文学座附属演劇研究所 坂口芳貞×植田真介 対談|目指すは“演劇界の京大”?所長×主事がぶっちゃけトーク、授業潜入レポも

授業の様子をチラ見せ!潜入レポート文学座附属演劇研究所ってこんなところ!Part1

経験豊富な座員から、演劇の知識を学べるのが文学座附属演劇研究所の魅力の一つ。今井朋彦、坂口芳貞、鵜山仁といった名だたる講師陣は、生徒たちとどのように関わり、どんなことを伝えているのか? このコーナーでは、ある日の本科の授業を紹介する。

7月中旬。東京都内にある文学座の稽古場で、昼間部による演技の授業が行われた。今井朋彦が講師を務めるこの授業の内容は、小学校の教師と生徒をテーマにした短いテキストを、2人1組で発表するというもの。発表したいチームを今井が募ると、生徒たちは真剣な表情で一斉に挙手。活気のある雰囲気で授業は始まった。

最初の1組目は、叱責する教師に怯える生徒という図を、悲壮感たっぷりに立ち上げる。発表が終わると、今井は時間中、似た演技が続いてしまっていたことに言及。「演技する身体を刻々と変化させないと、シーンが停滞してしまう」と指摘し、生徒役の泣く芝居について「ただ漠然と泣くのではなく、そこから何を伝えたいのかしっかり考えて。先生が怖いのか、泣くことで許されたいのか、それとも悔しいのか……そこを意識するだけでも全然違う」と本科生に語りかけた。

別のチームは、“ふざける生徒に手を焼く教師”という構図で同じテキストを解釈。コミカルな演技に、観客側の生徒からは絶えず笑いの声が上がった。彼らの演技に対し、「面白いね」と微笑んだ今井は、「ただ、テンポが惜しかった。会話のボールは腐りやすい。ホールドしてしまうと鮮度を失ってしまう」「リズムを整えるために必要なのが稽古。繰り返しやることで、2人にしかできない展開を探って」と助言した。

授業は終始和やかに進行。自分のチームだけではなく、ほかのチームへの今井のアドバイスにも集中して聞き入るなど、貪欲な姿勢で授業に取り組む生徒たちの様子が印象的だった。

同日、夕刻から夜にかけて夜間部の2コマを見学。1コマ目は、文学座に数多くの戯曲を書き下ろしている宮本研の「俳優についての逆説」を用いた、坂口芳貞の授業だ。この日授業に参加したのは、演技部・演出部・制作部の33人。彼らは車座になり、シェイクスピアの「ハムレット」のセリフを引用して書かれた文章を一節ずつ交代で読んでいく。熱を込めて宮本の言葉を紡ぐ生徒たちに、坂口は「宮本さんは本当にいい文章を書く人でね。筆の進みは決して速くなかったけど、俳優を心から愛してくれる人だった」と語り聞かせる。

そうして「俳優についての逆説」の音読が終わると、坂口は生徒たちに「3分間の一人芝居を作ってくること」という夏休みの課題を出した。一人芝居の内容や形式は基本的に自由だが、全編ダンスのみ、歌唱のみはNGだという。「さて、何を書こうか」と思い巡らせる生徒たちに、坂口は「皆さん、きっと苦労することと思います。夏休みを“暗く”過ごしてください(笑)」と声をかけ、いたずらっぽく微笑みながら稽古を終えた。

2コマ目は、7月初旬に本科発表会で上演した「わが町」のテキストを使った鵜山仁の特別授業だ。今期初となる鵜山の授業に、生徒たちは少々緊張しているのか、彼らの背筋は心なしかピンと伸びている。鵜山は、何人かの生徒に「わが町」の台本を読むように促し、「直前のセリフからどのように影響を受けるかを考えながら言葉を発してみて」「演劇において一番みっともないのは1人よがりなこと。相手が教えてくれることって、実はとても多いんです」と、自身のキャリアを通して学んだ「演劇とは何たるか」を後輩たちに伝えていく。

講義の合間には、鵜山が文学座に入団した当初のエピソードや、演劇界のこぼれ話、今は亡き平幹二朗とのクスリとくるような思い出を語る場面も。数々の現場でキャスト・スタッフと共に作品を生み出し、今なお第一線で活躍する鵜山の“生きる”言葉に、生徒たちは90分間、真剣に耳を傾けていた。

現役・59期生に聞く文学座附属演劇研究所ってこんなところ!Part2

演劇に情熱を燃やす文学座附属演劇研究所の若者たちは、どのようなきっかけで研究所にたどり着いたのか? 7月の本科発表会「わが町」を終えて、たくましい顔つきになってきた本科生の面々に話を聞いた。

昼間部・山田亮秀

昼間部・山田亮秀
(1996年生まれ、富山県出身)

文学座附属演劇研究所に入所したきっかけは?

