藤田俊太郎が語る「美女と野獣」|プレミアム吹替版キャストで舞台化も夢じゃない?

誰しもの人生史に重なるストーリー

──実写版制作にあたり、監督は役のバックボーンを深めるなど台本上の改訂を行ったそうですが、そういったリアルを追求する部分と、魔法によって彩られたファンタジーの部分と、両方が作品の中で混在しています。

藤田俊太郎

そのバランス感覚が最高ですよね。キャストがそれぞれに役作りをしてきたうえで監督と話して演じてるんだなってことがよくわかります。観ていて、特に野獣に共感したのも、野獣の孤独を際立って感じることができたからだと思いました。普遍的に誰の中にもある孤独というか、監督と俳優が役を深めたからなのかもしれません。また例えば、ベルが野獣に幽閉される檻に、父親を突き飛ばして自ら入っていくシーン。どこか違う世界に行きたいベルの憧れと、父親を守りたい一心、相反する感情が違和感なくリアルに表現させたのはバックボーンがしっかりしているからではないでしょうか。吹替版のキャストの方々も、そういった努力をたくさんしてらっしゃるんじゃないですかね。村井(國夫)さん演じるベルの父親が、ある女性の思い出話を語り、ベルの「その魅惑的な女性のことを教えてくれる?」と言うセリフに村井さんが答えて「君の母さんは」ってただひと言話した瞬間に、その女性がベルの母親で、もう亡くなっている人なんだって情報が全部わかる。村井さん、すごいなって思いました。吹替えだから姿が出ない、声だけの表現にすごみを感じます。

──今、野獣役に共感するというお話がありましたが、野獣役の山崎さんも、男性にぜひ観てほしいとおっしゃっていました。

ものすごく共感しますね。恋愛でもやっぱり届かない思いとか、どうして他者とこう分かりあえないんだろうってことは、人生の大テーマですよね。他者は遠い存在だし遠いからこそつながりたいし、僕自身に置き換えるなら他者を強く求めているから演劇って仕事を選んでいる。僕は17歳で高校中退してるんです。20歳までいろいろなバイトをして自分がやりたいことを模索していたんですけど、どこに行ってもあまり受け入れられなかった。当たり前ですよね、中卒でなんの根拠もない存在ですから。となると“そうか、やっぱり高校に行って勉強したほうがいいのか”って思ったり……そのあと幸運にも大学に受かって黒は白に反転して夜は朝になったんです、野獣のように。だからそういう瞬間はきっと僕の人生史にもあって、共感につながったのではないでしょうか。

──「美女と野獣」と言うと、ボールルームのシーンが象徴的ですが、あのシーンでは2人の間に特別なセリフはなく、心が通い合う様子がダンスだけで表現されます。演出家・藤田俊太郎さんの目線から見た、あのボールルームのシーンの難しさや面白さは?

「美女と野獣」より。

やっぱりあのシーンが、一番印象的ですよね。2人の愛の情景だけをぽんと出している。シンプルだし、役のバックボーンと俳優を信じきった演出だなと思いました。この間、北野武監督の「HANA-BI」をたまたま観直したんですけど「HANA-BI」もラストで、妻がふた言しか話さない。あのシーンのためにそれまでがあるんじゃないかなって思う、僕が好きなのはそういう映画です。ベルの黄色いドレスが美しかったですね。黄色は太陽とか光の象徴ですよね。そもそも光と闇の話で、あのシーンで野獣の闇がベルの光によって浄化されていく。夜の中の太陽とか月のような美しさ、夜の奇跡というふうにも見えますね。

──もし藤田さんが「美女と野獣」を舞台として演出されるなら、どのシーンにこだわりたいですか?

ボールルームのシーンでしょうか。ものすごく大事だと思います。それまでに出てきた道具を全部出すか、あるいはその瞬間に全部無くしてみましょうか? 飛躍したシーンだから床から天井、客席の隅々までキャンドルとかシャンデリアで埋め尽くしたり。そのシーンの観せ方から逆算して全部のシーンを作ると思います。

藤田俊太郎

──近年、ミュージカル作品の映画化が増えていますが、藤田さんは映画へのご興味はいかがですか?

