中島諒人×齊藤頼陽×後藤詩織が語る「鳥の演劇祭17」 鳥の劇場が世界とつながる17日間&メッセージ入り演目ラインナップ (2/3)

観るだけじゃない、楽しみ方のいろいろ

──“楽しみ方のいろいろ”についても教えてください。「鳥の演劇祭」のラインナップを見ていると、誰と一緒に行くかを考えるのも楽しいですし、“観る”以外の楽しみもありますよね。

中島 まず、誰と一緒に行くかですが、うちの特徴としては、お客さんの年代の幅が広いことが特徴だと思います。最近は若い人もよく来てくれるようになっていて、カップル、家族連れ、高校生、大学生、田舎ですからお年寄りも多いです。客席にいろいろな世代の人がいるというのは、劇場としてとても大切なことです。

余談ですが、劇場近くの鳥取市立鹿野学園の子供たちには、鳥の劇場の公演を無料で見られるパスポートをプレゼントしています。彼らは「鳥の演劇祭」も無料で観られるんです。劇場まで自転車で乗り付ける子もいて、ちょっとうれしいです(笑)。学校とは関わりが多く、鳥の劇場のメンバーが学校でワークショップをしたり、劇場に滞在中の海外のアーティストが外国語の授業に参加したり。子供たちにいろいろな国のいろいろな作品を観てもらうことはもちろん、劇場が学校の近くにあることで、外国人も含めたいろいろな出会いを普通に体験してもらえたらと思っています。

先日、「タイムスリップツアー」の市民参加者を募集したら、鹿野学園の4年生が応募してくれました。「参加にあたって心配なことは?」と尋ねたら、「台本の漢字が読めるか……」って(笑)。

中島諒人

中島諒人

──かわいいですね(笑)。将来、鳥の劇場のメンバーになっているかもしれません。

中島 そうですね(笑)。それから鳥の劇場では以前から、障害のある方にも観やすい環境を提供することに力を入れています。手元に持ってもらえる字幕装置を外国人の方はもちろん、聴覚障害や発達障害などの障害がある方にも使っていただけるように準備していて、観客側の多様性ということも配慮しています。

──“観る”以外の部分ではいかがでしょう?

中島 ほぼすべての公演でアフタートークを行います。お客さんに解釈や理解を押し付けたいわけではなく、「この作品はこういう狙い、思いで作られたんです」と情報を補足する意味でやっています。芝居だけじゃなく、映画でも美術展でも、観に行って充実した思いで帰れるときって、自分なりに心の中で、観たものについての“言葉”が見つかったときだと思います。アフタートークではそういった心の落としどころを見つけてもらえたらいい、と思っています。

私がホストを務める「芸術監督・中島と今日のかえりの会」は、その日の上演の演出家や出演者にも来てもらってその日の上演を振り返るという内容になっています。これは今年初めての企画です。

それからコロナ禍で中断を余儀なくされていたのですが、久しぶりにパーティーを復活させます。出演者とお客様の交流の場として、「鳥の演劇祭」の名物だったものです。各上演団体にはその場で1つ、歌などの小さいネタを披露してもらうことにしていて、大変盛り上がります。

トーク、パーティーと紹介しましたが、もう1つ、ワークショップに参加するという楽しみ方もあります。フランスのビジュアルアーティストであるフローラ・バスティエさんの絵を描くワークショップなどがあります。それから、「鳥の演劇祭で鳥取の魅力発見ツアー 2024」は、主に外国の方が対象ですが、非常にお得に鳥取の観光と演劇祭をセットで楽しめる企画です。

──鳥取の食や工芸に触れるという楽しみ方もありますね。

中島 演劇祭を運営するうえで「ここで丸一日のんびり楽しんでほしい」という思いは、ずっと大事にしています。今回も芝居を楽しんでもらいつつ、ショップがあったりカフェがあったりと、じっくり楽しんでもらえる場所にしたいなと思い、準備を重ねています。食に関しても企画性を大事にしていて……後藤さん!(と近くにいた鳥の劇場メンバー・後藤詩織と齊藤頼陽にも声をかけて)、今年はどんな計画なんだっけ?