高校生の頃から俳優業に憧れていて、一番興味のあった声優の養成所に一度入ったのですが、何かが違うなあと思って。声を当てる稽古より、舞台に立って演じる稽古のほうが楽しくて、次第に舞台俳優になりたい気持ちが強くなっていったんです。劇団の中で有名なところに入ろうと思い、文学座に決めました。

入所する前、研究所にどんなイメージを持っていましたか?

一番有名な劇団の養成所なので、「ガチガチに訓練を積んできた人だけが入れるところなのかな」「試験や授業で何か難しいことをさせられるのかな」と漠然と思っていました。正直、高校生の頃にちょっと演劇をかじっただけの僕にとっては不安で。有名というだけで選んだので、文学座の芝居を一つも見たことがなく、それについて何か聞かれたらどうしようとビクついていたのをよく覚えています。

入所後、そのイメージはどんなふうに変わりましたか?

みんながみんな経験者というわけでもないと知って安心しましたね。演技の上手さだけを見て生徒を選んでいるのではなく、それぞれの豊かな個性を見て選んでいるのかなという印象を受けました。

夜間部・佐藤幾会

夜間部・佐藤幾会
(1996年生まれ、岡山県出身)

文学座附属演劇研究所に入所したきっかけは?

演劇を続けるか就職するかを去年の秋まで悩んでいました。そんなときに知り合いの勧めで「ジョー・エッグ」(2018年文学座12月アトリエの会)を観て、「私もあんなふうになりたい。演劇を諦めたくない」と思い、内定を蹴って文学座を受験しました。

入所する前、研究所にどんなイメージを持っていましたか?

とてつもなく厳しい場所というイメージがありましたね。小さい頃から演技をやっているような、演劇経験者ばかりが集まっていると思っていました。

入所後、そのイメージはどんなふうに変わりましたか?

演劇経験者もいますが、未経験の人も何人かいて、入る前のイメージと大きく違いました。厳しいのは変わりませんが、いい意味の厳しさというか、愛をもって厳しく細やかにたくさんのことを教えていただいています。

文学座附属演劇研究所

1961年、文学座の創立25周年の記念事業の1つとしてスタートした文学座附属演劇研究所。授業では文学座座員たちによる演技実習をはじめ、各専門家を招いての音楽、体操、ダンス、アクション、能楽、作法のレッスンや、演劇史を学ぶ座学もあり、広く舞台で活動していくための基礎教養を学ぶことができる。なお、研究所は本科と研修科に分かれており、本科の卒業公演後、選抜されたメンバーのみが研修科に進級する。

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坂口芳貞(サカグチヨシサダ)
1963年に文学座附属演劇研究所へ入所し、1967年に座員となる。近年の出演作に、Ring-Bong「逢坂~めぐりのめあて~」(演出:藤井ごう)、文学座5月アトリエの会「青べか物語」(演出:所奏)、Pカンパニー「別役実の男と女の二人芝居 日替3本立て」(演出:山下悟)があるほか、文学座附属演劇研究所「阿Q外傳」(演出:鵜澤秀行)に特別出演している。吹替えではモーガン・フリーマンやショーン・コネリーの声を担当。2019年7月に行われた研究所本科昼間部、夜間部の「わが町」では演出を務めた。
植田真介(ウエダシンスケ)
2000年に文学座附属演劇研究所へ入所し、2005年に座員となる。近年は、ティーファクトリー「エフェメラル・エレメンツ」(演出:川村毅)、「クイーン・エリザベス -輝ける王冠と秘められし愛-」(演出:宮田慶子)などに出演。10月には、ティーファクトリー「ノート」(演出:川村毅)の公演を控えている。