生徒たち。

文学座附属演劇研究所とは

1961年、文学座の創立25周年の記念事業の1つとしてスタートした。授業では文学座座員たちによる演技実習や各専門家を招いての音楽、体操、ダンス、アクション、能楽、作法のレッスン、演劇史を学ぶ座学などが行われ、舞台で広く活動していくための基礎教養を学ぶことができる。研究所は本科と研修科に分かれており、本科の卒業公演後、選抜されたメンバーのみが研修科に進級できる。

文学座附属演劇研究所2023年度入所案内

文学座附属演劇研究所2023年度入所案内

2023年度 第63期本科入所試験

第1次試験:2022年12月25日(日)
第2次試験:2022年12月27日(火)・28日(水)
入所案内・願書請求:2022年10月1日(土)開始
願書受付:2022年12月5日(月)~19日(月)必着

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プロフィール

植田真介(ウエダシンスケ)

1982年、広島県生まれ。俳優。2000年、文学座附属演劇研究所に入所。2005年に座員となる。2017年より尾道観光大志を務める。2018年、文学座附属演劇研究所の主事に就任。俳優として近年は、ティーファクトリー「ノート」(演出:川村毅)、文学座「昭和虞美人草」(演出:西川信廣)、「有頂天作家」(演出:齋藤雅文)、「T Crossroad 短編戯曲祭 <花鳥風月> 夏」などに出演している。

稲岡良純(イナオカリョウジュン)

1995年、滋賀県生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、2020年に文学座附属演劇研究所に入所。2021年に研修科1年に昇格。

村田詩織(ムラタシオリ)

1996年、神奈川県生まれ。専修大学文学部日本語学科を卒業後、社会人経験を経て、2020年に文学座附属演劇研究所に入所。2021年に研修科1年に昇格。

中川涼香(ナカガワスズカ)

2000年、神奈川県生まれ。東京アナウンス学院 放送声優科卒業後、2020年に文学座附属演劇研究所に入所。2021年に研修科1年に昇格。