とても生意気ですが、先日「ラ・ラ・ランド」を観たときに、「なぜこれを自分が撮ってないんだろう」って思ったんです。悔しくて地団駄踏んで映画館を出ました(笑)。今後映画に携わることができたら、これまで培ってきたもの、自分の表現に対する思いをすべて注ぎ込んで、夢は大きく、できたらミュージカルを底本にした映画を監督してみたいですね。

──その候補作品の1つとして、「美女と野獣」がラインナップされる可能性もありますか?

ない、とは思いません。またさらなる未来でもっと別の表現や可能性が出てくるかもしれないですから。そういったチャンスにもし僕がつながれるのであれば、ぜひ描きたい音楽ですし、本当に素晴らしい台本だと思いますね。

藤田俊太郎
特集「美女と野獣」を語る
コミックナタリー 「いつかティファニーで朝食を」マキヒロチ
映画ナタリー 小野賢章
ステージナタリー 藤田俊太郎
音楽ナタリー NONA REEVES 西寺郷太
作品解説・キャラクター紹介
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ステージナタリー 藤田俊太郎
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作品解説・キャラクター紹介
「美女と野獣」
2017年4月21日(金)公開

ある城に、若く美しく傲慢な王子が住んでいた。嵐の夜、寒さをしのぐため城へやって来た老婆を冷たくあしらった王子は、老婆に化けていた魔女の呪いで醜い野獣の姿に変えられてしまう。その呪いを解くには、魔法のバラの最後の花びらが落ちる前に王子が誰かを心から愛し、その誰かから愛されなくてはならなかった。長い年月が過ぎ、あるとき町娘のベルが城にたどり着く。村人から変わり者扱いされても自由にたくましく生きてきたベルと触れ合う中で、外見に縛られ心を閉ざしていた野獣は本来の自分を取り戻していく。しかしベルに恋する横暴な男ガストンが、彼女を自分のものにしようと残酷な企みを考え……。

スタッフ
監督:ビル・コンドン
作曲:アラン・メンケン
作詞:ティム・ライス、ハワード・アシュマン
キャスト ※()内はプレミアム吹替版
ベル:エマ・ワトソン(昆夏美)
野獣:ダン・スティーヴンス(山崎育三郎)
モーリス:ケヴィン・クライン(村井國夫)
ガストン:ルーク・エヴァンス(吉原光夫)
ル・フウ:ジョシュ・ギャッド(藤井隆)
ルミエール:ユアン・マクレガー(成河)
コグスワース:イアン・マッケラン(小倉久寛)
ポット夫人:エマ・トンプソン(岩崎宏美)
チップ:ネイサン・マック(池田優斗)
マダム・ド・ガルドローブ:オードラ・マクドナルド(濱田めぐみ)
プリュメット:ググ・バサ=ロー(島田歌穂)
カデンツァ:スタンリー・トゥッチ
藤田俊太郎(フジタシュンタロウ)
1980年生まれ、秋田県出身。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科在学中の2004年、ニナガワ・カンパニーに入る。2005年以降は蜷川幸雄作品に演出助手として参加。2014年、新国立劇場小劇場にて上演された「The Beautiful Game」で第22回読売演劇大賞 杉村春子賞優秀演出家賞を受賞。2015年に「美女音楽劇 人魚姫」、2016年にミュージカル「手紙」「Take Me Out」を演出。同年に上演された「ジャージー・ボーイズ」が、第24回読売演劇大賞 最優秀作品賞を受賞し、自身は優秀演出家賞を獲得。また同作は第42回菊田一夫演劇賞も受賞した。5月に「ダニーと紺碧の海」、7月から8月にはミュージカル「ピーターパン」が控える。なお演劇活動のかたわら、2011年より、絵本ロックバンド「虹艶 Bunny」としてライブ活動も展開中。

2017年4月27日更新