中島の「今日のかえりの会」で振る舞われる、ジビエのお肉を使った餃子。

中島の「今日のかえりの会」で振る舞われる、ジビエのお肉を使った餃子。

鳥のカフェの様子。

鳥のカフェの様子。

齊藤頼陽渾身の、鳥取セレクトショップ。

齊藤頼陽渾身の、鳥取セレクトショップ。

後藤詩織 「鳥の演劇祭」は県外からいらっしゃるお客さんも多いので、地元の食べ物を楽しめるのは、観光という意味でもすごくいいと思うんですね。演劇祭では毎回地元の生産者さんに食材を提供していただき、鳥取市中心市街地でカフェを20年営まれているcafé-neeさんにご協力をお願いし、お料理を提供していただいています。

私は関西出身で、鳥取に移住してびっくりしたんですけど、ここで食べるジビエは、臭みがなくて本当においしいんです。なので、中島の「今日のかえりの会」ではジビエのお肉の切り落としを使った餃子の食べ放題をやったり(笑)、海外カンパニーの公演に合わせてその国のお酒を提供したり……いろいろな企画を予定しています。準備は大変ですけど、楽しいです!

あと今年は“もったいないバナナ”を使ったメニューも考えてみようと思っていて。輸送の過程等で傷んで、従来は捨てられてきたバナナが、“もったいないバナナ”で、それを使ったメニューを考案中です。

後藤詩織

後藤詩織

中島 齊藤さんが担当している、鳥取のいいものを集めたセレクトショップも力が入っていて、私個人的にも大おすすめです!

齊藤頼陽 (笑)。先ほど中島も言った通り、ここに来たら演劇を観るだけじゃなくいろいろな観光や体験も楽しんでもらいたいと思っていて、そこから物販をやってみようという話が持ち上がり、現在に至っています。もう15年以上になりますが、私が個人的に気になっている工芸品や食品を作り手の方から直接お預かりして、販売しています。地元の新聞やニュースで情報を集めたり、駅の売店に行って新しいものはないかなと探してきたり……といった形で鳥取県内全域からいいものを集めているんです。

齊藤頼陽

齊藤頼陽

再来年の20周年に向けて…

──鳥の劇場は2026年に20周年を迎えます。劇場の公式サイトに掲げられた「劇場がただ演劇を愛好する人だけの場ではなく、広く地域の皆さんに必要だと思ってもらえる場に」という思いを具現化する18年だったのではないかと思いますが、20周年、さらにその先に向けてどんな思いを持っていらっしゃいますか?

後藤 「鳥の演劇祭」では地元の方々にボランティア的に助けていただいている部分が多分にあり、9月が近づくと皆さん、「今年はどうなるの? 自分の仕事もあるからどのくらい関われるかしら……」と気にしてくださっています。ワークショップなどを通じて知り合った人も多いので、町を歩いていると知っている人だらけなんです(笑)。日々、劇場がここに根付いていることを感じ、その存在の意味を考えています。ぜひいろいろな方に劇場のことをもっと知っていただき、関係してもらい、この先もそのつながりを広げていけたらと思います。

齊藤 今年滞在制作をするフランスの美術家フローラ・バスティエさんは、パンクな雰囲気の方なので、もしかしたらボランティアで参加してくださる地元の人たちがビビるかもしれないなと思って、この間あらかじめ説明しておいたんです。そうしたら皆さん、「はあ……」という感じでポカーンとしていて(笑)。毎年さまざまなアーティストが国内外からやって来て、地元の人たちは最初すごく驚くんです。でも、最後はいつもすごく仲良くなります。劇場を通じて、そういう出会いを提供できるのが、うれしいですね。

僕は、地元の大学で授業を任されて話をすることがあるんですけど、劇場に行ったり演劇を観たことがある人って聞いても、全然手が挙がらないんです。そういう状況で「劇場って必要だと思う?」と尋ねると「いる」と答える人は少ない。でも病院や図書館は、普段あまり使わなかったとしても「いる」と答える人が多い。僕としては、病院や図書館と同じレベルで、劇場が必要だと思ってもらいたい。そのためにも、劇場がただ演劇を観るだけの場ではなく、“生の体験”ができたり、いろいろな人と出会える場所にならないといけないんじゃないかと思って活動しています。

左から齊藤頼陽、後藤詩織。

左から齊藤頼陽、後藤詩織。

中島 (2人の発言にうなずきつつ)鳥の劇場は、現在、アトリエ・ワンさんの設計によりカフェや創作機能を備えた新施設を建設中で、今年度中に完成します。令和7年度には校庭が芝生化されて、野外舞台も建設されます。2006年に廃校から始めた活動ですが、現在の施設改修を通じて、施設全体が演劇を中心とした創作と出会いの場として生まれ変わります。20周年は2度目の誕生を迎える感じです。

これからの演劇活動としては、若い世代の育成に力を入れていかなければいけないと思っています。二十代から三十代の人たちが演劇人としてどのように力を高めていくのか、プロとしての専門技術を学び、磨き、それを通じて社会とつながり、ある程度安定して生活の糧を得られる、そういう場としたいと思います。

海外との交流の拠点として充実させていくことも考えています。ネットの普及もあり、映像表現が私たちの生活を満たしています。一方演劇は、人が実際に移動し、出会い、一緒に仕事をしないと始まらない。その点、非常に不自由でお金もかかります。でも、だからこそ、観客に多くのものを届けることができる。文化により異なる演劇の伝統、文化を超えて普遍的な演劇の力。両方を大切にしながら、いろいろな国の人が一緒に仕事ができる場としてさらに発展させられたらと考えています。

一般の方には、劇場を鑑賞だけでない創作体験の場としてもっと楽しんでもらえるようにしたいと思っています。劇場には、多様なものづくりの技術や設備、ノウハウが詰まっています。木で何かを作る、何かを塗り替える、ミシンで服を作る、音楽や映像を作る。いろいろな創作体験の場を提供したい。20世紀は消費が人の大きな喜びで、それが社会を発展させました。けれどそれが環境を破壊し、貧富の差を生み、人や国を分断しました。21世紀は、創造の時代だと思います。みんなが、身近なものを使ってそれぞれ自分の手でものを創る。上手いとか下手とかどうでもいいんです。そこにそれぞれの個性が現れ、相互の敬意が生まれる。競争とか効率ではなく、一人一人の人間が大切にされる関係が大切だと思うんです。それが、創作体験を通じて劇場から発信されるようになればいいと思っています。

鳥の演劇祭にはいろいろな演劇の魅力があふれています。それだけでなく、劇場がこれからの社会の中で果たしうる可能性をいろいろに試しています。ぜひみなさん、お越しください。バタバタしていますが、みなさんといろいろお話しできたらうれしいです。

プロフィール

中島諒人(ナカシママコト)

1966年、鳥取県生まれ。大学時代に演劇活動を開始し、卒業後劇団を主宰。2006年、鳥取の廃校になった小学校と幼稚園を劇場に変え、鳥の劇場をスタートさせた。これまでの主な演出作品に「老貴婦人の訪問」「剣を鍛える話」「三文オペラ」「葵上」など。「東京芸術祭2019」で野外劇「NIPPON・CHA! CHA! CHA!」を手がけた。2003年に利賀演出家コンクールで最優秀演出家賞、2007年鳥取市文化賞。2010年芸術選奨文部科学大臣新人賞、2015年鳥取県文化功労賞を受賞。BeSeTo演劇祭日本委員会代表。

齊藤頼陽(サイトウヨリアキ)

1974年、東京都生まれ。大学時代に演劇活動を始め、鳥の劇場設立時より参加。俳優として活動する傍ら、鳥の劇場副芸術監督を務める。2023年に第48回鳥取市文化賞を受賞した。

後藤詩織(ゴトウシオリ)

1980年、京都府生まれ。2015年から鳥の劇場にお手伝いスタッフ的に参加。その後俳優を志願し、2017年より俳優として活動している。